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珍しく悪役令嬢ムーブかと思えば、やっぱりリーナはリーナですね。
ゼレン様には包み隠さずお話すると決めましたので、この奇妙な違和感も全てお伝えしました。
それらも含めて判断材料にしていただければよろしいかと思いますの。
「シュバイン嬢が受けたイジメというのは、具体的にどのようなものか聞いても大丈夫かな? 」
「は、はい。最初はハンカチやペンが無くなって、その次は教科書が破られておりました」
「リーナの話と一致するね」
「ただ…」
「何か気になることが? 」
「その、犯人、と言いますか……フェリーナ様のせいにしようとしている節があるような気がします」
「…どういうことだ? 」
きゅ、急にゼレン様の纏う空気が氷点下に下がりましたわ…?
というか、私の仕業にしようとしているとはどういうことなのでしょうか?
詳しくお話を聞かせていただくと、犯行現場にパードリー公爵家の家紋入りの何かが落ちているのだそう。私の私物はリリアが管理していて、特に何かが紛失したとは聞かないので恐らくわざわざご自分で用意されたのでしょうね。
用意周到と言いたいところですけれども、わざとらしすぎて逆に私は犯人ではないと公言しているようなものですわ。
それに、家紋を偽造するのはれっきとした犯罪ですわよ。公爵家としても黙って見ているわけにはまいりませんわ。
…まず、お父様達がこの事を知ったらすぐに動き出すのが目に見えていますもの。
リリアには教室の外で控えさせているけれども、あの聡い侍女のことだから私が言わなくてもきっと近い内に気付いてお父様に報告すると思うわ。
そんな回りくどいことをしなくとも、きちんと私からお父様にお話しますけれど。
家紋を偽造するだなんて、ヴィアイン王国四大公爵家筆頭の我が家の家格を軽んじている行為だとしか思えませんからね。要はパードリー公爵家に喧嘩を売っているということでしょう?
お望み通り、その喧嘩、言い値で買ってやりますわ。
お友達を虐められた上に、その犯人を私に仕立てる? 馬鹿にするにも程がありますわ。
子どもの悪戯で済む範囲は超えてますわよ。
「…リーナ」
「止めても無駄ですわ、ゼレン様」
私の空気が変わったのを察したのか、ゼレン様が普段よりも低く、硬い声色で私の名前を呼ぶ。
けれど、ここで泣き寝入りしたら相手の思う壷ですし、公爵家としての面子も保たれませんもの。
キッとゼレン様の目を真正面から見返すと、何故か満足そうに頷かれてしまいました。
「いや、徹底的にやろう」
って、え、あの、いいのでしょうか…?
王族として、片方の肩を持ってしまうのは問題にはなりませんか?
困惑する私に「婚約者が貶められているのだから当然だろう」とサラッと答えるゼレン様。
そういう所は人として素直に格好いいですわね。
私としてもゼレン様が味方になって下さるのは心強いですわ。
エリーゼ様も「フェリーナ様のせいにするなんて許せません! 」と憤っていますし、フレイン先生は立場上何も言えないのでしょうが、止めないということは好きにやって良いということなのでしょう。
こうなったら徹底抗戦ですわ!
誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやりましょう。
犯人は私を通してゼレン様に喧嘩を売ったのだと気付いているのかしらね。
まぁ、教えて差し上げる義務もありませんけれど。
…あら、今の私ったら本当に悪役令嬢みたいですわね?
「私を敵に回したことを後悔させてやろう」
「ぜ、ゼレン様…? 」
「こういうのはしっかり処罰をしないと繰り返すからね」
私よりもずっと怖い方を怒らせてしまったみたいですわ…
「ゼレイン殿下、私にも出来ることがあったら教えてください! 」
「ああ、頼む」
「はい! フェリーナ様のお話の通りなら、そろそろ私が水をかけられることになると思うのです」
「あ、そうね。そんなことにならないために早く犯人を探さないといけないわ」
「いえ、寧ろ私を囮にお使いください」
「えっ!? 」
「しばらくフェリーナ様にお声掛けしなかったのは、フェリーナ様にまで被害がいかないためだったのです」
「そうか、なら逆に今度はリーナと共に行動することで、一人になる時間を少なくして相手を焦らせるという事だな」
「はい。水をかけるとなると、さすがに人目につかない場所になると思います。それに公にフェリーナ様を巻き込むことは対面的にも、これまでの罪をフェリーナ様に擦り付けようとしている点でも避けたいはずです」
「ああ。そうなると、わざとその舞台を用意してやればいいわけだ」
「えぇ、その方が確実に犯人を捕まえられるかと」
「ちょ、ちょっと待って、それはエリーゼ様が危険すぎるわ! 」
「さすがにバケツが降ってきたりはしないと思いますし、濡れるくらい大丈夫ですよ」
「事前にタオルや替えの制服は用意させておくよ」
「お気遣いありがとうございます」
そ、そうじゃなくて!
何故か私よりも暴走しているお二方が勝手に話を進めてしまって、当の私が置いてかれてしまっているのですけれど!?
ゼレン様もお気遣いはそこじゃないと思いますの! いえ、本当に水をかけられたりしたら用意があって困ることはありませんが。
確かに囮は確実で早く成果を求められます。
ですが、危険を伴う以上なるべく避けたいと思うのです。
遠回りでも身の安全が確保できるプランを求めますわ…!
何とかお二方に思いとどまるよう説得すると、ゼレン様が徐に頷いて「それならリーナが離れた時にシュバイン嬢の近くにダリスを潜ませよう」とエリーゼ様に提案されました。
「ダリス様というと、アーベルガント侯爵令息様でしょうか? 」
「ああ、ダリスはあの体躯で物凄く瞬発力に長けていてね。もしバケツが降ってきても彼なら対応できると思うよ」
「それは心強いです」
そういう問題なのかしら……?
というか、結局囮の案は撤回されませんでしたわね。
これはもう私が何を言っても聞いていただけない気がしますの。
せめてものお守りに何かエリーゼ様に贈ろうかしら。
明日から二日間は学園も休日ですし、お買い物にでも行きましょうか。
いつの間にかヒロインも誑しこんでいたようです笑
シリアスが続きませんが、お買い物の話も書きたいから次は休日のお話になると思います。




