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凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜  作者: 真崎 奈南
五章、

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26/40

過去と繋がる1(カルロス視点)


 セレットが精霊たちの生活する場所へ行ってしまってから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。


(欲しい情報に辿り着けない)


 カルロスはため息を吐きながら国立図書館を出て、そこからほど近い場所にある騎士団の詰め所に向かって歩き出す。

 時間を見つけてはこうして精霊に関する本を漁っているのだか、精霊や精霊からの祝福に関して詳細に書かれている書物をなかなか見つけられない。


(今のところ、精霊であるセレットが一番情報を持っていそうだな……聞いたところで教えてもらえるか分からないが)


 まだ幼かった頃、セレットに「精霊」に関して質問したことがあるのだが、語りたくないといった反応をされ、断念したことがある。

 とはいえ、ルーリアに関して引っかかった様な素振りを見せた後、セレットは消えたため、彼女に関わる情報を持って帰ってくるのは間違いないだろう。


(帰ってくるのを待つしかないな)


 歯痒さを覚えながら歩道を進んでいると、後ろにわずかだが知っている気配を感じ、カルロスはぴたりと足を止め、気だるげに踵を返す。


「何か用ですか?」


 すぐ後ろにはカルロスに絡もうと手を伸ばしているエリオットがいて、失敗したことに苦笑いを浮かべる。


「気配を消していたのに、なぜバレたんだ」

「完全に消せていなかったからです」


 カルロスから冷めた眼差しを返されても、エリオットは気にすることなく、そのままがしっとカルロスの肩に腕を回した。


「この前預かった魔法石から魔力紋を分析してみたが……闇の魔力は該当したぞ。かつてジークローヴ家を襲った者たちの魔力紋と」

「……なんだって」


 こそっと告げられた言葉にカルロスは大きく目を見開き、怒りを表情に滲ませる。


「やはり、闇の魔力ではどこの一族の紋か判別できませんでしたよね」


 かつて亡骸に残された魔力を分析してもらったが、どの一族とも該当なしだった。

 今回もそうだろうと期待はせずに確認の言葉を投げかけると、やはりエリオットは首肯する。しかし、カルロスは心に生まれた希望を消さずに、別の質問を投げかけた。


「では、もうひとつ残されていた水の魔力の方は?」

「……それが、どことも一致しなかった」


 犯罪などの抑止力として、魔力を扱う一族は必ず魔力紋を登録することとなっている。闇の魔法を扱う時は故意に魔力紋を変えている場合が多く、そこから使用者を炙り出すことは厳しい。そして、魔力紋を変えて魔力を発動させるのは、手間がかかり多くの魔力も必要となるため、それなりに力がある者でなければ難しい。

 そのため、水などの一般的に使用される魔力からなら、どの一族かを特定できるかと考えたのだが、期待は砕け散った。


「相手が慎重なのか、そもそも一族が偽りの魔力紋で登録しているか」


 魔力紋を偽るのは重罪であり、数年に一度、当主に魔力を発動させて一族の魔力紋に変更がないかどうかの確認も行われている。それは城の中で、役人や騎士団員たちが目を光らせている中で行われ、魔力紋を故意に変えたりすれば不自然な魔力の流れから簡単に見破られる。偽ることなど無理だろうとカルロスは自分の発言に眉を顰めた。

 しかし、エリオットはあっけらかんとした口調で断言する。


「偽りの線が濃厚だろうな。闇と水の魔力紋は一致している」

「……それって魔力紋は変えていないということですか?」

「ああそういうことだ。ってことは、役人と騎士団員が無能か、もしくはあえて見過ごしていることになる」


 役人もしくは騎士団の仲間の中に闇の魔術師と通じていて、力を貸している者がいるかもしれないと考えれば、カルロスの中で一気に苛立ちが込み上げる。


「行く手を塞がれた感はすごいが、振り出しまで戻された訳じゃない。水の魔力を得意とする一族を洗いざらい探ってみることにするよ」


 エリオットの前向きな発言にカルロスが「お願いします」と感謝の気持ちを返した時、前方に見えてきた騎士団の詰め所の門から、慌てた様子で騎士団員が飛び出してきた。

 ただならぬ雰囲気を感じ取ったエリオットはカルロスから腕を離し、「おーい」と声をかけた。すると、エリオットとカルロスに気づいた騎士団員は、急ぎ足でふたりの元へとやって来る。


