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vsモーゼ 魔力の押し付け合い

「ロードロード。お前を奴隷にしてやる」とモーゼ。

 シナイ山に立つ姿は、紫色の魔力で満ちている。


 俺は怒りってしまい、

「ふざけんな! 誰が奴隷なんかに……」

「ロードロード。お前は他の人間より滅茶苦茶なことばかり考えているが、馬鹿では無い」

「は? モーゼ、人と仲良く出来ないなら一種の馬鹿なんじゃないだろうか? 俺は馬鹿系の人間だよ」


 指鹿為馬しろくいば

 有名中国人の趙高みたいな奴がいたら、馬を見て鹿と言わないといけない。

 空気を読めない人は、馬鹿扱い。

 それが東アジア人である。


「それだけが賢さではない」

 モーゼは魔力を込めて、シナイ山に紫色の魔力を流し始めた。

「ロードロード。お前はイスラエルの存在価値を理解しているだろ?」

 俺は頷く。

「分かるぞ。イスラエルがないとスエズ運河はムスリム利権になり、欧米系は圧力を全くかけられなくなる。オスマントルコがやってたみたいな馬鹿デカイ関税さえかけられるようになるかもしれない。極東アジアにとってはイスラエルがあった方が政治的にも経済的にも都合がいいな」

 モーゼは高笑いし、

「ははは! 五十点だ、ロードロード!」

「……」

「お前の様な変わった奴と違って……今、中東の奴らどころか日本人やコリアンがユダヤ人を罵倒してる。いや、欧米人さえもユダヤ人を馬鹿にし始めた。はがゆいばかりだ」


 モーゼの声が暗くなった。

 本気で落ち込んでいるらしい。

 仕方無い、少し聴いてやるか。


「なんかあったのか?」

「もめ事がちょっとな」

「あぁ、そう」


 イスラエルではいつも揉め事が起きてるからなぁ。

 それは仕方無いんだよな。

 土地と歴史の宿命だ。

 立地がね……。


「イスラエルはしょうが無いだろう。三つの宗教の聖地。皆が求めるからこそ、それを巡ってトラブルになる」

「そうだな。我らユダヤ人はクリスチャンやムスリムより少ないものの……賢い。故に、今イスラエルを支配している」

 モーゼの声に力が戻る。

「シン・道テイム!」


 モーゼの紫色の魔力が……なんと、イスラエルの東西南北から押し寄せてくる。

 俺が現在支配する霊脈を乗っとろうとしてきたようだ。


「道テイム!」

 俺は自分のスキルで対抗。

 しかし、スキルの出力だけならそこまで力の差はないように感じるものの……魔力の流れる方向がモーゼの方が巧みな為、俺の魔力は次々と打ち消されていく。

 バシュ、バシュ、と魔力が相殺されていく音が響く。

 俺は少し、怖くなった。

「こ、これは……どういうことだ!? なぜこんなに一方的に俺の魔力が競り負けるんだ!」


 モーゼは笑って、

「ロードロード。私がお前と別れてから……何もしてなかったと思っているのか!?」

「何!?」

「私はお前を確実に倒す為、道テイムを有力な土地に絞ってその地の霊脈を抑えたのだ。お前の雑な土地感覚と違い、私の方が有力な土地に絞ってるからこそ魔力同士の衝突で勝利を収めるのだ」

「っく!


 確かに言われてなんとなく分かる。

 俺の方が、弱いというか、下手なのだ。

 まるで弓の打ち合いで高台を取られてしまったかのような間隔。


 なんだ、モーゼの道テイムは。

 俺が一方的に、負けていく……。

 アレクサンドロス大王を吸収したからこんなに強いのだろうか?


【ロードロード】

 なんだ、小賢者分身バース

【もっと大きく俯瞰するんだ】

 分かった。


 俺は小賢者分身バースの言う通り、俯瞰することにした。

 道テイムの視覚共有を限界まで拡大する。

 すると、恐ろしいものが見えた。


「モーゼの道テイムは周辺の霊脈を基点とし、イスラエルを囲い込んでる」

「ほう、気付いたか」

 モーゼは意外そうな顔をした。


 モーゼの道テイムは単純な感じじゃない。

 もっと複雑だけど……明確な意図を持った巨大な道テイムだ。

 これは、一体。


「お前は道テイムの出力を上げたが……私は構造そのものを調整することでコスパを良くしたんだよ」

「……」

 そんなやり方があったとはな。

 反省。

 今後、参考にしてみよう。

「くらえ、ヨーロッパと西アジア全ての霊脈を抑えた道テイムだ!」

「ぐ!」


 モーゼの魔力がどんどん入って来る。

 まずい。

 このままでは……。

 俺も攻勢に出たいが、隙の無いモーゼの攻撃の前に、反撃に出れない。

 耐えるのがやっとだ。


 モーゼは冷や汗をかき、

「これに耐えきるか……決めるつもりでやったんだけどな。スキル練度が異常に上がってる」

「戦いまくってきたからな」

「なら、これだ!」

「!」


 俺はそのとき、感覚的に理解した。

 知識じゃなく、実感。

 イスラエルは……否、ユダヤ教はあまりにも特殊な宗教だ。

 神道とか仏教とかとは違う。

 キリスト教やイスラム教みたいな二番煎じ三番戦時がイスラエルを重視するのも分かった。


 この場所は……東西南北問わず、文明の岐路にある。

 世界一の帰路。

 それに対する楔。

 それがイスラエルなんだ。


 モーゼは張り詰めた顔になり、

「……体感したようだな」

「……道テイムをぶつけ合ったからな。イスラエル、こんなヤバい土地なんだな」

「あぁ、その通りだ。イスラエルはただの土地ではない。ヨーロッパとオリエントを結ぶ交差点に適度に位置した場所になってる」

「……通りで戦争が無くならないはずだし、周辺国がキリスト教国家やムスリム国家になるはずだよな」


 俺は溜息をついた。

 ユダヤ教を作った奴は頭がおかしいんだろう……アインシュタイン以上の天才だ。

 それ故に、やはりユダヤ人は世界最高の天才民族と言える。

 ユダヤ教そのものが証拠だ。

 この宗教はただの宗教じゃない。

 地政学を前提とした宗教になってるんだ。

 世界最高最低の立地条件だけど、世界最悪の場所だな、イスラエルは。


 陸路であれ海路であれ、問わない。

 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教……このどれかを信じれば、この世界最重要の土地を侵略できるメリットがある。

 他の民族バカ共とは格が違う。

 今、道テイムで土地を経由して魔力のぶつけ合いを行ってるから分かる。


 ユダヤ教。

 この宗教は意図的に造られたんだ。

 そしてそれは……緩衝地帯としても最重要の場所を聖地エルサレムとした。

 まさに、世界最高の宗教だな。

 しかし、こんな場所を聖地にするなんてそりゃ離散化ディアスポラしても納得でしかない。

 時の覇者が手に入れる土地だからだ。


 だが、そんなことを考えてる暇はない。

 モーゼの魔力が、俺を圧倒していく。


「っぐ!」と俺。

「しぶとすぎる……数時間でどこまで強くなってるんだ、お前は」とモーゼ。

「俺は、俺は……」

「?」

「ビッチエルフを、抱くんだーーーー!」


 俺の中から白い魔力が出て、モーゼの魔力を押し返し始めた。

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