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恋する乙女は可愛いですよね~
あれからひたすらに泣き続けた私は、さすがに目が腫れすぎて帰れる状態でなくなったため、急遽王宮の客室を借りて泊まらせてもらうことになった。
今はリリアが用意してくれた濡れタオルを目に乗せて寝ているの。
腫れぼったいせいか、少し熱く感じていたからタオルの冷たさが心地良いわ。
「お嬢様、タオルを交換いたしますね」
「ありがとう……」
リリアに取り替えて貰ったタオルはさっきよりも冷たくて気持ちよくて小さく安堵の息が漏れる。
「………リリアは何も聞かないの? 」
「詮索することは私の役目ではございません。お嬢様が話したいと思ったら、どうぞその時にお話ください」
「そう。そうね、そうするわ」
リリアも私に違和感を感じているだろうに、不躾に詮索してくるような真似はしない。
それは、まだ色々と心の整理が追いついていない私にとってとても有難いことだった。
ゼレン様とお話した後、前世の自分ごと受け入れてもらえたように感じて気が楽になった私は、ゼレン様の前でだけはなるべく肩肘張らずに向き合えるようにしようと決心した。
それでゼレン様が喜んでくれるなら私も嬉しいしね。
淑女のマナーもさすがに十六歳生きていればある程度は身についているから苦になるようなことはないけど、窮屈なことに違いないから気を抜いて過ごせる場所ができるのは願ってもないことだもの。
だからもう人前以外では堅苦しい喋り方もやめることにするわ。
「ねぇ、リリア」
「はい」
「私ね、ゼレン様をお慕いしているの」
「お嬢様…? 」
普段動じないリリアが困惑しているのがわかる。
それはそうよね。急に何の話? ってなるわよね。
「実はさっき自覚したのだけれど…」
「そうでしたか」
「それでね、ゼレン様も、その、」
「…よかったですね、お嬢様」
上手く話せない私の言いたいことを察して、優しく微笑んでくれるリリアにまた涙腺が緩みそうになる。
「そういえばゼレン様に、私以外はゼレン様のお気持ちに気付いていると言われたのだけれど」
「はい」
「えぇと、リリアももしかして気付いていたのかしら…? 」
「はい」
「や、やっぱりそうなのね………いつからか聞いても? 」
「そうですね、殿下とご婚約をされてすぐにお嬢様にお気持ちがあるのだとはわかっておりましたが、ここ三年程は隠されるご様子もなく、いっそ清々しい程にわかりやすかったかと」
「さ、さんねん……」
嘘でしょ…? 三年も明け透けに好意を示されていたのに一向に気づかなかったってこと?
いくら何でもそれはさすがに鈍すぎるでしょう…
で、でも、ゼレン様がみんなに優しいから私も特別扱いされてると思わなかった可能性だってあるんじゃない…?
ほら、私は婚約者だし、ゼレン様は紳士代表だし!
…なんて、そんなの言い訳でしかないよね。
あぁ…何かもうゼレン様に申し訳なさすぎて、合わせる顔がないわ…
「殿下は本当にフェリーナお嬢様を大切に想って下さっておりましたので、それがわかっておられるからこそご当主様方も婚約をお認めになられていたようです」
「えぇ!? 」
ちょっと待って!?
それは、ゼレン様からのお気持ちが家族全員にバレてるってことでは…?
うぅ…本当にわかっていないのは私だけだったのね……
それよりも、ゼレン様との婚約を無理やり破棄しないでいるのはゼレン様の為人を認めているからだと思っていたけど、そうじゃなくてゼレン様が私を大切にしているのがわかっているからだったってことよね…?
何それ、恥ずかしすぎる…!
「公爵家の皆様はお嬢様を本当に大切に想っていらっしゃいますので、殿下でしたらお嬢様のお隣を認めても良いと思われたのでしょう」
「大切に想って下さっていることはわかっているけれど…! 」
わかっていても色々と恥ずかしさに悶えることしかできないでいると、そこに追い討ちをかけるようにリリアが淡々と言い放つ。
「ところでお嬢様」
「何かしら…」
「先程、第二王子殿下から訪室の先触れが届いております」
「先に言って!? 」
もはやリリアの前でも全然淑女を取り繕えていないことなんてもう後回しよ!
合わせる顔がないとか言っておきながら、更にお待たせしていたというの!?
というか、いつ先触れを受け取ったの!?
全然気付かなかったんだけど!?
私が混乱していると、リリアは気にした風もなく平然と準備を進めている。
…いつも気になっていたんだけど、リリアのメンタルってどうなっているのかしら……? 鋼のメンタルなんて前世で聞いた事あるけど、リリアのような精神力のことを言うのかもしれないわ…
「落ち着いてください。訪室は三十分後を指定しておりますのでご心配なく」
「そ、そう…? 」
「えぇ。目の腫れも治まりましたので、そろそろお支度をいたしましょう」
「お願いするわ…」
そうだった、完璧侍女のリリアに抜け目なんてある訳がなかったわ…
彼女のことだから、きっと私に言うタイミングも計算していたのだと思うの。
支度に支障がなく、且つ私のメンタルがある程度落ち着くタイミングを。
本当にこの侍女怖いわ……
少し短めですが、キリが良いのでここまでで。
スーパー侍女リリアも何気にお気に入りです♪




