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凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜  作者: 真崎 奈南
六章、

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39/40

ふたりで作る未来へ7


 それから一ヶ月が経った。

 カルロスと一緒にエリオットの執務室を訪れたルーリアは、エリオットに頭を下げた後、微笑みかけた。


「ありがとうございました。父親が、先日医院から家に戻れました。これからは自分たちで生成した魔法薬を、必要としている人たちに無償で配って、少しずつ罪を償っていくと言っていました」


「そうか」とエリオットは笑顔でルーリアを見つめるが、そんな視線を遮るように、冷めた顔のカルロスが間に割って入ってくる。


「ギードリッヒ一家の牢獄への収監手続き、早急にお願いします」


 残りの他の者たちも、翌日には全員見つけて捕まえたと、ルーリアはカルロスから聞いている。そしてルイス兄弟同様、カルロスの手によって魔力の核は壊され、みんな魔法が使えなくなったとも教えてもらった。

 これまで様々な魔法を操り恩恵を受けてきた者にとって、魔法が使えない状態は苦痛でしかない。しかも、収容先はアーシアンよりさらに北に位置し、極寒の脱出不可能牢獄として名が知られているところで、生きて出られることはないだろう。


「ルーリアさんには本当に助けてもらっているな。それに見合った給与を与えなければいけないと思っているし、実際、そういう声も上がっている。騎士団の職員として籍を置いてしまったらどうだろう。レイモンドのように」


 ルーリアはあの後から、なかなか自我を取り戻せない黒精霊や穢れ者たちが早く元に戻れるように治癒や浄化の手伝いを精力的にしているのだ。

 エリオットはすぐに提案に乗ってくるだろうと踏んでいたが、予想に反し、ルーリアは表情を曇らせる。


「お話はありがたく、光栄なのですが……今の自分にはまだ抵抗があって、全員と平等に向き合って治癒を行えない状態です。だから仕事としてお引き受けするのは難しく……ごめんなさい」


 歯切れ悪く言葉を並べたが、エリオットにはルーリアの言葉の意味するところはしっかりと理解できていた。

 アメリアとクロエラは、結局自我を取り戻せない状態のままなのだ。ふたりと向き合うと、ルーリアはどうしても体が震えてしまう。

 穢れ者にならずに済んだディベルが、一度だけジークローヴ邸を訪ねてきて、「元に戻してやってくれ」と頼み込んできたこともあり迷いはしたが、ルーリアはやっぱりふたりの元に赴くことはできないでいる。


「構わないよ。あのふたりの優先順位は俺の中でも低いから。職員として働くことを前向きに考えてくれ」


 食い下がられて、ルーリアが困り顔となってしまったため、カルロスが話の流れを変える。


「伯父は警戒しておいた方がいいです。わずかに魔力の核に闇の魔力が感じられた。新しい闇の魔力の使い手を生むことだけは避けたい」


「わかった」とエリオットは返事をしてから、時々視線を通わせつつ寄り添うように立っているカルロスとルーリアを見つめて、柔らかく笑う。


「それにしても、ここにお前が婚姻契約書を持ってきた日が懐かしく感じるな」


 そう言われて、ルーリアもアズターに連れられてカルロスの元へ向かったあの夜を思い返す。ずいぶん昔のように思えてきて、自分の人生が一変した大切な思い出に胸を熱くさせ、口元を綻ばせる。


「結婚式はいつなんだ。それとも子供が先か?」

「用は済んだので失礼します」


 ニヤリと笑ったエリオットからの質問に、カルロスは真顔となり、ルーリアの手を掴んで執務室を後にした。

 すれ違う騎士団員たちから挨拶を受けつつ、のんびりとした足取りでふたりは騎士団の詰め所を出た。

 今日は屋敷からここまで歩いてきたため、街の様子を眺めたり、店からふわりと届いた美味しそうな匂いにつられて寄り道したりしながら、やがて木漏れ日の模様を綺麗に浮かび上がらせた小道へと手を繋いだまま入っていく。


