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正統派のイケメン化

 俺は寝静まった超絶イケメンを揺すった。


「起きてくれ、アルキビアデス」

「う……」


 けだるそうに、アルキビアデスは目を覚ます。

 目を瞠ってしまうようなイケメンだ。

 美男美女から生まれて恵まれた財産を持っていたというから遺伝子も環境も良かったのだろう。

 ソクラテスの寵愛を受けたというだけあって、才能も鍛えられていた。


 まさに、S級イケメンといえる。

 全てを台無しにするほどに奔放な人間性を持つと聞いたこともあるが、凄い顔面偏差値だ。

 これ、顔面偏差値80以上だな。

 すげえ綺麗な顔だ。


「俺がスパルタ兵士達から貴方を助けた。貴方は俺に借りがある」

「ま、魔王!」

 目を覚ましたアルキビアデスは俺をビビりながら見てきた。

「あぁ」と俺は頷く。

「遺伝子をコピーするとかめてくれないか?」

「コピーは止めるが、参考にしたい」

「……それでも嫌だけど、拒否したらどうする?」

 アルキビアデスの問いに俺は真剣な顔で応えた。

「すまないが、その時は実力行使させてもらう」

「……はぁ」


 アルキビアデスは溜息を吐き、


「分かった」


 と同意してくれた。

 その瞬間、海賊団アルゴナウタイ達が歓声をあげた。

「「「「「ひゃっほおおおおおお!!!!」」」」」


 海賊団は舟の中からつまみや酒を盛ってきて、歌い始めた奴もいる。

「うぇえええい」「最高の日だな」「俺、イケメンになれるのかな」「神様に感謝する準備するわ」「おいおい、気が早いぞ?」「そういうお前もニヤけすぎだろ」「当たり前だろ。だって、だって……今まで、うえええええん!」

 海賊団アルゴナウタイ達は肩をくみ、ステップを合わせ、歌い始めた。酒を飲んでる奴もいる。

 あいつら、マジで喜んでるなぁ。


「元気だなぁ」と俺。

「財宝や女子供の奴隷を集めてきた彼等が望んでも手に入らなかったのがイケメン遺伝子だからね。無理もないよ」と医神。


 ……その欲望が、俺に味方してくれた原因だから否定できないな。

 現状、ハンニバルやヒポハスが寝返り、エヴォル兵士を洗脳状態で操ってるのも脅威だが……海賊団アルゴナウタイ達まで俺を殺しにきてたら危なかった。

 不細工の彼等がイケメンになりたい。そういう思いが無いと、俺はやられていただろう。それでイアソンを裏切ってくれたからな。


「アルキビアデス」

「っち。どうするって言うんだよ」と超絶イケメン。

「そこにいるだけでいい。医神」

 俺はアルキビアデスから医神に目を向けた。

「分かったよ」と医神が近付く。


 準備は出来た。


「まず、海賊団アルゴナウタイ達の船員クルーの一人、ブサイック・アグリーから試してみようと思う」

「いや、まずロードロードの体からやるべきだ」と医神。

「理由は?」

「恐らく、自分の体で試してみた方がやり易くなると思う」


 成る程。一理ある。

 だけど、もしこれが嘘だったらどうしよう。

 俺の体を調べるだけ調べて、変なスキルとかかけられたりしたら――。


「嘘なんてついてないよ。そもそも、僕はいつでも君を殺せるでしょ? 今のところは」と医神。

「そ、そうだけど」

「僕の遺伝子テイムがあのエルフの子にどれだけ迫れるか分からないけど、手伝うだけ手伝うよ。面白い試みだし」


 これを楽しめるっていうのは理系だなぁ。

 一瞬、アスクレピオスは暗い顔になった。


「ただ……」

「どうした? 医神」

「これ、僕が躊躇うほど医療倫理に抵触してる」

「遺伝子ブレイクの方がまずくないか? あのスキルは遺伝子を破壊してるだろ」

 医神は首を横に振って、

「んな訳ないよ。破壊するだけの行為と、新しく作る行為なら新しく作る方が、あるいは作り替える方がまずい」

「そうなのか?」

「うん。遺伝子を書き換えるっていうのは……まずいよ。自在に作れるようにもなっちゃう。気が進まないな」


 そっか。

 でもそうしないと、俺が救われないんだよね。

 女子校生と制服デートとかしたかったよ。好きな人に好きって言って、それが受け入れられて、体の良い断り文句で断られることもなく、好きと言ったら吊し上げをくらって笑いものにされる日々を送りたくなかったよ。

