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本人の魅力の無さ と 影響力 と ユダヤ人の封印した男

 俺は驚愕し、がくがくと震え始めた。


「れ、恋愛の神様の加護がないだと!?」

「あぁ。お前の中にはいないんだ」


 とモーゼは答える。

 そしてボソッと、


「国常立乃神の加護とかはあるんだけどな。お前が国のことを日本人のくせに考えてしまったのはそれが原因だな。海の民の正体に出会えたのも、その神の縁があってこそだ」


 俺はわなわなと震えながら、遥か遠くのシナイ山を睨んだ。


「モーゼ! どうしたら良い? どうすれば、俺の恋愛運を上げられるんだ!?」

「まず、女性を好きになることだな」

「女性はむっちゃ好きだぞ」

「そうだな。女性を好きになることが出来てて恋愛できないってことは……単純にお前本人に魅力がないんだろうな」

「悔しい」

「実は恋愛運を上げるのは非常に難しい加護なんだ。ごめんな、私やイエスや国常立乃神の加護ではどうにもならないかもしれない……」


 俺は涙を流す。

 でも事実だから、しょうがないよね。

 遺伝子が悪かったんだ。

 あるいは、環境が悪かった。

 運が、悪かった。

 兎に角、モテない人生だった。

 辛い。


 モーゼは躊躇いがちに、

「私は以前も言ったかもしれないが、どう考えてもあのケンタウロス少女が一番お前に相応しいと思うんだ」


 モーゼが言った途端、

⦅私もそう思う⦆とイエス様が、

【あ、僕も】と小賢者分身バーズが、

 それぞれ心に声をかけてきた。


「でも、なんていうか、彼女には……なんか胸がキュンとしなくて」


 俺の言った一言が、静寂な戦場に響き渡った。

 その言葉には、海賊団アルゴナウタイも、マケドニア軍も、イラッとしたようだ。


 モーゼもイラッとした顔で、

「女々しいな。女子みたいなこと言うなよ。何が胸キュンだ」

「ブーケは客観的に可愛い。でもエルフみたいに遺伝子が刺激されるような感じがないし、サキュバスみたいに魂を奪われるような感じがない」

 モーゼは軽く溜息をつく。

「え、ロードロードはそういうのがタイプなのか……はぁー。当たり前だよ。エルフとサキュバスはそういう種族だからな……」

「は?」

 俺はキョトンと首を傾げた。

 モーゼは冷や汗を流し、

「ロードロードは気付いてないのか?」

「何が?」

「……チンギスハンの新生モンゴル軍。あれはサキュバスとエルフを皆殺しにしてただろ?」


 俺は言われて思い出した。

 確かに、オーガ国であまりにも残酷な仕打ちをエルフとサキュバスにモンゴル軍はしていた。

 無類の強●を行ったとされる彼等が、なぜあんな綺麗な女子達にあんな酷いことをしたのか。

 オークみたいなブス種族を好んでると思ったが、チンギスハンがブス好きという記述はない。

 しいて言うなら、身分の高い女性が一番タイプだったとうかがえるくらいだ。

 俺は残酷なことだから、あえて考えるのを避けたが……まさか、何か意味あるのか?


 モーゼが、

「ロードロード。お前の言うとおりだよ」

「?」

「エルフは遺伝子の情報を奪い、サキュバスは魂の情報を奪う。だから我々、異世界転移者はエルフとサキュバスはどんなに魅力的でも手を触れることさえ躊躇う。交尾なんて絶対にしないぞ」

「! じゃ、じゃあ……チンギスハン達が、美少女亜人を殺したのは」

 モーゼは頷き、

「軍事的必要性があったからだろうな。綺麗過ぎて、誰かが手を出してモンゴル軍の情報がリリスに漏れることを恐れたのだろう。最も、我慢できずオークに手を出したから……少しは情報が伝わってしまうだろうな。全ての亜人の遺伝子と魂をリリスは管理できるようだから。サキュバスとエルフに情報を抜かれるよりはずっとマシだが」

