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マケドニア兵の記憶 大王の死

 マケドニア軍はインドの端っこまで行った訳だが、帰り道は来た陸路を引き返すのでは無く……なんと海岸付近を新規ルートで帰って行くという荒技を行った。

 一度踏破した道より新路行軍する方が手間かかるよね。

 理由は……アレクサンドロス大王の好奇心によるものらしい。冒険心が疼いてしまったようだ。

 最強の軍隊とその時代では最高レベルの医療を受けることができるだろうが、よく行こうと思ったな……。


 だが、彼等はその時代の覇権となった存在。

 最強マケドニア軍はイケイケドンドンって感じで進んでいく。

 しかも新路でわりと理不尽な殺傷を数百名にやってしまう。

 ……陸路行ってれば良かったのにな。


 なんやかんだで、ペルシャの主要な都市に戻ってきた。

 皆、それなりにお疲れの様子。


「「「「「大変だったべ、帰れるべぇ!」」」」」とマケドニア軍兵士は笑顔になる。

«よし、じゃあ僕は王宮に戻ろう»と大王。

「「「「「だべぇ」」」」」

 と大王は少数の側近や護衛と一緒に王宮に入って行く。


 大王と別れた途端、マケドニア軍兵士は笑顔で娼婦達と合流。

 やることをやり始める為、宿泊施設へ向かった。

 ……なんて奴らだ。

 童貞感が少し弱くなってる。大人びた顔してる。

 いるよね、その……学校職場と自宅を往復するだけで青春にも恋愛にも無縁な陰キャ集団。

 ある意味、マケドニア軍はそれだったのだ。

 妻と子供がいるけど恋愛なんてしたことない陰キャ集団が、娼婦と遊ぶうちに若干垢抜けするって感じになってる。

 幸せそうだ、金で買ってるだけなんだがな……。


 まぁ、いいや。

 俺は大王の向かった先を見る。

 すると、ペルシャ人官僚が泣きそうな顔で大王に近付き、

「大王様、お助け下さい!」

 と平伏。

«何があった?»

「……実は、一部マケドニア軍兵士がペルシャ女性を強●殺人したりする事件が多発して」

«な、何だと! それは本当か!?»


 大王は引き攣った顔で冷や汗を流した。


 その後、調査は進み、それは真実だとなった。

 大王がインドに向かって遠征してるのをいいことに、ペルシャ首都で警備を任されていたマケドニア軍兵士の暴虐と強●。

 詳細な報告が寄せられてくる度に、大王の眉間に皺がいく。


«なんてことを……»と大王が頭を抱える。

 ペルシャ人官僚が、

「大王様。どうか、無実のペルシャ人にご寛大なる措置を!!」

 と平伏。

«寛大な措置とは何だ?»

 ペルシャ人官僚は涙を溜めた目で、

「どうか、強●や殺人をやった兵士達に、何らかの処罰を下して下さい。でないとペルシャ人にとってあんまりです!」


 だよね。

 ペルシャ人官僚の言ってること分かるよ。

 酷いことされて、悪い奴に何の罰則も起きないって辛いよな。

 日本でも在日米軍が犯罪を犯したらアメリカは米軍を庇ったりする。

 中には、モルモン教徒だからかもしれないが、人を轢き殺して無罪になった米兵もいる。

 勝者は敗者に理不尽なことを出来る。

 客観的には……乙巳の変とか蘇我氏のが正義だし、源平合戦とか平家の方が正義だし、関ヶ原の戦いは豊臣の方が正義なんだけど、勝てば官軍負ければ賊軍という視点しかないから日本人は中大兄皇子くそやろうや藤原や源氏や徳川を正義としてきた。勝てば官軍負ければ賊軍ってんなら大空襲や核爆弾撃ったアメリカも正義と言わないといけなくなるんだけどな。俺は勝ち負けと正義を分けて考えるからそんなこと言わないけどさ。

 正義と悪ってのは人間性の問題で、勝利敗北は運と実力の問題だ。

 当然、これらは直結する時もしない時もある(正義が勝つことも悪が勝つこともある。じゃないと悪乃代名詞ヒトラーとか言う奴に負けて殺された奴らがヒトラーより悪だったってことになるだろ)。

