vsケイローン 門番の足止め③~ダッシュからの奪取~
やってくれたな、ケイローン。
好きなジ●リ映画を音響完備の映画館で見せてくれる、って提案するなんて。
俺は悔しさを噛み締め、頷く。
ケイローンはブルーレイディスクをひらひらと見せびらかしてくる。
安い挑発だな。
だが、断るのは躊躇う。
「観よう」と俺。
しかし、俺は後ろからポカリと殴られた。
「馬鹿者!」と医神。
俺は痛みを感じつつ、医神の方を観て、
「酷いよ、何すんの?」
医神は焦った顔で、俺にダメだしをする。
「いや、もう攻めないと駄目だよ。時間を無駄にするのよくないよ」
「ジ●リというか、俺は宮●駿を好きだから」
「TPOを考えなよ。君、そんなんだからモテないんだよ」
俺の心にナイフが直接入って来たような鋭利な言葉。
俺のプライドとメンタルはずたずたになった。
痛い、痛い、苦しい。
俺は胸を抑えた。
どうして、こんなことを言われないといけないのか。
「そんなんだから、モテないんだよ!」
「レギンにはモテてたし」
「言うほどその女子と深い付き合いなんて無かったでしょ」
図星。
傷つくわ。
だけどレギンに昨日までモテてたのは事実だ。
彼女は体と童貞膜目当てだった訳だけどさ。
医神は俺から目を外し、ケイローンを見て真剣な顔で、
「ケイローン先生、そこを通して下さい」
ケイローンは首を横に振って、
「アスクレピオス。私はその男を通さないように言われてるから」
「なら……こうです!」
アスクレピオスは水色の魔力を放ち、ケイローンに浴びせた。
おぉ、俺のスキルより強そう。
やっぱ医神は強いや。
「アスクレピオス」と俺。
「何? 今、戦闘始めてるんだけど」
と医神は次々に膨大な水色の魔力を放ち、ケイローンは騎乗し茶色い魔力を馬ごと込めて避けていく。
この二人も馬も戦闘力高いな。
ヒヒーン、と馬が俺に内心で褒められたのを察して笑って喜ぶ、尻尾もフリフリしてる。医神は溜息し、ケイローンは軽く「はは」と笑う。
だが、そんなことより、
「医神。大事な話だ」と俺。
「なら手短によろしく」と真顔の医神。
「ブルーレイディスクだけは無傷で手に入れてくれ」
「は?」
「頼む」
「……あのさ。空気読めよ。戦闘中だぞ!」
アスクレピオスはキレた顔になり、水色の魔力で蛇を作り、ケイローンが持つブルーレイディスク目がけて放った。
お、おいおい。
パリン!
という嫌な音。
「ぎゃああああああああ!」と俺の悲鳴。
俺はあまりの辛さに、大股になって顔を両手で覆った。
そして俺は泣きながら、ブルーレイディスクに近付いた。
アスクレピオスの「TPO弁えろ」って声が聞こえた気がしたが、俺は無視する。
「うあああああ、こんなのあってはならない。こんなの、あってはならない!」
俺は割れた破片を集め、道テイムをかける。
円盤に戻る。
だけど、だめだ。
構造が複雑過ぎる。
表面的には直せても中のデータまでは直せない。
俺は歯軋りし、ぷるぷると震えた。
戦闘音が聞こえる。
アスクレピオスは相変わらずケイローンに攻撃を続けてるようだが、俺はそれどころじゃない。
「何思ってんだ、馬鹿! 戦闘のが重要だ!」と医神の声。
畜生。
俺は四つん這いになって悲しむ。
どうやって観ればいいんだ。
異世界で人間界のエンタメ作品鑑賞方法が分からねえ……。
サブスクとかやってないだろうし、スマホがそもそも無さそうな世界だ。
すると、アスクレピオスの攻撃を躱し続けるケイローンが、
「ロードロード」
「何だよ……」
「私に協力すれば、予備のブルーレイディスクをあげましょう」
と懐からブルーレイディスクを取り出した。
まじか!
