マケドニア兵の記憶 ペルシャ女性の追軍売春は、マケドニア兵の戦利品を狙い撃ちする
マケドニア軍はアフガニスタンに到着。
……エヴォル国がある位置とほぼ同じだな。
ここは砂漠か山脈地帯が殆ど。人の行き来が難しい場所だ。
……全ての帝国の墓場、と言われたりもする(マケドニア軍やモンゴル帝国軍には墓場となりえなかったけどな)。
物流の条件が悪い立地。
だからこそ、兵站や物流が非常に難しい場所となってる。
マケドニア軍の兵士達は強盗の様な奴らに襲われたが、それを難なく撃退し逆に身ぐるみ剥いだり虐殺したりしている。
……マケドニア軍からカツアゲをしようとするなんて、武闘派のヤクザからカツアゲするより難しいだろ。あの強盗達、手を出す相手間違えてるよ。
例えるなら、チンギスハン相手にレ●プしようとするホモくらい馬鹿だな。なぜ出来ないことをやろうとするのか理解に苦しむ。強盗達、よく喧嘩売ろうと思ったな……度胸だけは凄いよ。
あ。
マケドニア軍は強盗達のお陰で最低限の現地収奪が出来たようだ。
水や食料は勿論、身に着けられていた宝石などを奪ってる。
「「「「「やったべ! ゲットだべ!」」」」」と収奪を喜ぶ最強の田舎者集団。
マケドニア兵はカツアゲしようとした強盗達から逆にカツアゲして、「おら、ジャンプするべ」と言って、強盗がジャンプ。
チャリンチャリン、と音がする。
強盗はコインを持ってるのがバレて、奪われてしまう。
「っち。小さいコインだべ」「しけてるべ」「もっと食料を寄越すべ!」「だべぇ!」
とマケドニア兵は強盗を脅し、強盗から強盗をした。
金銀財宝をゲットしていく。
しかし、金品を手に入れれば手に入れるほどマケドニア軍の荷物は増えて、行軍速度が鈍化していく。
すると、先を急ぐ大王の顔が険しくなる。
……無理も無い。カットされてるけど、数ヶ月は時間が経ってるのだから。
アレクサンドロス大王は厳しい顔で、兵士達に命令する。
«兵士諸君、戦利品を全て捨てよう»
「「「「「だべええ!?」」」」」とマケドニア兵達は驚いた顔。
«進軍の邪魔になる。惜しいけど、捨てよう!»
「「「「「だ、だべぇ……」」」」」と悲しげな顔。
マケドニア軍は悲壮感に満ちた顔で、金品を捨てて行く。
数百億円くらいにはなりそうな金銀財宝だ。
勿体ないな~。
と思ったら、マケドニア軍の背後から怪しい人影が出現。
何だ、あれ?
人影の近くに、テントの様なものがある。
あれは……。
見目麗しいペルシャ女性達だった。娼館に努めてるだろう美女達が、数百名くらいいる。
「マケドニア兵さん達、こんばんは♡」とペルシャ女性。
「だ、だべ……♡」と喜ぶのは茶髪男性。
「あたし達に、恵んでくれると嬉しいな♡ 払ってくれたら、相手してあげるわよ?」
「全部、払うべ♡」
「うふふ、ありがたいわ♡」
……捨てることになるくらいなら、払った方がマシ、かな?
軍隊の後方にいたマケドニア兵達が……茶髪男性達が、娼婦に莫大な金を払う。
しかし、あの娼婦達凄いな。
数百億円も稼いだら、もうFIREしたくならないのかな?
アーリーリタイアはいつの世も魅力的なはず。
それに、明らかなインテリ系のペルシャ人男性が女性達の近くで何やらメモをしているようだ。あれは……財務諸表だな。何で、あんなインテリが娼婦達にくっついてるんだ?
