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魔法の授業の続きです。先生は大変。
「次は魔力の出現ですね」
「わたくし、ほとんど魔力を使ったことがありませんの…」
「私もですわ」
「魔力があっても普段使う機会ってないですよね」
先生に示された次の課題は【魔力の出現】。
つまり、体内の魔力を具現化ということね。
漫画とかでよく見るのはファイアボールとか、魔力の剣とか、そんな感じかな。
そして私達のグループは誰一人として魔力の出現をしたことがないということが判明した。
ダドリー様の言う「ほとんど」も、恐らく魔力を出現させるのではなく、ランプに光を灯すように魔力を注入させる使い方だったのだと思う。
私達が魔力を持っているのにほとんど使ってこなかった理由の大半が魔道具があるから。
簡単に言ってしまえば、魔道具って前世でいう電化製品のようなものよね。
で、魔力は電気。
だから、魔道具に魔力を通すのは、電化製品に電気を流すのと同じような感じなの。
そうなると、わざわざ具現化させる必要はないし難しい操作も要らない。
しかも、屋敷にあるような大型の物なんかは、移動する必要がないから魔石を組み込んであるみたい。
魔石は蓄電式電池みたいなものだから、定期的に魔力を注入すれば済んじゃうし、それも魔力持ちの使用人の仕事に入ってるから、私達がわざわざやるような機会もないわけで。
結果、魔力はあるけど使ったことがないという貴族が増えるわけね。
「どうしましょう? 」
「私が教えてあげようか? 」
グループ内には誰も魔力の出現をできる人はいない。
フレイン先生に教えてもらおうにも、他のグループも同じような状況のようでどこも先生待ち状態。
どうしようもないから先生の手が空くのを待つしかないかと手持ち無沙汰にぼんやりしていると、不意に背後から声を掛けられた。
って、この声はまさか…
「ゼレン様!? 」
「えっ、殿下!? 」
「何で殿下がこちらに!? 」
にっこりと柔らかい笑みを携えたゼレン様。
後ろにはアーベルガント様とツァイス様の姿もあって、今は授業中なのにどうしてサボりそうにない人達がこんな所にいるのかと頭の中で疑問符が飛び交う。
それが顔に出ていたのか、ゼレン様は小さく笑うと私の頭を撫でて説明をしてくれた。
「三年はもうほとんど自由選択の授業しかないんだよ」
「そ、そうなのですか…」
「ああ。だから今はちょうど空いている時間でね、たまたま通りかかったらリナの姿が見えたから寄ったんだ」
「あ、ありがとうございます」
「先生も忙しそうだし、基礎なら私やミカでも教えてあげられるからね」
「ですが、お忙しいのではなくて? 」
「特に用事がある訳でもないし、私の手で大切な婚約者に教えてあげられる貴重な機会をみすみす逃したくないから、むしろこちらから頼みたいくらいだよ」
「え、えっと…? 」
急に第二王子殿下と側近が現れて周りがザワついているけど、当の本人達は全く気にした様子はなさそう。
わざわざ顔を見せに来てくれたのも、教えてもらえるのもとても有難いことなんだけど、最近どんどん押しが強くなってきてる気がするの…!
生き生きとしているゼレン様はとても素敵だけど、矛先が自分に向いてるのはどう反応して良いか未だにわからないのよ…
私がタジタジと公爵令嬢らしからぬ返答をしていると、何となく周囲の目が生暖かくなった気がして居た堪れない。
「勿論、先生の許可が貰えればの話だけどね。フレイン先生、よろしいでしょうか? 」
「大歓迎ですよ、殿下。助かります」
「それなら遠慮なく。では、リナのグループは私が教えましょう。ミカはあちらのグループを頼む」
「わかりました」
有言実行とばかりにフレイン先生に許可を貰うと、すぐにテキパキと動き出すゼレン様とツァイス様。
そしてその後ろで手持ち無沙汰にしているアーベルガント様。
「俺は? 」
「ダリスは………教えられるのか? 」
「失礼だな」
「基本ができていることは知ってるが、ダリスに教えさせると途中で面倒になって『気合いで何とかなる! 』とか言い出しそうな気がするからなぁ」
うん、言いそう。
本人もそんな未来が想像出来るのか、「確かになー」と豪快に笑い飛ばしている。
それでいいの…?
「まぁ、手が足りてないのは確かだし、とりあえず私達がフォローに行くまでは何とか頑張って教えてくれ」
「おー、やってみるわ」
「さ、リナはこちらに」
「え、えぇ」
アーベルガント様、放っておいて大丈夫なのかな…?
一抹の不安が残る所ではあるけど、上手く教えられなければ先生やゼレン様、ツァイス様が改めて教えてくれるだろう。
敢えて言うなら、アーベルガント様の担当になったグループの人達がとても困惑している様子なのが気の毒ではあるけど。
いや、でもそれはこちらのグループも同じことかな。
リーベルンド様は伯爵家の次男だったと記憶しているけど、それでもやっぱり王族に関わる機会なんて多くないだろうから目に見えてわかるくらい緊張しちゃってる。
ダドリー様もそうね。彼女は子爵家だから尚更だわ。
まぁ、それを言ったら平民であるベルク様が一番恐縮してしまうだろうなぁ。
明らかに緊張でガチガチになっているグループの面々を見てゼレン様も困ったように眉を下げている。
こ、ここは私が何とかしないといけないってこと、よね…?
何とかと言われてもどうすればいいのかわからないけど、とりあえず私から教えてもらって、その間に少しでもみんなの緊張が解れれば…!
「ゼレン様、魔力の出現というのは魔力を流すこととは違うのですわよね? 」
「そうだよ。魔力の出現がどういうものかはわかっているかな? 」
「魔力を形として体内から生み出すことやでしょうか? 」
意を決してゼレン様に本来の目的である魔力の出現についての質問を投げかける。
ゼレン様もどう進めていいか困っていたのか、私が話を振ると安堵したようにそのまま説明を始めた。
「そう。わかりやすい形としては、こういった火球、水球なんかだね」
ゼレン様の手のひらに水の塊が生み出される。
え、そんなに瞬間的に生み出せるものなの?
今、手のひらを広げたらパッて水球浮かんだんだけど。
ゼレン様の属性が水、風、土だったはずだから水球なのはわかるけど、こんなに簡単にできるの?
それともパーフェクト王子のゼレン様だから?
そこら辺はよくわからないけど、とにかく一瞬で水球が現れたことと、ゼレン様がその水球を消さないままで大きくしたり小さくしたりしているのを見て私達はただただ感嘆の声を上げていた。
個人的にはダリスの授業を受けてみたいところです(笑)




