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人物紹介がてら婚約者登場。
私の婚約者であるゼレイン・ティア・ヴィアイン第二王子殿下はとても優秀な人である。
王族特有の銀の髪を肩口で切り揃え、エメラルドのような濃い緑の瞳を持ち、整ったご尊顔の上に、武術を堪能されていることからもわかるバランスの取れた体つきにしなやかで優雅な身のこなし。
それに加えて学にも秀でていて、真面目なのに気さくで民衆からもとても人気のある、本当に欠点らしい欠点のない素晴らしい王子様。
前世の言葉で言うなら王子様系のイケメンね。
リアル王子様だけれど。
そんなゼレイン殿下の何が一番優秀なのかって言うと、ご自分が第二王子としての立場をよくわかっておられるということ。
貴族というものは派閥を作りたがるもの。
第一王子が立太子しても尚、優秀なゼレイン殿下を持ち上げようとする第二王子派閥というのは存在する。
第二王子派は王太子の座を第二王子であるゼレイン様に代えるべきだと裏であれこれ画策しているようだけれど、そもそも本人にその気が全くないのよね。
第一王子であるオーティス・ファル・ヴィアイン殿下もゼレイン殿下以上に文武両道の完全無欠な王子様ですし。
その結果、王太子の座を脅かすことなく第一王子を支えたいゼレイン殿下は、余計な火種になるのは困るからとご自分でその派閥を潰しているそうよ。
これはゲーム情報だから現実のゼレイン殿下がどうなのかはわからないけれど、婚約者としての義務である月に一度のお茶会での為人を見ると、そんなにゲームの人物像とかけ離れた様子は無さそうなのよね。
ゲームと違うところと言うと、フェリーナへの対応かしら。
ゲームでは傲慢でわがまま放題なフェリーナだけれど、ゼレイン殿下は婚約者だからときちんと諌め続けて下さるの。でもフェリーナは諌めれば諌めるほど、どんどんエスカレートするため最後には愛想を尽かされてしまうのだけれど……
「リーナ、どうかした?」
それがいつからか、とかは攻略サイトにも記載がなかったからわからないのだけど、少なくとももう学園に入学しようという時期が迫っている今頃には殿下もフェリーナに嫌気が差し始めている頃なのでは…?
「疲れてしまった? あちらで少し休もうか」
「お気遣いありがとうございます。少しぼうっとしてしまっただけですわ」
「近頃は暑くなってきたからね。無理はせずに休もう」
恒例の月に一度のお茶会。
最初は短時間のお茶会でお互いの近況を話して解散していたこの逢瀬も、気付けば殿下が王宮のバラ園を案内してくれたり、お茶会の枠に囚われずに街に連れ出してくれたりと形を変え、それに伴って一緒にいる時間も増えていった。
今日は王宮の一角にある庭園を歩いていたのだけれど。
何か違う気がするわ…?
確かに私はゲームのフェリーナよりはわがまま放題ではないと思うけれど、相変わらず家族も使用人達もみんなが甘いからそれなりにわがままではあると思うの。
「リーナ、お茶を用意させたからこちらへ」
「ありがとうございます、ゼレイン殿下」
「リーナ? 違うだろう?」
「え、えぇ、と…」
しかも最近は殿下と呼ぶと婚約者なのだからと呼び方の訂正を求めてくる。
それも、敬称を外すのではなく愛称呼びで。
ゲームの中では勝手に愛称呼びするフェリーナに眉を顰めていたし、殿下自体もフェリーナのことを愛称どころか「フェリーナ嬢」と呼んでいたはずなのに。
「ぜ、ゼレン、さま…?」
「様は余計だけれど、まぁいいか」
「さすがに王族の方の敬称を外す訳には参りませんわ」
「公式の場でなければ良いんじゃないかな。ダリスなんて宰相の前で私をゼレンと呼んで怒られていたよ」
「あ、アーベルガント様………」
ゼレイン殿下には現時点で側近が二人いるのだけれど、その一人がダリス・アーベルガント様。
こちらも四大公爵家の一つであるアーベルガント公爵家の三男で、ゼレイン殿下よりも一つ歳上の気のいいお兄さんポジション。
アーベルガント公爵家は代々騎士団長を受け持っている家系で、武に優れているのよね。
言わずもがなダリス・アーベルガント様も騎士になるために鍛えていると聞くわ。
ただ、この方の攻略サイトでの紹介文が不思議すぎて未だに覚えているの。
『頭は悪くないのに思考が脳筋。でも頭は悪くないので戦略も立てられる。が、良い戦略を立てても最後に選ぶのは脳筋ルート』
って書いてあったのよ。
何で戦略立てられるのに脳筋ルート選ぶのか、よくわからなくて。
だからゲームのユーザー達の中でも側近脳筋って言われてたわ。
因みにもう一人の側近は、所謂側近インテリね。
ミカルゲ・ツァイス様。
攻略サイト情報だと、インテリ担当らしく例の如く眼鏡をかけているけれど実は伊達なのだとか。
ツァイス侯爵家の次男でゼレイン様とは幼馴染。
頭は固いけれど面倒見が良いと聞くわ。
お二人とは私もたまに王宮でお会いするけれど、軽くご挨拶する程度の仲だから実際のお二人のことはあまりよく知らないの。
このまま私が第二王子殿下の婚約者のままなら関わっていくことも増えるのだろうけれど、聖女様がどなたを選ぶかによるからわからないわね。
「そうだ。リーナ、手を」
「これは…髪飾り…?」
「先日街に視察に出た時に見つけたんだ。リーナに似合うと思ってね」
「まぁ! よろしいのですか?」
「もちろん。私が付けても良いかな?」
「えぇ、お願いいたします」
でも、幸い殿下との関係は良好ですし、断罪に遭ってしまったとしても処刑ではなく追放や修道院くらいで済むかもしれないわ。
「……うん、やっぱりよく似合ってる」
願わくば、もう少しこの穏やかな笑顔を見ていたいと思ってしまうのは贅沢かしら。
割とダリスが好きです。




