メレアグロス「俺、中者男性なんだ」 道「戦闘中に話すことじゃなくない?」
メルエンプタハ。
海の民を撃退したエジプトの王。
明らかに異世界転移者たちの中でも強そうだが、俺は即断した。
召喚される前に攻撃すりゃいいんだよ。
仮面ラ〇ダーでも変身中に冷凍ビームを怪人が浴びせてきて変身ができないって回があったはず。
なんで俺がエルフとやりたいのをこれ以上邪魔されないといけないんだ。
余計な敵は、消す!
「道テイム・拡散!」
俺はスキルをシナイ山の頂点にいる巨大な人影に向かって放つ。
アレクサンドロス大王はマントに魔力を帯びることでこの攻撃を無効化したが、直撃すれば基本的に人体の組織がバラバラになる。
ま、倒せるだろ。
くらいに思っていた。
しかし、圧倒的な魔力が俺の攻撃を弾いた。
……どういうことだ?
いや、感覚的には分かる。
多分、メルエンプタハ本人の魔力が高すぎてオーラの様に常に漏れ出しているんだろう。
なんて奴だ。
っていうか、まだ召喚が終わってない。
【強いからこそ、召喚に時間がかかってるのかもね】と小賢者分身。
ぷかぷかと浮かびながら、その体は真っ黒で日焼けしたかのよう。
俺がどうしよっかな、と思ってたら、海賊団の一部船員たちが過呼吸を起こした。
急にどうしたんだろう。
と思ったら、メレアグロスが俺の傍にいつの間にか近づいてきており、
「ロードロード、お前、あのファラオをなめちゃいけねえ。俺達は歯が立たなかった」と苦しそうな顔で言う。
俺は少し片眉を上げて、
「そんなに強いのか? お前らは一応、ヒッタイトであれ何であれ倒してきたんだろ?」
「ヒッタイト如きとは違う。エジプトのファラオ、メルエンプタハは別格だった。あのファラオは強い。俺は……中者男性なんだが」
「中者男性って、何?」
弱者男性と強者男性は聞いたことあるけど、中者男性なんて初めて聞いたぞ。
なんだよ、それ。
メレアグロスは悲し気な顔で、
「俺は言ってしまえば、努力しても最高の存在にはなれない。スポーツでも不良の喧嘩でも、勉強でも仕事でもだ。向いてる才能はこれと言ってない。だが最低レベルの弱者でも、最高レベルの強者でもない。努力に応じてそこそこの生活ができるかどうかっていうような、中者なんだよ。だから、中者男性だ」
「自己紹介、おつかれ。で、何が言いたいの?」
俺は露骨に嫌な態度を出し、メレアグロスの返答を待った。
簡潔に言って欲しかったが、メレアグロスはハキハキとした口調で、
「受験でいうとさ、最高学府に行けないんだ。ハーバード大学やスタンフォード大学やオックスブリッジは勿論、ドイツ人に生まれてベルリン大学に行けないし、フランス人に生まれてソルボンヌ大学に行けない。東大も北京大学も受験しても受からない程度の頭なんだよ。でもFランク大学みたいな定員割れしたような学歴にはならない。世間的に名前は知られてるけど、大したことないって言われる程度の学歴に受かる、そんな感じの強さとか頭なんだ。年収でも喧嘩の強さでも頭でも仕事でも、俺は何やっても中者なんだよ。努力したら結果は出るけどトップクラスになれない感じの人間なんだ」
「言いてえことは簡潔に言ってくれ」
と言いつつ、俺は召喚中のメルエンプタハに向かって道テイム・拡散を食らわせ続ける。
だが、全てが弾かれる。
うーん。
どうしよっかな。
メレアグロスは泣き叫ぶように、
「お前さ、強者と弱者しか見えてないよな! 俺は強者面することあるけど、強者じゃないって内心じゃ思ってるんだよ! 伝説乃海賊団は天才詩人や天才医者や天才船長や天才戦士の集まりで、俺は常に二番煎じ以下だった! 俺は死に物狂いで努力して、それでなんとか歴史に名を遺したけど、いつもいつも天才達に劣等感を感じてしまって惨めな思いをしてたんだ!」
「天才への劣等感、なぁ……。普通の人に劣等感を感じる俺よりはマシじゃない?」
俺の言葉に、メレアグロスはびくっと震えた。
その後、俺をキリっと涙目で睨んで、
「う、うるせえ! 俺は、俺は中者男性なんだ! 俺の才能はある方だったけど、天才ってほどじゃないんだよ! 死に物狂いで努力して、いくつもの死線を生き延びて、幸運を得て、その果てに漸く俺は歴史に名を刻んだんだ! 沢山の海賊仲間達と群れて、気が大きくなって、俺自身自分の自己肯定感が強くなっていった。しかしその自尊心を全て消し飛ばしたのが、……あの、強者男性だ!」
「あの王か」
俺は召喚中の巨人を睨む。
……どう考えても、普通の異世界転移者じゃないな。
今までは普通の人間サイズだった。
ハンニバルだけはオーガ族に転生してたけど、あれは……巨人だ。
