ロードロードの優しさ~レギン「皆に平等に優しいなんて、嫌。あたしを特別扱いしてよ」
魔王ガンダールヴは普段は厳つい顔でも優しげな発言をする。しかし、内心ではレギンに国が振り回されるのを良いと思っていなかったのだろう。
魔王はレギンを見て、不満の籠もった声で話す。
「傾国とはこのことだな。国の要が女に溺れたせいで、国が傾く」
「う……」
レギンはばつの悪い顔をする。彼女にも『傾国』の意味は解るだろう。楊貴妃や妲己、その美貌に王や皇帝を溺れさせ、国を傾かせたような美女達……ロードロードを溺れさせたレギンはまさに傾国だ。
たまんねえな、この恋愛。へへへ。
レギンは魔王に謝る。
「ご、ごめんなさい。でも、本当に初めての彼氏で……」
「だがパンツを見るのくらい、許してやれないのか? 我々の生き残りが全員難民や奴隷になるかもしれないんだぞ」
俺に魔王ガンダールヴほどの悲観はない。自分の強さに自信を持ち始めたからだ。ここは彼女を庇うとしよう。
「ガンダールヴ、それまでだ」
「何……」
「レギンがいなければ俺はエルティアに付く可能性があるぞ」
「!?」
「この世界で俺に一目惚れしてくれる奴がどれだけいると思う? レギン以外相手がいないんだって」
「ブーケは?」
「恋愛じゃなくて愛国心で相手にしてくれるっていうのは話が違うんだよ」
「……本当か?」
魔王、ドワーフ大臣、レギン、俺の四名がブーケを見る、桃色美少女の頬は普段より赤く染まり、にやにや笑って俺を見る。
「えへへ」
「「「「……」」」」
「えへへへ」
エンゲージ、しちゃってからブーケの俺への態度がなんか違う。が、俺はレギン第一主義だ。仮に振られることがない限り、この主義は揺るがない。
ブーケはレギンに笑顔で話しかける。
「確かにコンクリートの塊に発情するのは難しいです。レギンさんって、狂ってますね」
「ブーケは、まともだもんね」
レギンの顔がいつもより笑っていない。完全な真顔だった。普段の百倍明るい桃色ケンタウロス美少女とサキュバス美少女。両者の間で火花が散っているように見える。
「えへへへ。あたしだっていつか頭おかしくなるかもしれませんよ」
「序列三位殿の見事な愛国心が、この国を守ってきたのです。それはいつまでもお変わりないように序列六位として思っています」
「えへへへ。あたしは国の為になる浮気なら大歓迎です」
「あははは。きっと国も意思があるなら一途に思って欲しいはずですよ」
笑顔のケンタウロス族と真顔のサキュバス族。ブーケとレギン……二人の美少女に好意を寄せられていて、俺は嬉しい。
モテ期って、悪い気しないな。
「ま、まぁ……その、ロードロード」
魔王が話題を変えようとしている……ここでレギンに触れるのは火に油を注ぐことになるだろう。ここは魔王の話題に乗るのが正解な気がする。俺は応じることにした。
「何だ、魔王」
「レギンのことを差し引いても、だ。お前が命をかけてこの国に尽くす道理はないんだ」
「逆だ。惚れた女を守るっていう素晴らしい理由が俺にはある」
「……そうだとしても、な。お前は成り行きでこの国の行く末を護ってくれてるだけなんだよ」
「……」
「愛国心がある訳でもない。居場所なんて、他にいくらでも作れるだろう」
いや、美少女パンツを国策で撃ち出してくれる国なんて限られていると思うのだが……。
「余はな、お前に感謝している。だが……それと同時にお前が普通じゃないのが分かる」
「?」
「お前は自分の身より、恋愛を優先している化け物だ」
「――」
「正直、お前の言っていたシルクロード計画。あんなものはレギンを無視したらさっさと叶ったのだ」
確かに、その通りだ。
「究極的に言ってしまえば、エヴォルを捨ててレギンと国外に逃げてしまうのも手だ」
「リリスを守らないとレギン死ぬだろ?」
「ソロモン王がサキュバス国の位置を割り出すのは難しいだろうな。サキュバス国はどこにあるか、秘密の国なのだから」
「な、何!?」
秘密の国ってどういうことだ? 世界地図が書かれているなら、どこかに映ってそうなものだが。
魔王はドワーフ大臣に指示して、世界地図を出させる。
「ここを見てくれ」
アフガニスタンの位置するエヴォルの南部と東側を魔王は指す。
「人間界で言うところのパキスタンとインド、ここが竜国ドラゴニアの領土なのだ」
随分広大で、しかもエヴォルと隣接してるんだな。超大国の近くの緩衝地帯も良いところだ。
「このパキスタンとインドには転移門が乱れる特殊な場所がある。そこがサキュバス国に通じている……と、言われている」
「言われている?」
確証がない、ということか?
