[魔王の各宅訪問]魔王「お願いします。国民の皆様、娘さんのパンツを石畳に見せて下さい」
魔王城の最上階で、玉座に座ってほくそ笑み涙を流す男がいた。
マントを羽織り、眼帯して、木槌の様なものを幾つか体に付けている。
亜人国家エヴォルの最高権力者――魔王ガンダールヴだ。
「礼拝の時間だ。ふふふ」
ドワーフロードである彼は、たった一体の魔物がパンツ見放題になる為に尽力の限り動いた日々を思い出していた。
(これを用意するまで、どれだけ余が頑張ったことか)
――――――――――――――――――――――
それはジャンヌに道テイム揉み揉みバーストを喰らわせ、美少女パンツに道テイムした翌日のこと。そう、ロードロードが序列九位になった日に、魔王は動き出していた。
最高権力者である彼もまた、国家の奴隷――公僕として働いているのだ。
一般家庭を魔王自らが訪問し、頭を下げる。その隣にいるドワーフ大臣もまた、頭を下げる。
エヴォルには多く建てられている正方形型の白い住居、そこにいる一家に魔王は頭を下げたことにより絶句されている。
「お願いです。この通りです。これから毎日、石畳が光る時間がありますので、石畳に向かってパンツを見せてくれないでしょうか? 娘さんのパンツ見せが、必要なんです!」
一国の長の言葉とは到底思えないような言葉。冗談のような話をされ、一般家庭のオーガ族一家は困惑している。
オーガ族のパパは苦虫を噛み潰したような顔を、オーガ族のママは神妙な面持ちを、オーガ族の長男は怒り顔を抑え気味に、オーガ族の妹(美少女)は困り顔。
魔王のお辞儀で困惑する一家に、追い打ちがかかる。ドワーフ大臣も頭を下げたのだ。
「私からもお願いです。この通り、どうか……どうか何卒!」
オーガ族のパパの返答は単純なものだった。
「うちの娘のパンツを? ふざけてんですか?」
もっともな意見でしか無い。だが、魔王も断られることなど当然のこととして覚悟していた。魔王はプライバシーゼロの非倫理的なアイテム――真偽結晶を出す。
「余は、本気だ」
「――」
ロードロードに普段当たり前のように使っているが、この最強の嘘発見器を使うなど普通は許されない。他人の嘘や真を詮索したりするのは常識的にありえない。
それを魔王は出したのだ。オーガ族一家は全員、緊張する。
「余は、本気だ。本気で貴方の娘のパンツが国益の為に必要だと信じ切っている」
真偽結晶は光らない。オーガ族一家は震える。彼等の目の前にいる魔王は本物の狂人か、変態なのだと思い始める。
「頼む、この通りだ」
魔王ガンダールヴは再び頭を下げる。仮にも一国の長である以上、最終的には軍事力で娘に言うことを聞かせることが出来る……そんなことはオーガ族一家だって理解している。
だが不可解だった。「なぜ、娘のパンツを石畳に見せる必要があるのか?」という疑問が頭に浮かび続ける。
「魔王様、魔王様! 貴方が、頭を下げるなど」
ドワーフ大臣がその小さな身長で、魔王の大きな体を起こそうとするが魔王は大臣を振り解く。
「えぇい! これをするしかないんだ! お辞儀で国が救えるなら安いものだ!」
「魔王様……貴方がお辞儀をすると言うのなら、私は……」
ドワーフ大臣はオーガ族一家に土下座した。これにはオーガ族一家も引いた。魔王でさえ、ドワーフ大臣に絶句する。
「大臣、何を」
「魔王様が頭を下げているんです。なら私が……私がそれ以上頑張るのは、当然です!」
ここに来て漸く、オーガ族のパパは溜息して言葉を発する。
「仕方ないですね。清廉潔白と言われた貴方達がこれだけのことをするなら、きっと冗談ではないのでしょう」
オーガ族パパの言葉に、息子が反対する。息子はよろよろと立ち上がり、腹を押さえながら苦しそうに話す。彼も、その父も、負傷兵として戦場を去った男だ。
「妹のパンツを、よく分からない石畳に見せるっていうのか?」
