「転移門の乱れ」
「ロードロードぉ!」
レギンが抱きついてくる。彼女の豊満な胸が俺に当たる。へへへ、たまんねえな。
「大好き、大好き、大好き大好き大好き! ロードロード、大好き!」
「俺もレギンのこと、大好きだよ。レギン」
「あははは。嬉しい」
「えへへへ。俺も嬉しい」
ブーケが俺とレギンを見て、ふくれっ面をする。お、ヤキモチか? なんかちょっと嬉しい。嫉妬されるって気持ち良いな。モテてるって感じがする。
魔王ガンダールヴは少し俯きぎみの意味深な真顔だった。
レギンは俺を抱いたまま、彼女の後ろにいるブーケと魔王を見る。
「その、魔王様、お願いなんだけど」
「何だ?」
意味深な真顔のまま、魔王は俺達――否、レギンの方を向いた。
「ロードロードと二人っきりにしてもらっても良い?」
魔王は一瞬考えた様な素振りをした。しかし、すぐに頷く。
「分かった。敵もいないようだしな。ブーケ、下に降りるぞ。被害を確認しなければいけない」
「……はい」
ブーケはとぼとぼと、俺の方をチラ見しながら魔王と一緒に階段を降りていった。
段々と、降りる音が離れて行き聞こえなくなっていく。
【モテ期】
小賢者の声、そうだな。モテ期だ。
【小賢者分身的には……ブーケのが好み】
ごめん、俺は圧倒的にレギン派だから。
【理由は?】
胸。ブーケは豊満ではない。
【女性の価値は胸じゃない。大きければ良いってものでもない】
だが一つの魅力だ。
【っく……道として愛してくれてるのもブーケだと思う】
道としての相性はブーケのが良いかもな。だってケンタウロス族だ。これから兵站とか補給とかインフラを打ち合わせするなら圧倒的にブーケだ。
【うん】
だけど俺……レギンには人として愛されてる感じがする。
【?】
ブーケは俺を道っていう魔物として見てる。
【あー】
レギンは俺の人間味あるところを度々見てる気がする。
【そうなの?】
……あと、違うかもしれないけど、彼女は畳一畳サイズのコンクリートの塊をどこか愛している気がする。
【何か秘密あるのかな? ソロモン王、ロードロードのことを見えないとか光輝いてるとか言ってたし】
どうなんだろう。このコンクリートの体がサキュバスに愛される理由なんか見当もつかないな。
【うむむ……小賢者的にはレギンを振ってブーケに行くか、二股をかけて欲しい】
嫌だね。
【残念】
俺は純愛好きなんだよ。
【シュン……】
と、俺と小賢者のやり取りは終わった。
レギンは俺を抱きしめる手を解く。
今ここにあるのは、満天の星空が照らす二人っきりの世界。ロマンチックにも程がある。
レギンは俺に、輝くような笑顔を向けてくる。
「ロードロード、これからも、よろしくね!」
「あぁ。俺からも頼む。よろしく!」
色々あったが、取りあえず戦いは無事終わった。
こうして俺とソロモン王の戦闘は終わったと、この時の俺は思った。
レギンがふと、上空を見上げる。
「どうしたんだ、レギン」
「転移門の乱れが、凄い」
「あー、ソロモン王が使ったから荒れたってことだろ?」
「……おかしい」
「おかしい? 何がおかしいんだ?」
「サキュバスはこんな使い方しない」
レギンの顔色が曇っていく。彼女はサキュバス族、俺と違って転移門というのを感じるからこそ気付く違和感があるのだろう。
「……おかしいなぁ。転移門って、乱れるようなものじゃないんだけど」
「そうなのか?」
「雷も、おかしかった」
「雷?」
「ソロモン王、最後に龍みたいに動く雷を操っていた」
「あー、そうだったな」
さっきは雷がうねうねと動いてたな。今ではすっかり静かになっているけど。
「……ロードロード、あそこ、見える?」
「え?」
レギンはそっと優しく俺に触れた。
そして彼女は空を指差す。
レギンは俺に触れたまま、茶色い魔力を込める。
レギンの温かく優しい気持ちと、種族特有なのか本能めいた怪しい情動が入って来る。
「うっ……レギン?」
「ロードロード、ごめんね? でもあの転移門は、サキュバスの本能とリンクしないと見れない」
どういうこと、だ?
俺の視覚が、変化、していく。
【――】
小賢者が、嫌がってる。何だ、これ?
「あれ、ロードロードの精神に……何か違うものを感じるね。誰かの人工精霊……使い魔だね、これ」
「――」
「あ、ロードロード、今バレたっての気持ちに出てるよ? 今のあたしに隠し事は出来ないと思って」
「れ、レギン」
彼女は妖艶に、くすりと笑う。
「大丈夫。あたし、ロードロードのこと大好きだから。その子、女の子じゃないみたいだから許すよ」
……そういう問題、なのか?
「浮気じゃないなら、問題じゃないね」
レギンは俺に誰よりも明るい笑顔を向ける。
「で、見える?」
「何も、見えな――」
見えない。そう言おうと思ったまさにその時。
何かが、そこにあった。
それは人である以前に、生物である以前に、意識ある以前に感じる何か。
その何かは、門のように感じられた。
黒と白が入り乱れた一つの宇宙のようであり、魔力でも火でも水でも風でも土でも光でも闇でもない何か。
その何かを、俺は一切理解できなかった。なのに、なのに、なのに。
どこかであれを見た。
そう思った。
デジャブ。見たことがないはずなのに、見たように感じる。どうしてそれが起こるんだろう?
俺が少し震えてしまったのか、レギンが明るい声をかけてくる。
「あはは。ロードロード、そんなに怖がらないで? 異世界転生者であれ、異世界転移者であれ、あれを通るものなの。ロードロードも、異世界転移者達も、あの穴を……いえ、あの出入り口から来たんだよ?」
「出入り口」
「そう、あれって――」
妖艶な状態で、レギンは俺に何かを話しかけようとした。
しかし、その会話は途中で途切れる。
下から、魔王の叫び声が聞こえた。
「大変だ、ロードロード! なるべく速く降りてきてくれ!」
下から叫ばれた低い声は、俺達に纏っていた奇妙な雰囲気を壊す。
レギンは興ざめした様に、俺からゆっくりと手を離した。
「あーあ、残念。もう少しだったのに」
「……」
俺は魔王ガンダールヴの言葉を思い出す。「サキュバス族と付き合うのは大変だぞ」、と。
それを俺は差別と思ったが、彼は区別だと主張した。
今の俺なら分かる。
あれは、区別だった。
そしてむしろ俺が魔王ガンダールヴを差別していたのだ。彼は正しかった。
レギンの目は、月光に照らされ妖しく光っているように見えた。
それは人間の世界で見たどんなアイドルや女優やモデルよりも綺麗に感じられた。
そうか、これが、サキュバス族の魅力か。
「ふふふ、ロードロード。この続き、またしようね」
「う、うん」
俺は彼女を怖いと思った。だけどそれ以上にレギンに、逆らえない魅力を本能的に感じていたのだった。
俺はレギンに担いで貰い、下に下降する。
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