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久しぶりのダリス登場!
「夜分に女性の部屋を訪れるなんて無作法をして申し訳ない」
「とんでもございません。ご心配をおかけして申し訳なかったですわ」
無事に身支度を整えて時間通りにゼレン様を客室に招き入れる。
さすがにこの時間の訪問なので、リリアもルースも部屋に待機させているわ。
婚約者とはいえ、未婚の男女が密室に二人きりなんて世間体が悪すぎるもの。
昼間であれば人通りもあるし、部屋の扉を少し開けておけばいいけど、今はもう暗いしね。
結婚するのが確定しているのだから気にしなくてもいいのかもしれないけど、高位貴族だからこそ評判も気にしないといけないから。
ゼレン様も弁えているようで、アーベルガント様を伴って来ているし。
「目の具合はどうかな? 」
「もうすっかり治まりましたわ」
「それならよかった」
「急なことでしたのに、客室をご用意下さりありがとうございました」
「そんなこと気にしなくていいよ」
直前まではどんな顔で会えばいいのかわからないと慌てふためいていたけど、ゼレン様だけじゃないことと、みんながいる事で淑女然として振る舞えばいいことで何とか平静が保てているわ…
ゼレン様も何事もなかったかのような振る舞いをされてるし、このままにこやかに受け答えして終われば変に思われることもないはず。
「パードリー公爵家には事情を説明するために先程伺ってきたよ」
「えっ、ゼレン様ご自身で行かれたんですの!? 」
「勿論。説得しないといけないこともあったからね」
説得、というと、恐らく入籍時期のことだと思うけれど。
きっと私と一緒に行くのだと思っていたわ。言ったらなんだけど、お父様は私のお願いに甘いから、私が言えば聞いてもらえると思うの。
なのに、ゼレン様が一人で説得に?
それも、今回の急なお泊まりの説明も兼ねてだなんて、娘を溺愛しているお父様にとっては飛んで火に入る夏の虫だわ…!
ゼレン様、よくご無事で戻られたわね…
自分でも気付かない内に心配そうな顔になっていたのか、ゼレン様がにっこりと笑って頭を撫でてくれる。
今までも頭を撫でられたり、手に触れたり、軽いボディタッチは紳士的な範囲で何度もされてきたはずなのに。
撫でられた場所が熱を持ったかのように熱い。
なのに、とても心地良くて、もっと撫でてほしくなって。
こんなこと思ったりしたことなかったのに。
これが恋、ってことなのかしら…
何だか気恥ずかしくて、でもこのままでいてほしくて、顔が赤くなっているだろう自覚はあるけどそのままされるがままでいると、離れた場所から小さく驚きの声が上がったことに気付く。
「おー、本当にパードリー嬢に気持ちが通じたんだな」
「ダリス、ちょっと黙ってて」
「悪い悪い。でもよかったな、二人とも」
「…ああ」
「アーベルガント様…」
アーベルガント様に悪気が一切ないのはわかってるから、彼からの祝福は素直に受け入れられるの。
それに、きっとゼレン様の兄貴分としては彼なりに心配してきたのだと思うし。
その心配の原因が自分なのは恥ずかしくも申し訳なくもあるから何も言えないけど。
「それで、話を戻すけど、結果的にパードリー公爵には件の話も今回の泊まりの件も承諾してもらえたよ」
「あのお父様が!? 本当ですの!? 」
「ああ。随分骨が折れたけど何とかね」
「す、凄いですわ…」
まさか一回の訪問で許可を取ってくるなんて、ゼレン様凄すぎない!?
お父様だって、筆頭公爵家の当主としてかなり凄腕だと聞くのに、どうやって丸め込…………説得したのかしら…
って、あれ? ゼレン様が何だか遠い目をしているわ…?
「色々なものをかなぐり捨てたからね…」
「い、一体どうやって説得されたのです…? 」
「リナは聞かない方がいいと思うよ」
「で、でも…」
「多分居た堪れなくなると思うから」
「え、えぇ…? 」
どういうことなのかよくわからないけど…
「ああ、そーゆーことか」
私がキョトンとしていると、アーベルガント様が納得したとばかりに頷いている。
よく見ると、部屋の隅でルースも小さく頷いてるわね?
リリアは相変わらず直立不動で表情筋も動いてないけど。
「まぁでもパードリー公爵家には有効な手だろうな」
「できれば最後の切り札にしておきたかったんだけどな」
「むしろ最初から切るべきカードだろ」
「確かにその方が話は早かったかもしれないけど、逆に警戒を強められる可能性もあったから勝算が五分五分だったんだよ」
「あー、それも有り得るか」
アーベルガント様は完全に納得したみたいね。
その上で戦術みたいな難しい話を始められたけど、戦術立てても脳筋で突っ走る人に言われてもなぁ…
って、そうじゃなくて!
何でみんな納得してるの?
「アーベルガント様、どういうことですの? 」
「リナ、やめておいた方がいいよ」
「当事者のはずなのに私だけ知らないなんて納得いきませんわ」
「そりゃそうだよな。パードリー嬢、覚悟は出来てるのか? 」
「もちろんですわ」
「ならいいよな、ゼレン? 」
「はぁ…仕方ないね。情けないからあまり知られたくなかったんだけど」
何だかゼレン様には苦笑されてしまったけど、ここまできて引き下がるわけにいかないわ。
どんな手を使ったと聞かされても、私はゼレン様をお支えしないといけないんだから。
大きく深呼吸して、アーベルガント様に向き直る。
すると、彼は頷いて徐に口を開き、
「要するに惚気合戦だろ」
「は…? 」
予想外の爆弾を放り投げた。
ダリスが出てくると色々ぶち壊してくから楽しいですw