生前そのままの姿での召喚ではないらしい。
「お前みたいな弱者男性は、自分の弱さをひけらかして、俺のような中者男性のことを何も分かってない!」
「じゃあお前みたいな中者男性は弱者男性のこと、分かってくれてるの? そこんとこ、どうなの?」
メレアグロスはびくっと体が震える。
「あ、あの……俺達はチン騎士って言われる存在なんだ」
「何それ。口に出したくない言葉なんだけど」
「俺のような中者男性が強者男性の振りをするのにも関わってるんだ。聞いてくれ」
「面倒だな……」
「中者男性の俺が初めてその存在を自己開示したんだ。聞いてくれ!」
メレアグロスは悲し気な顔で俯き、
「女性にあまり相手にされない。でも相手にされたい。だからこそ、相手にされる為に女性の言葉を全肯定して弱者男性を叩く側に回った卑劣な存在。それがチン騎士なんだ。俺たちは、脳みそで考えるんじゃなく性器でものを考えて、顔のレベルが中の下くらいの若い女の意見に合わせるキョロ充集団なんだ。弱者男性と見なされると叩かれるから、だったら叩く方がマシと思って空気を読んで強者男性の振りをして叩く。虐められない為に自分より弱い奴を虐める奴が幼少期いただろ? それが良い歳した大人になって恋愛脳でやってる奴らだと思ってくれ。それがチン騎士なんだ。女を守る騎士の振りをしてるけど、実際は性交目的ってこと」
「気持ち悪いな、お前ら」
「う、うるせえ。それでも女とやれないよりはマシなんだよ。弱者男性と見なされて虐められるよりはマシなんだよ。だから俺たちは、チン騎士になるしかなかったんだ。視界に入れてもらえず、関わってもらえないよりは女の言うこと全てに相槌を合わせてしまった方が女を抱けるって思ってたんだよ! 中者男性でも運が良かったら幸せな恋愛ができるけど、運が悪かったらチン騎士になるしかないんだ。だってきっかけが与えられなかったり、ヤバイ女しか周りにいないからチン騎士になってるんだよ。俺みたいな奴はよ!」
メレアグロスはバツの悪そうな顔をして、泣きだした。
「ひっく。ひっく。お前に、俺の苦しみなんて分かるまい。受験生が受験を嫌でもやるように、俺は嫌なことを、大したことない顔の若い女性を全肯定することを死に物狂いで頑張ったんだ。それに女共は若さの価値をまるで分かってなかったりするから二十五歳程度で捨てたら後は自動的に傷ついていったりする。いい気になって、男を見下してる奴らが俺達みたいな中者男性にさえ相手にされなくなり、弱者男性にしか見向き去れずギャオオオンって発狂するのは何とも言えない幸福だったぜ」
「凄い言葉だ。その時間を他のことに使えよ」
「う、うるせえ!」
俺はため息。
メレアグロスは涙を流し、
「若い女ってだけでそいつは性的に価値が高い。俺的には二十歳から二十五歳くらいが女性のピークだ」
「見解の相違だな。俺は十五歳から十八歳だ」
「本当にバラバラなんだな。ヘラクレスは十二歳前後だってよ」
と言うメレアグロスの顔はどこか純朴だった。
……聞きたくねえよ、そんなこと。
だがメレアグロスは話を続ける。
「お前みたいな弱者男性は、俺のような中者男性の心を知るべきだ」
「何を知れっていうんだよ」
「努力したら社会でやってける。でも上には上がいる。そこに苦しむんだよ、俺たちは」
「じゃあ努力しても社会にやってけない弱者男性の心を中者男性は分かってくれるの?」
「わ、分かりたくないよ、そんなもの」
俺は流石にイラっとしてしまう。
自分勝手にもほどがあるだろ、中者男性。
俺は声を荒げて、
「あのさ、メレアグロス。おかしいよ! 自分の気持ちを分かって欲しいのに相手の気持ちを知りたくもない、だなんて!」
「だって、人間って自分勝手じゃん。お前らは見て見ぬふりの対象なんだよ。強者男性と女性たちがお前らを……弱者男性を見捨てるって空気出したから俺はその空気を読んでるだけだ!」
「そこ開き直ったらだめだよ。フェア精神を否定するだろ」
「うるせえ! 俺だっていやな上司に頭を何度も下げてるんだ! イアソンからはヘラクレスやケイローンを見習えよって言われたり、他の奴にはイアソンを見習えよって言われたり……その度に、俺は強者じゃないって分かるんだよ! 俺が上の奴らに嫌々頭下げてるんだから、お前ら格下だって俺みたいな中者男性にも嫌々でもいいから頭下げろよ! 俺は上司の頭を下げさせるのが無理だと思ってるから、自分より弱い立場の人間に頭を下げさせるパワハラしないと自尊心を保てないタイプの中者男性なんだよ!」
「本当にフェアじゃないね。それに戦闘中に話すことじゃなくない?」
メレアグロスは少し反省の色を浮かべて、頷く。
