vsモーゼ 天使達
「っぐ」と俺。
「やるな、ロードロード」とモーゼ。
道テイムvs道テイム。
俺のごり押しとモーゼのスマートな多角的な噴出。
俺の発した白い魔力によって、俺が微妙に有利になっていく。
それにより、俺は他のスキルを一瞬発動する隙を得た。
「これなら……道テイム・集団転移!」
「!」
俺はシナイ山に海賊団の半分を転移させた。
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」と船員達が一斉にモーゼに襲いかかる。
「これはまずいな」とモーゼ。
だが、それを――、
「我、喚起す。ミカエル、ガブリエル」
と、モーゼが言った途端だった。
巨大な火の塊と水の塊が二つ、出現した。
どちらも背中に翼の生えた人型の巨人――天使の形だった。
ミカエルもガブリエルも、それぞれ剣を振るい、海賊団を攻撃した。
それはとてつもない攻撃で、俺は海賊団達はもう死んだとさえ思った。
だが、
「くそ!」「耐えるのでやっとだ」「熱い!」「冷たい!」「こんなのと戦いたくねえよ!」
と元気に海賊団は咆えた。
……流石、四大文明のうち三つと戦っただけはある、おまけでヒッタイトを滅ぼしてるしな。
戦闘に関しては組織化されてないものの……まるでローマ軍人のような身軽さと力強さがある。あの海賊団は遊兵としては世界最高峰の存在の一つのようだ。
俺は笑顔で、
「流石だ、海賊団!」と褒めたのだが、
「そんなのより、この天使なんとかしてくれ!」「全くだ!」「こいつらヤバい!」と要求で返されてしまう。
……確かに二体の天使の力は海賊団を圧倒してる。
このままじゃ、まずいな。
と俺が思ったら、なんと。
「うぅ……」
とモーゼが泣き出した。
明らかに取り乱している。
どうしたんだ?
今、泣くようなとこあったか?
「嬉しい」
「モーゼ、どうしたんだよ」
「日本人が」
「は?」
「イスラエルを支持した」
「……」
何言ってんだ、こいつ。
戦闘中だぞ。
余計なこと考えるなよ。
無視されたみたいでムカツク。
【ロードロード、お前……今まで戦闘中に関係無いことあれこれ考えてアスクレピオスに怒られてたりしたくせに、よく言えるね】
!
そういえばそうだった。
あ、医神が怒り皺を浮かべてる。
俺の傍に残ってるもう半分の海賊団達は意気消沈してるマケドニア兵と海賊団のネームド……メディアやオルペウスやアスクレピオス達を警戒してくれている。
今のところ、なぜか彼等に動きはないが油断はできない。
「嬉しい」とモーゼ。
隙だらけだな。
ここで攻撃するのは構わないが……。
「国連の馬鹿共が、女性天皇問題に男女差別と言及したせいで、日本人がイスラエルを支持してる……ひっく、ひっく」とモーゼ。
「あっそう」と俺。
マジで興味ないな。
異世界で人間界のこと話すなよ。
【……】
⦅……お前、よく言えたな⦆とイエス様。
モーゼはすすり泣く。
「嬉しい。日本人の中には、『イスラエルさん、一部国連職員にミサイルをぶち込んでください』と言ったユダヤに理解ある日本人くんもいる」
理解ある日本人くん、か……言い方、他にないのかよ。親ユダヤ派とかじゃダメなのか?
モーゼは泣き続けた。
「びええええん!」
「……」と俺は無言だが、少しイラッとする。
「ずっと相手にされなくて辛かった。うちにはうちの伝統があって、イスラエルは宗教国家で、日本の歴史よりも古いトーラーがある」とモーゼは泣く。
今、お前は俺を相手にしてないよな。独りよがりな意見に酔いしれやがって、全く……。
トーラー。旧約聖書ってキリスト教徒に言われてる本だな。
ユダヤ教徒は旧約聖書って言わないらしいけど。
モーゼは涙を拭って、
「他人にあれこれ言われたくない領域がある。それを国連は伝統を無視して、手前勝手な意見を言ってくる。ユダヤの伝統的にはパレスチナにはユダヤ国家があるべきなんだよ。それが伝統であり、国体であり、我らの宗教なんだ」
「言いたいことは分かるよ。同意するかは別だけどさ」
モーゼは俺に残念そうな顔を向けて、
「ムスリムだってトーラーを素晴らしいって言うならエルサレムはユダヤ人のものにするべきなんだ。だって神の言葉に書いてあるんだし。でもこれを言っても、世界の誰も……アメリカ人以外分かってくれなくて、それを日本人が、日本人が……分かってくれた。相手にされて嬉しい……びえええええん!」
とモーゼは泣いた。
イスラム教は新約聖書を聖典にしてないけど、旧約聖書ことトーラーは聖典にしてるんだっけな?