いや、でも、どうしようか……。
ケイローンは更に懐をまさぐり、もう一枚のブルーレイディスクを出して、
「しかも今なら、『毛虫の●ロ』も付けましょう。レアですよ、これ」
「!」
ケイローンは不敵な笑みを浮かべ、俺はそれに頷く。
ケイローンめ。
ジ●リファンの、否――宮●駿ファンの心を分かってやがる。
毛虫の●ロ、映画化されてたんだな。
あれは俺が知る限り、最古の記憶では……もの●け姫の頃に「毛虫の話をやりたい」と宮●駿が言ってたのを覚えてる。千と●尋の頃も言ってたが、ずっとずっと宮●駿が「いつかやる」と言い続け、とうとう描かれた作品だ。
あれも完成していたとは……。
俺には豪華過ぎるおまけだ。
俺は笑顔でケイローンに頷く。
「こんなんで陽気になれるなら、オタクの彼女でも作ろうと努力すれば良かったのに!」と医神。
うるせえ。
オタクの彼女なんて、努力しても出来なかったんだよ!
俺は意を決して、ケイローンのアシストに入った。
道テイム。
俺から透明なエネルギーが出て、医神の水色の魔力に衝突。
「ちょ、何やってんの!?」と医神。
医神の水色の魔力を俺は打ち消す。
「つい、出来心でな? 許してくれ、医神」
「馬鹿なんだね、ロードロード。最有力の味方である僕に攻撃するなんて」
医神の声が少し怖い。
俺は怖いものの、返答した。
「ブルーレイディスクを取り返したら、また仲間になろう」
医神は怒り皺を顔に浮かべた。
あ……無茶苦茶怒ってる。
ごめんね、医神。
「あはは。酷いこと言うね。本当に君って、自分勝手」と医神。
「えい、道テイム!」
と、俺は突如ケイローンの体を石畳で埋めた。
ケイローンの動きが一瞬止まって、
「しまった!」と彼は焦った。
今がチャンスだ!
「うおおおおおお!」と叫びながら、俺はケイローンに向かって疾走。
「なっ!」とケイローン。
俺は一瞬で彼の傍に近付き、ブルーレイディスクを奪取。
……勝った。
俺はほくそ笑む。
医神が杖を石畳に埋まったケイローンに向けた。
ケイローンは「ははは」と大笑いし、「降参してあげましょう」と爽やかな声で言った。
医神は冷や汗をかきながら溜息。
そして俺は、目当てのブルーレイディスクを二枚手に入れて大満足。
「でも再生機がないはず」と医神。
「映画館ってこの……大王乃都にある?」と俺。
「ありますけど」とケイローン。
「そこで観るよ」と俺。
「まぁ、時間を潰してくれるならいいですけど」とケイローン。
アスクレピオスはジト目で俺を見る。
「実はさ、君の攻撃に殺気がないのは分かってたんだよ」
「そもそも医神は俺の心読んでるしな。俺が本気で医神を攻撃してないってバレバレだろ」
「それもあるけどね。でもそれでも、さぁ」
アスクレピオスは俺に批判するような目を向けた。
ちくちく痛い感じがする。
「君、本当に自分勝手」
「ごめん」
俺は俯き、ブルーレイディスクを胸元でギュッと抱き締めてしまう。
アスクレピオスは溜息。
「あー。ゼウス様やアポロン様やハデス様に褒めて貰いたい。とんでもない奴に優しくしてる、この僕を!」
「……医神、本当に、ありがと」
医神は溜息し、「やれやれ」と言うのだった。
俺はブルーレイディスクの表紙を確認。
そこには、日本史上最高のアニメーター、俺的に世界で二番目のアニメーターの絵が見事に描かれてる。
うん、心くすぐられる。
えへへ。
俺は明るい笑顔になって、医神に顔を向けた。
「よし。物も手に入ったし、アダムを助けに行くぞ、アスクレピオス」
「う、うん。一応、目的を忘れてないんだね」
「あぁ。俺がイケメンになりたいって心も本気だからな」
「そ、そう……なら、もっとそれに真剣になれよ」
図星。
医神は良いこと言うなあ。
よし、異世界のイスラエルに造られた大王乃都に入って、アダムを助けつつ映画視るぞ!
と、俺は思うのだった。
・余談
「毛虫の●ロ」は私の知る限り、現在DVD化・BRD化されてないと認識してます。短編作品です。道くんの転生前から映画化されてるんですけど、宣伝を大規模にやってないので道くんはそれを観ずに死んだ感じです。見たい人はジブリ美術館に問い合わせて、公開されてるかどうかをチェックして行くのがベスト
かもしれません。常設の上映じゃないはずです。私はジ●リパークには行ったことないので、そこで映画上映があるかも知らないです。




