14
密会です。密会なのにやっぱり甘くないです。ゼレン頑張れ。
「……つまり、リーナには前世の記憶というものがあって、ここは前世にあった物語の中の世界だと。そういうことであってるかな? 」
「えぇ」
エリーゼ様に相談した数日後。
ゼレン様に二人だけで大切なお話があるのでお時間をいただきたいとお願いすると、第二王子殿下の執務室に案内され、人払いをして下さいました。
そこで、意を決して前世のこと、ゲームのこと…は上手く伝えられる自信がなかったので物語の中ということにしましたが、その辺りをお話いたしましたの。
「にわかには信じ難い話だな…」
「そう、ですわよね…」
「あぁ、リーナの言葉を疑っているわけではないよ。単純に、そんな事があるのかと驚いているだけで」
柔軟な思考を持ち合わせているゼレン様は、困惑しながらも私の話を受け入れようとして下さっているご様子。
こんな荒唐無稽なお話を馬鹿にしたりしないで真剣に聞いて下さる上に私へのお気遣いまでいただけるなんて、ゼレン様は本当は神様なのでは?
「私だけでなく、エリーゼ様も前世の記憶をお持ちのようですわ」
「シュバイン嬢も? ……成程、それであの日以来彼女との距離が近くなったのか」
「そうなのです」
「あの時はフレイン先生もいたと記憶しているけれど、彼も『てんせいしゃ』というものなのかな? 」
「いいえ、フレイン先生は違いますわ」
なら何故あの場にいたのかと聞かれれば、エリーゼ様のトラウマについて話す必要が出てきてしまいますが………エリーゼ様は自分の口から説明するのは先生のあまりにもしつこすぎる尋問を思い出してしまって無理だと仰っていましたけれども、必要であれば私からお話するのは構わないそうですし、下手に端折って話が捻じ曲がって伝わってしまう可能性を考慮したら全て話しておくべきでしょう。
その上で、誰にどこまでお話するかをゼレン様に決めていただければ良いのですわ。
自分の中で意思が固まった私は、エリーゼ様に聞いた事を包み隠さずお話しましたの。
最初の内は前世のお話も興味深そうにされていたのですが、聞き終わる頃にはお顔が引き攣っていらっしゃいましたわ。
「それは……何というか、シュバイン嬢が気の毒すぎるね…」
「えぇ……ゼレン様もエリーゼ様とお話する際にはこの話題をなるべく避けていただきたいのです」
「それは配慮すると約束するよ」
さすが紳士代表の王子様ですわね。
どこかの先生とは大違いですわ。見習って欲しいものです。
というか、そもそも攻略対象がヒロインを怖がらせて本当にどうなさるおつもりなのよ…
「でも『でんしれんじ』というものは気になるね。どういうものなのかリーナも知ってるのかい? 」
「えぇ、前世では各家庭に一つは当たり前にあったものですの。食べ物を温めることができる機械のことを言いますわ」
「オーブンとは違うのかな? 」
「オーブン機能がついているものもありますが、オーブンは焼くのに対してレンジは食品の中に含まれる水分を振動によって摩擦熱を起こす……だった気がしますわ」
「何だか難しい話だね」
「そうなのです。私も正確な造りは理解が浅くて…」
「でもリーナ達が生きてきた世界には、その『でんしれんじ』のような便利な道具がたくさんあったということか」
「えぇ、本当に色々ありましたわ」
その辺りは個人的に気になるからまたゆっくり教えてほしいとゼレン様に言われ、断る理由もないので頷く。
電化製品は難しいかもしれないけれど、機能と仕組みがわかれば魔法で再現することが出来そうなものもたくさんありますし。
…ふと思ったのですが、何故エリーゼ様は電子レンジを開発したいと仰っていたのかしら?
あんなにも便利な道具に囲まれて生きてきたのに、電子レンジについてしか言及されておりませんでしたわね。
何か理由があるのかもしれませんが……いずれ聞ける機会があれば聞いてみましょう。
「さて、ここまで話を聞いたわけだけど、リーナがドランク公爵やマリアージュ公爵夫人に話さずに私に話してくれたということは、何か思う所があるということだよね? 」
さすが頭もキレる第二王子殿下。こっちの意図を察して先回りして下さるのは有難いですわ。
そう、フェリーナの父であるドランク・パードリーにも、母であるマリアージュ・パードリーにも今回のことはお話しておりませんの。
もちろん兄達にも、です。
今回のことはゼレン様、私、エリーゼ様、フレイン先生の四人しか知らないということになりますわね。
私を溺愛して下さる家族ですから受け入れてもらえるとは思いますが、ゲームの中では嫉妬に駆られてヒロインに苛烈な虐めを行う悪役令嬢であるフェリーナをエスカレートさせるような言動を家族全員が行っているとされておりましたの。
ゲームと同じとは限りませんが、少し不安が残ってしまったので家族に話すのは保留とさせていただきました。時が経ってからでも自分の口から話せる日が来ればいいと思っておりますわ。
「私とエリーゼ様は、この件を王家に届け出るべきか悩んでおりますの」
「私も王族の一員だよ? 」
「勿論存じておりますわ。ですが、ゼレン様なら最適を選んで下さると信じてお話させていただいた次第です」
「それは責任重大だね」
苦笑の中から、信頼してもらえた喜びのような優しい表情が垣間見えて少しホッとしました。
ゼレン様を信じると決めた私達の覚悟を受け取って下さったようですわね。
「君が望むことは? 」
「王家で共有されるかはお任せいたします。ですが、可能な限り大事にしてほしくないのです」
「わかった。まずは私が持ち帰って最善を考えよう」
「ありがとうございます! 」
ゼレン様がこのことを誰かに話すにしても、話さないにしても、方針が固まったらまた報告してくれるということで落ち着きました。
とても誠実なご対応をいただけましたし、やっぱりゼレン様を信じてご相談してよかったですわ。
当面は特に何をすることもなく、ゼレン様の報告を待つことになりそうですわね。
「因みに、前世のリーナは結婚は…」
「しておりませんでしたわ。仕事ばかりで、恋人すらもいなかったのです」
「そうか…」
この話題であからさまにホッとされると少し複雑なのですけれども。
ゼレン様は何を気にされていらっしゃるのかしら?
二人だけで話したいことがあるなんてリーナに言われたら期待しちゃいますよねぇ……