(いつまでもこうして、カルロス様と一緒にいたい)


 強くそう望み、ここ一ヶ月、心の中で渦巻いている不安に終止符を打つべく、ルーリアは足を止める。


「カルロス様!」


 意を決してルーリアがカルロスと向き合うと、カルロスも同じような神妙な面持ちでルーリアを見つめ返す。


「私、もう闇の魔力はありません」

「わかってる」

「無くなったら、私を解放すると」

「確かに言った」


 それ以上、ルーリアは続けらない。「婚姻を解消しますか?」という問いかけも「そばにいさせてください」というお願いも、声が喉に詰まってしまい言葉にすることが出来なかった。

 カルロスは繋いでいる手だけでなく、もう片方の手も繋ぎ合わせて、ただ真っ直ぐルーリアだけを瞳に映す。


「すまないルーリア……約束は守れない。俺はこの手を離したくない……このまま俺の妻でいてくれないか?」


 贈られた言葉だけでなく、カルロスが渡してきた物を目にし、ルーリアは目に涙を浮かべた。


「お母さまのネックレスを見つけ出して下さったのですね」

「ケントにも手伝ってもらったけどな」

「ありがとうございます」


 ルーリアは声を震わせて感謝を伝えた後、改めてカルロスを見つめた。


「私も、温かくて大きなカルロス様の手を離したくありません」


 ポロポロと目から涙がこぼれ落ちるのもそのままに、ルーリアはカルロスに笑いかけた。


「カルロス様を心からお慕いしております。いつまでもあなたの妻でいさせてください」


 手を離して、涙で濡れたルーリアの頬を、カルロスは指先で拭ってから、焦がれる気持ちを込めるように優しく囁きかけけた。


「好きだよ、ルーリア」


 少しの躊躇いを見せた後、カルロスはゆっくりとルーリアに顔を近づけていく。触れた唇はとろけるように熱く、もう留めておけないお互いの気持ちを伝え合うように、繰り返し重ね合う。

 柔らかな心地よさと甘美な熱、高鳴る鼓動までもが溶け合って、ひとつとなる。そんな感覚を抱いた時、すぐ近くの茂みがガサガサと大きく揺れた。


「きゃーーーっ! 見てみて、エメラルド!」


 そこから顔を出したのはヴァイオレットとエメラルドとステイクの三体で、ヴァイオレットは目を輝かせ夢見心地な顔で、他二体は気まずさいっぱいの表情で、ルーリアとカルロスを見ていた。

 エメラルドはあれから二週間後に、ルーリアたちの元に姿を現した。救ってくれたお礼と、回復の報告を受け、ルーリアは「元気になってよかった」とそっと小さな体を抱き締めた。

 そしてエメラルドが回復すれば、ヴァイオレットの虚弱体質も一気に改善され、お転婆振りまで復活する。頻繁にルーリアの前に姿を見せるようになり、今はこうやってステイクとエメラルドも巻き込んで、街に出て遊びまわるまでなった。


「これは、セレットにも報告しなくちゃね!」


 声高に宣言すると、ヴァイオレットは茂みを飛び出し、屋敷に向かって飛んでいく。すぐさま「やめろ!」と声を上げたカルロスへと残された二体は苦笑いを浮かべつつ、ヴァイオレットを追いかけるようにして飛び立った。

 カルロスは気恥ずかしそうに頭を抑え、ルーリアは顔を真っ赤にさせてしばし固まっていたが、顔を見合わせれば自然と笑顔となる。


「帰ろう」

「はい!」


 しっかりと手を繋ぎ直してから、ふたりは共に歩き出す。

 まるでふたりを祝福するかのように、日差しが差し込み照らす小道は、照れた顔を見合わせながら結婚指輪をふたりそろって指に通すこととなる明日へ、多くの人々に祝われる中、結婚式が執り行われる半年後へ、そして、幸せに満ち溢れた未来へと限りなく続いていく。



<END>



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