 辛いことばかり、朧気に思い出す。具体的には思い出せないが、そういうことが確かにあったと何となく思うのだ。

 距離感が読めないのに、距離感読めないから拒絶されたこととかね。俺を苦しめた全ての人に、俺が苦しんだくらいには災いあれ。俺を助けた全ての人に、俺が助けられたくらいには幸あれ。


「わ、分かったよ。特別に整形してあげるよ」と医神。

 なんか、医神は泣き出した。

 何で泣いてるんだろう。

「怖い、君本当に怖いよ。メルエンプタハやイアソンやモーゼより怖いよ……」

「そんな大物達と比べられてもなぁ」

「ロードロード。その代わり、遺伝子を整形したら少しは明るくなってよ!? 絶対だからね!」

 泣きじゃくる医神に、俺は頷く。

「おう。ジョーク言えるように頑張る」

「下ネタは止めてね。好き嫌い激しいから」と言う医神はまだ泣いてる。

「お、おう」


 俺はアルキビアデスに意識を集中。

 それをマップに表示し、医神に見せる。

 医神は驚いたようだ。


「凄い。遺伝子がはっきり映し出されてる……」と医神。

「行くぞ。道テイム!」


 デオキシリボ核酸、把握。

 一つ一つの設計図を、人体のDNAを道テイムで理解していく。

 おぉ……これが天然の超絶イケメンの遺伝子。

 今の俺とは格が違う。

 しかも日本人のなんちゃってイケメンじゃなく、白人の純粋なイケメンだ。頭がデカイ胴長短足じゃなく、小顔かつスラッとした長い手足。金髪碧眼なのもいいね。

 凄く、いい。

 俺の本能が喜ぶ。


 白人は日本人より淘汰を真剣に行ったし、人の行き来も日本よりあった。


 日本が朝鮮より顔面偏差値高かったのは、東南アジアや南中国からの移民が海路で来ていたからというのは理由としてあると思う。それに日本よりは人の行き来がよくあった中国の方が――日本の美系よりは中国の美系の方が上澄みは遥かに品質が良い遺伝子だしな。中国>日本>朝鮮、という順番で美系遺伝子ランキングは存在すると思う。

 しかし、中国さえ凌ぐのが欧米系と中東系だ。

 ヨーロピアンは、黒人だろうが中東系だろうが受け入れてきたのだ。混血し、その上で淘汰を行ってきた。中東系はヨーロピアンほど人種改良を行った記録を発見できなかった。……黒人はなんていうか、これは言わない方がいいから内緒にしとこう。


 混血、それ故に白人や中東系の遺伝子は凄く綺麗なのが産まれるのだ。材料が豊富にある上での厳選淘汰が行われた。

 そして、美男美女の遺伝子から産まれた絶世の美男子がアルキビアデス。

 うーん、なんて綺麗な遺伝子なんだ。


 俺は、思わずその遺伝子に見とれてしまう。


「じ、自分より綺麗な遺伝子に、よく見とれられるね」と医神。

「あんまりに綺麗でな」

「……じゃあ、これを元に遺伝子を改変しよう」

「おう。そうだな」


 俺は自分の遺伝子を凝視。

 うわ。汚い。俺の遺伝子、アルキビアデスの遺伝子より汚い。

 分かってたことだけど、なんか見応えが足りないわ。


 今の俺は顔だけは整形してるけど、やはりイケメンに比べたら遺伝子が汚くて嫌になる。

 ……頭脳面とか運動機能で優れてるところも部分的にはあるけど。


「部分的じゃないでしょ。明らかに君の方が総合的には上だよ」と医神。

 なんかちょっと怒り気味だ。


 だが、俺は俺の主観を大事にしたい。

 俺は優秀さってのは場所から測られると思ってる。


「それは良い意見だね」と医神、少し呆れ顔だ。


 スポーツ場なら、スポーツ出来る奴が優秀な奴だ。カラオケとかコンサート会場とか演奏会なら音楽出来る奴が優秀な奴だ。受験や論文発表会なら賢い奴が優秀な奴だ。優秀さってのは場所で決まると言っていい。


