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〖逃亡〗と「選択」

〖ロードロード、ここまでの戦いで分かった〗


 何が分かったんだろう? まさか、俺の道テイムの弱点とかに気付いたのだろうか?

 あり得る。ソロモン王は賢いっていうからな。


〖お前とは……戦ってはいけない〗


 ソロモン王は悔し涙を流し、肩をぶるぶる震わせた。

 まさかの敗北宣言!


 魔王やブーケは頷く。って、ソロモン王に頷くのかよ。けっこうぎりぎりだったつもりなんだけどな。


〖お前がいなかったら、レギンと魔王とブーケだってこの場で殺せた。お前がいたせいで、殺せなかった〗


 まぁそれはそうだな。俺は生コンクリート状態で頷く。


〖しかもこの場で無傷なのは、お前だけだ。俺でさえさっき道テイムを使われて気怠さを感じているのに、お前だけ無傷〗


 いや、実は小賢者分身の様子がおかしいんだけどね。まぁそれは黙っておこう。そもそも、小賢者そのものの存在が秘密だしな。


〖死ね!〗


 ソロモン王の金色の目と翼が光輝いて上空へ一筋の光を放たれ、真上にある雲に当たって紫色に輝く。


 そして、巨大な雷が轟く。それはまるで、一キロ以上の龍が雲の中をうねるように、躍動する。


 凄いな。ソロモン王は天候を操作できるのか。


〖喰らえ!〗


 龍の如くうねる雷が落ちてくる。が、俺の頭は冷静だった。


 俺は段々悟った。イメージを得られれば道テイムは大体のことに対処できる。


 この雷程度なら、道テイムで充分に対処可能だ。

 あの鉄の道に、俺は意識を集中。


「道テイム!」


 俺は鉄の道を変形させ、雷に向かわせる。すると、そこに雷撃が落ちる。


〖――〗


 ソロモン王は目を丸くして、鉄の道を見る。へへへ。なんか勝った感あるな。


「お前の武器を変形して作ったこれは避雷針として利用させてもらう」


 空まで伸びる鉄の道、役に立たないと思ったが、どうやら役にたったな。あとはこれにブーケを走らせて、ソロモン王に蹴りを入れて貰えばいいだろうか?


〖何でもありかよ〗


 ソロモン王は辟易とした顔を露骨に俺に向けた。


「何でもありってわけじゃない。道を操れるだけ」


〖……〗


 ソロモン王に、何か奥の手があるのかと思った。しかし、彼は眉間に指を当てて一瞬考えたような状態になると……翼をはためかせて逃げ出した。


 そして、空にある魔方陣の一つから火柱が吹き上がり、その中にソロモン王は入っていく。

 一瞬の出来事だった。


 かの魔術王の姿が消えると同時に、空に無数に設置された魔方陣も消えて行った。

 ということは。


「レギン、これって」


「あぁ……転移門の中にソロモン王は入って行ったんだろう」


 レギンに向かって魔王ガンダールヴが問う。


「態勢を立て直す、ということか?」


 レギンは首を横に振る。


「いえ、魔王様。それなら魔方陣の設置はそのままにしておくと思います。魔方陣は作るのは維持する以上に魔力を使う。それを消したということは、ここで戦闘を行わないということです」


「つまり……」


「我々は、かの魔術王に勝ったのです」


 魔王の目から、ほろりと涙が落ちる。


「そうか。また、国を守ることが出来たのだな」


「はい!」


 魔王の後ろにいたブーケも、涙目になっている。どうやら彼等は今回の戦いで亡国になってもおかしくないと覚悟していたようだ。


「……恐ろしいスキルだ。異世界転移者は化け物だな。強さがどんどんインフレしていく」


 俺は以前のソロモン王がどんなだったか知らないんだよな。


「前は違ったのか? もっと弱かったってことか?」


「あぁ。組織連携も杜撰な、精々数万人の軍隊を率いていた。ソロモン王は精々、弱い使い魔を召喚出来る程度。それが今じゃ、洗脳魔法に天候操作、武器を降らすしパラシュートを風魔法で改良した部隊……それどころか、あの巨人ネフィリム達には驚いたぞ」


