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4話 もう少しで元いた世界に帰れると思っていたのに、一緒に異世界に来た2人が子供になった


 そうして放り込まれた異世界で、はじめての迷宮で契約したエーリカという女神だか邪神だかわからない神とともに元いた世界に戻るため元いた世界を救うため俺たち三人は力を合わせて戦ってきた。いや、戦い続けてきた。そうして終わりが見えたと思った刹那、敵の時間逆行の能力によって女神と契約している俺以外の2人と世界そのものが12年前のものに遡ってしまったのだった。

 その敵と俺は思わず息を呑んだ。俺を庇ってまるまるうちに小さくなってゆく2人を見て、覚えたのは自分がどれだけ無力なのかという無力感だ。

 その敵が弱体化をしている2人を倒そうとしていたため、俺たちは慌てて2人を抱え敵前逃亡をした。そして、そのまま迷宮を脱出し、近くの洞窟の中に入ったところで現在に至る。


「泣き止んでよ〜」


 どれだけあやしても、『ママ〜パパ〜どこ〜?』『不審者〜!』と俺を見て騒ぐ2人に涙目になる。敵に見つかってはいけないから静かにしてと話しても、納得するどころかその意味さえわからない2人に悲しさを覚えるものの、俺を庇ってこんな目に遭ってしまっている2人を守るため、2人を静かにさせようと奮闘する。


「ご飯あげてみたらどうだ」


「それだ!」


 しばらく子供になってしまった2人に狼狽え絶句していたエーリカだったが、たった今我に帰ったようで、俺に有用な提案をしてくれた。

 6歳以降の記憶をなくし、5歳ほどの子供になってしまった体に引っ張られる形で泣き喚く二人をなんとか宥めるために、リュックから食材を取り出す。


「ほら、ジャムパンだぞ」


「ジャムパンだ!」


 ハルにいちごジャムをこれほどかいうほどに塗りたくったパンを手渡す。

 先ほどまでぐずって俺のほっぺをバシバシと叩いていたハルだったが、大好物のジャムパンを見せるた途端に笑顔になった。

 やはり子供、好物で釣れるんだな、と悪い大人のような考えを抱きつつ、とりあえず俺にずっと攻撃をし続けていたハルが大人しくなったことに安堵のため息をついた。

 どっと疲れが押し寄せてきたが、つんつんと腹が俺の背中をつついてくる。


「どうしたの?」


「ねえねえ、もっとジャム欲しい」


「……あれだけかけたのに?」


 沈黙が訪れること数秒、ハルが『うわ〜ん!』と大声で泣き出しそうになったので慌てていちごジャムの入った瓶を差し出す。


「ありがと」


「うん。なかないでね」


 ぐずぐずと鼻から音を立てながら、ハルはジャムの瓶を器用に開き、ベタベタとパンに塗っている。いや、ジャム瓶の中にパンを突っ込み始めたがもう知らない。敵との戦闘の上、逃亡してきたまだこのままじゃあ身が持たない。

 よし、ハルはこのままにしておくとして、次は健太郎だ、と思い迷宮内で今日の夕食にと捌いてきた魔物の肉を取り出す。そうして、マッチで火を起こし、熱されたフライパンの上にその肉を乗せた。じゅうじゅうと言う心地よい音と共に美味しそうな匂いが漂ってきている。

 滝の裏の洞窟で焼いていることもあって、防音対策もばっちしで外から気づかれることはないだろう。


「うまそう! なんの肉?」


 エーリカが見てくれていた健太郎が近くにやってくる。くんくんと鼻で肉の匂いを堪能している。


「あー…………、鳥のだよ」


「へー、こんな肉初めて見た!」


 流石に魔物の肉だよ、と言うことはできずに嘘をつく。まあ、見た目はともかく味は似ているし許してくれ、神様と願う。

 そうしたら、一応神であるエーリカがその願いを聞いていたのか、俺に向かって無言で親指を立ててきた。

 よかった、聞き入れてもらえたのか。

 食い入るように肉を見ている健太郎に油が飛ばないように気をつけつつ、十分ほど肉を焼き続けたころ、ちょうど良い焼き加減になった。

 俺が肉を焼いている間、ハルを見ていてくれていたエーリカに声をかける。


「エーリカ、肉焼けたぞ」


 白米を弁当箱から取り出し、2枚の皿に分け、その上に肉と塩をかける。

 エーリカの昼食を渡そうとしたところ、エーリカが健太郎の分の皿をぶんどっていった。


「あ、私があげてみたい!」


 そういうとエーリカは、ハルを俺に渡し、俺から手渡された焼肉ご飯をにこにことしながら少しずつ健太郎に食べさせている。

 そうして、ハルと健太郎がそれぞれパン一個、ご飯一杯を食べたところでうとうととし始めた。

 そんな2人の背中を俺とエーリカがポンポンとリズムに乗せてさすると2人は瞬く間に夢の世界へ旅立っていった。

そんなこんなで 2人が熟睡しはじめた頃に、俺はふよふよと浮かび二人の寝顔を見て笑っているエーリカの隣に座りこれからのことを相談し始めた。


「エーリカ、どうしよう」


「さあ、しばらく冒険は終わらないんじゃないか」


「君としては良いわけ? 元の世界を救って欲しいんでしょ?」


「でも、こうなった以上仕方ないじゃないか」


「うーん、それはそうなんだけど。なんか、2人を元の姿に戻す、みたいな能力ってないの?」


「ない」


 俺は泣きそうになった。それはそうだろう。突如異世界に放り込まれたと思ったら、エーリカから元いた世界に戻りたいのならばこの世界で迷宮やダンジョンを攻略してレベルを上げろと訳のわからないことを言われながらも、頑張ってここまで三人でやってきたと言うのに、神であるはずのエーリカさえも知らない敵が突如として現れ2人とこの世界を12年前もの過去に戻してしまったのだ。しかも、2人は俺のことを全く覚えておらず、今にも心が折れそうだった。

 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。2人は子供になってしまったが、元の年齢の頃には元の世界に戻ることを切望し、切磋琢磨してきた奴らなのだ。2人がたとえ子供になろうとも、2人の意思を受け継いで俺がなんとかしなければ、と決心を固める。


「エーリカ、しばらく俺は迷宮に潜ることができなくなるかも。敵に追われている今、この2人の世話を他の人に任せるわけにはいかない」


「ああ、初めからそのつもりさ。……お前も疲れただろう。2人が起きるまで私が見ておくから、お前も休め」


 2人が子供になってしまったことをいまだに引き立っている俺を見て、エーリカは俺の目にそっと手のひらを当てた。寝ろと言う意味だろう。


「うん。おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 エーリカの優しさに心を打たれ、俺はそのまま横になり目を閉じた。数分後、俺も2人と同様夢の世界へ旅立っていた。

 そう、この日から俺の子育て生活in異世界が始まったのである。

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