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チートハーレムやってたペルシャ王は、自分よりチートで年下イケメンのアレクサンドロス大王に全てを奪われ、部下に命を殺される~世界有数の転落人生~

 ペルシャ王ダレイオス三世は、俯きながら歩いている。

 ダレイオス三世の傍にはベッソスという軍事指揮官がいる、勿論数万人のペルシャ軍も一応一緒だ。


 その後ろをそそくさと、三人のマケドニア兵が後をつけている。

 どうやらあいつら、マケドニア軍の斥候達のようだな。

 ペルシャ王達にバレないようにコソコソと追跡しているらしい。

 これは……彼らの記憶ってわけか。


「とほほ。ついてないッピ」とダレイオス三世。

「元気出して下さいよ。それに、今まではついてたじゃないですか」とベッソス。

「はぁ……」と浮かない顔のダレイオス三世。

「確かに、王は全てを持ってたましたからね。高身長、高経歴ハイキャリア、収入。まさに、三高の代表者です。それがこの短期間で失われたと思ったら、その落差はあまりにも辛いでしょう。でも、これからじゃないですか」と笑顔でベッソスは励ます。


 俺は後世のローマ人作家、クルティウス・ルフスくんが言った言葉を思い出す。

『私の知る限り、ダレイオス三世は世界最悪の転落人生』というような言葉だ(そのまま引用してるわけじゃないので、それは注意)。

 俺はその言葉に同意できる。蘇我氏とか平家とか大日本帝国とかいうチャチな奴らとは断じて違う。

 世界帝国を失ったからな。

 ルフスくんは『流石に哀れに思う』とさえ記述した。


 だが、ルフスくんよ。

 君が人に同情出来るなら、ダレイオス三世より俺に同情してくれ。

 非モテ男性としてはそう思う……それだけは言わせてくれ。


 おっと、ダレイオス三世が泣き始めた。


「ひっく、ひっく」

 と泣く王に向かって、部下男性ベッソスは優しくて固めの笑顔を見せた。

「王。元気出して下さい」

「敗北した原因を徹底的に洗い出し、戦ったらこれだッピ。もう自殺さえ考えてしまうッピ」

「止めて下さい! アレクサンドロス王のあの指揮能力でまたペルシャ軍が負けたらもう後がありません! お願いです、死なないでダレイオス三世!」

「ピ……。限界だッピ。倒れそうだッピ!」と辛そうな顔と声のダレイオス三世。

 だが、ベッソスは真剣な顔で強く否定する。

「貴方が今ここで倒れたら、王女様や王妃様や前王妃様はどうなるんですか? 勝機はまだ残ってる! ここを耐えれば、アレクサンドロス王に勝てるんですから!」


 どうせまたやったところで、また負けると思うけどな……。


 それになんだろう。

 上手く思い出せないけど、凄く死にそうな感じがダレイオス三世から漂ってる。


 ダレイオス三世は半泣きになって、顔を袖にうずめた。

 ベッソスが握り拳を作り、

「辛いなら思い出に浸りましょうよ。例えば美女! 王様なら沢山抱いたでしょ」

「そうだなッピ」と頷く。

「今まで何人抱いたんですか?」

「君は今まで食べたパンの数を覚えているかッピ?」

 とダレイオス三世は純朴な顔で、言った。

 悪気は一切無い顔だった。

 それを聞いたペルシャ兵士達は苦笑したのが殆どだった。

 しかし、ベッソスくんは少しイラッとした顔をしてる。

 うわ……怒ってる。

 まさか、非モテ野郎か?


「それはよろしゅうござんしたね」とベッソス。

「王だから女と金と奴隷と美食に困ったことは無いッピ」と少しダレイオス三世は笑顔になる。


 っぺ。

 反吐が出るぜ。

 ってあれ?

 何でベッソスもキレ顔になってるんだ?

 自分で聞いて、自分でキレてる……。


 自分から話題振っといて地雷踏むとか自爆もいいところだろ。

 少し彼、怖いね。


 ダレイオス三世は部下の嫉妬顔を一切気付かず、話を続ける。

「白人だろうが黒人だろうがアジア人だろうが抱きたい放題だったッピ。その生活が終わるなんて悲しいッピ」とペルシャ王はほくそ笑む。

 そかそか。

 抱きたい放題か。

 そりゃ良い人生だったね。

 良い思い出だね……。


 っち。


 くそが。

 俺は怒りに肩を震わせた。

 ペルシャ王ダレイオス三世は、まるでなろう主人公のように恵まれてる……いや、それ以上の破格の待遇じゃないか。

 ロックフェラー三世とかロスチャイルド家の人くらいに人生楽しんでそう。多分、ローマの超絶金持クラッススや、中国史の始皇帝や司馬炎(美女一万人を後宮に入れてハーレム楽しんだ人)より楽しんでそう。

 俺の中にあった「ペルシャ王が可哀想」という気持ちが吹き飛んでいく。

 弱者男性だからしょうがないよね?