茶髪男性がペルシャ女性に向かって、
「でも、本当に相手にしてくれるだべか?」と首を傾げる。
「どういうことよ?」
「あんた達、金を払ったらすぐ逃げるかもしれない」
「でもどっちみち捨てるくらいなら、あたし達にくれてもいいじゃない。あたし達もわざわざ拾うより確実に受け取った方が楽だし取りこぼしがないから嬉しいわ」
「……だべぇ」
と、茶髪男性は言われるがままに金銀財宝をペルシャ娼婦達に渡した。
受け取った瞬間、ペルシャ女性は笑顔になる。
「うふふ♡」
「?」
「逃げないわよ♡」と言って、ペルシャ女性は茶髪男性に向かってウインク。
「だ、だべぇ♡」と嬉しそうな顔。
ペルシャ女性は美人だな。
この時代のマケドニアの白人より、綺麗な感じがする。
恐らく、遺伝子の厳選と淘汰を起こしたんだろう。
純朴な人達は分からないだろうが、美人とは食べ物と適度な運動と遺伝子の淘汰によって鍛えられることができるのだ。
例えば李氏朝鮮と韓国を比較すれば分かるけど、食糧事情と運動で健康になって整形したからこそ朝鮮民族のルックスは上がった。整形技術を高須クリニックが提供したと言われるが、それでも李氏朝鮮はブスだらけな上にろくな運動も食事もなかったのだ。韓国ほどの激変は無いものの、日本や中国も西洋文明を受け入れて食糧事情や運動は大幅に改善し、化粧をすることでルックスを上げた。女性ならダイエット理論や毎日サラダとタンパク質を得られることで美容をちゃんと出来ることを皆知ってるだろう。昔の日本と朝鮮はそれが無かったのだ……中国の富裕層はちゃんと食べられていたかもしれないが、それでもやはり西洋文明が広めたサラダの恩恵は庶民のルックスを格段に上げたことだろうな。
『食事』と『運動』と『遺伝子の多様さ』って大事だ、『ルックスの良い国を造るなら』、だけどね。
【それは目から鱗】と小賢者分身が俺の心に話しかける。
そうなの?
【うん。世界一の知識だ】
お前にとってはそうなのか。
【うん。凄い知識だ。誇って言いよ、これは……】
……まぁ、それはそれとして。
俺が見るに、『貧乏国家なマケドニア』と『古今東西の遺伝子が混ざって経済大国にさえなってたペルシャ帝国』ならペルシャの方が圧倒的に優れた遺伝子と環境だったと分かる。
軍事はマケドニアの圧勝だけどな。
……ペルシャ帝国は淘汰をヨーロッパより盛んに行い、美系を造り上げたのだろう。
強盗を撃退しながら、マケドニア軍は進軍していく。
あ。
裏切者を目指すが、途中でベッソスは部下に殺されてしまったようだ。
哀れだが、主君を殺した者が自分の部下に殺されるなど因果応報でしかない。
……弱者男性としての同情だけはしてやってもいいかもな。
そこから日が経って、マケドニア軍の進軍途中、事件が起こった。
アレクサンドロス大王に対する暗殺未遂事件だ。
豪華なテントの中に大王の副官達が集まり、緊急会議を開き出す。
それは軍事裁判だった。
一人の男が、幹部に囲まれながら睨まれている。
……これはフィロータスへの軍事裁判だな。
悲痛なる面持ちの奴もいれば、気味悪く笑ってる奴もいる。
ある男が咆える。そして、フィロータスに向かって人差し指を向けて、
「フィロータス、お前は最低だ! 大王への暗殺計画……それを事前に察知しておきながら、公表しなかった!」
「やだぁ! 死にたくないよぉ!」と根暗顔のマケドニア人フィロータスが泣き出した。
「フィロータス、お前はもう終わりだ!」と男は下品に笑った。
「うえええええん!」
根暗顔のマケドニア人が、殺される。
フィロータスくんか。
絵に描いたような弱者男性感あって共感する。
同級生かつ戦友から吊し上げくらう……まさに、嫌われ者の陰キャなんだよな。
アレクサンドロス大王への暗殺計画を事前に情報入手してたのではないかと言われ、言うべきだった情報を言わなかったから『反逆者扱い』を受けてしまったのだ。
陰キャでコミュ症で、名家の生まれ。それがフィロータスだ。
友人的な距離感っていうのかな……親しい距離感なら嫌われてしまうタイプのコミュ症ってのがいる。近い距離で適切な会話が出来ないタイプの人っているよね。距離を置いた仕事関係だったら問題無いけど、プライベート話になるとダメな奴。中には愛嬌もないし、人から好かれる術もない奴もいる。俺は違うものの、そこからプライドの高さだけを拗らせ『謝ることが出来ない』人間になる奴もいる。
社会人は『自信を持て』とか『プライドを持て』と言われるが、それはやり過ぎると『非を認めない』とまでいきつき『協調性の無さ』と『非論理性』を生むこともある。中には他人の気持ちに一切配慮できない奴さえいる。家庭、学校、職場……どこでも居場所が無くなるようなブラック人材、である。