「何かあったのか?」

「……昨晩捕縛しましたあの者がまた暴れまして、団員が怪我を。回復薬をもらいに医局へ行ってきます」


 昨晩、町の飲み屋で暴れている男がいると通報があった。泥酔して暴れているのだろうと踏んで団員三名で現場に向かったのだが、その男は酔ってなどいなかった。闇の魔力にのまれ、心を乗っ取られている状態だったのだ。

 居合わせた人々に危害を加えてもいたため慌てて三人で取り押さえ、今その男は騎士団の詰め所の地下にある牢に入れられている。

 簡単に報告し、そのまま団員はふたりの横を通り過ぎて行こうとするが、すかさずカルロスが疑問を呈す。


「昨日、回復薬を補充しているのを見かけたが、それでも足りなくなったのか?」


 実は、闇の力によって暴走する者はここ最近増えていて、十ほどある地下牢は半分まで埋まってしまっている。そのため魔法薬の注文数も大幅に上げて対応しているはずである。

 団員はカルロスをちらりと見つつ、言い辛そうに打ち明けた。


「いいえ。数はあるのですが……正直、効果が低すぎて使い物にならないのです」

「まさか、仕入れ先をバスカイル家から別なところに変えたのか? 聞いていないぞ」


 エリオットが憤慨した様子で口を挟むが、団員は否定するように手を小刻みに振る。


「変えていません。けど、効果が薄すぎて、誰かが安い回復薬と中身を入れ替えたのかと疑うくらいです。でも、封はしっかりされているし、ラベルにもバスカイル家のサインがあるし……カルロス隊長の奥様の実家、今何か問題でも?」


(問題だらけだ)


 そう答えそうになるのをカルロスはぐっと堪えて、「確認しておこう」とだけ返すと、ポケットから小瓶を取り出して騎士団員へ渡す。


「ひと瓶しかないが、これも使え」


 騎士団員は受け取った小瓶を確認すると同時に、目を丸くし、興奮気味にカルロスへと向かっていく。


「……こっ、これ、どこの誰から手に入れたのですか? 最高級品と言っても過言ではないですよ。初めて見ました」

「後で教えてやるから、早く行け」


 カルロスに軽く嗜められ、傷を負った仲間が待っていることを思い出した騎士団員は、「そうでした。行ってきます」と後ろ髪を引かれるような様子でふたりの元を去っていく。

 同時にカルロスも門扉に向かって足早に歩き出し、横に並んだエリオットへと話しかけた。


「バスカイル家の魔法薬、確認させてもらっても良いですか?」

「ああ構わない。それにしても、ずっと高品質を保ってきたバスカイル家が、こんなこと初めてだな……何か心当たりはあるか?」


 エリオットは不思議そうに呟いた後、探るような眼差しをカルロスに向ける。カルロスは軽く肩を竦めてから再び口を開いた。


「俺が渡した回復薬、見ました?」

「ああ。すごい調合師を見つけたようだな。どこの誰だ」

「今俺の屋敷にいますよ。ルーリアです」

「さすがバスカイル家の人間だな」


 手を叩いて興奮気味に褒め称えるエリオットとは対照的に、カルロスは冷め切った顔で不満のため息を吐く。


「昨日仕入れた物を見てみないとなんとも言えないし、一個人の意見として聞いて欲しいのですが、場合によってはバスカイル家との取引をやめることを提案します。今後、あの家が以前と同じ品質の物を生成できるとは思えません」

「……虹の乙女がいてもか?」

「ええ。品質が下がったというのなら、それが答えでしょう」


 バスカイル家で思っていたよりも根深い問題が勃発している予感を覚え、エリオットは思わず息をのむ。そして、やや間を置いてから、真剣な面持ちでカルロスにお願いする。


「俺にも、お前の奥さんの回復薬を見せてもらいたい」

「今は持ってません。今度見せます」

「じゃあ仕事帰りに遊びに行っても良いか?」

「お断りします」


 カルロスは嫌そうにキッパリと断り、怯んで足を止めたエリオットをその場に置き去りにするように素早く門扉を潜り抜けたのだった。



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