「……」


 あの残酷な仕打ち、そんな意味があったんだな。

 俺はその行いを正当化しないけど、理解はした。


「ロードロード、相手が簒奪者テイカーの方が好きなのか? この世界ではサキュバスとエルフは簒奪者テイカーだぞ。付与者ギバーと付き合った方がいいぞ?」

 とモーゼが言うので、

「好きになれるように、努力してみる」

 と答えた。

 だがモーゼは一瞬、鼻で笑って、

「それじゃまだまだだ。好きっていうのは気が付いたらなってるもんだ。努力して好きになろうとする相手なんてたかが知れてる……」

 と言った後、怪訝な顔になり、

「と言いたいが、お前はあのケンタウロス少女を好きになった方がいいだろうな。お前は相手を好きになる努力を少しはしないといけないタイプの男だ」


 嫌な言い方だな~。


「遺伝子や魂の情報を渡してる方が好きになる、か。とんでもない男だ」

 とモーゼは俺を視て呟く。

 俺は顎を少し押さえて、

「皆はそういうの、気にしているのか?」

「あぁ。気にする。人間界と違う世界だからな……下手に情報を与えたくない」

「ふーん」

「ロードロード、お前は自分が契約石版アークに転生したことの意味を何も分かって無い」

「なんか、意味あるのか?」

「あるよ……まず、その石版を異世界に持ってって欲しくない。あのサキュバス……レギンってのは相当にヤバい奴だな」

 俺はモーゼに頷く。

「あぁ。次に見つけたら俺もぶん殴ろうと思う。なんか朧気だけど……前世の良い記憶を全て消されて、悪い記憶をフラッシュバックさせるようなスキルをかけられていた感じがある」

「最低だな、レギン」

「本当に最低だよ、あいつ」

 と俺は頷く。


 モーゼは俺に蔑んだ目を向けて、

「そんなレギンに契約石版アークの情報をお前は渡した。お前も、最低だ」

「俺が何したって言うんだよ」

「童貞膜を渡しただろ。あれ、言っとくけど人類に対する最大の裏切りだからな」

「人類に対する裏切り!?」


 俺は驚愕のあまり、顎が少し外れてしまう。

 それを魔力操作で、頑張って戻した。


「どういうことだよ、モーゼ」

「いつか分かる。だが、それだけじゃない……」


 モーゼはぷるぷると震えだした。

 それどころか、涙目になってる。


「お前が契約石版アークになったせいで、人間界も大変なんだぞ」

「俺が何したって言うんだよ」

「お前の心の声が、ノーベル賞に影響してしまった」

「は? ノーベル賞?」

「お前が全羅道とか保導連盟事件とか内心で言うから、南朝鮮サースコリアでそれ関連のノーベル文学賞が受賞された」

「マジか。あいつら、ずっとノーベル文学賞を欲しがってたからな。おめでたいじゃん!」

 と俺は笑顔になった。

 悪気ゼロ、善意100%の笑顔である。


 だがモーゼはくわっと目を見開き、大粒の涙を流して俺に批判の目を向けた。


「何がめでたいんだ! 他にもっとマシな作品が幾らでもあっただろうに、アレが受賞を受けた。南朝鮮サースコリアの右翼は受賞結果にカンカンだぞ!」

「俺のせいじゃないだろ」

「……お前の影響力のせいだよ」

「俺に影響力なんてねえよ」

「……お前が核戦争起こってもいいとか思ってるから、日本の反核兵器運動やってた人達がノーベル平和賞を受賞したんだぞ」

「おめでたいじゃん。日本、おめでとう!」


 俺が日本を祝うなんて、何年かぶりな気がする。

 随分久しぶりだな、こんな気持ち。


 ところがモーゼは顔を顰めて、首を横に振った。

「おめでたくない。そもそも、こんなに核戦争のリスクが上がってることがおめでたくない」


 モーゼは俺に批判の目をずっと向けてる。

 なんだろう。

 これ、冤罪だろ。

 俺にそんな影響力があるなら、平和を望んでいた時代の俺にノーベル平和賞を出せよ。

 俺の内心で、保導連盟事件とか言ってたのがノーベル文学賞になったなら、俺にノーベル文学賞をくれよ。

 俺に何もくれないのに、難癖だけ付けられてる気持ちになる。


 俺は批判の目をモーゼに向け返し、

「人のせいにするなよ。俺はノーベル賞選考委員会に知り合いなんていないぞ」

 と言ったのだが、

「お前の内心を読んでる奴の中に、それなりの奴が何人かいるんだよ!」

 とキレられた。


 やれやれ……何をほざいてるんだよ、モーゼ。

 俺は肩を竦めた。


 モーゼの奴、とりつく島もないとはこのことだな。

 世界平和と文学賞の選考に、俺の内心がどうして関わってると言えるのか。


 俺の内心を読んでる奴?

 ……アスクレピオスが文書化して仲間で共有してるって言ってたな。

 俺の内心を読んでるそれなりの奴ら……。

 オルペウスやイアソン、ケイローンやヘラクレス、モーゼとイエス様……アンラマンユ。

 それらに関する何者かが、影響を受けたのだろうか?

