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過去を愛し、少しずつ変わっていく


「え、無視?」

「別のにしてくれ」

「もっと過激なのでもいいの?」

「待て待て待て待て。最初から段飛ばしで求めてくるな」

「もう十分待ったもん!」

「くっ、」

「………今可愛いと思った?」

「あー、うるさいうるさい」


パタパタと自分の顔を手で煽いでいるがその耳は真っ赤だ。なんだかんだ言って可愛いのはリアムの方だと思う。


「別にバードキスでいいんだよ?」

「誰が深い方をするか」

「へぇー、知識はあるんだ」

「……今日切れ味すごくないか?どうしたんだよ」


リアムはげっそりした顔で紅茶を飲む。多分混乱しているから味なんてしてないだろう。


「じゃあ私からしようか?受け入れてくれるだけでいいよ」

「覚悟決めるのが本当に早いな。俺ら婚約関係になってから手も繋いだことないだろ」

「じゃあ繋ぎながらキスしよ」

「……さっきから墓穴掘ってる気がする」

「今更気がついたの?」


天を仰ぐ彼を見てクスクスと笑う。聡明には違いないのに私の前だとポンコツになるところがこれまた可愛い。堅物で有名な彼がこんなに人間らしく振る舞ってくれるのが嬉しくて仕方ない。


「大丈夫だよ。今更リアムを嫌いになることなんてないから」

「……」

「リアムは私のことに嫌いになる?」

「なるわけない、けど、!!」

「じゃあいいじゃん。はい、目を閉じてくださいね〜」

「医者か!おい、!」


彼が腰掛けているソファーまで移動して、彼の左手と無理やり恋人繋ぎをする。それだけで彼の喉が引くつくのを感じた。嫌悪というよりかは動揺。力関係でいえば断然リアムの方が強いにも関わらずちゃんと話し合いで解決しようと試みているところが彼らしい。


「…本当に嫌ならやめるけど」


最後の逃げ道として声をかける。いじるのは楽しいけれど本当に嫌がっていることをしたいわけではない。人には人の進み方があるというのは今回しっかり学んだし。


そう思っていると、リアムは「あ、」とか「う、」とか言葉にならない言葉を洩らす。そして小さく小さく呟いた。


「……ぃ…嫌、ではない」

「!!」


この人は天然の人たらしだと思う。



「ん、」



気づけば唇同士を重ねていた。触れるだけの、それでも愛に満ちたキス。ゆっくりと離して、そして同時に破顔した。


「ふはっ、顔真っ赤」

「ミアルナだって人のこと言えないほど赤い」

「そりゃファーストキスだもん。照れるよ」


そういうと彼はピシリと固まった。その反応にこちらが照れてしまう。


「ファ、ファーストキス…?」

「そうよ。今まで恋人はいないもの」


顔を背けながら早口にそう言うと、恋人繋ぎをしている手に力がこもるのを感じた。


「…知らなかった」

「この際だから言うけど……私はリアムと婚約関係になる前からずっとリアムのことが好きだったのよ」


顔が熱くなりすぎてどうにかなりそうだ。頭までグルグルしてきた。


「ミアルナ」

「なに、」


顔を上げると同時に唇を塞がれる。触れるだけで離れていったリアムは向き合っているのが恥ずかしいのか、私のことを抱きしめながら小さく呟いた。


「俺だって、はじめてだ」

「え?」

「……恋人、いたことないから。キスだって、」


ごにょごにょと震える声で言葉が紡がれる。


「し、知らなかった」

「…あんまり恋愛に興味なかったんだよ。っていうか、付き合うならミアルナがいいと思ってたから他の人とは付き合う気になれなかった」


それって、つまり、


「私のこと大好きじゃん」

「い、言うな!言葉にするんじゃない!!」


焦ったようなリアムに笑ってしまう。なんだ、もっと早くから話し合いば良かったんだ。


「…ほら、俺からキスしたんだ。さっきの要望は聞いたからな」

「律儀だね」

「……悪いか」

「ふふっ、そういうところ大好きだよ」


幼馴染から婚約者に変わった私たち。

きっとお互いに怖かったのだと思う。だから言えなかった。変われなかった。向き合えなかった。


「今からやり直しても遅くないよね」


繋いだ手に力を込める。するとリアムからも優しく握り返してくれた。


「別にやり直さなくていいだろ。これから段々と変わっていけばいい。幼馴染だった過去だって、俺は悪いものだとは思っていない」

「うん…うん、そうだね」


こうして隣同士に座ることだって幼馴染の時は滅多になかった。


『少しずつ変わっていけばいい』


リアムのその言葉に心が軽くなった気がした。


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