道 in イスラエル。 門を潜って王宮前まで
俺とアスクレピオスと海賊団達などなどは、ケイローンに案内され門を潜った。
とうとう街並とご対面だ!
都の中に入って俺は驚いた。
今まで観てきた中で、一番綺麗にして壮麗とも思える景観。
パリやワシントンやニューヨークなんて目じゃない。
完全に観光地だ。
海賊団達が、「帰ってきたな」「風呂行きたい」「甘いもの食べたい」とか言ってる。
もはや彼等には馴染みのホームになってるらしい。
異世界の大王乃都。
大理石やオリハルコンやアダマンタイトがふんだんに使われ、一流の芸術家達によってデザインされた街並。
まるで遊園地のテーマパークを模型じゃなくガチでやっちゃった感じだ。
金メッキじゃなく、黄金の像が沢山ある。
どれだけの贅沢が行われているのだろう……。とてつもない金額ではあるだろう。
スフィンクスとオイディプス王をあしらった噴水とかある。
ヘラクレスの12の試練像とかな。
テミストクレスのサラミスの海戦、レオニダス王のテルモピュライの戦い、ありとあらゆる歴史的なテーマがそこら辺に何らかの芸術品や建設物として造られてる。
凄い。
「何この街、素敵なんですけど」と俺。
「ははは。大王に伝えておきます」とケイローン。
そして、エルフやドワーフや……一つ目の巨人サイクロプスまでいる。
と思ったら医神が、
「僕らはキュクロプスって読んでる」と補足。
成る程、確かサイクロプスは英語表記だな。
ここではギリシャ語的な発音が優先されるようだ。
沢山のキュクロプスが街のあちこちで働き、大きな柱を持ったり大きな像を加工したりしている。
腕力があるだけでなく、手先も器用とか凄い。
ケイローンを先頭にしたまま、俺達は歩き続けた。
歩く途中で俺の視線はあっちに行ったりこっちに行ったりする。
わぁ、凄く綺麗なものが沢山ある。壺を売ってたり、食材を売ってたりする市場もある。
いい街だな~。
歩くだけで、目新しい景色が入って来て、俺の胸が弾んだ。
俺は頷き、
「素晴らしい都だ。しかも、この大王乃都では亜人と共生しているのか?」
「亜人と共生というより、亜人を奴隷化してる状態ですね」とケイローン。
「それでよく統治出来るな。大王達は転移者だから原住民の亜人に反発も買うと思ったが、亜人は経済に馴染んでる感じがする。不満げに働いている感じがしない。その証拠に、街は丁寧に職人芸が刻まれたギリシャチックな芸術建築……本気で職人が仕事に打ち込んでるのが分かる。統治上手いんだな」
ケイローンは「はは」と笑って、
「大王はこういうの得意ですからね。生前ではペルシャ帝国から奪った財産を使って、ギリシャ文化の建物や劇場を建てた人です。アレクサンドロス大王はペルシャにとっては侵略者ですが、ギリシャ文明にとってはヘレニズム文化の立役者として無視できないお方です。違う民族や国民の上に立って統治するのはお手のものなのでしょう」とケイローン。
「……あぁ、知ってるよ。一応、ギリシャにとってはペルシャ侵略は自衛だってことも」
「おや、ご存知ですか」
ケイローンは目を細め、少し驚いたような反応をした。
俺は続けて、
「ペロポネソス戦争でペルシャ帝国がギリシャにやったことを知ってるからな」
「一応、貴方も元アジア人。ペルシャ帝国贔屓しないんですか?」
「俺はこの手の問題を完全に客観的に語りたい系の人間なんだよ」
ケイローンは笑顔のまま肩を竦めて、
「成る程。アダムが惚れるわけだ」
「?」
……アダムも完全に客観的系の人間ってことかな?
俺と似てるって言うのは何度も聞いたし、そうなんだろうな。
ケイローンは神妙な顔で俺の目を観て、
「アダムは……」
「……」
ケイローンは少し哀しげな顔で、胸を抑え、
「貴方の様な方を好む」
「よく聞くな、最近」
主に、大王と闘うようになってからだ。
そんなにアダムは俺のこと、好いてくれてるのかなぁ?
