妻の不倫の末、私には娘のランドセルしか残らなかった
妻が荷物をまとめて部屋出る。妻の腹には彼氏との子供が宿っている。
私の子供という可能性はない。転勤中の不倫で、戻って来たとき相手の男と共に謝ってきた。
腹も立ったし心も壊れた。
しかし娘。それは宝だ。夫婦の仲の悪い姿を見せたくなかった。
娘は妻が連れていく。不倫をした側なのに親権は妻が有利なのだそうだ。
娘は小さい。きっと私を忘れてその男を父親だと思うに違いない。
私は決断した。
娘はリュックを背負いながら妻を追いかけていた。
「じゃあねパパ、いってくるよ!」
どこか旅行にでも行くのだと思っているだろう。笑顔で抱き締めた。
「ママのいうことちゃんと聞くんだぞ」
「うん!」
娘は妻の軽自動車に乗り込んだ。駐車場を出ていく車の中で娘は笑顔で手を振っていた。私はそれに手を振り続け、車が見えなくなってから泣いた。
◇
二人から慰謝料は取らなかった。娘の生活に影響が出ると思ったからだ。
逆に養育費を月に十万。
考えれば家族を取られて、その男に金をやってる。やるせない。
出世するための転勤は家庭を壊した。
悪いのは誰だ? 私には何も残らない。
それから数日後に桃色のランドセルが届いた。娘と一緒に選びに行ったんだ。
送ってやろうと思ったが、妻からは拒否された。
ますますバカらしくなり、田舎に引っ込んで農家を継いだ。
◇
それから十年。私は畑をトラクターで耕していた。
ふと畦道に女の子が立っていた。私は不思議に思いつつもトラクターのエンジンを切る。
「パパ」
「マユかぁ?」
娘のマユだった。彼女は泣いていた。もちろん私も。
そして傑作に笑ってしまった。
マユは義父に懐かず私の元に帰ることをずっと夢に見ていたのだそうだ。
年頃になり、元妻と義父が不倫の末に離婚していたことを知り嫌悪したのだそうだ。それを異父弟や周囲に吹聴したので、一家はボロボロになったそうだ。
二人は娘を手放そうとしたが養育費が惜しくて断念したそうだ。義父は元々稼ぎが良いほうではなかったらしい。
マユは私のいる地方の農業高校へと通うことを了承させたらしい。
「え? N高に?」
「そう。パパのお手伝いも出来るしね」
俺の家族は壊れたと思い人生を悲観した。しかしこの娘が産まれてきたことに感謝する。
数年後、娘は結婚し婿を連れて同居してくれることになった。
逆に元妻と彼は互いに不倫し合い慰謝料を請求され借金だらけらしい。
まったく人生捨てたもんじゃない。青空の下、娘と婿さんと土の上でそう思った。