「黙っていなさい。今、大人の話をしているんだ」
「黙ってられねえ、俺は」
「お兄ちゃん、止めて!」
大きく綺麗な角と、白を基調とした服に、刺繍の入った水色の透けるスカート。オーガ族の少女は、兄に向かって叫んだのだ。
「ふ、フラン……」
フランと呼ばれたオーガ族の少女は、兄に向かって真剣な表情を向ける。
「あたし、あたし、国の為にパンツ見せるよ」
「――」
「あたし、平気だから」
「フラン……お前、まだ嫁入り前だろう?」
「うん。男の人と手を繋いだこともないや」
「だったら!」
フランは目を閉じ、胸に手を当てて優しい声で話す。
「お兄ちゃん、知ってる? 再起不能って言われた人が次々と回復して、仕事を再開したって」
「え」
その事実は、エルティア王国軍を撃退してからエヴォルの国内全てで広まった噂であり、真実だ。しかし、それが今の状況に何の繋がりがあるか、オーガ族の兄はさっぱり理解してなかった。
「ケンタウロス族の人達が、石畳を走ると……早く走る度に壊れる。でも最近は、石畳が光輝くとすぐに直るの」
オーガ族の兄も、パパもママも、フランの言葉にハッとする。
「ということは」
「何か、関係あるんだよ。石畳と、パンツに」
しかし、フランという実の妹に言われても尚、オーガ族の兄は困惑の表情を浮かべ頭を抱えた。
「……そ、そんな……何の関係があるって言うんだよ。石畳とパンツに、関係なんかねえよお!」
「普通に考えたらね。でもきっと、今普通じゃ無いことが起きてる」
「――」
「知り合いが言ってたの。箝口令が引かれてるけど、本当はエルティア王国にエヴォルはとっくに滅ぼされてるつもりだったって」
「フラン……まさか」
「そう、魔王様がこの国を救うなら、きっとあたし達のパンツが必要なの」
「あたし達? 達ってことは」
「色んな友達の家にも、スレイブさんやレギンさん、ヒポハスさんやブーケさん、リィフィさんが来たって言うから」
そこでオーガ族のパパは、魔王に向かって恐る恐る聞いた。
「――ま、魔王様。貴方まさか……国中の美少女の宅を訪問して、同じ事を?」
「……」
魔王は答えない。否、答えられない。真偽結晶を持っているからだ。言えば、真実かどうかがばれる。
「魔王、様」
「信じてくれ」
「!」
オーガ族パパは、胸を打たれる思いだった。魔王ガンダールヴは泣いていた。ぼろぼろと、大粒の涙が床に落ちる。
「何万人……いや、エヴォルに住む全ての、いやもしかしたらこの世界を書き換え、世界を平和にするかもしれないのに必要なことなのだ」
それを見て、限界だったのだろう――ドワーフ大臣もまた、ぼろぼろと涙が落ちる。
「魔王様……」
フランは悟った顔になり、彼女の兄に言う。
「パンツ見せるので、最低でも何万人が救われるなら、見せるべきだよ」
「フラン、でも、何もお前まで」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「!」
フランは感情的に、彼の兄に気持ちをぶちかました。彼女もまた、亡国寸前の祖国を思って精神はとっくに限界だったのだ。
フランは自分の兄に近づき、ぽかぽか弱い力で胸を叩く。
「あたし、怖かった。お父さんが大怪我した時も、大怪我したのにまた戦争に参加したことも! 独りぼっちになっちゃうと思って怖かった! お兄ちゃんだって、『戦争は男がいくべきだ、女はすっこんでろ』って言ったよね」
フランに対して、オーガ族の兄は悲しげな瞳で優しく妹を抱き寄せる。
「あぁ言った。女は戦場に行くべきじゃ無い。弱者のくせに、命まで女はかけるべきじゃないんだよ。血を流すのは……男の、俺達の仕事だ」
「でもブーケさんやリィフィさんやレギンさんやスレイブさんはお兄ちゃんより若いのに、お人ちゃんより強い女だよね?」
「……」
