vsメディア③ 決着
俺の道テイムが、黒い魔力となって――空間を切り裂く黒いヒビのように蠢き、メディアの光球に接触。
俺のスキルが、一つの生き物のように躍々と動く姿はどこか不気味に思えた。
バン!
と爆発が起きて、大地が揺れる。
大地震。
振動するそれは、震度6くらい。
弾けた魔力が街に落ちてくる。
爆風が辺りを破壊していき、王宮だけでなく街のあちこちに被害が発生していく。
……このままなら、大勢が死ぬな。
仕方無い。
「道テイム!」
俺は高まったスキル練度により、難なく街の殆どを掌握。
俺のスキルによって町中が保護されたと言っていいが、メディアの光球の威力を完全には防げないだろう。
そして、職人技とも言える見事な彫刻や芸術的建築物の微細なところまでは掌握できなかった。
掌握ができるのは、俺のスキル練度の及ぶ範囲になる。
大雑把に守れてはいるが、細かには守れていない。
この街を整備した鍛冶系一目亜人は、大したスキル練度だったのだろうな……。
光球の魔力の一部が街に落ちた。
爆風があちこちに行き渡り、多くの建築物が攻撃を受ける。
俺を狙って放たれた攻撃は、まるで小さな太陽が落ちてきたかのように灼熱のあまり土をガラスに変えていく。
凄い威力だ。
【スキル練度、大幅向上。爆撃による都市破壊のデータを得ました】
そんなデータを得て何になるんだろうか。
爆発を肉眼で確認し、俺は冷や汗をかいた。
やはり、メディアは強い。
俺は上空にいるメディアを睨む。
「やはり、とんでもない威力だな」
半径十キロくらいは被害が出てる。本当に俺を殺しにきたんだろうな。
上空にいるメディアは疲れた顔をしている。
今のスキル、結構疲れるみたいだな。
「はぁ、はぁ。……不細工。それがお前の心の姿ですか」とメディア。
「そうだよ」
不細工と言われたのはむかつくけど、事実なので俺は認めた。
俺は自分の欠点を認められない人間ではないからな。
メディアは俺を見て、……泣いた!?
メディアの頬から大粒の涙がぽたぽた落ちていく。
その姿は心にぐっとくるものがあった。
あんな美少女が俺を見て、俺を哀れんでくれてる。
視界に入れない、というのでなく、入れた上で泣いてくれてるのだ。
相手にしてくれてる……。
「貴方、哀れにもほどがあります」
「そう。余計なお世話だ」
「見てられないです。何で、そんな……魂が傷ついているんですか」
「魂が、傷ついてる?」
「えぇ……」
とメディアは頷く。
「あたしは、貴方のことを可哀想に想う」
「……」
「イアソン様が貴方から逃げ帰ってきたのも理解出来る」
「そっか」
「……興が冷めますね」
と言って、メディアは悲しげな顔で、
「貴方を倒すのは、あたしじゃなくていい。大王やヘラクレスに、倒されてしまえ」
とツンツンして言い放った。
「俺は自分がイケメンになりたいだけだ」
「なら何であたしにあんなキモいことを言ったんですか?」
「え……そりゃ、君が綺麗過ぎたから」
「馬鹿者。貴方はイケメンになりたいんじゃないです。あたしみたいな美少女とやりたいだけです」
「!」
その通りだ。
イケメン化なんてのは手段であって目的じゃない。
不細工とやりたいっていう美少女だらけなら俺は不細工として幸せになっただろうしな。
俺は胸を抑えた。
ドクンドクン、と緊張する。
戦争は引き分けたが、言い当てられた衝撃が胸に残ってしまう。
「この馬鹿者」とメディアは上空から降りてきて、王宮の屋根に座る。
「……」
「貴方は人間的に成熟し過ぎです。あたしみたいな美少女に好かれたいなら、もっと幼くなりなさい」
「幼くって、どういう風に」
「未熟で、隙があって、可愛げがある存在になりなさい」
イアソンのそういうところを好きになったってことだろうな。
イアソンって結構、子供っぽそうなとこもあるからな。
大人なところは大人なんだろうけど。
だが、メディアの意見は稚拙だ。恋をイアソンにしかしたことないからこそ、見えてないのだろう。
俺は真剣に答えた。
「それはイケメンだから許される魅力であって、不細工がそれ持ってても治せって言われるだけなんだよ」
「……。あ、確かに」
メディアの顔色が変わる。
俺は悲しげかつ得意げな声で、
「だろ?」
「……」
メディアは溜息し、「大王。あとは任せました。あたしは休みます」と言ってどこかへ『転移』して消えてしまった。
そして、収まった辺りで、俺がさっき吹き飛ばされた壁穴からぴょこっと大王が顔を出した。
大王は俺を見て爽やかにほくそ笑み、
«ロードロード。街を守ってくれたんだね»
「あぁ。一応、非戦闘員を殺さないようにした」
«……そんな怖い見た目だっていうのにね»
と大王は悲しげな声を洩らす。
それは何となく、やってしまったこと。
本意ではあるが、俺にとっては人情より遥かに優先するべきものが出来た。
自己愛。
他人から愛されない人生が続いて、俺が初めて出来た人生の軸――それが無敵乃人だ。
大王の言いたいことは分かる。
今の俺は、凶暴な見た目をしている。なのに、街を護った。
俺の中に、善意のようなものは残っているのだろう。
だがそれでも俺はこの歩みを止めるつもりはない。イケメン化は俺のやるべき整形。戦わずして、俺は終われないのだ。
それを邪魔するなら、他者を踏みにじりはしないけど、優先はしない。
心の姿がそのまま反映された姿、無敵乃人だ。
「大王。アダムを返して貰う」と俺は裂けた口で話す。
«彼から聞いたはずだ。僕と、戦って決着を付けるって»
と大王はニヤリと笑って、マントが風でははためく。
っち。俺より決まってる感じが嫉妬しちゃうわ。