フィロータスくんは最低級かどうか分からないが、職場仲間や学友から嫌われてしまい、処刑が決まった。陰キャで居場所がなくなった結果、吊し上げからの虐めである。
惨めだな。可哀想……俺ほどじゃないけどさ。
俺は自分の弱さを受け入れ、プライドは低いか無い存在だ。そこが大体の奴と違う。
弱さを受け入れることも、プライドがゼロになることも、チー牛やオタクでさえ少数派なのだから。そう、俺は少数派なんだ。だが大体の人は人並み以下の性能でも、人並みのプライドを無理に持とうとする奴らのが大勢なのだ。
俺は人並みのプライドなんて捨てて、ゼロだ。
フィロータスくんの気持ちは理解出来る。アレクサンドロス大王の次に良いとされる若手貴族で、父親は屈強老人武将。親子揃ってマケドニアの王に尽くしている側近中の側近一家。
名家にも程がある。
そんなフィロータスは、人の共感や心を汲むと言ったところが不慣れで、生涯治ることが無かったらしい。命をかけて戦場で戦うものの、学友とも戦友とも打ち解けることはできず、おそらくは孤独と失意と絶望の中で、仲良くなりたかった戦友達に処刑をくらうのだ。
辛いだろうな……(俺ほどじゃないだろうけど)。
彼にはプライドはあっただろう(俺と違ってね)。
だって、父親がパルメニオンなんだもん。あんな凄い武将で、老人になるまで戦場で馬をかけて剣を振るうような人が、自分の子供に厳しく当たらなかったわけがない。きっとフィロータスは厳しい教育を幼少期から受け続け、それをこなすことで精一杯だったはずだ。マケドニア軍は激動の時代を駆け抜けた。その中で、最も功名な武将となった男がパルメニオンと言って良い。
日本でも、事務次官になる様な高級官僚は朝から晩まで働き、子供の面倒などろくに観れないという話を聞くことがある。そして、子供に向かって『恥ずかしくない男になれ。うちの家は名家なんだから』とか言ったりするのだ(この名家の部分を高学歴とか金持ちとか美系と置き換えてもいいかもな)。
国に尽くす、というのは尊いかもしれないがとても大変な行為だ。それこそ、高級人材になれば、仕事内容は困難にもなるし時間もかかる。当時、世界一卓越してると言われたフィリッポス王に尽くすのも、そこから空前絶後とされたペルシャ帝国への大遠征も大変な仕事だったに違いない。
フィロータスの父、パルメニオンはそれをマケドニア一やり遂げた国一番の武将だ。フィリッポス二世やアレクサンドロス大王に次ぐ愛国者と言っていいかもしれない程の歴戦の男(最強の武将ではないだろうけど)。
大変で、寝る間も惜しむような努力の連続だったに違いない。
そんな中、父親は子供に教育を与えることは出来ただろうか? 無理だっただろうなぁ。
それに、多分フィロータスくんはコミュ力とか愛想的な……対人能力方面の遺伝子は良くなかったんだろう。これは血筋以上にガチャかもしれないしな。長男ってのも良くなかったのかもしれない。言っちゃアレだけど、フィロータスくんは友達に……恵まれなかったんだろうな。
だがそれでも、彼には言い張らなければならないものがあった。
『貴族だから』。
貴族だからこそ、厳しく育てられた。それもただの貴族でなく、軍人貴族だ。パルメニオンは厳しく接し、貴族だからこそ厳しい態度で育てようとしたはずだ……フィリッポス二世やアレクサンドロス大王に尽くせる人材になれる様に。それに温い教育やって死ぬより厳しい教育やって生き延びさせる方を選んだだろうな。
フィロータスはプライドを持つことを『貴族の長男』だからこそ、強制されてしまった。それは恐らく、江戸時代日本の武士以上の気構えを要求されたことだろう。藩主の息子以上に、厳しい環境だったかもしれない。
だがコミュ症のフィロータスが『貴族だから』と言ったところで鼻についた態度として映り、周囲の人間から嫌われてしまったのだ。そこに高潔な気構えを含んでいても、周囲の男からはマウントのように取られただろう。
そんなフィロータスと俺は違うところがある。
彼はプライド百パーセントの男。
俺はプライドゼロパーセントの男。
そこが、違うんだよね。
――――――――――――俺の意識が加速していく。
なんと、真っ暗な意識空間だった。
ここに来るのは随分久しぶりだ。
小賢者分身が真っ黒な赤ん坊として、ぷかぷか宙に浮いている。イエス様は視覚化してないようだ……見当たらないな。
