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ドワーフギルド⑪ ギルド長「パンツ作ればいいんですね?」 & 『ネームド』

 ドワーフギルドの地下にある休憩場。酒やジュース、お菓子類がふんだんに置かれている。俺は階段は勿論、床などを道テイムで綺麗に修復する。

 ドワーフのギルド長は俺の道テイムを見て溜息。


 そして休憩場の禁煙室に移動。

 俺の隣にはレギンとブーケが座っていて、二人共それぞれ報告用の資料を作っている。

 ギルド長が開口。


「道様のスキル、相変わらず凄いですね。これならドワーフいらないって言われて戦場から職人達が帰って来たのが理解できます」


「ははは、すまないな」


「何言ってんですか。感謝してますよ。皆、戦争より鍛冶職のがずっと楽しいって思ってますからね。道様のお陰だ」


「ギルド長……その、改めてお願いしたいんですが」


「何ですか?」


「パンツ、作って貰っていいですか?」


「……」


「……」


 ギルド長は腕を組み、うーんうんと唸る。彼の中でどれだけ葛藤があったのかは分からない。ただ、確かなことは彼の顔が苦悩と思考に揺らぎながら眉を強く顰めていたことだ。


「分かりました。お受け致しましょう。他ならぬ、命の恩があるので」


「やったぁあああああ!」


 シルクロード。絹の道。それを成功させるには、まず他国に販売する為のパンツが必要だ。俺にランジェリーショップを経営した経験どころか裁縫経験さえ乏しいが、手先の器用な職人がいれば……へへへ、世界中の女の子に俺好みのパンツを履かせて鑑賞するのに一歩前進ってとこだぜ。


 この変化はドワーフ達にとってはちんけな変化だが、シルクロード計画にとっては大きな変化だ。


 聖女ジャンヌのパンツに道テイムして、パンツが無くなったとこに俺が作ったパンツを無理矢理履かせたい。そしてまた道テイムするんだ。永遠に楽しめるぞ。

 へへへ! へへへ! へへへへへへへへへ!


 レギンが俺を小突く。


「何にやにやしてるんだよ、この馬鹿彼氏!」


「えー、そんなー、にやにやなんて、してないよー」


「その浮ついた声……他の女のパンツのこと考えてるだろ」


 レギンは怒り顔。どうしたというのか?


「その、できれば……他のパンツ見るの、止めてくれない?」


「ええええええ!?」


「あたし、嫌だ。パンツを……他の女のパンツ、見ないで欲しい」


 それは俺を全否定するような発言だ。彼女とは言え容認できない。仮に、俺が恋愛ドラマの主演イケメン俳優だったとして、付き合ってる彼女に『あたし以外の女とキスするな』と言われたら、『理解してくれ』と言い返すだろう。

 俺がパンツを見ることで、国が救われる。それに彼氏としての株も上がる。良いことずくめなんだ。俺は言い返そうとしたが、俺とレギンの間にブーケが割って入った。


 ブーケはレギンに近づいて、怒りの籠もった顔を向ける。レギンは少したじろぐ。


「おい、レギンさん。分かってます? ロードロードさんが、パンツを見ないなら……何人死ぬか?」


 ブーケの強い語気で、レギンが悲しい顔をする。ギルド長は不穏な空気を察したのか、ブーケに笑顔で話しかける。


「ブーケさん、死ぬなんて大げさな」


「大げさなものですか。そのロードロード・ドーロードは……パンツを見てスキルのエナジーを回復するんです」


「はっはっは、そんな馬鹿な話あるわけ……」


 ギルド長はブーケの目を見つめ、一瞬キョトンとした後に目と口を大きく開いた。


「ば、馬鹿な……本当なのですか!? あのスキルが、パンツによって成立してる、と!?」


「はい。ちなみに、可愛ければ可愛いほど、そそればそそる程、エナジーの回復に良い影響があるそうです。しかもブスやフツメンや男では効果がなく、美少女でなければいけませんし、パンツを履いてないとエナジーが回復しません。この仕様にはエヴォル上層部も苦心してます」


「なんと……最低の仕様ではないですか」


 ギルド長は苦い顔をする。ブーケは話してる最中、ずっと真顔だ。


「だけど、最強の能力者です。疑いようが無く亜人国家エヴォル最強の魔物ですよ。魔王ガンダール様やケンタウロス族の神童と呼ばれたこの私が、比較することさえおこがましい程の強さを持つ」


「国の大英雄である貴方を、凌ぐ?」


「先ほどの戦いを見たでしょう? ソロモン王を退けたのは、道テイムの力です。私なんて、足手まといにならないのが精一杯でした」


「――」


 ブーケの凜とした顔に、ギルド長は絶句。ブーケって若いけど客観的な視点が凄い。ここまで割り切れるとは……軍人だからだろうか。


「あと観察してて分かったのですが、レギンさんやあたしに道テイムしてる時は興奮してました。恐らく、エナジーを回復があったでしょう」


 バレてる!? ブーケには、俺が道テイムを美少女にかけて興奮してたのが、バレてたのか!


