11
リーナの兄紹介がメインになります。
「フェリーナお嬢様、おはようございます」
「おはよう、リリア」
開けられたカーテンから明るい陽射しが大きく入り込んで一気に部屋が明るくなる。
今日もお天気が良さそうね。
「ねぇ、リリア。お父様はお帰りになっているかしら? 」
軽く伸びをして身体を解し、ベッドから降りながら問いかける。
昨日は帰宅早々にお父様に家庭教師の件を相談しようと思ったのに、お仕事で出られていたみたいで結局お会いできなかったのよね。
「お戻りになられておりますよ。朝食をご一緒したいと言付かっております」
「あら、それなら急がなくちゃ」
とは言うものの、どれだけ支度を急いでも絶対に食堂に着くのは私が一番最後で、お待たせすることはあっても私が待たされることってないのだけれど。
恐らく、リリアに調整させているのだと思うわ。
それくらい家族が私を溺愛してくれているのはさすがにわかっているもの。
だから、当然急ぎはするけれど、基本的にはリリアに任せるようにしているのよね。
されるがままの支度を終え、リリアを後ろに従えて食堂へ移動する。
道中頭を下げて挨拶する使用人達に軽く手を振って辿り着いた食堂では、何故か入口にスヴェンお兄様が立っていた。
「おはよう、リーナ! 」
「スヴェンお兄様!? 帰っていらしてたんですの? 」
「ああ、今日から三日間の休みだからね。夜番を終わらせてそのまま帰ってきたんだ」
「まぁ、それでは寝ていないのでは? あまり無理はなさらないでくださいませ」
「これから寝るから大丈夫だよ。それよりもリーナの顔が見たかったからね」
パードリー公爵家の次男であるスヴェン・パードリーお兄様は私より三歳上で、学園は私と入れ替わりで卒業して今は騎士団に在籍されているの。
ゼレン様の側近脳筋のアーベルガント様とは幼少からの悪友だそうよ。
何だかんだ仲は悪くないみたい。
騎士団に在籍すると騎士団用の宿舎で生活することになるのだけれど、スヴェンお兄様はお休みの度に帰って来られるの。せっかくのお休みなのにわざわざ毎回帰ってこなくてもゆっくりされたらいいのに。
「会えない間、リーナは何か困ったことはなかったか? 」
「ふふっ、そんなにいつも困っているように見えますか? 」
「そういう訳じゃないが離れているから心配でね。ダリスから様子は聞いていても、この目で確認しないと安心できないからな」
「アーベルガント様とはよくお会いするんですの? 」
「ああ、宿舎の部屋が隣なんだ」
だからお会いしていないのにいつも私の近況をご存知だったのですね。アーベルガント様は何も仰っていなかったから初めて知りましたわ。
お兄様ったら、相変わらず過保護なんですのね。
スヴェンお兄様だけでなく、長兄のエアリスお兄様もいつも気にかけてくださって。
嬉しいですけれど、エアリスお兄様はもっと婚約者の方と仲を深めた方が良いと思いますわ。以前風の噂でお兄様が所謂塩対応だと聞きましたのよ。あの穏やかでお優しい王子様のようなエアリスお兄様が? と耳を疑ったものです。
今でも半信半疑ではあるのですけれど、周りのご令嬢達に聞いても皆様同じようなことを仰るのです。
それに、先日偶然お兄様の婚約者であるベルフェア侯爵令嬢にお会いする機会があったのでご挨拶をさせていただいたら、「エアリス公爵令息様とは大違いですわね」とポツリと零されているのが聞こえてしまいましたの。
それが私を下げる意味なのか上げる意味なのかは定かでありませんが、とても遠い目をしてエアリスお兄様の名前を口にしていらっしゃったので恐らく噂が正しいのではないかと推測いたしますわ。
お兄様、妹よりも未来のお嫁様を可愛がって差し上げてくださいませ…!
エアリスお兄様にも困りものなのですが、スヴェンお兄様に至っては婚約者さえおりません。お兄様はもう十九歳。貴族の令息としてすでに適齢期なのです。
スヴェンお兄様は爽やかで見目も麗しいですからご令嬢の人気は高いはずなのですけれど。もしかしたら釣書を見て選りすぐっているのかしら?
それとも、お父様が婚約を止めていらっしゃる?
若しくは私がゼレン様と婚約したことで他貴族とのバランスが取りにくくなってしまったり…? いえ、それなら婚約してから期間が経ちすぎていますの。
うぅん…私がいくら考えてもわからないですわね。
「さ、まずは食事にしよう」
「えぇ」
「こちらへどうぞ、お姫様」
「まぁ、それは妹ではなく未来の婚約者様になさったら? 」
「リーナ以外にする訳がないだろう」
食堂の扉を開けて優雅にエスコートしてくれるスヴェンお兄様。
最後に何だか重すぎる言葉が聞こえた気がするのですが、気のせいかしら……
スヴェンお兄様に婚約者がいない理由、まさか妹なんてことはないですわよね…?
何となく一抹の不安を覚えながら室内に入ると、いつものように先に待っていてくれたお父様、お母様、エアリスお兄様が挨拶をしてくれる。
それに返事をしながら自席に腰を下ろす。
リリアが給仕のメイドと交代して壁側に控えると、お父様が口を開いた。
「リーナ、私に何か用事があったようだね? 」
「えぇ、政の家庭教師の時間を増やしていただけないかとご相談をしたくて」
「政の家庭教師を? 勿論構わないが、理由を聞いても良いかな? 」
「前々からもっと深く学びたいと思っていたのですわ。学園生活にも慣れてきましたし、頃合かと」
「ふむ……第二王子殿下に何か言われたりはしていないか? 」
「ゼレイン殿下ですか? 何もございませんわ」
「わかった。家庭教師の都合を確認しておくよ」
「ありがとうございます、お父様! 」
無事にお父様の許可も頂けましたし、頑張らないといけませんわね!
決意を新たにご機嫌食事に向き直った私には、小声で話す兄達+母の会話は聞こえていなかった。
「リーナは政の成績も申し分なかったはずだが? 何故勉強時間を増やす必要があるのだ」
「やはりあの王子が何か吹き込んだのでは? 」
「有り得るな」
「ダリスに探りを入れましょうか」
「そうだな。あとはリリアにも報告させようか」
「そうしましょう。あの王子の好きにはさせません」
「当然だ。リーナの心身の健康は私達が守らなければ」
「勿論です」
「あらあら、血気盛んなことねぇ」
「大切なことですから」
「そうねぇ、リーナちゃんの一大事ですもの。きっちり調べさせるのよ」
「えぇ、承知しています」
パードリー家怖い。
因みに父はリーナと会話を続けているので、聞いているけど敢えて口を出していません。
リーナは溺愛されている自覚はあるけれど、ここまでと思っていないので実態を知りません。