【ロードロードは低い、というかマイナス百点のプライドなんだよね。もうちょっと自分を褒めてあげていいと思うよ。マイナスなんだよ、君の自信は】
と小賢者分身は俺を指差した。
「……そうかもな。初めて指摘されたわ」と俺。
【女は自信ある男を好むっていうけど、ロードロードは自信マイナスなんだよ】
俺は肩を竦めて鼻で笑って、
「だけどさ」
【うん】
「俺が自信を無理に作って好きな女子にアプローチしても『勘違い君』になるだけだからな? 俺を振った女達に少し不幸があってもいいとさえ最近では思えてくる」
俺のトラウマが少し刺激され、体から黒い魔力が出てくる。
小賢者分身は悲しげな目で俺を見つめて、
【思うだけなら自由だと思う。好きにしなよ】
「女は自信ある男を好きってのは嘘だと思う」
【というと?】
俺は溜息し、半目で小賢者分身を見て、
「根拠の無い自信を持ったところで、『中身がない』とか言われるんじゃないか?」
【そりゃそうかもね】
と小賢者分身は頷く。分かってくれるようだ。
「つまり、女性陣ってのは実際に実績経歴がある高性能な奴、スパダリを好きなだけなんだよ」
【まぁ、そうだね】
と小賢者分身は悲しげな顔。
「女の意見を間に受けることほど馬鹿なことはない」
【うわ。言うね~。非モテなのに】
「……」
少しイラッとした。
俺から黒い魔力が流れ、それが小賢者分身に少しずつ吸収されていく。
俺は片手で頭をかきながら、
「モテる人間を正しいとまで言い張るのはもう嫌だからな。例えばさ、『ブスは三日で慣れる。美人は三日で飽きる』って言葉がある」
【一部日本人の頭おかしい言葉だよね】と小賢者分身は頷く。
「そうだな。こんな言葉があるのに、『不細工は三日で慣れる。イケメンは三日で飽きる』って言葉は無いんだぞ?」
小賢者分身は驚いた顔を浮かべ、掌を拳で拍った。
【! ……言われてみれば、確かに!】
俺は暗い笑顔で頷き、
「いいか? 女達は常に、自己保身を前提として話してる。ブスな奴は、自分の顔を三日で慣れると言い張り、女達は不細工に三日で慣れようだなんて思わなかったんだよ」
【日本の諺をそう解釈するのって、世界でロードロードだけかもな……】
「自分の都合を社会に押し付けてるだけなんだよ。で、俺に恩恵が全く無いのに、なんで俺だけ損をして泣き寝入りをずっとしないといけないんだ?」
と俺は少しオーバーリアクション気味に両手を広げた。
【言いたいことは理解できるし、共感もできる。僕、女に共感はまだ出来ないから……生後一ヶ月だし】
「小賢者分身。生後一ヶ月で弱者男性に共感できるって凄い赤ん坊だな」
【だって、アダムもロードロードもイエス様も弱者男性感あるからさ……】
「……」
……俺とアダムとイエス様の言葉が、小賢者分身に影響を与えているのか。
少し、俺は胸に手を当ててしまう。
自分の言動が他人に影響を与えるなんて、考えもしなかった。
皆、俺の言葉に左右なんてされないで、強い価値観と確かな軸で人生を生きてるとばかり……いや、目の前にいるのは生後一ヶ月の赤ん坊だ。影響されない方がおかしいか。
赤ん坊は純真無垢で、染まりやすい。だから人はエログロを子供から遠ざけるわけだしな。
俺は……赤ん坊になんて意見を言ってしまったのだろう。
心を開きすぎたかもしれない。
弱者男性のポジショントークを正論と真実だとは言え、生後すぐに聞かせ続けたのは良くなかったかもな。
反省……。
【一番聞いた話が非モテの話だから、共感せざるを得ないんだ】
「教育上、悪くないと良いな」
と俺は少し掠れた声で言う。
【う、うん】
俺は一瞬目を背けてしまうが、すぐに小賢者分身に向きなおって、
「……。女性ってさ」
【うん】
「合コンを開いたら、主催者は自分よりブスな女を連れてくる生き物らしいんだ」
【それが本当ならあざと過ぎるでしょ……そんな女性ばかりとは思えないよ】
と小賢者分身は困惑した顔を浮かべた。
「いや、そういう女性のが多いらしい」
【本当? 中には自分より綺麗で性格もいい女性を連れてくる女性もいるんじゃない?】
「いないだろうな。女性の発言は真実を話そうとする為のものじゃない。自分が得する為に、あいつらは生きて、嘘をつくんだ。女は『自分の為に』嘘をつく」
【女は嘘をつくとはどこの国でもあるかもしれない諺だね】
「あぁ。で、俺も本来その嘘には合わせてあげてもいいって立場の人間だった」
【えー。心凄く広いね】
「あぁ。だったんだが……」
【?】
俺は少し沈黙した後、悲しみの詰まった声で、
「俺はその嘘の被害者なんだ」
小賢者分身と俺の間に、気味の悪い沈黙が少し流れる。
小賢者分身、何を考えているんだ……?