「うん。で、その発想を持ってる君がどうして顔だけに拘るのかな?」と少し怒り顔の医神。


 俺は、この意見に関しては口に出すことにした。


「あ? 決まってるだろ。前世は恋愛社会だった。顔面偏差値がものを言うんだよ」

「今は異世界だよね……異世界を異世界で楽しめばいいと思うんだけど」

「一番好きなのはエルフの子。彼女は面食いだから、俺を一番好きって言って貰う為にイケメン化したいんだよ」

「で、でもロードロードは好きなビッチの『六千番目の男』で良いって前言ってたじゃん」

「それは建前に決まってるだろ! 一位になれる手段があるなら、死に物狂いで一位目指すわ!」

「……」


 俺は気付いているのだ。

 エルフの子は、俺が超絶イケメンになったから抱いてくれたと。

 もう一度、彼女に抱かれるには超絶イケメンに戻るしかない。

 契約石版アークや不細工に戻ったら相手にしてくれない。

 相手にされるには、超絶イケメンに戻らないと、あの笑顔を向けてくれないんだって。


 あぁ、涙目になったわ。俺は涙をふく。


「顔はな? 努力より才能の方が明らかに大きい分野だ。だから、遺伝子から弄るしかないわけ! 表面的な整形しても、生まれてくる子が不細工なら哀しいだろうが」と俺も少しキレ気味に言う。

「酷いこと言うね」と医神。

「事実だよ」

「でもさ」

「うるせえ。惨めな人生だったんだ。軋んだ思いを吐き出すしかないんだよ。存在の証明が他にないんだ!」


 医神が、泣いた。

 え。お前また泣くの?


「君、本当に整形で救われるの? 信じられないんだけど」と医神。

「可能性があるなら、そこにかけるしかないんだよ」

「産まれてきた子が不細工で嫌っていうなら、産まれてきた子を整形すればいいじゃん」

「!?」


 驚いた。


 医神は泣きながら真剣な顔で、

「だってそうでしょ? 女性達は化粧をやってる。これは文明社会の殆どの女性がそうでしょ?」

「そうだけど」

「なら、化粧も整形も同じだよ。整形して満足するなら、子供も整形すればいいじゃん。で、遺伝子まで整形するなんておかしいよ」

「……整形する手間が省けるだろ。やはりアタリ遺伝子の方が」


 アスクレピオスはマジギレの顔になって、泣いた。

「本当に、人の欲望ってキリが無いな。その内、整形が当たり前になったら、ロードロードの言う様な遺伝子整形が当たり前になって、それでも満足できないと遺伝子を何度も整形し続ける人が出てくるに決まってる。それも複数!」

「!」


 アスクレピオスの洞察……絶対正しいだろ。

 もっと良い遺伝子が良いとか言って何度も遺伝子整形する奴が現れるというのは自明でしかない。

 金持ち令嬢などエルメスのバッグを買って、「仲悪い子とバッグが被った! お気に入りだったけど、変える!」とか言い出す様な奴がいる。なら、「仲悪い子と遺伝子が被った! お気に入りの遺伝子だったけど、変える!」とか言うような奴が現れておかしくない。

 うーん。


「でも、それでもやりたいんだ。俺は不細工なの、劣等感コンプレックスあるから」

「もう」と医神。


 突如、口笛が吹いた。

 海賊団アルゴナウタイ達だ。

「ロードロード様ああああ!」「言えたじゃねえか……」「魔王様、最高!」「その通りだ! よく言ってくれた!」「顔は努力じゃどうにもならねえんだよな。あとスタイルも」「ヒューヒュー!」


「……」と医神。

 呆れ顔で、海賊団アルゴナウタイ達を見てる。

「何だろう。まともなの、僕だけなのかな」


 海賊団アルゴナウタイ達が医神に向かって、

「不細工の気持ち、分かってくれよ」「先生は傷を治せるけど心の傷を治せない」「整形したいよぉ! 綺麗な遺伝子になりたいよぉ!」「ひっくひっく」「振られた経験しかねンだわ」「びええええん!」