 だが確実に言えることは、「勝った人間の殆どは、自らを正義」と言うことだ。


 この様な問題はどこでもある。

 敗者に酷い仕打ち、なんて大体の国でやるのだ。

 日本なら落ち武者狩りが武士のいた時代にはあった……黒●明の七人●侍や井上●彦のバガ●ンドでもネタにされてるしな。

 ナチスドイツ中のポーランド人虐殺とか、ナチスドイツ後にソ連からドイツ人が受けた仕打ちとか。

 戦後日本で朝鮮進駐軍やった奴らとか(……保導連盟事件とかも弱い立場への攻撃だな)。

 満州国での大日本帝国での振る舞いとか。

 どこの国も、武器を持ったら大きな気分になって自分の中にある最も卑しい精神を弱い立場の他国民や他民族に向けてしまうものなのだ。


 俺の好きな漫画でも言ってたな。

『敗者が自ら歴史を紡いだ例はない。勝者の目こぼしを除いてな』と。

 そう。

 敗者ペルシャが自らの歴史……いや、治安さえも、勝利者アレクサンドロスの目こぼしがない限り、もはや保てないのだ。

 マケドニア兵にとって横暴な振る舞いが許されるのか。

 それでも体面を取り繕い、何らかの処罰を下すか。


 ペルシャ人官僚が大勢集まって、アレクサンドロス大王に号泣しながら平伏した。

「「「「どうか、何卒、配慮ある決断を! 犯罪者に何らかの、処罰を!」」」」


 ふむ。

 この局面、ポリコレなら……ポリコレとして行動しないといけない。この時代に、ポリコレとか人権なんて言葉はないけどさ。


 大王のセンスと良識が問われる局面。


 大王は真剣な面持ちで答えた。

«処罰なんて当たり前だよ»

「は?」

 とペルシャ人官僚は素っ頓狂な胴間声をあげた。

 アレクサンドロス大王を珍獣……ウーパールーパーやマリモを見るような目で、ペルシャ人官僚は見つめる。無理もない。現代に通用するようなセンスを持ってるわけだからな。

«酷いことをしたんだよ? だったら、僕の身内とか関係なく、処罰なんてされて当然だよ。同じ人間なんだ、犯罪者を処罰するのに人種や民族の忖度なんてのがあってたまるか»

「でも、貴方達は勝者で、我々は敗者……」

 と戸惑いがちにペルシャ人官僚は答えた。

 だがアレクサンドロス大王は真っ直ぐな目をペルシャ人官僚達に堂々と向けて、

«僕は正義を盗まない。正しいか間違ってるかは身分や立場に関係無く施行されるべきだ»

「……」


 数十秒ほど黙った後、ペルシャ人官僚の目からぶわっとした涙が流れた。

 あの官僚達、大王がそんな人間だと知らなかったんだろうな。

 ダメ元でのお願いだったが、聞き入れて貰えたって感じか。


「大王……貴方は……誠の王だ」

«あ、そう思ってくれた?»と大王は笑う。

「貴方を超えた王はきっと、いますまい。古今東西において空前絶後でしょうな」

«えぇ、そうかなぁ? それだと嬉しいけど。なんか悲しいな»

「悲しい? どういうことですか?」

 大王は眉間に皺を寄せて、悲しげな目。

«だって、皆は僕ほど正しく正義になれないってことでしょ?»

「!」


 ペルシャ人官僚の顔がハッとした。

 ……アレクサンドロス大王の洞察は正しい。

 強い立場の人間は、弱い立場の人間に好き勝手出来てしまう。

 そして強い立場なら好き勝手する人間の方がずっとずっと多いのだ。

 悲しいけど、現実だね。


「……貴方は、至高の王だ」と涙するペルシャ人。

«ありがと。処罰は公平にやるからね»

「……っはい!」


 という感じで、どうやら犯罪を犯した乱暴者マケドニア人を処罰するらしい。

『クレアンドロス、シタルケス、アガトン、ヘラコン』などの名前が挙がる。

 ……俺は彼等を見て絶句した。今の俺が見て、彼等を嫌いになれないかもしれない弱者男性特有の非モテ空気があったのだ。


 マケドニア軍兵士が集められ、処刑場が用意された。

«よし、処刑しよう»

 ……え、裁判とかはないの?

 おいおい、大王、裁判がないのはよくないぜ。

 まるで明治政府がやった江藤新平くんへの刑かよ。処刑は兎も角、せめて裁判だけはやろうな?