【……】
「俺に酷いことをした女性達は、少し苦しんでいいかなって思う」
【本当にロードロードを苦しめた人がいるなら多少はその人達って苦労してもいいと思う。どのくらい苦労して欲しいの?】
「せめて後期李氏朝鮮くらい」
俺の言葉に、小賢者分身は大きく目と口を開き、震えた。
【えぇ! そのくらい!? その答えは大半の在日コリアンでさえ、ひくんじゃないかな……】
「俺を恋愛で傷つけた人達は、人間に二度と生まれて来ないでくれとさえ思う」
【それほどかよ……】
「俺を振るのはまだ良いんだけどさ」
小賢者分身は焦った顔になり、
【い、いいのかよ! そこが一番、重要だと思うんだけど……】
「……それ以上に、嘘をついて虐められたのが辛いかな」
と俺は俯く。
【虐めかぁ】
「モテない、というのを悪として吊し上げる国だった」
【なんでそんな社会になったんだろうね? モテない人間なんて、大体の国で発生する……むしろ、モテない人間なんて産まれてこない方がおかしいよ】
「テレビのせいだろうな。あるいは、トーク番組。それはそれで、いいんだけど」
【うん】
「俺が作ってあげてた良い空気、良い治安はあったと思うんだ」
【そんなに君は影響力ある人物だったの?】
影響力、か。
あるのかな?
俺はインフルエンサーではなかった。
だが、知人に自分の考えを話して、知人の人生を変えてしまったことが幾つかある。
俺が反日国家の話をすれば、外国を嫌いになったりした奴とかいたし。
俺が非モテの話をすれば、「分かる」と言って数日後に病んだ顔をするような人もいた。
俺が道見家の人間として少し提案すれば、いくつかの組織の方針が変わったこととか……。
国の方針が変わることもあったな……。
……少しは影響力、あったのかな?
いや、気にしてもしょうがない(ッキリ)。
俺は真剣な顔で、
「それは俺が今までと真逆の心になることで、証明できると思う」
【……】
俺は両手を開き、
「ここは異世界。人間界に影響は全くないと思うけど、俺は以前の俺とは別の俺になる。俺が病みを剥き出しにすることで、どれだけ周りの反応が変わるかを知りたい」
【ロードロード。人間と亜人は反応違うと思うし、異世界転移者達も普通の人と違うぞ?】
と小賢者分身は眉間に皺を寄せながら答えた。
「そう。なんでもいいよ。俺は……他人にとって都合のいい嘘に合わせるのに疲れたんだよね。俺も協調性あったんだよ。無いとか言われることあるけどさ」
【う……うん】と歯切れ悪く、頷く。
「それを止めようと思う。他人が評価しない善行なんてやっても、何の意味もないじゃん。あとテレビの奴らは人を見て平然と『ヤバい』とか言うけどさ、あいつらは高学歴ミスコンアナウンサーとか、面白い話が出来る芸人とか、見目麗しいルックス持ちとか、何かしらの『人気者』になれる奴らだったんだ」
【テレビでやってけてる人達ならそうだろうね。ちょっと呼ばれた程度の教授とかでも一回出れば時給数十万円貰えるのがテレビ番組。金銭感覚さえおかしい人達の意見だし、間に受けなくていいと思うよ?】
俺は頷く。よく小賢者分身はテレビの時給を知ってたな。俺の記憶を読んだんだろうな……。
「そうだな。で、あいつらの『当たり前』は人気者の当たり前だ。でも、多くの人は人気者になんてなれない。あいつらみたいな少数派が、自分の感覚を根拠もなく正しいと押し付けてくるのは馬鹿げてるとさえ思う」
【そりゃ……そうだね。スターはファンがいて、初めてスターになれる。スターの当たり前が一般人の当たり前になるわけがない。スターとファンなら、スターが少数派でファンが多数派だしね】
