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「エンゲージ」

 魔王は俺に向かって真剣な顔で言う。


「ロードロード、ブーケの体を見てやってくれぬか? ブーケだけは治してやりたいのだ」


「ブーケの?」


「あぁ。疑いようが無くエヴォルにおいて……ロードロードを除けば最強の魔族だ。ケンタウロス族の神童と言われてからずっと活躍し続けている。他のケンタウロス族には悪いが……彼女だけは特別だ。治した方がよく働いてくれるだろう。戦場でも、物流でも、な」


「あははは。大食いなんで、皆さんの足手まといにならないように頑張っただけです。それにあたし、エヴォルのこと大好きですから!」


 大食いなのか。そういえば人より馬の方がご飯食うって言うしな。他のケンタウロス族より働いているなら多分その分食べるのだろうな……。


「分かりました、魔王様。じゃあ、ブーケ。道テイムするぞ?」


「はい、お願いします」


 宙にマップが表示され、魔王がそれを見る。俺にも分かる……マップにはブーケの人体図が表示されているが、それは血管の流れがところどころ悪くなっていて、神経が切断されているところさえある。魔王は指を使って道テイムするべき場所を俺に指示する。

 見るも無惨な状態だ。レギンより遥かに状態が悪いのに、なぜ今まであんな機敏な激しい動きが出来たのだろう?


「ロードロードよ、こことここ……ケンタウロス族は脚が強い。レギンのとは違う観点で治す必要がある」


 魔王に言われて俺はより理解する。

 ケンタウロス族のブーケも根本的にはサキュバス族のレギンやドワーフ達と構造は変わらないが、やはり魔物特有の傾向というのは感じる。

 ……ケンタウロス族のデータを見ると、脚力の力が他とは段違いだ。レギンは肩甲骨付近に神経が集中していた。ドワーフは手に神経が集中していた。ブーケは体幹と下半身の神経が非常に活発になってる。


「これがケンタウロス族の体ってことだな」


「あぁ」


「道テイム!」


 俺は彼女の体を治していく。知恵テイムの時より魔王ガンダールヴの観察がある分、微細な治療が出来ていく。そして美少女の体だ。


【エナジーが回復しました】


 そして、俺はドワーフギルドのギルド長ガンコォールブに教えて貰った知識と、今魔王が魔力で描いた刻印情報を使ってブーケを治していく。すると。


「う……脚が、熱い」


 ブーケは脚を手で押さえた。


「悪い感じがするか?」


 俺が聞くと、ブーケは首を振った。


「いえ……でも、なんかくすぐったいです」


 桃色ケンタウロス美少女ははにかむ。可愛い。ぶっちゃけ、政略結婚でもこんな可愛い子と結婚出来るなら幸せなのは間違いないな……とか思った。


「む、むー。ロードロード? なんか今、浮気を考えて無い?」


 レギンは頬を膨らませて俺に近づきジト目をする。や、やばい。これが女の勘ってやつか。


「そ、そんなことないよ」


「本当に~?」


「う、うん」


 俺が道テイムしている隣で、魔王はマップに表示されたブーケの体をガン見している。


「ロードロード、ここもだ。あとこことここ」


「道テイム、道テイム、道テイム!」


【エナジーが回復しました】


 二十分かけて漸く終わった。ブーケの体、……改めて見ると凄い体だ。

 ミオスタチン関連筋肉肥大。それを連想するくらい筋肉が常人と違う感じがした。俺は医学に詳しくないが、若気の至りでかっこいい体質を調べていたのを朧気ながら思い出した。

 確か俺は中学時代……腕に包帯を巻いて、その上に鎖を巻いて、眼帯をして、木の上で読書をしていた。読んでいた本のタイトルは『人間失格になる為に、僕は中二病を患う』、中身は覚えてないけどどうせろくな本じゃないだろうな。どうせ他人に嘘ついたり麻薬中毒してる奴が主人公だったりするんだろう。まぁ、全く記憶にないけど、タイトルから連想するのはそんなイメージだ。


 レギンの声がした。


「ロードロード? どうした、ぼーっとして」


「え、あ、うん」


「浮気の匂いがしない」


 どんな匂いだよ。つーか浮気が分かるとか怖すぎだ。


「かと言って、ロードロードの意識ここにあらず……どうしたの?」


「前世の記憶を少し思い出していた」


「えー、どんなの?」


 レギンが興味深そうに聞く。いや、前世のこの記憶話したくないな。木の上で読書ならまだしも腕に包帯と鎖と眼帯ってのがやばい。


「それよりブーケ、体の調子はどうだ?」


 ブーケは横になってスヤスヤと気持ち良さそうにしている。多分、体の疲れが流れてうたた寝しているんだろう。


「これを見てくれ」


 魔王ガンダールヴがブーケの刻印情報を見る。ブーケの体温や心拍数、筋力や重心バランス……あらゆるものが正常になった。しかも、表示項目が明らかに増えている。


「あ、より詳細になってる」


「更に詳細に表示することもできる」


 ……刻印情報、どんどん便利になってるな。まるでスマホだよ。


 ブーケの張り詰めた体は疲れ切っていた様だ。気持ち良さそうに床に横たわっていたブーケはゆっくりと起き上がり――、


「っは!!!!!」


 ドン!