 ……東京裁判がマシと思うことも、まぁ偶にはあるなぁ。

 殺すと決めてても、一応の体裁を用意するっていうね。

 ここは珍しく、アメリカに大王が劣ったところだ。

 ……あれ?

 大王の顔、なんか変。

 ……末期のロベスピエールに似てる……人を処刑しまくって、狂気に染まったあの感じに。

 少し怖い。


 処刑場にはペルシャ人官僚もいて、自分の要求が通ったからか態度が大きくなってるのが分かる。

 ペルシャ人官僚はドヤ顔をマケドニア人に向け、マケドニア人はイラッとした。

「マケドニア人の皆さん、世界最高の王がいるんですよ? 貴方達より上の立場のアレクサンドロス大王がね」

「「「「っち」」」」とマケドニア兵は舌打ち。

 ペルシャ人官僚はドヤ顔のドヤ度を更に上げて、上から目線になった。

「郷に入っては郷に従うものです。ここはペルシャ、大王に平伏して下さいよ」などとほざいた。

 それを聞いたマケドニア軍兵士達は怒り顔。

 処刑される兵士達を見ていたクラテロスが前に出て、

「てめぇ、なんてこと言うだべ!」

 と言った。

「貴方達が平伏しないなら、大王の面子が丸つぶれですよ」

「!」


 うわぁ、マケドニア軍兵士がマジギレしてる。

 クラテロスは処刑されるマケドニア兵達に軽く一礼し、去っていく。

 その様子を見た他のマケドニア兵は、クラテロスを見て泣いた。

 ……彼はこういうところで、他のマケドニア兵の好感度を上げたのか。


 大王は苦笑し、

«皆、平伏はしないでいいから»

「当然だ」とクラテロス。他のマケドニア兵も頷く。

「そんなぁ、大王は分かってくれると思ったのに」とペルシャ人官僚は悲しげな顔。


 ……『大王が平伏を求めたというのは本当だろうか?』とか書かれることがある。

 伝記でも、入門書でも。

 あのペルシャ人官僚のムーブが原因なのかもな。


 それはそれとして、死刑執行された。処刑人はペルシャ人で、「よっしゃー、やったるでー!」とノリノリである。

 これから処刑されるマケドニア軍人の一人がそれを見て溜息し、大王の方に向かって、

「アレクサンドロス大王! 貴方はマケドニア人なんだ! そしてこれから殺される人は貴方の同胞! いつまでこんな処刑を続けるんだ!」と言うが、

«強●殺人はよくないよ»と大王は簡単に返答。

 う、うん。

 それはその通りだね。

 被告系マケドニア人は、

「……せめて、処刑人を替えてくれると嬉しいです」とぼやいた。


 その後、処刑は進んだ。

 ……最強兵士にはなれるけど、モテにはなれない。

 それが彼等の犯行の原因だろうな。

 弱者男性だったのだろう。

 モテさえすれば、強●などしない奴が殆どだと俺は思う。

 慶●ボーイにレ●プで捕まってる奴いたけど、彼はぶっちゃけ雰囲気イケメンがいいとこだった。

 真のイケメンなら、レ●プなどしないのではないかと思う。

 レオナルド・ディカ●リオ様は絶世のイケメンと評判で、俺も確かにイケメンだと思う。彼がレ●プ犯として捕まるのを想像できるか?

 皺くちゃの爺さんになって捕まるってんなら分かる。老人化したら、それはもうイケメンではないのだ。

 女性が若さを失い、女として劣化したら、小野小町のように「昔はあんなに綺麗だったのに、今は老婆でしかない」とされてしまうのだ(はぁ……俺も全盛期小野小町みたいに若くて可愛い子に、相手にされたい前世だったぜ)。

 真の美系は、異性とやりたい放題できてしまう。

 女を買ってる時点で、犯罪した時点で、性的弱者なのだ。

 性犯罪で処罰されるマケドニア兵士達は、体は最強で心と魅力は弱かったのだろうな。


 持論なのだが、雰囲気イケメンはイケメンの振りをしたキョロ充である。

 金を得ても、体を鍛えても、非モテは非モテなのだ。


 ズバっと剣が体に入れられる。

 俺はマケドニア軍人の処刑を見た。

 哀れとも悲しいともスカッともしなかった。

 彼等はアレクサンドロス大王でなくチンギスハンを君主とした方が幸せになれた不細工コミュ症貧乏だったんだろうな。




 夜。

 街の酒場を貸し切って、暗い部屋に二人の男がいる。

 ペルシャ人官僚が、ある男と密会していた。それは追軍売春婦の会計担当していたインテリ男性だった。

「金は回収できたか?」と官僚。

「はい」とインテリ。

「良かった。これで財政破綻は何とかなる」と涙を零す。

「……大臣。大変でしたよ。あれだけの娼婦を使って金を回収するのは」

「ははは。だがこれで……ペルシャ帝国はギリシャを侵略できる」


 は?