「あぁ。だから俺は息苦しかった。でも、スターは人気を持ってて、人気者の発言はそれ自体が正しいとされる。俺より馬鹿な天皇や政治家や芸人やアイドルモデルが馬鹿な発言しても、俺より正しいと言われるだろう」
小賢者分身は頷き、
【そりゃそうだろうね。可愛いや格好いいを正義とするのがファンという生き物だから】
「でもな? 俺は実は、テレビを見ててつまんないと思うこともある」
【そういうこともあるだろうね。ロードロードは完全に左脳タイプだからなぁ……日本人と感受性が違う。右脳に向けてテレビは作られてるだろうし】
俺は頷き、
「……俺は本来、それをわざわざ口に出すこともないし、相手の推し活を邪魔するつもりもない。約二十年、それを心掛けて生きてきた。だけど、俺が全く楽しくない社会を造られて、俺が主義主張でしか話せないのに主義主張をタブーにする社会を造られて感謝までしないといけないなんておかしいだろ」
【感謝しろなんて国が言ったの?】
「天皇とかいう馬鹿を馬鹿と言っちゃいけないってのがムカツク。昭和天皇とか馬鹿だったぞ」
小賢者分身は溜息をついて、
【この一ヶ月、君と話して気付いたけど……君は名君じゃないと王様を好きにならないタイプなんだよね。愛想振りまくことを王族に求めない。それよりは政策とかで王族を評価する傾向にある……だから言いたいことは分かる。政策をせず愛想だけで評価を得ようとする王族は君にとって汚物でしかない】
「そうか、お前は俺のことをそう見てるのか」
【うん】
「それはそれとして……つまんないものに、配慮をもうしたくない。それは俺を傷つけるだけだったんだよ」
【う、うん】
と小賢者分身の返事は歯切れの悪いもの。
「で、俺がつまんないと思うもの……というか、有害と思うのが、『女の嘘』だな」
【……】
「女は、強い男に媚びて、弱い男から搾取しようとする」
【根拠は?】
「例えば、男が傲れって意見とかそうだな。モテる男は●●する~っていうのは常に、女に都合の良い文脈だけで話される」
【そりゃそうかもね。でもそれなら、『モテる女は●●する』って言い返せばいいんじゃない?】
「……考えたこともなかった。小賢者分身。良い案だな、それ」
【モテる女はモデルやったり愛想が良かったり良い男と既に結婚出来てるし文句もろくに言わない、とかさ】
俺の胸が、ズキュンと痛んだ。良心が痛む。
「ごめん。言えない。それは流石にオーバーキルだわ」
【そうか】
俺にも罪悪感ってあったんだな……。まだ残ってやがったか。
非モテを弄れる人達って凄いな。落ち武者狩りするような感覚なんだろうが、弱い者虐めって俺は嫌いなんだろうな。
間違いを正論で指摘するのとマウントって全然違うと思うんだけど、マウント好きの奴がわりと多い。
控えめに言って、マウント好きなんてのはキモいんだが一定数いるんだよな。
……でもモテる女は●●するってのは良いフレーズ。
レギンに今度何か言われたら言い返すか。
スレイブはお前と違って良い女だったわ~とか言い返してやってもいい。
あんなサキュバスよりビッチエルフのが大事だけど、絡んできたら言い返そう。
小賢者分身は真剣な顔で、
【言っとくと……ロードロードの意見が兎に角正しいという気はない】
「おう」
【だけど、その意見を完全に的外れとも言わない。むしろ、的だけは他人より当たってるだろうなと思う】
「そうか」
小賢者分身は、その瞬間だった。
どこか勝ちを確信した様な笑みを浮かべた。
何考えてるんだろう? と思ったら、
小賢者分身はニッコリと笑って、
【でもその意見なら、素敵な女性に相手にされないぞ? だって女性は正論じゃなくて、共感の生き物なんだ。話すなら、女性に共感されるように話さないと】とかほざいた。
……。