「ご、ごめん。でも知って欲しかったんだ。お前が弱者男性、弱者男性って言うのがうざいってずっと思ってた。俺はこんなに頑張ってるのに、チートスキルを与えられて魔王になってるお前がうだうだとつまらない愚痴を言ってるのがずっとうざかったんだ」
「物語に名を遺してるお前にうじうじ言われる方がうざいよ。異世界の魔王よりは人間界で評価されたってことじゃん。俺は評価されなかったから異世界で魔王になってるんだぞ? 俺は無敵乃人だし。あと、実はこれでも俺なりにストレス抑えてるって分かってね?」
メレアグロスは、傷ついた顔になった。
彼の体は震えて、青ざめていく。
俺は無視したいとさえ思う。
こんな小物なのかよ。
「ろ、ロードロード! お前、我が強すぎるんだよ!」
「よく言われる。でも俺は弱者男性だから、弱いという自覚しかない」
「普通なら、思っても言えないようなことや受け止めきれない自己認識を受け入れてるてめーの精神のどこが弱者だ、ボケ! 聞いててむかつくんだよ!」
流石にイラっとする。
俺はメレアグロスを睨み、
「道テイム・拡散!」
「ぐわああああああ!!!」
メレアグロスの全身が切断され、彼は倒れる。
かろうじて、虫の息って感じ。
血だらけになって俺を見る余裕さえないらしい。
魔力で体を繋いでいくがあまりにも体の組織が破壊され過ぎてて動くことができないでいる。
メレアグロスは死にそうな顔になってるが、彼は歴戦の戦士。
きっとしぶとく生き延びるだろう。
俺は咳払いして、
「メレアグロス。幾つか言わせてくれ」
「こひゅー、こひゅー」とメレアグロスの息切れ音。
「中者男性ってのは、確かに存在するかもしれない」
「こひゅー、こひゅー」
「だって、『無理って思われる非モテ』もいれば、『好きって思われるモテ』もいるに決まってる。だが、その間の『無理かもしれないし、きっかけがあれば好きになるかもしれない』っていう真ん中がいるってのは正しい。それを仮に、中者男性と呼ぶとしよう」
「こひゅー、こひゅー」
「世の中には、雰囲気イケメンとか残念なイケメンって言葉が存在する」
「こひゅーk、こひゅー」
「そいつらは、清潔感を頑張ったり、イケメンでありながら何らかのマイナス評価を受けてしまった者達だ。しかし俺は思うんだ。そいつらは『強者には至らなくても、誰かと付き合ったりできるような奴』になれる、と。いわゆる、『理解ある彼くん』とかだよ。『残念なイケメン』なら『理解ある彼女さん』が現れるかもな。お前はそれだな。それをきっと、中者男性って言うんだ。勿論、高学歴や高身長や高収入とか不細工チビ低収入なり複合属性なのが人間だ。こうなった時、女性たちは学歴重視なり身長重視なり顔面重視なり収入重視なり、本人たちのフェチで選んでるんじゃないかと思うんだ」
「……」
「例えば、俺は巨乳の方が好きだ。身長はあまり気にしないけど、チビは嫌かな。大きいのはあり。顔は可愛くても綺麗でもいい。学歴は気にしない」
「……」
「俺の知り合いは『高学歴のが興奮するし、東大の女を犯せると思うと興奮する』とかバカみたいなこと言ってたんだ。俺からすれば理解できないが、世の中には学歴の方が巨乳より興奮できる男もいる。フェチだよ、フェチ。男にそれがあるように、女たちにだってそれがあるはず。何かはダメでも、何かはアリ。全てを持ってるわけじゃないけど、何かを持ってる中者がいる。ってことだろ?」
「……」
「でもあらゆる者を持ってる強者男性もいれば、何も持ってない弱者男性もいる。だが中者男性、メレアグロスよ。それでも俺は言いたいことがある。理解してくれ……弱者男性こそが、一番不幸なんだってこと。俺は中者男性を視界に入れてもいいけど、俺のが不幸って分かってね?」
「……」
「? ……メレアグロス?」
俺は首を傾げた。
すると、ぷかぷか浮いた黒い赤ん坊野郎が、
【ロードロード、あいつ、息してなくね?】
「マジ!?」
俺は近づくと、確かにメレアグロスの息絶えてる。
まずいな。
「アスクレピオス! 任せていいか!?」
遠くにいるアスクレピオスが苦々しい顔で俺の近くまでやってきて、メレアグロスを見る。
「あ、あぁ……いいよ。ロードロード。君はその赤ん坊が強くなってからスキルの出力が上がってる。威力には気を付けてね?」
「気づかなかった」
「もうメレアグロスじゃ君には勝てないよ」
……気づかぬ間に、どんどん俺は強くなってるらしい。
だがチートスキルよりも、魅力が成長して欲しい。
若い女子と付き合ってみたいぜ。
・お久しぶりです。半年以上更新できなくてすみません。何してたか? 修行してました。




