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エリーゼ視点です。
ようやく色々な事が落ち着き、フェリーナ様も私も前世の記憶があることを公表せずに済むようになって、やっと気持ちに少しずつ余裕が生まれ始めた頃。
たまにはゆっくり庭園のお散歩でもしてから帰ろうかと校内を歩いていると、テラスの入口で偶然ファーマシィ様とエルベルト様にお会いし、お茶に誘われました。
お二人とは、イジメを受けていた時にフェリーナ様と行動させていただいていたので何度か顔を合わせていますが、こうしてフェリーナ様が不在の時にお会いするのは初めてです。
「急なお誘いにも関わらず、ご一緒して下さってありがとうございます」
「とんでもないです! こちらこそお誘い下さってありがとうございます」
「改めまして、クラリア・ファーマシィですわ」
「ノアール・エルベルトですわ」
「エリーゼ・シュバインです」
お互いによろしくと挨拶をしてにこやかにお茶会は始まったのですが、貴族社会に入ったばかりでお茶会に不慣れな私は何を話したらいいのかわからずただただ緊張していたんです。
フェリーナ様とお茶をすることはありましたし、家格で言えば王家に次ぐ方ですが、同じ転生者ということもあり少し身近に感じていたのでここまで緊張せずにお話できたんですが…
すると、お二人も私の緊張を察して下さったのか顔を見合せて頷かれると、急に満面の笑みを浮かべられました。
ど、どうしたんでしょうか…
「エリーゼ様とお呼びしても? 」
「は、はい! もちろんです! 」
「私もよろしいですか? 」
「はい、是非! 」
「私のことはクラリアとお呼びくださいね」
「私はノアールと」
「ありがとうございます…! 」
正式なお茶会でもない非公式なものだからそんなに緊張しなくても大丈夫だと言ってくれたので、紅茶を飲んで一息ついたその時。
優雅にティーカップを傾けていたクラリア様が音もなくソーサーにカップを置いたかと思うと、「一度エリーゼ様とはゆっくりお話してみたかったのよねぇ」と笑顔で言われるものですから一瞬背筋がヒヤッとしてしまいました。
「エリーゼ様はあのお二人をどう思われますの?」
「あのお二人というと…」
「ええ、あのお二人ですわ」
咄嗟に脳裏に浮かぶのは、私がこの学園で唯一と言っていいほど稀少な友人と、尊き血の婚約者。
お二人は彼女達とも付き合いが長いと聞くし、間違ってはいないと思う。
そして、私が高貴なお二人に対して思うようなことといえば………
「えぇと…すれ違っておられるなとは…」
「他にはどうですの? 」
「エリーゼ様から見てお二人の関係はどう感じます? 」
「そうですね…見ているともどかしくは感じますが…」
「そうですわよね!? 」
「!? 」
急にノアール様が叫ばれたのでビックリしてティーカップを落としそうになってしまいました…! 危なかった…!
クラリア様は慣れていらっしゃるのか、気にした様子もなく変わらずにこにこされています。
「ノア、落ち着きなさいな。エリーゼ様、驚かせてごめんなさいね」
「申し訳ございません…」
「あ、いえ、大丈夫です! お気になさらないでください! 」
「ノアはもうずっとお二人の関係の進展を気にしているの」
「リア様だって気になるでしょう!? 」
「それはそうだけれど」
なるほど、長いこと近くで見守ってきているからこそ余計にヤキモキしてしまうのかもしれないですよね。
私もまだ数ヶ月しか関わっていないのにすでにもどかしく思っているのだから、お二人はもっともどかしさを感じているんだろうなぁ。
というか、どの世界でも女子は恋バナ好きなんだってわかって何だかホッとしました。
「ゼレン様がもう少しわかりやすくアプローチすればいいんですよ」
「最近の殿下は以前よりも直球な感じがしますね」
「あら、エリーゼ様もそう思いますの? 」
「えぇ。フェリーナ様を第一に考えられていらっしゃるような言動が見られます」
「確かに、送迎のお約束を取り付けたりしたのは大進歩でしたわね」
「さすがのフェリーナ様にも伝わったのではなくて? 」
「いえ、それが未だに一方通行のようでして…」
「……ねぇ、ノア」
「はい、リア様」
「これはフェリーナ様を何とかしなくては、ゼレン様だけではどうにもならない気がしますわね? 」
「そんな気がしてきましたわ…」
貴族社会というものは、とにかくレディファースト。紳士がレディをエスコートするものなので、当然アプローチも男性側からとなっているそうです。
稀に強気な女性が自分からアプローチしていくこともあるようですが、基本的には女性は受け身。
それに、政略結婚が主で恋愛結婚なんて数える程しかいないので、それなりの関係が出来ていれば問題ないのですって。結婚してからゆっくり恋愛に発展していくケースも少なくないみたいですが。
ゼレイン殿下のように結婚前から婚約相手に惚れて熱烈アプローチする方が珍しいと聞きました。
けれど、小さい頃から殿下を知っているお二人としては結婚前に恋愛に発展して、幸せな結婚をして欲しいと願っているそう。
なので、ゼレイン殿下をせっついていたけれど、殿下はかなり頑張ってアプローチされているのに全然伝わってなさそうなんですよね。
傍から見ていても殿下がフェリーナ様大好きなのはとてもよく分かるので、これ以上は直接「好きだ」って言わないと無理だと思います。
貴族社会では直接的な表現はよくないそうですが……あ、もちろん結婚してしまえば好きに愛情表現をして良いらしいです。元日本人としてはよくわからない感覚ですね。
というか、何となくフェリーナ様の場合は「好きだ」と言われても斜め上に捉えられそうな気がします。
ゼレイン殿下が不憫になってきました…
「こうなったら、フェリーナ様にゼレン様をどう思ってるか聞いてみましょう! 」
「そうねぇ…それしかないかしら…」
「エリーゼ様もご参加くださいね。私、お菓子作りが趣味なので何か作ってお持ちしますわ」
「嬉しいです! 楽しみにしております」
「えぇ、色々と楽しみですわね」
次はフェリーナ様も呼んでみんなでお茶会をする事になりました。
思ったよりも肩の力が抜けていたみたいで、楽しくお茶をしていたらいつの間にか一時間以上経っていたようです。
私は帰寮の門限があるので、そろそろお暇しないといけないのですが、
「それにしても、フェリーナ様って察しがいいのに鈍いんですよね」
「「わかりますわ」」
「ぜレン様も…………」
「そういえばあの時は………」
「フェリーナ様と…………」
お話が尽きなくて結局門限ギリギリまで喋ってしまいました。
大好きなフェリーナ様のお話がたくさん聞けて楽しかったです。
閑話休題の女子会でした♪
しばらく平和なお話になるんじゃないかと(そもそも溺愛予定なのにただの不憫な話になっている謎)




