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とうとう決行日です。
無事にエリーゼ様にお守りを渡して数日。
とうとう囮作戦決行日がきてしまいました。
「エリーゼ様、どうかお気をつけて…! 」
「ご心配ありがとうございます。いただいたお守りは濡れないようにきちんと安全な場所に保管しております! 」
「それではお守りの意味がありませんわ!? 」
お守りは身につけてこそなのではないの!?
何のためにお渡ししたのかわかりませんわ!
私が衝撃にキーキーと文句を言っていると、エリーゼ様は「状態ですよ」と軽く腕を持ち上げてお渡ししたお守りのブレスレットを見せてくれましたが…
何故この状況で冗談を言えるのです…
「フェリーナ様があまりにも緊張されているご様子だったので、少し力を抜いていただこうと思いまして」
「私のためだったのね…」
私は直接作戦に関わることはなく、何なら事が済んでから合流する予定。寧ろ私の仕業にしたい犯人側としては私がいると困るのですから、お側に居ることすらできません。
それなのに、これから作戦に赴く本人に気を遣わせてしまうだなんて。
「アーベルガント様、エリーゼ様をよろしくお願い致しますわ」
「ああ、任せてくれ」
相手に警戒されるといけないのでエリーゼ様のすぐ隣にいる訳にはいかないけれど、校舎の上の方からは死角になるギリギリの位置で護衛をして下さることになっておりますの。
本当に頼みましたわよ…!
「ところで、我が家の護衛を勧誘するのはやめていただけません? 」
「アイツ強いからつい欲しくなるんだよな」
「差し上げませんわ」
「残念」
肩を竦めてみせるアーベルガント様ですが、全く響いておりませんわね。ルースが靡かないことを願うのみですわ。
念の為に釘は刺しましたので、今日のところは深く追及しないことにしておきます。
さて、そろそろ決行予定の時間が迫ってきましたわね…
ここ数日、私とエリーゼ様はなるべく一緒に行動するようにしておりましたの。朝は時間を合わせて門で合流し、休み時間の度にお話して、ランチもご一緒して、放課後は中庭で一緒に読書をして、それから門の付近でお別れする。
移動教室以外はなるべく毎日同じ時間に同じルートを通るように。
因みに、私が一緒にいた効果か、その間イジメに遭うことはなかったようですわ。
…でもそれって、私が犯人ではないと言っているようなものなのではないのかしらね。
これまでは毎日何かしらの嫌がらせを受けていたようですのに、私と一緒に行動するようになってから嫌がらせが無くなるだなんて。
犯人の考えていることはよくわかりませんが、この数日の結果がどう出るかですわね。
今日が決行となっておりますが、今日手を出されなかった場合、毎日だと怪しまれる可能性がありますので三日置きに私と別行動をする時間、つまり隙を作る予定ですの。
私はエリーゼ様にもう一度「本当にお気をつけて」とお伝えしてから、後ろ髪引かれる思いでお側を離れて校舎内に移動しました。
もちろんリリアも一緒ですわ。
今回は恐らく私に危害が加えられることはないだろうと判断し、ゼレン様とツァイス様はエリーゼ様が本当に水をかけられるような事があった際にすぐに駆けつけられるように校舎の最上階に潜まれるそうです。
現行犯で捕まえなければ何とでも逃げられてしまいますものね。
補足ですが、アーベルガント様とツァイス様には前世の話は伝わっておりません。ゼレン様としても、王家に伝えていないものを側近だけにコッソリ伝える訳にはいかないそうですわ。
ですので、噂でエリーゼ様に水をかけようと画策している話を聞いたということにしてお二方にはご協力をお願いすることにしましたの。
殿下の側近ともなれば正義感のお強い方々ですから、放ってはおけないでしょう。
それに、(フェリーナから)聞いた話というのは間違っておりませんもの。
もし近い未来にゼレン様がお二方にもお話する決断をされたのなら、その時に改めてお伝えすれば良いと思いますわ。
ということで、私は一階の空き教室からエリーゼ様の様子を窺っています。
私と別れたエリーゼ様は中庭に向かってゆっくり歩かれているのですが、今のところ特に変わった様子は無さそうですわね。
何も起きないでほしいと願う気持ちと、早々に事を起こして一刻も早く犯人が捕まってほしいと思う気持ちが入り交じってものすごくそわそわしてしまって落ち着きません。
…そういえば、何も起こらなかった場合どのくらい待機していたら良いのかしら?
何かが起こる前提で考え過ぎていて、起こらなかった場合のことを詰めていませんでしたわ…!
どうしたものでしょう……
かといって、私が勝手に動いてしまっては犯人の行動を妨げてしまいますし…
きっと何かあればゼレン様が来て下さると信じてしばらく様子を見ていましょう。
「……フェリーナ様、動きそうですよ」
「えっ…!? 」
「きゃーーーーーー!!! 」
リーナに促されて慌ててエリーゼ様の上空に目を向けると、本当にバケツの水なのかと疑いたくなるくらいの水が勢いよく頭上から降り注ぎました。
もはや滝のようだったのだけれど!?
しかもその後、ガラン! とバケツのような物が飛んできたのが見えましたわ!?
エリーゼ様はご無事なのかしら…!
勢い任せに窓枠に手をついて外の様子を確認しようとする私をリリアが制止している内に、ザワザワと騒がしくなっているのに気付いて意識をして深呼吸をする。
そうね、ここで私の姿が見られたら元も子もなくなってしまうもの。
私が慌てている場合じゃないわね。
「リリア、外の様子を教えて」
「かしこまりました」
「エリーゼ様はご無事かしら? 」
まずは状況把握をしなくては。
リリアは優秀な侍女ですが、優秀すぎてリーナにはなくてはならない存在です。