アダム、大王に連れてかれてしまったけどさ。
ケイローンは、少し暗い顔になって俺から目を背け、
「違う種族、違う国、違う民族。それらと向き合い、公平に公正に物事を見る。そんな人が、あのアダムのタイプなんです」
「俺もそうだけど、レアだよな。アダムは何でそういう系の人を好きなんだ?」
「彼の場合は彼がそう造られたからです。あるいは、あらゆる国や民族が求めたから、仕方無いのでしょう。敵対し合ってる民族や国々が『あいつを倒す力を貸して』とお願いしたら、忖度をせず公平さと公正さで決めるしかないですから」
「……」
ケイローンは再び、俺に視線を向け、
「そして、アダムがそうだということは、ロードロード。貴方もまたそういう性格や思考だということ。貴方の前世は日本人らしいですが、アダムに好かれたということは多分――故郷に、日本に過度に忖度をしない人のはずです。それでいて外国や異民族を過度に悪く言うことも避けるはず」
「まぁな」
「ものは試し。日本の闇を少々教えて貰ってもいいですか?」とケイローンは目を少し鋭くする。
「乙巳の変と平家討伐かな? 乙巳の変は神武天皇の血脈だった蘇我氏を皆殺しにして偽者共が皇族と僭称した可能性が否定できない。つまり、不当な簒奪だった可能性がある。最初の歴史書も燃やされて脚色された上で新しく書かれてしまったくらいだ」
「ほ、ほぉ」とケイローンは顔を引き攣らせた。
「あと平家討伐は金持ってる奴らを強盗集団が殺しただけなんだよな。正義は幕府側にも法皇側にもないし、三種の神器無き即位だから天皇即位の正当性がここで一旦断絶してると言える。天皇に必要とされるのは血筋だけじゃないからさ。鎌倉武士は生首を庭に晒すのを素晴らしいとほざく悪人共だし」
「な、成る程」とケイローンは体が萎縮。
「あと、満州事変以降かな? 満州国で電通と三井不●産と三菱商●と昭和通商(統一●会の前身組織)が二千万人くらいの中国人相手に阿片を売り捌いていたことくらいか? それが『アジア解放』を言いふらす大東亜戦争の資金源になり、戦後はM資金……満州国の麻薬マネーとして自●民●党の結成資金になったんじゃないかって噂がある。余談だが北朝鮮のトップ層の一部も満州で色々『日本人として』経験したんじゃないかとか言われる噂がある……あくまで噂だけどな? で、戦後では集積された戦時用食料を民に配るべきなのに横領して闇市に流して大儲けした奴もいる、東京ブラックホールって言われる出来事だ。他に聞きたいことあるか?」
「あっはっは」
とケイローンは大笑いした。
「本当にとんでもない方だ、ロードロード」
ケイローンはお腹を抱えて笑っている。
あ、気付けばアスクレピオスが少し引き攣った顔をして溜息した。
俺、もしかしてやっちゃっいました?
少し調べれば、誰でも知れる程度に『抑えた』んだけどなぁ。
「今ので抑えてるんだ」と医神は引き攣った顔。
「抑えてる。でも、そんなにか?」と俺は頷く。
「多分、日本でも今貴方が言ったことはタブーなのかもしれないですね」とケイローン。
「何言ってんだよ。全部有名な話だって」
「……」
ケイローンはジト目で、何か言いたげな視線をした。
そして、再び前に視線を向ける。
「何か言いたいことあるのかよ」と俺。
ケイローンは目を閉じ、
「いいえ。でもそんな貴方だから、アダムは貴方を好きになったんです」
「どうしてだよ」
ケイローンは目を開き、真剣な顔で俺を観ながら、
「貴方は辛口なようでいて、誰よりも公平で平等なのです。救い難いほどに、病人と聖人を兼ねた人格を持つ。貴方がそのノリで話すのは、人種や性別や国を問わない」
「そうだな。俺からすれば、特別な考えなんて持って無い。普通に生きて、普通に考えてるだけなんだが」
ケイローンは俺に哀れみの目を向けて、
「……貴方は、空気になれない可哀想な人です。誰よりも強大な正義を持ってしまう」
「買いかぶりだな」
「いえ、本当に可哀想です。だって、そんな性格ならモテないでしょうから」
ぐふ。
オーバーキル。
俺の心に大ダメージが入る。
俺は涙目をケイローンに向けた。
「そうだな。俺、可哀想だよ。配慮してくれよ」