その言葉は、オーガ族の兄の顔を真顔にした。地雷に触れられ真顔になった兄のことを、フランは理解できず言葉を続ける。
「なのに何で、あたしも戦場に行っちゃいけないの? 本当は気付いているの。お兄ちゃんはあたしに戦場に行って死んで欲しくないから」
「黙れ、フラン! この聞き分けのない妹め!」
「おにぃ、ちゃん」
兄は妹を、強く抱き寄せる。
「何も言うな。お前はただ、自分が幸せになること考えてりゃいいんだよ!」
そこまで静観していた魔王ガンダールヴが、重々しく口を開く。
「この国に今必要なのは何か、分かるか?」
オーガ族の長男は即答する。
「ドラゴンロードやリリス様の協力なんじゃないでしょうか?」
魔王は問い返す。
「それが得られなければ?」
「強力な武器とか作ったりとか」
「ドワーフさえ戦場に駆り出している。補給も兵站も食料も余裕がない。ならどうする?」
「そ、そんなの……強力な魔物を、転生者として、呼び出すしか……まさか!」
「……」
魔王は答えない。真偽結晶を持っているからだ。
「まさか、石畳が光るのはその魔物の能りょ――」
オーガ族の青年に、ドワーフ大臣が頭を下げたまま、強い語気で話す。
「そこまでにしておけ若造」
「――だ、大臣様。顔をあげて下さい」
「高潔なる魔王が、頭を下げて来た意味を知れ!」
「……」
オーガ族の兄は、漸く彼の妹を送り出す決心がついたのだろう。
「行ってこい。きっとそれが、国の為になると信じてる」
「うん」
魔王が太陽が落ちる様を見てハッとする。
「礼拝の時間だ。お嬢さん。よろしければ、早速お願いしたい」
「はい!」
フランは可憐にドアを開けて、光輝く石畳に、スカートを捲り上げて見せる。
「石畳さん。見て下さい、これがあたしの……パンツです」
フランは、パンツを見せる。
それはフリルがついた蒼色。コットン製で柔らかい布生地。青紫色のリボンがついた綺麗で可愛らしいデザインのパンツだった。
石畳の光が、一層強く光る。
魔王は複雑な心境で、その様子を眺めた。
(ふん、あの男に祖国の命運が託されたとはな。余の頭一つで数万人の命が助かり、世界平和になるなら余りにも安い代価だ)
――――――――――――――――――――――
魔王城で、魔王はその日のことを思い出していた。いや、他にも色々な家を回ったのだ。
礼拝の時間。
それに全ての美少女達が頷いてくれるわけでもないし、家族の理解が必要だった。しかも、箝口令もしかねばならない。
「懐かしい、全てが」
魔王ガンダールヴは、柔らかな瞳で光る石畳を見て――その光が、突然消えたのに戦慄した。
「……?」
何度見直しても、石畳の光は消えている。ということは。
「おかしい。なぜだ? なぜ光らない?」
魔王は、嫌な予感がした。
「礼拝の時間は、ロードロードのエナジーの回復時間……それが、途中で終わるということは……インフラ整備や国防に、大きな支障がきたすということだ……」
魔王は魔王城の窓から石畳を眺める。その目には、恐怖が映る。
突然、石扉が開かれ、ブーケが入って来る。魔王は振り返って、ブーケを見る。
「魔王様、大変です! ソロモン王の分身がドワーフギルドを襲撃してきました!」
「な、何……」
「それは道さんの活躍により撃退!」
「あいつ、本当に凄いな……」
「しかし本日、ソロモン王本体がエルティア王国軍を率いてやってくる可能性が高いです!」
「な、何だと!?」
魔王は再び窓から石畳を見て、歯軋りする。やはりそれは、光っていない。そして、石畳のあちこちで美少女がスカートで立っている。彼女達もまた「?」という顔をしている。礼拝の時間に石畳が光らないのだから、疑問を抱くのは当然だ。
(ロードロード、お前が頑張ってくれなければ……何万人以上が死ぬのだぞ? どうしたというのだ!?)
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