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久しぶりのヒロイン登場です。
「えっ、イジメですの!? 」
「はい…」
ある日、最後の授業を終えて帰宅の準備を整えているとフレイン先生に声を掛けられ、いつかのように先生の研究室へ連れて行かれました。
途中でちょうど私をお迎えに来てくださったゼレン様に出会い、一緒に行くことに。
部屋に入ってみると、これまたいつかのようにエリーゼ様が隅の方で本に埋もれて読書されておりましたわ。
案の定、用事があるのはエリーゼ様の方だったようで先生は自分の仕事は終わったとばかりに研究に戻ってしまいました。
それにしても、最近は教室で直接お声を掛けることも多かったものですから、急にまた人伝になったのが気になりますわね。
私がここしばらくの事を思い出そうとしていると、エリーゼ様が「実は…」と事の顛末を教えてくださいました。
そして冒頭に戻るわけなのですが。
ヒロインも悪役令嬢も転生者。そしてヒロインはどなたのルートも通っていないはず。
なのに何故イジメが起こるのかしら。私は何もしていないはずですけれど、違うルートの悪役令嬢が何かされたとか…?
そもそも悪役令嬢は、大半が攻略対象の婚約者です。
ということは、ゼレン様ルートの悪役令嬢は私、フェリーナ・パードリー。
側近脳筋、ダリス・アーベルガント様ルートの悪役令嬢は、ノアール・エルベルト伯爵令嬢。
側近インテリ、ミカルゲ・ツァイス様ルートの悪役令嬢は、クラリア・ファーマシィ侯爵令嬢。
フレイン先生とヒロインの幼馴染のクレイ・ベルク様は婚約者はいないので別の方ですわね。
確かフレイン先生は、実は先生を慕っているという魔法バカのカノン・ソリュード子爵令嬢だったと思いますわ。
ベルク様は、もう一人の幼馴染のサラナ・マリスだったかと。
隠しキャラは、そもそも隠しキャラが誰なのかをすっかり忘れてしまいましたので悪役令嬢も全く覚えておりませんの。
ゲームの中では、教科書が破られたり、私物がなくなったり、水をかけられたりと、とにかくよくあるイジメでしたわ。どのルートでも、悪役令嬢が違うだけでやっていることは同じでした。
唯一、私が悪役令嬢のゼレン様ルートだけはヒロインを階段から突き落としり、裏庭の池に落としたりと苛烈なイジメをしていましたが、私が何も手を出していない以上、このイジメは起こらないはずですわよね。
ゲームの内容を思い出しながらエリーゼ様にイジメの詳細を聞いてみると、やはり苛烈なものは無さそうでした。
ということは、どなたかのルートに入られたのかしら…?
すると、そこまで黙って話を聞いていたゼレン様が口を開かれました。
「以前聞いた話では、ここは物語の世界だと言っていたよね? 」
「えぇ、言いましたわ」
「話を聞いていると、物語の道筋が一つではないように聞こえるのだけど」
「申し訳ございません、説明不足でしたわね」
ゼレン様が不思議に思われるのも無理はない。
小説の物語ならルートは一つだもの。
相変わらずゲームについては上手く説明出来る気がしないので、物語の中で攻略対象者それぞれに分岐するルートがあり、そのルートによって結末が変わるものであるとお伝えしました。
「ということは、物語の主人公であるシュバイン嬢が誰を選ぶかで話が変わってくるというわけか」
「えぇ、そうですわ。実際のエリーゼ様はどなたも選ばれていないそうですけれども」
「それは選ばなくても良いものなの? 」
「えぇと…どうでしたかしら…」
何とか記憶を呼び戻そうと頭をフル回転させて考えますが……よくあるパターンだと友情エンドですわよね。あとはノーマルエンドかバッドエンド、おひとり様ルートでしょうか。
『夢花』の攻略対象キャラエンド以外って何でしたっけ……?
そんなに悲惨なエンディングは無かったと思いますが、それはあくまでも処刑がないという話。悪役令嬢の国外追放や修道院行きはあったと記憶しておりますから、それを考えるとバッドエンドもありそうですわ。
むしろ悪役令嬢との友情エンドなんて聞いたことがありませんわよね。
恐らくノーマルエンドとバッドエンドだと思いますが、ノーマルエンドの場合の悪役令嬢はどうなったのだったかしら。
大体のことは覚えているのに、何故か意図的とも思えるくらい中途半端に記憶が抜け落ちているのが気持ち悪いわ。
隠しキャラのこともそう。私、攻略サイトを見てまで完全攻略しているのですわよ? それなのに隠しキャラが誰かすら思い出せないのは明らかにおかしいですもの。
ということは、隠しキャラや攻略対象キャラエンド以外のエンディングは何か理由があって思い出せないと考えるのが妥当ですわ。
ゲームのストーリーには興味がないと言っておりますのにこうして巻き込んでくるなんて、これが所謂「強制力」ってやつなのかもしれませんわね。
私は平穏が守れたらそれで十分ですの。
邪魔をしないでいただきたいですわ。
ようやく話が戻ってきた気がします。
フレイン先生は研究に戻った振りをしてちゃんと聞いていますよ。彼にとって知的好奇心が疼くような内容なので。