 ギリシャを、侵略?


「アレクサンドロス大王は気付いていたようだが、他のマケドニア人は気付いてないものが殆どだ。ペロポネソス戦争を再び起こし、ギリシャを疲弊させるぞ!」

「っしゃあ!」とインテリ。


 ガタ、と物音。


 二人の男は驚愕の顔で物音の方向を向く。

「だ、だべぇ……」と茶髪男性ナロクレス


 ペルシャ人官僚はビビって震えながら、

「き、貴様……そこで何をしている! いや、今のことを聞いたか!?」

「……だべ」と茶髪男性ナロクレスは頷く。

 官僚とインテリの顔が青ざめていく。

 そして、官僚が茶髪男性ナロクレスに近付き、

「ど、どうか……聞かなかったことにしてくれ」

「俺達に侵略をしかけるんだべ?」と茶髪男性ナロクレス


 そこを、インテリが隠し持っていたナイフで斬りかかる。

 もはや、隠蔽は不可能と悟ったのだろう。


 だが、茶髪男性ナロクレスはインテリの手を掴み、片手で投げてしまう。

 ペルシャのインテリは背中を地面に強打。

 ドサ、という音と、ボキ! という二つの音。

「ぎゃああああああああああああああ!!」とインテリの絶叫。

 最強マケドニア軍の一人を相手にナイフでどうにか出来るとどうして思うのか。


 官僚が後ずさりする。

 茶髪男性ナロクレスは官僚をじーっと見つめて、

「お前ら、俺達の敵だべな」

「ま、待て! 軍人さん」

「容赦できないべ」

 と茶髪男性ナロクレスは怒り顔でペルシャ人官僚に殴りかかろうとするが、

「俺は貴方に金と女を提供できる!」

 との声で、拳がピタリと止まる。

「……」

「好きな女をやる! お金も沢山やる! だから、どうか……俺達についてくれ!」

「……」


 茶髪男性ナロクレスは考えていたようだった。

 だが、数十秒の沈黙の後、

「だべ」と頷く。

「!」と喜び顔のペルシャ人官僚。


 ……。

 性欲に、物欲に、負けたか。

 厳しい訓練に耐えることが出来る男さえ、物欲や性欲には勝てない。

 この世の真理だな。

 日本仏教の僧侶も「俗世間」とか言うくせに、ホモホモセ●●スに勤しんでたり酒女金が好きだったりするしな。中には稚児に手を出してる奴らもいる。

 だが、キリスト教とイスラム教も似たようなものなんだよな。十字軍の中には稚児を犯す為だけに結成された十字軍もあったし、九歳以下の女子に手を出す中東の富豪とかいる。

 世界中に、ありとあらゆる時代に、俺以下の道徳性の奴らが存在している。

 俺以下の道徳性の奴らが、俺より物を持ってるなんてずるい。


 ペルシャ人官僚は茶髪男性ナロクレスに向かって手を差しだし、悪手。

「恐らく、大王はもうすぐ死ぬ。その時に……貴方に頼みたい」

「だべ?」

「大王を裏切る扇動者になって欲しい」

「だ、だべ!?」と驚く。

「金女酒が手に入る人生になるか、何も変わらない日々が続くか……選んでくれ」とペルシャ人官僚は笑う。

「……だべ」


 そうだな。

 大王家への忠義と自分の生活水準、後者を選ぶ男達が殆どだった。

 それに、大王のポリコレムーブを理解できる人は多くないだろう。

 処刑も裁判無しにやったのは流石に狂気だったとしか思えないけどな。強●殺人を裁くのは良いけど、裁判は必要だよ。


 あ。

 ……景色が目まぐるしく変わっていく。


 大王が死んで、兵士達が泣く。

 副官筆頭ペルディッカスが大王の子の後見人として摂政になる。

 正当性なら、アレクサンドロス大王の血筋を立てるべき、ペルディッカスに付くべきなんだろうが……多くの者は、自分の私利私欲があったようだ。

 だから各地で反乱や独立が相次ぎ、そのどさくさでペルディッカスが死ぬ。