 破裂音がした。空気が驚いたかのように、大きな音が鳴る。

 ブーケの体を桃色の魔力が覆って、それは火柱のように天井に立ち上った。


「な、何だこれは……ブーケの魔力が二十倍くらいになった」


 魔王が驚いている。俺は魔力をあまり感じない。しかしブーケが強化されたというのは見て解った。


「凄い、力が漲ってきます。魔王様、道さん、ありがとうございます!」


「ブーケの神経や血管が千切れていた上に、体が歪みまくっていた。それを治したから……これがお前の本来の力だ。むしろ今までボロボロになるまでよく働いてくれた。ブーケ、ありがとう」


 魔王は深々と頭を下げ、それにドワーフ大臣も続いた。レギンの顔に苦悩が映る。そうだ……レギンは俺だけじゃ無く、ブーケに命を救われているんだ。

 ジャンヌに殺されかけた時、ブーケがジャンヌと闘ってくれたから俺と魔王はレギンの治療ができた。


「レギン」


 俺の言わんとすることはレギンに伝わったようだ。レギンは悲しげに答える。


「……ごめん、それでもあたし、ロードロードのこと好き。だから、他の女のパンツを見て欲しくない」


「分かった」


 ブーケは俺に輝くような笑顔で頭を下げる。


「ロードロードさん、ありがとうございます! 本当に、本当にかつてない程、体がすっっっっごく楽です!」


 惚れてしまいそうな程、彼女の笑顔は眩しかった。だってこの子に道テイムをした俺には分かる。

 このケンタウロス美少女が、どれだけ辛い人生を送ってきたか。

 どれほど国の為に戦ってきたか。傷ついてきたか。口先だけの愛国者じゃないか。

 どこの国に生まれても英雄と表現される程に、彼女は闘ってきたのだろう。相手は強力なスキルを使う異世界転移者達。対抗出来る最強戦力は自分だけ。

 ……彼女は、今の俺と同じだったんだな。


「な、何……それでよく今までやってこれたな」


「えぇ。エルティア王国の兵士達はどんどん強くなるし復活するので……闘うの、大変でした」


 俺は知った。彼女が、無鉄砲の様に見えて……後先考えてない様な人間のようでいて、どれだけの苦悩の中にいるか。

 彼女の命は長くない。

 治したが、それは分かる。道テイムで治せない箇所があった。彼女の命は、もう……。


「……体の歪みで血流がおかしくなってるというのはあった。だがそれだけじゃない。特に心臓への……疲れ? が凄くあった。正直、ブーケがこのまま戦い続ければ……」


 ブーケはくすくすと笑う。


「分かってます。あたし、命は長くないって言われているんです。これは魔王様と、ケンタウロス族の族長だけが知ってることなんです」


 それを聞いてレギンもドワーフ大臣も驚いた。魔王は、俯いて悔し涙を流す。


 心臓の疲労度。これは俺の道テイムでも完治はできない。それにブーケの心臓は……特殊な感じがした。レギンの心臓とも違う。


「ブーケ。君の走りは明らかに心臓に負担をかけている。なのに、なぜまだ闘おうとするんだ? 闘わないでいいだろ」


 ブーケはレギンを見る。


「レギンさん、あたしに何かあったら……スレイブさんにもっとツッコミを入れて下さいね」


「え……」


 ブーケは俺に近寄り、マップに魔力で更に情報を書き込んだ。これは……! ケンタウロス族ブーケが普段使っている本人の感覚。それを情報として書き込まれた。一つ一つが、ラインとして認識出来る。そしてそれは心臓と同じ……いや、心臓以上のポンプ作用があるのが分かった。

 まさにケンタウロス族の神童の技の結晶とも言えるべき情報だ。


「道さん、あたしの心臓を、脚を……道テイムして下さい」


「……良いんだな?」


「はい」


「お前の命は俺のものになるぞ?」


「覚悟の上です。野生の勘が言うんです。多分……あたしの命は余命一年もないでしょう。でも、命が消える最後の瞬間まであたしは……」


 ブーケは一瞬俯き、涙目で顔をあげる。窓から差し込む太陽光が彼女の涙をキラキラと煌めかせる。


「あたし、エヴォルが好き。国が好き。ケンタウロス族を受け入れてくれたこの国を……命尽きる瞬間まで、愛し尽くすって決めたんです」


 レギンとドワーフ大臣が戦慄する。魔王は相変わらず俯いたまま……魔王だけは知っていたようだ

 ……ケンタウロス族もドワーフも、悲劇の歴史があると言う。俺は……前世の思考回路はあるものの、どうやら生後二週間って言われるくらいにクソガキの様だ。


 目の前のこの子の方が、ずっと自分より大人に見える。


「道さん。あたしのこと、それこそ馬車馬のようにこき使って下さい」


「ウマいこと言いやがって」


 俺は道テイムする。彼女の血管、筋繊維、神経を。彼女の『道』を道テイムする。これで彼女は俺に生殺与奪可能なデータを提供したに等しい。恐らく俺は……彼女の体の循環を自在に操ることが出来るだろう。

 それこそ、彼女をエヴォルを守る為の人間兵器として酷使できるようになったのだ。


【エナジーを回復しました。特殊トロフィー「エンゲージ」を獲得】


 え……何だ、これ。エンゲージ?


「あ、あれ? これって……」


 ブーケが驚いている。いや、俺だけに聞こえるんじゃないのか? エンゲージって……えぇぇぇええええ!? 

 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


 ★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。


 下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。


 何卒、よろしくお願いします。

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