「馬鹿と鋏は使いよう。なら変態と道も使いようですよ」


 言い方ー! って、ギルド長がうんうんと頷いている。


「なんとストイックな方なんだ……ブーケさんは噂通り、戦争に勝つ為なら手段を選ばない。どんな変態さえも徴兵するというのですね」


「ギルド長、あたしだって手段は選んでますよ。犯罪者を司法取引して徴兵するより、変態にパンツ見せて戦う方がいい。それだけの話です。勿論、収監されている犯罪者全てを……いえ、国民全てを動員してもロードロードの得意分野には匹敵さえしませんがね」


 ……褒められてるって悪い気しないね。

 まぁ俺だけで国土交通省と大手建設会社と大工百万人くらいの作業量をしているだろうしな。ブーケがそう言うのも理解出来る。

 俺が石橋を道テイムで作るのは一瞬だが、もし人間が瀬戸大橋なりレインボーブリッジなりを作るなら数ヶ月はかかるだろう。俺は言わば、最強の3Dコンピューターでもあるのだ。素材さえあるなら、幾らでも建設出来る。燃料は石油でも食料でも無く、美少女パンツの鑑賞。コスパが良いにも程がある。

 ドイツにあるアウトバーンさえも俺なら条件さえあれば一日で出来る。道テイムはまさに最高のインフラスキルに他ならない。


 ギルド長はブーケに苦笑する。


「合理主義者らしい答えですね。もっとも……私も、私の孫も変態に命を救われたというのは分かってます。ろ、ろーD、ろーど……っく」


「どうした? ギルド長?」


「その……すみません。言ってみようとしたのですが、やはり、道様の名前は、重い」


「名前が、重い?」


「? 気付いてないんですか?」


 ブーケは俺を見る。


「魔族の名前を呼ぶと、魔力を多少消費します。……魔王様が魔王様と呼ばれるのは、本当の名前が弱い魔族にとって余りにも魔力を消費してしまうものだからなのです」


「名前を呼ぶと、魔力を使う?」


「えぇ。そして……ロードロード・ドーロード。貴方の名前は魔王ガンダールヴより重い」


 つまり、どういうことだ?

 俺が困惑しているのをギルド長が苦笑する。


「道様なら理解出来ると思いますが、パソコンにデータを入れるとします。データの容量が大きければ大きいほど、ダウンロードやインストールは遅くなるでしょう?」


「な、何でギルド長がパソコンなんて知ってるんだ?」


「そりゃ、サキュバス国の人に習ったんです。あそこは……人間界の知識なら何でもあると言って良いでしょう」


 ギルド長の言葉には驚いた。人間界の情報が何でもある? サキュバス国って、どんなところなんだ?


「知識としてパソコンやスマホなどが最近の人間界で溢れていると聞きます。俺はサキュバス国の大使にパソコンを作れるかって聞かれ、内容を詳しくヒアリングした上で、無理だって答えました。でも、色々とその時にデータのことを習ったんです」


「はー」


 意外だ。この世界のドワーフってもしかしたら俺のいた世界よりITにも強いのかもしれない。


「道様の名前は、重すぎる」


 ブーケが俺の方を向いて、ギルド長の胸を指差す。


「どうした、ブーケ?」


「これ、名札なんですが読めますか?」


 俺はギルド長の胸を見る。成る程、サンスクリット語だかアラビア語だか分からないが、変な文字で書かれてる。


「読めないな」


「道さん……あたしも貴方の名前を呼ぶのはきついんですが、分かったことがあります。貴方に名前を呼ばれると、魔力が少し向上するんです」


「は? 俺にそんなスキルが?」


「……はい。これはこの世界では人間だけが持ってる力です」


 レギンとギルド長がブーケの言葉に驚く。

 そうか、この世界にも人間がそれなりにいるんだよな。出会ったことないけど。


「道さんは、あたし達魔族とは違う。やはりリリス様から作られた命の樹形図ではないのでしょう」


「リリス……か。お前達全員の始祖なんだよな?」


「えぇ。……道さん、提案なのですが、」


 ブーケは頷く。


「ギルド長の名前はガンコォーブシです。読んで貰っていいですか?」


「ガンコォーブシ」


 すると、ギルド長の体が茶色く光る。


「な、何だこれは……魔力が、溢れてくる」


 ギルド長は驚いている。


「これって、どういうことだ?」


「魔力を分け与えたってことです。これでギルド長の体力とか色々上がっているでしょう。パンツ製作にも良い効果が期待できるかと」


「……ブーケやレギンを名前で呼んでも何にもならなかったのは?」


「既に恩恵を受けているからです」


「恩恵?」


「知らないんですか、道さん。アダムが神様に命令されたのは全ての動物に名前を付けることですよ?」


「あ、アダム?」


「えぇ。人間が神様に貰った最初の仕事は……『ネームド』。そうですよね? ドワーフの鍛冶、オークの繁殖……それと同じように、人間が司る種族の傾向がある」


 ブーケは当たり前の様に聖書の知識を話した。これはマウンティングではなく、彼女にとっては雑談のつもりなのだろう。

 しかし、俺はそれが分からず、答えに窮してしまう。


「いや、聖書はちょっとしか知らない……」


「道さんって歴史は詳しいのに、意外ですね」


 聖書、聖書なー。ユダヤ教とキリスト教とイスラム教……この三つ、アブラハムの宗教って言うんだけど、中身を細かくまでは見てない。

 うろ覚えだが、前世は史学科だったはず。道、の授業に熱中してたけど……聖書の知識無かったっけな~?


「だけど安心して下さい。これでギルド長は仕事能力が上がって、パンツを作ってくれるでしょうから。じゃ、あたしは報告書もまとまって来たし、そろそろ帰って魔王様と打ち合わせします」


「そうか」


 ブーケは一礼して、近くにあった人参ジュースをごくごくと豪快に飲んで、出口を出た。良い飲みっぷりだ。


「じゃあ、レギン、俺達もそろそろ帰ろう」


「うん」


 俺とレギンが立ち上がると、ギルド長が呼び止める。


「待って下さい、道様。私は、貴方の道テイムを飛躍的に向上させることができます」


 その言葉で俺は思い出した。そう、ドワーフギルドに来た目的は整理整頓と人員削減だが、能力の向上が出来るとギルド長は言っていたのだ。

 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


 ★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。


 下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。


 何卒、よろしくお願いします。

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