「……共感性」とケイローンはボソッと呟く。
「?」
ケイローンは俺の方を振り向き、
「アダムと貴方が持てないものです。しかし、モテるには、それが必要なんです」
「モテたいなぁ。欲しいよ、共感性」
ケイローンは少し笑って、
「無理でしょうね。空気が間違ってたら、貴方は空気を拒絶してしまう。皆がハイルヒトラーと言ってたら、貴方もハイルヒトラーと言わないとモテません」
「そっかぁ」
確かにそれは性格的に言えないかもな。
俺は落ち込む。
間違ってると思うことを間違ってると言ったら、ダメ。
頭じゃ分かってるが、それがとても難しい。
ていうか、俺の場合、態度や表情に出て、相手が空気で察して、俺の知らない間に俺が吊し上げられてしまう感じなんだよな。
哀しいよ。
俺は元々、皆と仲良くなりたかっただけなのにな。
「貴方は良い人だけど、乱世とかじゃないと貴方の良さは輝かないかもしれないです」とケイローン。
「平和じゃない方がいいってことか?」と俺。
「……はい。貴方は他の人々の平和と繁栄を望まない方がいい。そんなことを祈ってはいけません。他のことに努力をした方がモテますよ」
「そっか。モテたいなぁ」
俺は空を仰ぎ見た。
どうしたらモテるんだろう。
共感性か。
努力しても手に入れられそうにないなぁ。
いや、努力しても無駄かもしれないけど努力はしたのだ。
朧気に、前世の俺を思い出す。
服を買ったり、ワックス付けてコンタクトにしたこともあったし、バラエティ番組やトレンディドラマ観てトーク力や話題を磨いたし、少女漫画も読んで女性の気持ちを考えたりしたし、ビームスやZARA行ったりファッション雑誌を買って読んだりした。
それでも、前世の俺はモテなかったのだ。
きっとモテない遺伝子と環境だったんだろう。
俺もクーデターや強盗や強姦や麻薬売りをやった方が、鎌倉幕府や徳川家や大企業の人達みたいに評価されたのかな。
あーあ。
そんな面倒で悪いことしたいんじゃなくて、ただモテたいだけなんだよな。
でも、モテなかったなぁ。
俺は、上を向きながら歩いた。
涙を零したくなかったんだ。
近くには数万人の海賊団船員達がいる。
だけど、俺の心はどこか独りぼっちになった。
「ロードロード」とケイローン。
「何だ?」
彼は俺に一礼。
急にどうしたんだろう?
と思ったら、
「今まで、平和と繁栄を願ってくれて、ありがとうございました」
「俺が願ってたわけじゃないんじゃない? アダムはそうやったのかもしれないけど」
「……。だから、私は貴方が全てを壊しても許します」
「……」
ケイローンは俺に思うところがあるらしい。
それが何なのか、よくは分からない。
いや、分かった。
俺が……人間界を見捨てても許すってことなんだろうな。
多分、そうだ。
俺が世界的無敵乃人になっても、許すってことだろう。
全てを壊しても、って言葉はそういうことだろう。
だけど、平和と繁栄を願っていた、か。
人間なんて、皆そんなものじゃないのか?
「あはは。馬鹿だね、ロードロード」と医神。
俺は医神の方を見て、
「俺は馬鹿だけど、どこが馬鹿なのか教えてくれ」
「全ての人間が平和と繁栄を望むわけないじゃん。そんな人間ばかりなら、チンギスハン達も大英帝国も大日本帝国も侵略行為なんてするわけないよ。勿論、その他の国や民族も含めてね」
「……」
そうだな。
そう言われたらその通りだ。
戦争で強盗をするとか古今東西の人類でありがちだ。
繁栄は兎も角、平和は皆が求めるものじゃないのか。
「あはは。何思ってるの? 繁栄だってそうだよ」と医神はまたもや笑う。
「? 繁栄は求めるんじゃないのか?」
アスクレピオスは首を横に振り、
「君の繁栄は、他人の繁栄まで認めて、求めてあげてる」
「……他の人達は、違うのか?」
「うん。違うよ。他人の繁栄なんて求めないよ。自分達が独占勝ちしたい人は多い……というか殆どかな」
「……」
「徳川だって豊臣を認められなかったからイギリスの援助を受けてクーデターしたでしょ?」
「あぁ。俺のいた日本なら完全に内乱罪な行為をやって成り上がったな。明治政府も同じことやったけど」
