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1話はじまり1

20××年7月下旬気温40度を超えているとある日の十二時を少し過ぎた時刻。俺は、炎天下の住宅街を汗だくになりながら歩いていた。あまりにも暑過ぎて陽炎が立っているのをどこか他人事のように眺めながら、高校へと続く一歩、また一歩と歩みを進める。

 正直、あの日のことを後悔している。あの時、動画なんて見ずに勉強をしていれば補習を受けることもなかったのに、とここに来るまでの道中に何度も考えたが、もし仮に過去に戻ってやり直せるとしてもどうせ勉強はしないに決まっているじゃないか、と思いなおす。

 そう、今日からボーダー未満の点数を取った者の補修が開始するのだ。なぜ夏休みだというのに学校へ来なければならないのか、先生もなぜ夏休み期間中にわざわざ補習をするのだろう、という疑問はありつつも、いつもの英語補習仲間もパスしているようなテストでこんな点数取った自分が悪いよな、と考え直し、ため息をついた。

 俺は英語という科目が大の苦手だ。他の科目はそこそこなのだが、英語だけは中学の頃からっきしだった。高校の友達が俺の英語の答案を見て、お前よくこの高校に受かったな、と驚くレベルなのだ。正直、受験の際には英語を捨て、他の科目でカバーしていたから、英語ができないのは当たり前なんだよね、と思いながら、少し歩みを止める。そして、鞄から取り出した一リットルの水筒からキンキンに冷えた麦茶を胃に流し込む。


「せめて午前中ならまだよかったのに」


 口元を拭い、制服のネクタイを少し緩める。

 俺としては、補習が朝から昼の場合と昼から夕方の場合では時間の流れが全く違う気がするのだ。前者は午前中が終わればあとは解放され清々しい気持ちで自由時間を満喫することができるが、後者は違う。午後には補習があるのかという気持ちで昼までの時間を過ごさなければならないため、真の自由時間は夕方から夜までになってしまう。尚且つ、午後から補習がある場合、こんな40度越えの炎天下の中登下校しなければならないというデメリットもついてくるのだ。本当に嫌になると、再び俺はため息をついた。

 ちなみに、午前中は数学の補習になっている。受講人数が30人ほどと結構な数が受けるということで、朝から昼の時間が割り当てられたのだ。俺が苦手な科目が数学なら、と意味もなく落ち込んだ。

 水筒を軽い鞄の中に戻して、俺は再び学校に向かって歩き始めた。



「はあ〜、生き返る〜っ」


 まだ午後の補習の開始時刻までは時間があるため、教室には誰もいないと思い、俺は少し大きな声で言ってしまったことが間違いだった。

 ガラガラと少しがたがきている教室の後ろのドアを開けながら、そう言ったのだが、どうやら先客がいたのだ。あまりの恥ずかしさに顔が赤くなる。

 教室のエアコンの涼しく心地よい風が頬を撫でる。この空気のなか何事もなく教室の中に入る勇気はなく、俺は募集開始時刻ギリギリまでどこかに身を潜めていようかと踵を返そうとした時だった。


「あ、お前ってーー」


 ただ一人しかいない教室で、黙々と1人でご飯を食べていた短い茶髪の男子高校生ーー確か、隣のクラスの健太郎という青年ーーが俺に声をかけてきた。どうやら俺の名前は知らないようで首を傾げている。


「俺は2-Bの朝田勇気だよ。君は2-Aの健太郎、だったよね」


「お、すげえ! よく覚えるじゃん! 別のクラスなのに! 朝田も補習か?」


 健太郎は自分の名前を覚えられているのが嬉しいのか、ニコニコとした笑顔を浮かべながら尋ねてくる。俺は先ほどの独り言について触れられないことにほっと胸を撫で下ろし、教室の中に足を踏み入れながら口を開いた。


「うん、テスト前の勉強サボっちゃって」


「あー、分かる。テスト前ってどうにも勉強するやる気起きないんだよな〜」


 うんうん、と頷く健太郎に俺はわかってくれるのか、と嬉しく感じた。


「そうそう! 動画見ちゃって気づいたら試験当日だったんだよ……そういう健太郎は?」


「バイトのしすぎで、出席日数足りなくてなー」


 バイトのしすぎで出席日数が足りなくなるってどういうことだ? と疑問に思いながらも金銭的な事情はあまり触れられたくない話題だなと考え、どういうバイトをしているの? と尋ねるにとどまった。


「そこら辺のチェーン店の飲食店の接客してる。格安で美味しい賄いも食べられるからめっちゃお得なんだよー。なあなあ、1人じゃ退屈だったんだ。補習一緒に受けようぜ」


「いいね」


 俺は健太郎の隣の机にカバンを下ろし、椅子に座り、筆箱などを取り出した。正直、人数はわかっていたもののどんな人と補修を受けることになるのかは分からなかったため、一緒に受けることになるのが健太郎で良かったとはやくも思った。


「それにしても良かったよ。補修を1人で受けるのは退屈だなって思ってたんだ」


「俺も俺も! もう少しで補習始まるけど、もしかした俺1人だけ? って心の中でビビってたから」


 ブルブルと大袈裟に震えて見せる健太郎に俺はクスッと笑った。


「俺が聞いた話によると、この補習を受けるのは俺と健太郎含めて3人らしいよ」


「ヤバ! めっちゃ少ないじゃん。ウケる」


 健太郎は手を叩いて笑い始めた。


「それにしてもあと1人って誰なんだろうな」


「さあ?」


 健太郎の方に向き直し、ゲームや漫画の話を一緒にしていること二十分。

 驚くべきことに、健太郎と俺の趣向は似ているらしく、好きなゲームや漫画、アニメのタイトルが被った。しかも、その中の好きなシーンも被ることさえあり、話は大きく盛り上がった。


「いやー、朝田のこと全然知らなかったけど、こんなに面白いやつだったなんてな! もっと早く話しかけておけばよかったよ」


 興奮気味にそういう健太郎に俺も同意の意味を込めてうんうんと頷く。


「俺もそう思った! 一年の時にでも同じクラスなら話しかけてたのにな」


 健太郎と俺は別地区の中学校からこの学校に入ってきているため面識はなく、俺が言った通り一年生の時も別々のクラスだったため話す機会がなかったのだ。

 同じクラスなら、本当に仲良くやっていただろうに、と悔やまれる。

 そうして、五分ほど健太郎と談笑していると教室の前の扉が開いた。

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