「ロードロードよ……サキュバスは特殊な種族だ。余はソロモン王がリリス様に到達出来るとは思えぬ。しかし、霊脈が細く少ないこの土地は魔物の力が活性されにくい」
霊脈が細く少ない……それって「道」だよな。道テイムで強化できないかな?
「そして広大な山脈が乱立していて、パキスタン辺りは霊脈が普通に機能しているからワイバーンという下位竜種さえ厄介だ。エヴォルは精々序列が強力なだけで兵士は人間よりちょっと強い程度」
「……成る程、地理的条件がエルティア王国に攻められやすかったんだな」
「うむ。ドラゴニアと真正面から闘うなんて、有り得ない。ドラゴンロードと戦うことは死を意味するからな」
そんなに強いのか……戦わないようにしよう。会うことないと思うけど。
「じゃあ魔王様。今度、地理変えようぜ」
「は?」
「敵が侵攻してくる道が決まってるなら道テイムで潰せばいい」
魔王は顎に手を当てて考える。
「……確かに、その通りだな。だがエナジーを今はインフラに優先したい。もしエルティア王国を撃退出来たらソロモン王は疲弊して復活まで時間がかかるはずだ」
「そうなのか」
「うむ。だから侵攻通路を道テイムで書き換えるのは後回しで良いだろう。
「……しかし、そんなことを言うなんて、本当にエヴォルのことを思ってくれているんだな」
「そ、そんなことは……あるのかな」
「ふははは。ありがとな。道に転生してきてくれて、感謝する」
魔王ガンダールヴは恭しく俺に頭を下げる。地位なら俺のが下なのに、この魔王は本当に態度が小さく……器が大きい。……今思えば、俺って真偽結晶とか見せられたりしてるけど、礼拝の時間とか配慮も貰ってる。ドラゴンロードとか話を聞いてると乱暴者で偉そうだ。
……魔王ガンダールヴって、俺を見下ろすけど見下しはしていない。リア充特有の陰キャを見下した目で見られたことが一度もない。俺に優しくしてくれる良い王様だな。
「魔王様。俺はこの国の歴史なんてまだ知らない。転生してきて二週間だからな」
「うむ」
「だけど愛着が全くないわけじゃない。少しは持ってる」
「!」
「……守るよ、エヴォルのことをな」
「ロードロード……」
魔王は目頭を押さえ、ぽろぽろと涙を流す。俺はこの国の歴史なんて知らない。だけどブーケやガンコォールブの言葉や態度……それを考えれば、同情をしてしまう。
俺はある種の馬鹿なのだと思う。ただ働きをしている。そんなのおかしいと思う。しかし……どうにも見捨てる気になれない。侵略を受けていて俺にそれを撃退する力があるというのなら……やってやる。
レギンが俺に近づき、神妙な笑顔を向けてくる。
「ロードロードって、優しいね」
「俺が?」
「うん。とても優しい。あたしはエヴォルに義理がある。スレイブもブーケもリィフィも……村長だって、自分の理由で戦ってる。なのにロードロードは、何の義理も理由もなく、命をかけて戦おうとしている」
「普通な奴だよ」
「変な奴だよ。ドワーフのギルド長にも、リリス様にも、あたしにも、ブーケにも……基本的に優しい」
「まさか。俺は普通に接してるだけだ」
レギンは俺の言葉を聞いて、少し悲しげになる。なぜレギンは今、眉を顰めるのだろう?
「でもね、あたしだけに見せてくれる男の顔ってまだないなって思う」
「――」
男の、顔?
「あたし、ロードロードのこと好き」
レギンの言葉でブーケが緊張する。だが今ケンタウロス族の子に構ってる暇はない。
「俺も、レギンのこと好き」
「あたしロードロード以外に全身オイルマッサージなんてしない。それはあたしが女の顔を、ロードロードにだけ向けるって決めたから」
「――」
全身オイルマッサージって、そういう意味があったのか。俺を男として認めてくれたから……レギンはやってくれた、と。
「ロードロード、彼女扱いをもっとしてよ。不器用でも良い。皆に優しいなんて、嫌。あたしを特別扱いしてよ。あたしは人として優しくされたいんじゃなくて、彼女として優しくされたいんだから」
これは俺には難しい。前世は童貞、恐らく彼女がいた経験もないだろう。だからレギンに執着しているんだ。
「男として、成長して。待ってるからね。あたし、ロードロードの彼女だから」
「レギン……」
魔王城の最上階でバカップルのような発言をする俺とレギン。場違いな空気だが、俺はそのバカップルな空気を好ましいと感じた。
一日二話投稿って楽しいですね。可能な限りやってみます。
あとこの前発売された明治サブさんの小説『腕を失った璃々栖』を三分の二読みました。その内Twitterか活動報告に感想を書きます。
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