 いや、気にすることない。


 ……とは言え、一番怪しいのはイエス様だな。

 イエス様は平和を願ってる心が誰よりも強いし、南朝鮮はキリスト教国家。

 朝鮮半島の平和を願ったり、世界の平和を願ったりしたのかも知れない。

⦅ごめん、その通りだ⦆

 ……。

⦅あと平和賞に関しては、ロードロードへの痛烈な皮肉になるかなって思って⦆

 ふーん。そっちの方が重要な理由っぽいですね。

⦅まぁな。ローマ教皇とか枢機卿とか、アメリカ大統領とか各方面に頼んでね……あとムハンマドくんにも協力して貰った。2024年のノーベル平和賞と文学賞は主に私が決めたよ⦆

 ……。

⦅……⦆

 貴方は俺へ無限の魔力を何度も供給した。俺への皮肉は不問にしましょう。

⦅っふ。当然だな⦆


 モーゼは血眼で俺を見つめてきて、

「ロードロード。思えば、お前は昔から滅茶苦茶だった」

「昔から、とは?」

「前世からだよ! アメリカ政府が戦争に消極的になったのも、お前がイラク戦争とかを内心よく思わなかったから! それを察したアメリカはお前に気を遣って、戦争に消極的になった!」

「じゃあ俺、むっちゃ良い奴じゃん」

 モーゼはイラッとして、

「お前が多様性いいな、とか思ったから、アメリカやフランスの一部にポリコレが生まれた! お前が菜食主義にはまったら、それに同調し、肉屋を襲撃した奴さえいる!」

 流石にそこまで言われると、俺もイラッとした。

「モーゼ。濡れ衣を着せるなよ。因果関係がないだろ。俺の行動や価値観が、世界に影響を与える……って言いたいのは分かったけど」

「……契約石版アークは、強大な力を持つ……だが、一枚目の契約石版アークは……危険極まる。二枚目と違って……余計なことが書かれて……」


 モーゼはボロボロと泣き始め、手を動かしていく。

 なんだ、あれ。

 魔法陣……か?


「モーゼ、何してるの?」

【ロードロード。これ、多分だけど召喚の術式だね。何かを喚び出すんじゃ無いかな?】と小賢者分身バース

「何かを? 天使ややっつけたからなぁ。天使でもないなら、まさか……」


 ユダヤの神?


 俺は少し、身構えた。


 モーゼは、辛そうな顔で、

「ユダヤの神ではない」

 と答える。

【どうする? 今のうちに潰す?】

「潰した方がいいんじゃないか?」と俺は小賢者分身バースに向かって話す。

【スキル練度の上昇が著しい。モーゼと戦ったら、その分僕らは強くなれる。もしかしたら……リリスやドラゴンロードに届くかもよ?】


 その言葉は、海賊団アルゴナウタイも、マケドニア兵も驚いていた。


「悩むなぁ」

【よし。どうせ、僕らが勝つんだ。なら、最後の悪あがきをさせてあげようよ】

 と小賢者分身バースは黒い笑顔を見せる。

 うーん、邪気たっぷりな笑いだなぁ。


 モーゼは、召喚陣を描き終わったらしい。


「ロードロード。お前、怖い」とモーゼは青ざめた顔で俺を視た。

「そっか?」

 と俺は笑う。

「ユダヤの神くらい、怖い」とモーゼ。

「はは。あんな恐ろしい存在と一緒にするなよ」

「私はお前を観てると……ユダヤの神を思い出す。お前は、あの方に似てる」

「恐れ多いな」


 神と似てる、か。

 どこが似てるんだろう。

 と、それを聞く前に、召喚陣が光り出した。


「私は……かつて、このシナイ山で、神の顔を見た」

「神の顔?」

「あぁ……今まで人類の誰にもシェアしたことのない情報だ。神の顔を、私は見た」

「……」

「ロードロードは、神の顔に似ている」


 どんな顔なんだろ。

 イケメンではないってことだな……。

 いや、今の俺はかなりのイケメンに整形してる。

 だが、それならあんな怖がられるか?

 モーゼが視た神の顔って……どの俺の顔なんだ?


 超絶イケメン。フツメン。不良系不細工。不良系イケメン。王道系イケメン。超絶イケメン2。

 色んな顔になってきたけど、どの俺が……神に似てるんだろう?

 分からないなぁ。


 モーゼは溜息し、

「神の顔は、お前と殆ど同じだよ」

「そうか?」

「……。我々ユダヤ人は、ある男を……ずっと封印していた。強大過ぎるその男はあまりにも恐れ多い。我々ユダヤ人どころか、海賊団アルゴナウタイさえ手も足も出なかった最強の男だ」

「! それって……」


 海の民が勝てなかった最強の存在。

 エジプトのファラオ。

 先代オジマンディアスの……ラムセス二世の息子か!


 モーゼは苦しそうな顔で、

「三千二百年振りに、この男の封印を解く。召喚……メルエンプタハ!」


 モーゼが光輝き、召喚種に戻る。

 そしてそれがまた光輝き、紫色の魔力が膨大に放たれた。

 空に届くと言わんばかりの魔力の柱は次々に大きくなっていき、その中から巨人が出現した。

 空を支えることさえ出来そうな、大きな巨人だった。

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