 と叫んだ。


 医神は俯く。

 俺は大人の対応として、俯く医神のテンションをスルーして、

「アスクレピオス、やるぞ! 苦しんでる数万人の不細工を俺含めて救うんだ!」

「あぁ……そうだね」と心底やる気のない返事。

「うおおおお! 道テイム!」


 やる気ある俺と、やる気ない医神。

 二人の遺伝子操作が始まった。

 俺はアルキビアデスの遺伝子を参考に、自分の遺伝子を改造していく。


「あ、そこちょっと違う」と医神。

「こう?」

「こうかな? う~ん、えい」


 アスクレピオスはアルキビアデスの遺伝子に水色の魔力をかけた。マップにかけてもいいんだけど、説明してなかったからな。でも、俺としてはこれでも医神の魔力を読めるから問題無い。

 これは医神の遺伝子テイムだな。

 スレイブとは違う水色の魔力はどうやら指摘してる箇所も微妙に違う気がした。

 だが、概ね同じだ。


「その、痒いんだが」とアルキビアデス。

「我慢しろ」

「……」


 超絶イケメンは少し頬を紅潮させ、恥ずかしがってる。

 世のお姉様方が見たら、皆好きになるようなシチュエーションだな。

 羨ましい限りだ。


「顔や性欲だけが人生じゃないよ、ロードロード」と医神。

「うるせえ、俺はイケメンになるんだよ!」

「あの、君がこの世界に来た目的って何なの? 産まれてきて何をしようと思った? 何かはあるはずなんだけど」

「最初は……パンツを見ようと思ってた。俺は成長して、世界中のパンツを見るんだって」

「きもいね。ギネスに載れるレベルのキモさなんじゃない?」と医神は軽蔑の心を込めて言った。


 俺は溜息。


「仕方無いだろ。仕様なんだから。パンツを見て、ちゃんとスキルを使えるようになったんだよ」

「……」

「それも美少女と美女の、な。他の奴を見てもエナジーは回復しない」

「その仕様にしたの、誰なんだろ。変態だな」


 だろうな。でもそんな変態のことはさておき。


 遺伝子テイムで、俺とアルキビアデスの違いを発見し、アルキビアデスの優れたところに俺の劣ったところを可能な限り似せていく。

 俺の遺伝子が段々書き換わってるのが分かる。


「ふう」と俺は一息つく。

「あれ?」と医神。

「……うれ、嬉しい……」


 俺の容姿は整った目鼻、顔立ち、スタイルさえ良くなってる。


 俺は泣いた。

 嬉しい。

 超絶イケメンではない。

 しかし、正統派系のイケメンに変化していた。

 努力が報われるっていいな。

 異世界で道テイムを持てて良かった。

 イケメンの遺伝子を参考に……俺は正統派イケメンに変化できた。

 ブ●ピくらいのイケメンに、俺はなれた。


「やっったああああああ!!!」と俺は腕を空に向かって掲げた。

 沢山の拍手と共に、俺に声がかけられる。

「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめっとさん」「おめでとう」「おめでとう」「ふん」「おめでとう」「ひぇっく、ひぇっく」「おめでとう」と海賊団アルゴナウタイ達が祝ってくれる。


 俺は嬉し泣きしながら、海賊団アルゴナウタイ達に向かって言う。

海賊団アルゴナウタイ達」

「「「「「「?」」」」」

「お前らの遺伝子を調べさせてくれ。俺が調べて、不細工遺伝子を解き明かし……イケメン遺伝子に変えてやるから」

「「「「「!!! うおおおおお! ま、お、う! ま、お、う!」」」」」


 俺と海賊団アルゴナウタイ達の心がセッションするのを感じた。


 同じ苦しみを持たないと理解できないかもしれない。

 だが俺はどこか確信染みたものを思った。

 人種とか民族とか国籍なんかより、顔面偏差値の方がずっと大事で、分かり合えることができるんだって。

 俺と海賊団アルゴナウタイ達は……同じ苦しみを抱えて、生きて、死んだのだと。

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