 庇護者が死ねば、大王家を護るものなどいないだろう。


 もはや、大王家の運命は尽きたかに思われた。


 だがペルディッカスが死んだ後、非マケドニア人のエウメネスだけがマケドニア王家の子供を護ろうと兵を率いて戦った。エウメネスはクラテロスなどを倒し、大王の母オリンピアに認められ大王の死後ではギリシャ最強の武将として名を刻みかけた……。しかし、エウメネスは大軍を有する老人将軍アンティゴノスと戦って敗北し捕虜となり、自死するように他人を煽って自分を殺させた。

 大王家の庇護者は、誰もいなくなったのだ。


 そして、大王の血筋への殺戮が始まった。


 マケドニアの重鎮アンティパトロスの息子カッサンドロスが大王の母オリンピアと妻ロクサネと子供ヘラクレスを皆殺しにし、大王の遠縁達さえも皆殺しにする。

 その後、アンティゴノスとその息子デメクリトスが王様バシレウスを名乗り、それに便乗する様に他の後継者ディアドコイも王を名乗っていく。

 色々あった結果、アンティゴノスは他の後継者ディアドコイと戦って戦死。

 マケドニア帝国は三つに分割され、アンティゴノス朝マケドニア、セレウコス朝シリア、プトレマイオス朝エジプトとなる。


 そんな感じで、彼等の記憶の景色は消え始めた。

 マケドニア人の記憶にあったのは……非モテの記憶、弱者男性の記憶だった。

 金を稼いで風俗や料理屋に行き、性や美食や美酒や豪邸の喜びを覚えたからこそ、彼等は自分の人生を王室より優先したのだ。それまでの彼等は冷たい地べたで寝て、素朴な食事に満足する貧農の兵士に過ぎない。

 贅沢を覚えて、欲深くなって裏切ったんだ。


 勿論、裏切った人達ばかりじゃない。

 ペルディッカスやエウメネスに付き従った純粋な王室派もいた。俺自身、ペルディッカスやエウメネスの方が正義だと思うし、その生き方を格好いいとも思う。

 生理的には、彼等の方が好きだ。

 憧れるのは、ペルディッカスやエウメネス。


 だが分かるよ。

 共感するのは、非モテ達。

 マケドニア軍人は俺と、同じなんだ。





――――――俺の意識が加速していく、

 俺の視界が黒い魔力で、覆われた。

 ストレスが原因だろうな。

 思考が硬く、しかし構造的なものに変わっていく。


 俺を不幸にする様な国や社会や世界なら、滅んでくれとさえ今の俺は思う。

 俺に好かれないことを俺の故郷の民が選んだなら、俺はこっそりしていた故郷への推し活をやめるのだ。今思えば、見返りが無いのに推し活してた方がおかしい。善行を積み重ねればいつか良い報いが来ると思ってたが、何にもならない時間だったかもな。俺の善意の見返りが他人からの悪意と言うのなら、俺は善意の推し活を止めないといけない。


 ……主義主張がものを言う世界の方が、空気がものを言う世界より今の俺にとっては好ましい。俺は左脳タイプらしいからな。なのに、俺はただずっと相手に「俺が合わせてあげた」のだ。俺の中学時代、俺を虐めた奴らが俺のこと嫌いなら、俺に合わせる気なんて無いわけで、俺はそれを分かってた上で合わせてあげた立場なんだよな。虐めまでいかないまでも、空気を前提とした会話だけが全てだったのは苦痛だった。……一方的な推し活を隠れてしてた俺の方が故郷に配慮してると俺は思う。俺に配慮した人達もいたけどさ。

 だが故郷の民は、空気を判断基準にしていて俺の評価を酷評以外する気ないんだ。

 空気が読めないなら、全否定して良いっていう右脳民族。


 中身ない会話をやってもいいけど、中身ない会話しかしない上に中身ある会話をしたら空気で吊し上げてくるっていうなら話違うんだよね。空気読めない人に、俺に攻撃的な社会を造ったってことだからさ。

