「拒否」
ソロモン王は魔方陣の上に立っていて、こちらからは点のように小さく見える。
〖俺には相変わらず見えない。しかし……今度は見え方が違う〗
「は?」
遥か上空にいるソロモン王は俺を見下ろしている。今なら分かる。以前は俺の方を向いているけど目があってなかった。今もそれに近いが、以前よりは目と目で見ているような感じになっている。
〖俺にはね、ロードロードが光輝いて見える〗
光輝いてる? 別に今は道テイムをしていないし、道テイムしてても俺というか石畳が光るだけだしな……。
〖……そういうこと、なのかな〗
「?」
何を言ってるんだ、あの王は。
奴は俺に手を向けて――ってヤバい!
〖知恵テイム〗
ドン!
巨大な光芒がノータイムで俺を襲った。前回とは違い、それは一瞬だった。
以前なら俺が道テイムをするのと同じだけの時間を必要とした。しかし、今回はそのラグが一秒もない。かなり距離が離れているというのに、スキルにかかる時間は一瞬だ。
「うわああああ!」
俺の体が道テイムに支配されていく。
〖これで君の正体も分かるというもの……さぁ、俺にお前を教えて貰う。って、何!?〗
……?
何もない。理性も感性も影響がない。見た目にも変化が起きてないようだ。
〖な、何だ? 何が起こったのか、分からない!? それに知恵テイムをした時の……変化が感じられない〗
ソロモン王は戸惑っているようだ。よく分からないが、彼のスキルは空撃ちになったのだろうか?
ならしめたものだ。と、思ったのだが。
【うぅ……】
小賢者、どうした?
俺の心がお前の変化を感じ取ってるぞ?
【そ、その……理性が、おかしい】
知恵テイムの影響が小賢者に出たのか!
【小賢者のこと、ソロモン王には黙っておいて】
分かった……何か違和感があったら言ってくれ。
【う、うん……】
小賢者の様子がおかしい。ソロモン王の知恵テイムのせいだ。俺に今、紫色の魔力はかけられていないが効果があったのだろう。
どんな影響があるか分かったものではない。相変わらず不気味なスキルだ。
俺は近くにいる魔王達に話しかける。
「皆、さっさと対策をするぞ!」
「う、うむ。しかし余は予想外だ。まさか魔王城の真上に来るとは……兵は既に北や西に向かわせたと言うのに」
魔王は懐をまさぐり、何かを取り出した。どうやら羽のついた機械の様だ。あれは何だ?
羽のついた機械は緑色の魔力を放つ。
「スレイブ、聞こえているか? ソロモン王が現れた! 魔王城の……余の真上だ。今すぐ兵を首都中央にあつめてくれ!」
羽のついた機械からスレイブの風魔法の声が聞こえる。
『ま、魔王城の上ですか?』
「そうだ。ソロモン王のスキルは成長し、我が国の真上に転移できるほどまで強力になったようだ。迅速な対応を頼む!」
『わ、分かりました!』
ぶち、と回線が切れた音がした。どうやらあれはこの国で使われる通信機のようだ。他の国にあるかは知らないが、風魔法の一種だろう。
レギンとブーケは上空のソロモン王を見つめ、ドワーフ大臣は気付けばいなくなってる。大臣は非戦闘員だからとっとと逃げてくれるのが正解でしかない。
さて、上空のあいつに備えるとするか。
俺の『奥の手』、それは残酷極まる。
残り少ないエナジーとは言え、恐らくエナジー消費は殆どあるまい。雑に使って強い技だからだ。
出来ればソロモン王が引いてくれると良いんだが……。
〖ロードロード、亜人国家エヴォルを裏切り……エルティア王国軍に加われ〗
ソロモン王の声が魔王城に響き渡る。これは恐らく、そういう魔法なのだろう。地の声でここまで届くわけがない。
ブーケやレギンが張り詰めた表情をして、魔王ガンダールヴは意味深な真顔。
俺の返答は決まっている。
「断る。俺の彼女はこの国の国民なんでね」
レギンが少し照れくさそうにし、ブーケが頬を膨らます。
〖ロードロード、分かっているのか? お前がエヴォルを守るとリリスを殺しにいけない。そしてリリスを殺さないと人類の知恵が脅かされるんだよ。ポルノは脳を破壊する。サキュバスは人類のポルノを刺激するからな〗
ソロモン王の一方的な物言い、それに俺は少しカチンと来てしまう。
あの王様、本当に偉そうだな。知恵テイムでいきなり俺を洗脳しようとしたくせに……有無を言わせようとしなかったのに、それが通じなければ話し合い?
虫が良いにも程がある。
歴史書では好きだったが、実際に会ってみるとむかつくな。
「ソロモン王。いきなり知恵テイム仕掛けてきてそれは無いだろ。お前、俺の意思を聞く気ないじゃん」
〖こっちは俺の世界を守りたくて必死なんだよ。サキュバスを庇うなんて、人類の敵だぜ?〗
……、人類の敵、か。
俺はそれになっていいのか? 良い訳がない。しかし、俺に譲れないものがある。
「ソロモン王、何度言われてもダメなものはダメだ。俺は……俺の恋路を叶えるって決めたから」
レギンが俺を見て、紅潮する。そして、ソロモン王が暗い声で言う。
〖そっか……がっかりだよ、ロードロード。お前とは仲良く出来ると思ったのだがな〗
ソロモン王は手を広げ、紫色の魔力を放出した。すると、空に貼り付けられたあらゆる魔方陣から沢山の剣や槍や斧が出現。その数、千、二千……いや、一万はあるだろう。もしかしたら五万とかあるかもしれない。とても数え切れない。
まさか――。
〖なら、プレゼントだ。ロードロード……これを落とすだけで、結構死ぬんじゃ無いかな?〗
その声で分かった。ソロモン王は不敵に微笑んでいる。
そして剣の雨。槍の雨。斧の雨。まさにそう表現していいだろう。
一万以上の武器が、次々と上空から落下してくる。
「まずい!」
下には沢山の人々がいる。こんな武器の雨を許してしまったら、多くの死者が出る。
俺が何とかしなければ!
さらに、小賢者がいつもより弱っているのも感じた。
【……理性消えそう……まずい】
もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。
★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。
下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。
何卒、よろしくお願いします。