この笑み、なんだろう。凄く気持ち悪い。表面的な意見を言ってるけど、相手を見てない感じがする。個々の事例を無視して、自分の中にある意見を言いたいだけって感じがする。
しいて言うなら、強者男性や普通男性には言って良いけど、弱者男性に言っていいことではない類いの言葉を言われた気がする。
俺は素直に、自分の気持ちを吐露した。
「何言ってんだよ。素敵な女性なんて、意見変えたところで俺を相手にしてくれないよ」
【え…?】
と困惑顔の小賢者分身。
俺は真剣な表情で、
「当たり前だろ。俺が努力したところで何にもならなかったんだぞ!? 女性は弱者を生理的に嫌う生き物なんだよ。俺自身の人生が証拠だ。誰かが助けてくれるってわけでもないしさ。強者男性がイケメンとか高身長とかトーク力とか実績経歴とかで『根拠ある自信』を持ったら女性は好きになるかもしれないけど、弱者男性が『根拠のない自信』を持ったところで『勘違いくん』として吊し上げになるだけなんだよ。小賢者分身は俺の人生を、少しは察してるんだろ?」
俺から黒い魔力がブワッと出る。
……おならをしてしまった感覚というより、一番近いのは尿だな。
凄く体がすっきりした感じがした。
その瞬間だった。
小賢者分身の顔はビクゥっと固まり、震え始めた。
そして、俺に頭を下げた。
黒い魔力は相変わらず、小賢者分身に吸い込まれていく……。
【ご、ごめんね。綺麗事かつ正論のつもりだったけど……汚物みたいな暴言を君に向かって言ってごめんね】
と小賢者分身は俺に頭を下げた。
「本当に止めてくれよ。低脳にハイスペックと同じ要求しないでくれよ。弱者男性と強者男性ならPS1とPS5くらいの性能差があるんだぞ。同じこと、出来るわけねぇだろ」
【ハンニバル、こんな気持ちだったのか】
「は?」
俺は眉を顰めた。
小賢者分身は……ハンニバルの気持ちを理解した、のか?
いつの?
【彼の気持ちが、今分かった】
「……」
【ロードロードには上っ面が一切通用しない】
「そりゃそうだよ。上っ面なんて、ゴミだよ。何にもならないんだから。俺は結構現実主義者なんだよね」
【普通の人は多分、上っ面を好むんだよ。今、そういう場面だった】
「そうか?」
と俺が聞いたら、小賢者分身は涙目になって、
【そうだよ】
と小賢者分身はブワッと泣いた。
そして赤ん坊は涙を拭って、
【素敵な女性は素敵な男性と結ばれるだろうね。非モテには……ロードロードには縁のない話だ。じゃあ、自信なんてあってもなくても関係ないんだな……君はモテないってことだ】
「そうなんだよな」
小賢者分身は俺を珍獣を見るかのようにガン見して、
【ロードロードって凄いね。『僕』や『敵に回ったハンニバル』に配慮される奴って、なかなかいないよ? 人類初なんじゃない?】
「言うほどか?」
小賢者分身は泣き顔で頷き、
【凄いよ。さっき君に自信マイナス百パーセントとか言ったけど、自信マイナス百万パーセントくらいいってるかもなぁ】
「そうか……」
俺は淡々とした態度で答えた。
弱者男性にも関わらず、弱者男性だと認めたくない奴っているからな。見栄を気にしてる奴らだ。不細工だとか低学歴だとか低収入だとかチビだとか、それを認めるのを嫌だという奴らなんだろう。
俺には理解出来ない。辛いけど、事実なら受け入れるべきだろ。
芸能事務所でヤクザのフロント企業になってることを指摘されて認めない奴はいるか?
政治家で賄賂を貰って「貰ってません。秘書がやった」とか言う奴はいるか?
不倫しておきながら「不倫相手となんの関係もありません。ラブホなんて行ったことないです。お泊まりもありませんでした」とか言う奴はいるか?
事実なら、認めないと駄目だろうが!