「さっきの……蘇我氏と平家を滅ぼした人達だって、人間的に小さい奴だから相手を滅ぼさざるを得なかったんだよ」
「そう言えばそうだな」
蘇我氏は日本で最も過小評価されてる一族だ。故に、今回は長く思考しない為に割愛する。その内思いに耽る日がくるだろうし。
鎌倉武士は俺のいた時代で言うところのメキシコマフィアみたいな奴らだったからな。
人狩りを行い、生首を庭に飾って普通に暮らしていたという。しかも曽我物語や吾妻鏡では男衾三郎絵巻主人公を『鎌倉武士の鑑』として絶賛した。日本の一部には、韓国の全羅道以上の――ヨハネスブルク市民以上でメキシコマフィア級の悪の血筋が入っているのだ。
平清盛が馬鹿だと思うところが実はあるんだけど、メキシコマフィアみたいな奴らに恩情措置を与えて、それが通用すると思ってるのが馬鹿なんだよな。海賊に恩赦を与えて味方になったから、相手も同じ人間だと考えていたのだろう。
そんなの、通用するわけないじゃん。
鬼畜に人間の倫理が通用すると考えるのは頭がおかしい。
しかし、明治以降の日本人が李氏朝鮮末期を生きた朝鮮人に過剰配慮をして「同じ人間」とか言ってた。あれも馬鹿だよな。
いや、日本統治時代は良かったと言って殴り殺されてた老人がいたな……結局、良い人は良い人で通じてる人もいるというのは言わないといけない。善意が届いた人も一応、いたか。
でも、その老人も所詮負け組というか、批判されてるしな。
それこそ平家側について、鎌倉幕府に討たれた人のような惨めさがある。
満州で酷いことやった日本人は、朝鮮進駐軍に酷いことをされた。
悪が勝つ時はある。正義は必ず勝つとか大嘘なんだよな。勝った人間が皆「自分は正義」と言うだけだ。
歴史は繰り返すんだろう。
平和ボケが鬼畜に配慮し、恩を仇で返される……それは人間が人間である限り起こることだ。
朝鮮人が平和ボケをする日が来れば、いつか鬼畜な異民族に配慮して「同じ人間」とかほざいて恩を仇で返されるのかもしれない。
そんなの、起こらないかもしれないけどさ。
というか、俺が平清盛を見る目線って、医神が俺を見る目線と同じだな。
他人のことなら、客観的に分かる。
平和と繁栄を人類に願うというのは、俺の主観だったのだろう。
客観的な視点になったら分かる……「平和と繁栄」なんて他人とシェアできることじゃないな。
歴史が証拠だ。
哀しい。
相手は同じ人間じゃなく、卑しい人間だったりするのだ。
俺は俺より卑しい人間が沢山いるのを歴史を観たり、道見家の事情で知っていた。
だが、どこか心ではそれを否定していたのかもしれない。
ふと、そう感じた。
「繁栄、か」と俺。
「うん」と医神。
「やはり、他者を認めることって出来ないものなのか?」
アスクレピオスは神妙な顔で、俺に問う。
「……例えば、アメリカだって日本の繁栄し過ぎが嫌だから、色々やったでしょ」
「プラザ合意や半導体協定がそうだな」と俺。
「そう。脅威になれば、寛容な方の人達でも競合国を潰さないといけなくなる」
「NHKの職員が殺されたりとかしてるしな。長谷川浩さんとか」
アスクレピオスは哀しそうな、だけど笑顔になって、
「うん。君はやっぱ、平等なだけだね。日本を差別してるわけじゃないね」
「そりゃそうだ。俺は差別をしない」と俺。
「……差別をしないんじゃない。君は差別出来ないんだよ。他人と違って、見えてないとこもあるけど、逆によく見えてるとこがあるから差別が出来なくなってしまってる」
「闇の部分ってことか?」
「光の部分も含めてだよ。可哀想な奴」
「……」
「それに何が光で、何が闇かが人によるから。君の個性は、可哀想だ」
アスクレピオスの声は、掠れていた。だが俺にはどこが可哀想なのか、少し掴めない。
ケイローン真顔で前の建物を指差し、
「行きましょう。アダムはあそこです」
と言った。
大きな宮殿だ。ドーム状の天蓋が、四角い壁に覆われてる。
モスクに似てるけど、それがギリシャ的に建築されてて良い味だ。
漸く、会えるのか。
アダム。
あの宮殿に、いるのか。
あぁ、会いたい。
アダムに会って、イケメン遺伝子を手に入れたい……。




