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マケドニア兵の記憶 グラニコス河の戦い

黒髪おじさん……ピヨクレス

茶髪おじさん……ナロクレス

黒髪青年……ピヨテレス

と名付ます。

「え、ペルシャまで行くべか?」と黒髪男性ピヨクレス

「みてえだな」と茶髪男性ナロクレス


 二万人いかないくらいのマケドニア軍が大地を歩き続けている。


 ……大変だなぁ。

 車が無いどころか、馬車で行くわけでもない。

 徒歩で重い荷物を背負って数万人が行進……控えめに言ってキツイよね。


 だが、茶髪のマケドニア兵は迷いのない顔で、

「行くべ」と笑顔。

「ペルシャ帝国はギリシャを散々攻めて来たべ! マラトンの戦いやテルモピュライの戦いやサラミスの海戦を想えば、こっちから攻めることもありだべな」と黒髪男性ピヨクレス

「だべだべ」


 士気は充分のようだ。

 景色が移ってゆく。

 場所が変わった、か。


 ここは……。河があるな。

 目の前には……ペルシャ帝国軍。数はマケドニア兵の倍くらいいる。


 アレクサンドロス王子が王になっての川での戦いって言うと……グラニコス河の戦いか!


 両軍は河を挟んで睨み合っている。

 ぱっと見、三万人のペルシャ軍と一万八千人のマケドニア兵ってとこかな。

 数ならペルシャ有利。


「な、何て数だべ」と黒髪男性ピヨクレス

「こ、怖いべ……」と黒髪青年ピヨテレス

「流石、ギリシャ全てより広いとか言われる大国だべな」と茶髪男性ナロクレス


 大王が、険しい顔で何やら他の武将と言い争いをしている。

«時間がない。さっさと決戦をしよう»

 と言って、厳つい武将が

「アレクサンドロス王。慎重に行きましょう。貴方に万が一のことがあれば……」

«パルメニオン。僕が負けるとでも?»

 ……あの武将がパルメニオンか。白髪交じりの短髪。ムキムキに鍛え上げられた体。まさに、歴戦の老兵って感じだな。

 王を案じる臣下そのものだ。後世のローマ人は臣下ガチャ星五と言ってた気がする(こんな表現じゃないけどさ)。

「慢心は何より懸念すべきことです!」とパルメニオンは顔を顰めた。

«いや、行くしかない»


 大王が突撃し、その後ろを親衛騎兵隊ヘタイロイが続き、ペルシャ帝国軍の前方が圧倒されていく。

 数なら、ペルシャ帝国は三万以上。

 マケドニア軍は二万人いかないくらいだろう。

 騎馬部隊で大王が速攻を仕掛けたわけだ。


 ……歩兵のスピードでは馬のスピードに対応しきれるわけもない。

 序盤の戦いは、大王と敵前衛――大王が圧している。

 そして、敵陣が僅かに乱れた瞬間に、


«重装歩兵団ファランクス、今すぐ渡河せよ!»と大王。


 大王の言葉に従い、長槍を持った重装歩兵団ファランクスが渡河を始める。

 ……あの長槍はペルシャの騎兵に対して有利な武器のようだ。

 約5.5メートルの長槍が、ハリネズミのような集まりとなって、一つの命のように規則正しく動いていく。

「「「「「うおおおお、いくべえええ!!!」」」」」

 グサグサと、ペルシャ人と馬に、槍が刺さっていく。

 次々に重装歩兵団ファランクスが騎兵やペルシャ歩兵を血祭りにした。


 ……圧倒的だな、マケドニア軍。

「「「「「やったべえええ!!!!」」」」」


 そうか。

 大王の突撃は……あの重装歩兵団ファランクスの渡河時間を稼ぐ為のものだったのか。

 頭が冴えてるなぁ。

 流石、ローマ人が最も憧れた軍人なだけある。


 ファランクスの時間稼ぎ……。それを指揮官自ら行うとは、まさに戦う王様だな。


 あれ?

