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5話 服を縫う


さて、俺が起きた頃には日が傾き始めていた。目が悪くなるとは分かっていたがしなければならないことがあった。それは、早急に2人の服を見繕うと言うことである。

 幸い、2人はまだ寝ており、裁縫をすることはできそうだ。裁縫セットはハルが持っていたのでそれを拝借し、2人の着用している衣服をどうにか今の2人のサイズに合わせることにした。そうしなければ2人がこんなダボダボの服で過ごす羽目になってしまう。

 そんなこんなで、悪戦苦闘しながらも針に糸を通して気がついた。


「どうやるんだ?」


「……さあ?」


 ヤバい! 俺たち2人裁縫なんて知らないぞ! と叫びそうになるものの、寝ている2人の隣で叫ぶことなんてできるはずもなく、俺は大声を出すのをグッと堪えた。


「じゃあ、まず私たちの着ている服を見ればいいんじゃない?」


「それだ!」

 

 エーリカは神というだけあって着ている服は縫い目がひとつもなかったので参考にはならなかったが、俺の服は参考になった。


「なるほど、ここを縫えばいいのか」


「そうみたいだな、でもどうする? 2人の大きさぴったりに作れるのか?」


「ああ、なんか裁縫の授業で習った気がするんだ。仕留め針みたいな名前の……」


「仕留め針? 絶対違うような気がするぞ」


「まあいいんだよ、名前なんて。それを服に固定して、ペンで印をつけて縫っていけばなんとかなるかも」


「なるほどな!」


 程度の低い会話をしていることはわかっている。でも、これが今の俺たちが搾れるだけの知恵なのでから致し方がない。

 俺たちは寝ている2人を起こさないように大まかなサイズを調べて、俺は健太郎の、エーリカはハルの予備の服を縫い始めた。



「……なあ、痛いんだが」


「俺も……」


 一針ごとに指に刺さる針、そして、血でぽつぽつと染められていく生地に俺は思わずため息をついた。エーリカは血が出ている自身の指をパクッと口に含んでいる。

 俺が不器用なあまり、いつも縫い物は健太郎かハルに任せてしまっていたことがこんなところでしっぺ返しを喰らうことになるとは、俺は頭を抱えたくなった。

 滝の隙間から見える外の景色はもう真っ暗になっており、居場所をバレないようにするために俺たちは焚き火の火を消して月明かりのみで針仕事をこなしていたが、それもケガを増やす要因になっていた。

 日が沈むまでは玉結びの存在を忘れてしまっており、何回か縫った糸が生地から抜けていき台無しになってしまっていたため、これでも玉留めの存在を思い出した現在は進んだ方ではある。

 心は何度も折れそうになっているものの、エーリカという存在や、いつまでもブカブカな服を二人に着せて、風邪でもひかせてしまうわけにはいかないという気持ちでなんとか立て直している。ここには碌な風邪薬もないのだから、少しの病でも悪化したら大変なのだ。

 しかも、俺たちは敵から逃亡している身で、そこら辺の街に何日間も滞在するわけにもいかないというのが現状である。

 針を何度も指に刺しながら、エーリカと共に黙々と縫い物を進めていると、『うーん』という寝起きの音が聞こえた。ハルだ。

 健太郎はまだ夢の世界にいるらしく、ぐーぐーと寝息を立てている。


「ああ、もう起きちゃったのか」


「仕方ないだろ。2人が寝てから何時間も経っているしな」


「それもそうか」


「……おはよう」


 また泣き出さないかと身構えた俺たちをよそに、春は意外にも機嫌が良さそうだった。キョロキョロと辺りを見渡してから言った言葉に、俺たちはほっと胸を撫で下ろす。

 もう夜であるということは置いておき、寝起きで目がトロンとしているハルに俺は声をかける。


「おはよう。ご飯いる?」


「ううん、まだお腹空いていないもん。ねえ、ねえ、何やってるの?」


 ハルは俺とエーリカが何かやっているのを見つけて、目を輝かせてこちらに駆け寄ってくる。


「服を作ってるんだ」


「お洋服?」


 ハルはんー? と言いながら首を傾げて俺の顔を覗き見る。


「うん。エーリカ……あっちのお姉さんがハルの服を作ってるよ」


「えー! 本当!?」


 パッと俺からエーリカに視線を移すと、エーリカが縫っている生地を見て、きゃっきゃと喜び始めた。


「かわいい!」


 エーリカが縫っているのはハルの朱色のお出かけ用の服だ。

 元の世界に戻るため奮闘している俺たちでも、やはり息抜きというものは必要で時々街に滞在しては各自好きなものを買っていたり食べていたりしていた。

 しかし、街に降りるとなると、迷宮に入る時に来ている服では浮いてしまう。そのため、俺たち三人は街行きの服を一着ずつ持っていた。

 ハルは可愛い服が好きで、時々迷宮内に入るための服はあまり好みではないと嘆いていた。

 動きやすい服装を縫おうかとエーリカと共に話し合ったが、最終的に小さなハルが服が可愛くないという理由でぐずらないように外行きの服を仕立て直すことに決めた。

 そ明日導き出された答えが今、正しかったのだと証明するように、ハルはエーリカの前に正座をして、その服ができるのを見ている。

 そんなハルの声に、健太郎は起こされていないか確認するために目を向けると、やはりというべきかハルの声で起こされた健太郎も上半身を起こして、おおあくびをしていた。


「おはよう。今健太郎の服を作ってるんだよ」


「えー! マジー!?」


 船を漕ぎ、座ったまままた眠ろうとしていた健太郎に声をかけると、先ほどの眠気が嘘のようにバッと俺の方を向いた。

 健太郎はよろめきながらも立ち上がり、俺の方へ全力疾走してくる。体と精神のギャップにより途中で二回ほどこけているが、痛みよりも好奇心の方が優っているのか泣くこともなく慌ててこちらへ向かってくる。

 そして、俺の縫っている服を見ると、目を輝かせた。


「スゲー! 勇者の服みたい!」


 俺は勇者の服に見えるか? と疑問に思ったが、すぐに合点がいった。


 ああ、いわゆる初期装備に酷似しているんだ。


 そんなことを口に出すわけにもいかずに、そうだろうと俺は健太郎に同意した。

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