だったらモーゼの言いたいことは分かる。
皆が頷く意見ではないけどな。
俺は少し、胸にくるものがあった。
【どこがやねん】と小賢者分身。
相手にされない、それは辛いよな。
【ロードロード。お前、それを言った奴に大体共感してるよな】
俺はユダヤ人と違って、頭いいわけじゃないし金持ちでもないけどさ。
【人から嫌われやすいってとこは似てるよな、お前ら】
……(イラッ)。
【ご、ごめん。言い過ぎたよ。今のは僕が悪かった。ごめん】と小賢者分身は少し動揺した。
っち。
……。
ユダヤ人は、世界最悪の立地条件の場所に国を造った。
神がいるなら、なぜ彼等に約束の地パレスチナを与えると言ったのだろう。
歴史を知り、地政学を読めるからこそ分かる。
ユダヤ教より特別な宗教は、存在しない。
しいて言うなら、ユダヤ教をパクったキリスト教とイスラム教はユダヤ教に匹敵するかもしれないが。
モーゼは……旧約聖書を書いたとされる偉人だ。
正確に言うなら、彼の言葉を誰かが書き記した、という感じかもしれないけど。
モーゼは泣きながら、天使への魔力供給をさらに行った。
まずい!
「ロードロード、日本人って素晴らしいな」
「いきなりなんだよ」
「ここに来て、国連はハマスと関係してるだとか、国連はハマスの二次団体だとか悪罵する日本人が増えてる。始まってるな、日本」
「そ、そうか?」
どう考えても終わってるとしか思えないが……。
ハマスって何だか知らないな。
だが話から何となく分かる。どうせ中東にある武装勢力で場合によってはどこかの国から資金や物資の援助を受けているのだろう。イランとかサウジアラビアあたりからかな?
サウジアラビアは親米だから、可能性としては反米のレッテルを貼られるイランか?
中東でイスラエルと揉めてるならどうせそういう感じの奴らだろ、詳しくは知らんけど。
モーゼは満面の笑みになって、
「理解者が増えるのはいいことだ。私は日本人にユダヤ理解者が増えて嬉しい!」
「あ、そう」
「今、第三次世界大戦が、始まってると言ってもいい」
「へー」
俺的には冷戦は充分、第三次世界大戦って言えるようなものだったけどね。
限定戦争ではあったけどさ。
モーゼは真剣な顔で、
「……お前の中にあるアダムを手に入れた者は、理想の国を勝たせることができる」
「興味ないね。アダムはイケメン化に必要だから譲れないよ」
俺の言葉に、モーゼはイラッとしたようだ。
青筋を浮かべ、わなわなと震えている。
「お前、日本人全員の爪の垢でも煎じて飲めよ」
「何でだよ」
「協調性がない」
「ユダヤ人のような鉄の意志を持った民族に言われたくない。国がなくても何百年も何千年も帰化しない非協調の民族じゃなん」
モーゼはさらにイラッとして、
「やれ、火大天使! 水大天使! さらに……我、喚起す! 風大天使! 土大天使!」
まずい!
モーゼはミカエルやガブリエルを使役し、次々に海賊団達を圧倒するだけでなく……新たな天使を二体も喚び出した。
このままでは、俺が負ける気がする。
「終わりだ! ロードロード! 日本人というユダヤ人に理解ある知人達になれなかったお前を、ぶっ倒す!」
「……しょうがないな」
俺は思う。
モーゼはやはり相当強い。
アレクサンドロス大王を吸収し、その力は俺を総合的には凌いでいる。
あの天使達が厄介だな。
なら……、やるしかない。
俺も真似するしかない。
「我、喚起す」
その言葉に、モーゼはギョッとして、
「馬鹿な。お前は……天使とも悪魔とも契約してないはず」
「霊体がいればいいだろ。小賢者分身。天使達の……相手をしてやれ」
俺の傍に、黒い赤ん坊が喚び出された。
いや……お腹が白いな。
お腹と胸と喉と額には白い魔力が宿っているらしい。
【よく喚べたね、今の僕を】
「あぁ、小賢者分身。頼む」
【……】
「俺だけじゃ勝てそうに無いんだ。助けてくれ。それだけ魔力があったら……俺を助けることできるだろ?」
【……わかった。いいよ】
俺は少しニヤけて、
「転移」
と言って、小賢者分身をシナイ山まで転移させた。