 あぁ、あの巨人達ね。一瞬で倒してしまったけど、確かに手強そうだったな。殺戮式道テイムをやらなきゃやばかった。多分多くの亜人達が踏み潰されただろうな。


「それをロードロードよ、お前は一瞬で倒してしまった。余はお前も怖い。味方だから良い物の、お前が敵ならぞっとする」


「まぁ、多分敵にならないから」


「多分ってのが怖いが、信頼できる言葉だ。生後二週間のお前が亜人国家エヴォルに尽くす理由も無いからな」


 魔王は腕を組み、その手でぎゅっと自身の腕を掴む。

 俺がちらりと目をやると、ブーケは悲しそうに、レギンは嬉しそうにしていた。

 そう。レギンは国より自分が優先されて喜ぶ人だからな。


 そしてブーケは多分……自分より国が優先されて喜ぶ。


 まぁ彼女達の反応は置いといて、俺は魔王に話しかける。


「ソロモン王は何回も現れているんだよな。これで何度目だ?」


「……ソロモン王が現れたのは、これで七回目だったかな?」


 魔王はブーケに目をやり、ブーケは首肯する。


「魔王様、間違いありません。あたしもそう記憶してます」


「七回……」


 俺は思わず呟く。七回も仕掛けるとは凄まじい執念を感じる。そしてそれはまだ、終わってないのだ。


「ロードロードよ、余達だけではもはや勝てない。奴は死んでも死んでも蘇り……その度に強くなっている」


「確かに、俺がいなきゃ……皆死んでたな」


 その言葉には、ブーケもレギンも魔王ガンダールヴも、悔しそうな顔をする。

 だが魔王だけは、燃えるような炎を、それでいて縋るような瞳を俺に向けた。


「そうだ。エヴォルはもう、お前の善意に期待するしかない。ロードロード・ドーロード。一生のお願いだ。エヴォルを……助けてくれ」


 俺はぶっちゃけ、悩んでいた。というか、今でも少し悩む。

 この世界の魔族は最初に思ったより、人間に害があると言っても良い。

 というか、人類を滅ぼそうとしている……それがリリスとサキュバス達らしいのだ。


 俺は隣のレギンを見る。

 見目麗しい体と、太陽のような笑顔、そして烏のような形の大きな黒翼。

 この子は、別にそういうことをしてないと言う。


 だけど魔族は明確に、人類にとって敵なのだ。

 ……だが俺は気付いている。俺はもう、魔物なんだ。人間じゃ無い。こんなコンクリートの塊が、人間らしい生活なんて出来ない。


 食べる代わりに、パンツを見るという魔物だ。そんなの、人間どころか動物でさえ無いかもしれない。俺は『道』、なんだ。


 そしてソロモン王の言葉、「相手にされなかった童貞とか気持ち悪。死ね」。確かこんな内容だった。どうせ他の転移者も似たようなことを俺に思うだろう。


 なら答えは決まっている。

 俺を相手にしてくれたレギンを取る。そしてリリスが死ねばレギンが死ぬというのなら、俺はリリスを守る。

 例えその結果人類が滅ぶとしても知ったことじゃない。今は八十億人以上いるだろ、多分。

 なら…すぐには滅びない。


 相手にしてくれなかった人間の女性と、相手にしてくれるサキュバスの女性。比べたらはっきりする。


 俺は、レギンを取る。つまり、エルティア王国と亜人国家エヴォルならエヴォルを取るのだ。


「守るよ」


「……ありがとう。余は、恩に着る。一生、感謝する」


 魔王はむせび泣いた。ブーケも、顔を両手で押さえる。ただレギンだけは、少し怪しくはにかんでいた。

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