小賢者分身は眉を顰めて、
【通常の人はさ、ATフィールドみたいなの持ってるんだよ。心の壁。自分を護りたいっていう気持ち】
「おう」
【君は……ATフィールドの代わりにロンギヌスの槍が実装されてるんだよ。自分の心の壁を全てぶち壊してる。だけど、相手の心の壁さえぶち壊してしまう。まさに、心的ダメージを他人に与える特攻兵器だよ。今度他人に突撃してるの見たら『神風』と呼んであげるよ】
俺はキリッと眉間の皺を強くして、
「おい。俺は特攻兵器なんかじゃない。それに、相手に向かって神風って言うなんて失礼だろ」
小賢者分身は俺にムッとした顔を向けて、
【むしろ褒めて欲しいくらいだ。それに旧日本軍の人なら、君なんかを神風と言うなと言うだろうね】
「っく……」
なんか、少しムカツク。
俺は握り拳を造ってしまったが、すぐに解いた。
【君は自尊心がないからこそ、他人の地雷を踏んでもそれを感じることができない。つまんないことを気にして生きてる人の心を踏みにじっちゃうんだな。大体の人がつまんないことを気にして生きてるけど、君はそれに一切共感出来ない。勿論、君と違う人は君に共感なんて出来ないし、君を無自覚に踏みにじってしまってるんだけどさ】
俺は溜息をつく。
「やはり、皆が幸せになることって資源や食料が満たされてても無理なのかな?」
【人間関係を上手にしないといけなくなるから無理だろうね。社会は人気者でポストを占めようとするし、スキルがあっても不人気者のコミュ症を排斥しようとするから】
「成る程な……」
【だから君が誰をどれだけ怨んでもいいよ。僕は許す】
「……」
【世界一の無敵乃人になるといいよ。僕は怒ったりしないし、むしろ応援するよ。だって君は……それしかなることを許されなかったんだから。文句を言ってくる方がおかしい】
――――――――――意識の加速、終了。
そうか。
俺は自信がマイナスの男だったのか。
そしてそれは、人生から得られた軸。
上っ面という嘘を嫌いになった弱者男性の境地。
だからこそ彼に、フィロータスに共感する。
【ロードロードの話すネタ、ヤバいの多いもんね】
俺本人としてはヤバいと思ってないのが多数ある。
【だろうね。でなきゃ、話さないはずだし】
はぁ。ガイド欲しいよ。
【普通の人なら持ってるアンテナが一本ない感じがする】
そうか。
【あのマケドニア人もそうだったんだろうね】
そうかもな。
「あ」
書状が届く。
そこには、『お前の息子は処刑した。自害せよ、パルメニオン』と書かれてる。
その書状を読んで、パルメニオンは泣いた。
……可哀想だ。
人生の全てを国家と国軍に捧げ、国軍が彼に与えたのがこれか。
報われないってレベルじゃねーぞ。
ルフスくんも言ってたが、臣下ガチャ星五のパルメニオンをこれだけ冷遇するのは良くないな。
ある男から、
「パルメニオン。お前も同罪だ!」
パルメニオンさえ、罵倒された。
……。
マケドニア国に、白髪になるまで人生を費やし……二人の息子が戦死し、一人の息子が身内から処刑。
パルメニオンは沈痛な面持ちでアレクサンドロス大王に向かって、
「大王。私の胸中にあるのは、貴方へ反逆を企む者達への警戒です」
«……»
「いつか私の息子達が殺されたように、貴方の子供達も殺されるでしょう」
«肝に銘じておくよ»
パルメニオンは処刑された。
風格だけで立派な武将と分かる凄い奴だった。
反逆を企む者達、か……。
確かに、アレクサンドロス大王の子供達はペルディッカスとエウメネスだけが護ろうとするけど、他の後継者達はわりと殺そうとするんだよな。で、本当に殺されてしまう。
あ。
ニチャア、と笑ってる奴らがいた。
フィロータスを吊し上げた奴らだ。
セレウコス。リュシマコス。と、あと二人。
……今思えば、後継者戦争はここから始まっていたのかもな。
マケドニア軍はインドへ向かった。
その後ろに、追軍するペルシャの売春婦達がいた。男達がテントを畳み、移動を手伝っている。
従軍慰安婦と行ってもいいかもしれない。
マケドニア兵の進軍を狙って、売春を繰り返す女性達。
……戦利品が湯水のように、彼女達に使われていく。
まさかマケドニア軍兵士達が、これほど娼婦に金を使ってるとは……想いもしなかったな。
従軍慰安婦、それは対弱者男性特攻の人間兵器。
まさに、最強の軍隊から金をむしり取る収奪者だな。
・余談。
会議室。
俺と道くんが、向き合ってる。
作者「君、凄いわ」
道王「そうか?」
作者「君の個性は俺を凌ぐかもしれない」
道王「作者を凌ぐなんて、俺本当に変わってるんだな」
作者「あぁ……」
道王「俺からすれば、君の方が俺を凌いでる」
作者「……」