 ペルシャ帝国側に……白人がいる。

 そうか。

 傭兵か。


 白人傭兵が、大王に近付いて命乞いを始めた。

「た、助けてくれ! 俺達はギリシャ人だ!」「金で雇われただけなんだ!」「頼むよ、マケドニアの王様!」

«……悪いが、君達には死んで貰う»

「「「え……」」」


 アレクサンドロス大王が、白人傭兵を斬り殺していく。他の兵士も、それに習って同じことをした。

 生臭い匂い、鮮やかな赤色、どろりとした液体――血が辺りに飛び散っていく。


 マケドニア兵はペルシャの味方についたギリシャ人を容赦無く殺しまくった。

 わりとグロい。


 傭兵は、血を流しながら、

「同じギリシャ人なのに、どうして情けをかけてくれないんだ!」

 と言った。

 大王は軽く溜息をつき、冷たい声で、

«君達みたいに傭兵として敵につかれちゃうと、厄介なんだよ»

 と言い放った。


 傭兵は、自分の命運がここまでと悟ったのだろう。真っ直ぐに大王を見て、震えながら、

「……いつか、お前に報いがくる!」

«報い? 故郷ギリシャを裏切り、敵国ペルシャについた分際で何を言ってるの? 君は、逆賊なんだよ?»

 傭兵は悔しそうな声で、

「……俺の家は貧しくて、俺は頭が悪くて、傭兵にならないと家族を食べさせていけなかった」

«そう。それは可哀想だね»

 大王が情けをかけるのかも、と想った。

 傭兵もそう想ったのか、少し笑う。

 だが大王の顔は、険しさを強めた。

«でも、見せしめは必要なんだ。ごめんね»

「え……」

 アレクサンドロス大王はスパッと首を切った。首がごろごろと大地に転がる。


 それを見たペルシャ兵が、

「覚えとけ、マケドニア!」

«……»

「ダレイオス王は、国中から兵士を集めてる! 今日集めた兵士よりもっと多くの兵士が集まり、お前らを倒す!」


 負け犬の捨て台詞か。

 俺にとっては遙かな過去、彼にとっては少し先の未来。

 結果的には、報いをペルシャ帝国が受けることになるんだよな。

 もしかしたら、ペルシャ帝国は真珠湾攻撃をアメリカにやった後期大日本帝国より頭悪かったのかもしれない。

 怒らせたらいけないタイプの強者ってのがいる。

 俺の時代ではアメリカで……その前は大英帝国で……その前はモンゴル帝国で……その前はローマで……その前はマケドニアだ。

 相手が悪すぎるんだよな。

 しかも、ペルシャは三回も侵略行為をしている。ペロポネソス戦争でギリシャ経済を破壊してしまうんだよな。


 大王の言葉に、大王以外の者は緊張した。

 指揮官達さえ、顔色が強張る。

 大軍を相手にするって怖いもんな。


 だが大王は笑って、

«望むところさ、相手は世界最初の大帝国ペルシャ! 不足無し!»

 パルメニオンが顔を顰めて、

「……あの、王はもっとご自愛下さい。余計な戦いを望まないでいただきたいのですが」

«多人数を相手に少人数で勝つって凄いよね»

「現実は多人数で少人数をボコるのが理想です」


 う、うん。

 韓信とかハンニバルとか……ナポレオンもそうなんだよね。

 多人数で少人数をボコるのが基本だ。


 末期の大日本帝国を俺が馬鹿にするのも実はそれが理由。戦略レベルで西南北に敵がいる状態で『真珠湾ひがし』を攻撃する馬鹿狂人あたおかなのが嫌いなところだ。わざわざ周辺国全てを敵となすことで包囲撃滅の戦略を完成させるんだよな。真珠湾攻撃とかセルフ自殺戦略もいいとこなんだよね。

 控えめに言って世界最悪レベルのゴミ戦略。俺が指揮をとった方が勝率が高いレベルで末期大日本帝国の行動はゴミ。あれは世界で最も知性が欠如した侵略戦争の一つだった(……尾崎秀実とゾルゲが優秀といえば、仕方無い面もあるかもしれないがな)。


 それはそれとして。


 戦いは数。

 それは当然だ。

 ……だがアレクサンドロス大王は凄い。

 大軍を相手に少数で立ち回り、実際に勝ってしまう。

 軍事的天才にも程がある。

 それは彼の知性と戦闘力があってこそだな。


 マケドニア兵達が大王の勇姿を眺めながら、

「大王様は凄いべ」とピヨクレス。

「完全に英雄だべな」とナロクレス。

「んだんだ」


 大王はマケドニア兵達を見て、

«皆! 敵から戦利品を獲たら、分けるからね»

「「「「「!」」」」」

«僕、そこは気前いいから安心して»

「「「「「やったべ!」」」」」とマケドニア兵達が喜ぶ。


 ……マケドニア兵の様子は純朴そのものだ。

 どうして彼等は俺の黒い魔力に反応したんだ?

 時間が、進んで行く……。

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