 先に手を出したのは、故郷の方なんだよな。そういう環境設定をしたわけだし。神がいるなら、俺を虐めた奴らに李氏朝鮮以上の苦痛を与えて欲しい、勿論……俺を虐めたなら在日コリアンとかの外国人も含めて。


 仮に俺は北朝鮮の貧民に生まれたら、上流階級を許さない。北系コリアンのメンタルって摩訶不思議。あんな恵みがない国でトップを素晴らしいなんて言うなんて馬鹿げてるにも程がある。そういう意味では北朝鮮の人って凄いな……協調性一生モテないよ。

 ところで、「これは馬だ」と鹿を見て言わないと、馬鹿者として趙高なる政治家に殺される時代が中国であったらしい。

 そういう意味では、俺は馬鹿者なのだろう。会話の中心人物が誰かも分からず、オチとか分からず混ざれるわけがないのだが、混ざろうと思って大火傷したわけだ。だがそれ、不文律なんだよな。言語化できないのに分かれって態度だけ出されて分かるわけないんだよね。

 俺が馬鹿者と思われるのは仕方無い……だが馬鹿者が配慮したことで造られた空気ってのがあったと思うんだよ。


 空気社会で空気を規範とした国で、俺が全てを否定されたのに、どうして全てを認めてあげないといけないのか?

 日本は俺にとって美しい国じゃない。

 はっきりした物言いしか出来ない俺とは根本的に合わなかったんだろうな。

 このままなら俺は、アメリカに向かって思うだろう。かつて日本人を大量殺戮してくれてありがとう、と。だって、何の見返りもないからな。電通や統一教会には何もかも与えて、俺には何も与えない。

 男衾三郎を崇めた鎌倉武士には鎌倉幕府を数百年与えたけど、俺には何も与えない。

 乙巳の変や他氏排斥で国を私物化した藤原系貴族には今も含めて千年以上の富や既得権益を与えてるけど、俺には何も与えない。

 俺には十年と繁栄を与えてないのだ。

 評価基準を言語化しないで暗黙知にして、誰もが出来ることじゃないことを誰もが出来るとすり替えて俺を迫害し続けた。

 盲人を視覚障害で迫害することはないが、空気が読めない人を迫害することはある国。


 中身ない人しか認めないってことじゃん。つまり、俺を何一つ認めないってことだ。

 その分際で、そいつら専用社会なんて作られたらイライラしかない。

 ストレスは溜まる一方。

 愛したいけど、俺の愛し方は多分日本人にはいらないんだよね。なら、俺の愛を受けてくれる奴らを外国、あるいは宇宙人、異世界人、未来人、超能力者でもいいから探しに行くわ。


 俺が生まれながらの故郷を愛するのは、大間違いだったな。

 推し活はこっそりだったから、彼等が俺の行為を知ることはない。だがだからこそ、空気しか判断基準がないカスみたいな国なんて滅べと思っていいだろう。俺の人間性をダイレクトに見て、ダイレクトに返してくれる奴らを探しに行くぜ。勿論、この異世界リリスラストがクソなら、他の異世界へGOだ。

 通名の朝鮮人に全てを与える分際で、俺には何も与えない。

 そんな奴らを、俺が愛するのは間違いだった。

 日米合同委員会だろうが天皇だろうがロックフェラーだろうが、俺に恩恵がないなら俺は愛せねえ(前世の一番俺が大衆の一人としてお世話になったのは多分、ロックフェラーだろうがな。あいつが緑の革命やってくれたから、食糧事情が良くなったわけだし)。


――――――――――意識の加速、終わり。


 黒い魔力がドクドクと体に流れるのが分かる。


 ……だがマケドニア軍は、そういう意味では俺と違うな。彼等は自分の力で稼げてるわけだし。

 彼等は力がものを言う世界で、最強だった。

 前世の俺は彼等マケドニア兵士達と違って、一時的な大金さえ稼いだことはない。そしてペルシャ人達のように、元々豊かだったわけでもない。

 やはり前世の俺こそが一番の弱者というのは言ってしかるべしだろう。何も手に入れずに死んだからな。


 転生前の俺は……マケドニア兵、なんでアレクサンドロス大王の血筋をお前らが裏切ったのか分からなかった。

 非モテだったんだな。

 戦争強者だけど、恋愛弱者。


 俺の目から、共感の涙がこぼれ落ちた。

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