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鈍い人って思い込みが激しい気がします。ゼレイン頑張れ。
結局あの後、詳しく話を聞こうとしたらゼレン様が私を探しに来てしまったのでまた改めてということになったのよね。
きちんと言伝をしてから行くべきだったわ。
「リーナがシュバイン嬢とフレイン先生と居るのは珍しいね」
「そうですわね。個人的にお話するのは初めてですわ」
「何の話だったのか聞いても? 」
やっぱり気になりますわよね。私もゼレン様の立場だったら絶対に気になって聞いてしまいますわ。
ですが、転生者などと話して気が触れたと思われても困るのです。荒唐無稽な話ですから、信じてもらえるとは思っておりませんし。実際に体験している私も未だに信じられない部分が多いのですもの。
それに、私だけのことならまだしもエリーゼ様のことまで勝手に話す訳にはいかないですから、そうなるとお話できる内容がないと言いますか………
つまり、返答に困っています。
「本題に入る前にゼレン様がいらっしゃったので、お話らしいお話はしておりませんわ」
「それは邪魔をしてしまって悪かったね」
「いえ、急ぐお話ではないそうですので問題ありません」
「それなら良かった」
嘘は言っておりませんし、ゼレン様も納得して下さったようでこれ以上の追及はなく胸を撫で下ろしましたが、これは次に聞かれた時に何と答えて良いのか考えておかないといけませんわね。
私としては真実をお話しても何の差し支えもないのです。正直、隠している訳でなく話す必要がないから誰にも話していませんが、フェリーナとして生きてきたこの十六年は本物ですし、それに前世の記憶が付随しているというだけのこと。
ただ、エリーゼ様を巻き込んでしまうことにならないかということと、この奇特な状況が王家の混乱を招かないかということが心配なの。
そういう意味ではいっそゼレン様にお話してみるのも有りだとは思うけれど、まずはエリーゼ様に相談してからね。
「…確か彼女はリーナと同じクラスだったよね」
「えぇ、エリーゼ様とは同じクラスですわ。フレイン先生も担任です」
「ふぅん………」
そう言って黙り込んでしまうゼレン様に首を傾げる。
何かおかしなことを言ったかしら?
それにしても、ゼレン様からエリーゼ様の話題が出てきたのは初めてでは? ご興味を持たれたのかもしれないわね。
エリーゼ様のあの様子ではフレイン先生ルートとも考えにくいですし、まだ可能性はありますわ。
ゼレン様ルートに進んでしまうと私が断罪されることになってしまいますが、わざわざ虐めるような真似はいたしませんから安心なさってくださいね。
口には出せずとも、にっこりと笑みを浮かべてゼレン様を見上げると、何とも言えない顔をされてしまいました。
何故かしら……
「男の嫉妬はみっともないぞー」
「うるさい」
そこに軽口を挟むダリス様。
そもそも、嫉妬って誰が誰に? あ、フレイン先生とエリーゼ様の仲を勘違いなさっているとか?
確かに傍から見たら勘違いしても不思議ではないくらい親密に見えますものね。エリーゼ様は頻繁にフレイン先生の研究室にいらっしゃるようですし。電子レンジの開発のためのようでしたけれども。
ですがそれを私の口から言う訳にもいかないので、とにかく大丈夫ですよ! と念を込めて目で訴えると、とうとうゼレン様が溜め息をついてしまわれた。
「何だか盛大に誤解されている気がする…」
「そんな気がしますね」
「話せば話すほど誤解が深まるのはどうしたらいいんだ…」
「もう直球で言うしかないんじゃないか?」
「それが出来ないから嘆いているんだろう」
「ぜレンの立場が邪魔しますからね」
「はぁ……早く臣籍降下したい…」
何だかよくわかりませんが、先日からゼレン様は何かお悩みの様子で、ツァイス様もアーベルガント様も承知していらっしゃると言うことだけは私にもわかりましたわ。
……何となくモヤッとしてしまうのは、きっと私だけ蚊帳の外の感じがして寂しいからね。婚約者なのに相談もしてもらえないほど頼りないのでしょうか…
いえ、ゼレン様のことですから、きっと私を気遣って下さってのことでしょう。
それにしても、早く臣籍降下したい程の悩みということは、派閥に関することかしら。ゲームでもゼレン様はご自分の派閥を潰して兄であるオーティス第一王子殿下の即位を堅牢にしようと奔走されていたくらいだし。
大体、こんなに王位に興味が無いと明言されている方を何とか担ぎ上げようとしている者達の気が知れないわ。ゼレン様は文武両道、思考も柔軟で求心力もあり、上に立つ者として申し分ない方だけれど、逆に言えばそんな凄い方が支持して立てる程の相手なのが第一王子殿下なのだとわからないのかしらね。
…そうは言っても簡単にいかないのが派閥というものなのでしょうけれど。
難しいわね、政治というものは。私もお役に立てるようにもっとお勉強しなくてはいけないわ。先生に授業の時間をもう少し増やしていただくべきかしら。帰宅したら早速お父様に相談しなくちゃ!
「…絶対また間違った方向に捉えてる予感がする」
「ここまで来ると、もはや直球で言っても伝わらない気もしてくるな」
「笑い事じゃないよ」
「聡明な印象を持っていましたが、自分の事となると別なんでしょうかね」
「もう少し自分への好意に敏感になってほしい」
「それくらいは伝えてもいいんじゃないか?」
「それすらも歪曲してしまいそうで躊躇っているのでは?」
「あー、進もうとすればするほど後退してる状態だからなぁ」
「言わないでくれ……」
「ダリス、もう少し言葉を選んでください」
「でも間違ってないだろ? 」
「………」
「ほら、ゼレンが黙ってしまったじゃないですか」
「悪い悪い」
ゼレイン+ダリス+ミカの殿下&側近組を書くのは楽しいです。