 ちょっとムカツク……いや、ごめん、凄く腹がたった。

 彼に罪はない。

 むしろ、嫉妬してる俺の方が悪いのかもしれない。

 嫉妬するなんて、人間的に小さいよね。

 だけどごめん、俺、非モテなの。

 そこに嫉妬しちゃう人間なの。

 美食は許す、豪邸に住むのも許す、金持ちも許す、高身長もフツメン以上も許す……だがモテモテだけは、嫉妬しちゃうんだよ。


 ベッソスくんも同じ気持ちだったのかもしれない。

 彼は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようと頑張ってる。

 あいつ、完全に弱者男性だな。

 強者男性のダレイオス三世に嫉妬してやがる。


「ダレイオス三世様」とベッソスは怖い顔。

「なんだッピ?」とダレイオス三世は首を傾げる。

「俺、実は……非モテなんです」

「そうかッピ」

「俺がこの戦争で活躍したら、王の娘と結婚して、王が抱えた美女を百人与えて欲しいです」


 その言葉にはベッソスの部下達も、ダレイオス三世も、俺も驚いた。

 ……このやりとりは俺の知る限り、史実ではない。記録がないはずだ。

 二千年以上前のことだからな。

 だが、なんて男だよ。

 それって自分をペルシャ王の身分にしてくれってことだろ。

 アレクサンドロス大王相手に命をかけるというなら、当然の待遇なのかもしれない。それに成果報酬を要求しているのであって、前払いでさえないからな。


 だが、ダレイオス三世の目は厳しかった。

「な、何を言うだぁーーーッピ!」と震えながら握り拳をダレイオス三世は作った。

「……」

 ベッソスはイラッとした顔を深めた。

 顔がますます怖くなる。


 うわ。

 ダレイオス三世はベッソスの顔を殴った。

 ベッソスの唇から血が流れる。

「あまりにも、不敬だッピ! 立場を弁えるッピ!」

「王……」と暗い声。

「?」

「非モテの気持ちが、あんたに分かるかぁあああああ!」

 とベッソスは剣を抜き放ち、ダレイオス王を刺した。

「ぎえピー!」


 絶叫が響く。

 辺りには、ペルシャ軍と少数のマケドニア斥候達。

 マケドニア斥候達は三名くらいいる、彼等はそそくさと逃げ出した。

 この情報は、すぐにマケドニア本軍に伝わるんだろうな。


 ベッソスくんはダレイオス王を刺した剣を光悦の顔で見つめ、愛おしそうに剣を抱き締めた。

「俺が王になる」

「ぐ、苦しい……ッピ」

「あはははは! ハーレムを目指すぜ!」

 ダレイオス三世は苦しみながら、がたがたと震えだした。

「誰か、助けてくれッピ。前王后ママ王妃つま、娘達……皆に、会いたい。どうせ死ぬなら……」

「死ねえ!」

 ベッソスはもう一度、剣をダレイオス三世の胸に向かって刺した。

 血がドバッと地面に流れていく。

「皆に……見取られたかった……ッピ」


 ダレイオス三世は、死んだ。

 ピクリとも死体が動かない。

 そして、ペルシャ王の部下だったベッソスは黒い笑顔でペルシャ軍に向かって剣を掲げた。

「うおおおおお! 俺が王だ! 全軍、俺についてこい!」


 ……明智光秀や徳川家康が相手を立てずに殺しにかかったのを思い出す。

 裏切りなんて、よくあることだ。

 世界史の中ではな。

 だが、幸福に包まれた人生を送り続けたペルシャ王の末路は……可哀想なものだったな。


 勿論、俺のが、可哀想だと思うけど。

 王族でハーレムやったペルシャ王と、童貞でトラック轢かれて死んだ俺。

 どっちが不幸かなんて比べるまでもない。

 うぅ……。

・余談

 当たり前ですが、こんな史実などない。

 ないはず……。

 ベッソスがダレイオス三世を殺したのは本当だけど、それを非モテ弱者男性の嫉妬としたのがこの作品の脚色かつ特色です。いうて、ベッソスの「俺が王になる」って展開はそのままな気がしますけどね。

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