ドワーフギルド⑨ 〖勧誘〗
俺とソロモン王が部屋中央付近で睨み会っている。レギンとブーケが俺の隣に移動、彼女達は俺の近くにいた方が俺としても守りやすいから都合がいい。
「ソロモン王、お前は何が目的だ。何故、エヴォルを破壊しようとする」
〖……そんなことも知らないのか〗
ソロモン王は溜息する。
〖ロードロード、お前は……サキュバスに対して、どう思う?〗
「俺にとっては、レギンが全てだ。他のサキュバスのことは詳しく知らないし、思い入れもないな」
〖な、何……お前はそこにいる序列六位のことを好きなのか?〗
「あぁ」
〖か、可哀想に……コンクリートの塊に転生したなら恋愛なんて出来ないだろ〗
ソロモン王が俺を哀れむと、レギンが怒り顔で発言。
「ソロモン王、あたしはロードロードと付き合っている。あたしの彼氏を馬鹿にするな! 馬鹿だけど、賢いんだぞ!」
ソロモン王は今度はレギンの方を向いた。
〖な、何……付き合ってる!?〗
「あぁ」
〖レギン。こんな道の、どこを好きになったんだ?〗
「そ、それは……見た目とか」
〖一番有り得ないだろ!〗
「浮気しそうにないし」
〖できない、の間違いだろ!〗
レギンはもじもじとする。
外野のドワーフ達がソロモン王を見て神妙な顔でうんうん頷く。いや、頷くなよドワーフ達。傷つくぞ!
ソロモン王は、頭を押さえて俺の方を見る。
〖……ロードロード、お前、サキュバス族が人類の敵って分かってるか?〗
ソロモン王が言うと同時に、ブーケが魔力の籠もった蹴りを入れる。だがまるで効果がない。その体の膨大な魔力は、殆ど減っていない。
……俺はそれをスルーしてソロモン王に質問する。
「どういうことだ、ソロモン王」
〖サキュバス族は俺達の世界を破壊しようとしている〗
サキュバス族が、俺達の世界を破壊!?
俺は、驚愕した。
「それこそ、理解できない。どういうことだ?」
〖……何も知らないんだな。本当に使命もなく、この世界に転生したってことか? そんなの、ありえるのか?〗
「……? 使命がないとこの世界に転生できないのか?」
〖どうやら本当に『ここが何の世界か』、まるで分かってない様だな。ロードロード、レギンの背中にあるサキュバス族の黒翼を見ろ。それは特別な力があり、異世界を転移する力がある〗
俺はレギンの黒翼を見る。レギンは、悲しそうな顔で俺から目を背ける。
ブーケが俺に向かって叫ぶ。
「道さん、その、今は戦闘中です! 敵の言葉に惑わされないで!」
〖ブーケ。知恵テイムをやらないでやるから黙ってろ。俺はロードロードを……こちら側に勧誘したいだけだ〗
「それこそ、エヴォルが一番容認できないことです! とっとと消えて下さい!」
ブーケは頭を抱えながら、ソロモン王を睨む。
俺とソロモン王は、向き合い……ブーケをスルーした。今俺とソロモン王は戦いたい、という気分で無くなっていた。
〖ロードロード、お前は……国家をポルノが破壊するって分かっているか?〗
「ポルノが国家を破壊する?」
考えたこともないな。
〖俺は魔族の始祖、リリスを殺す。その為に来た〗
俺はソロモン王の言葉に魅入っていた。それはどこか、俺の心を掴む。この世界の秘密……成り立ち……大切な何かが含まれてるような気がしたのだ。
〖そしてそれは、俺の世界を救うことに繋がる〗
「どういうことだ? リリスを殺すと、なぜ俺達の世界が救われるんだ?」
〖簡単なことだよ。ポルノ産業が増えたら……少子化に繋がるんだよ。男も女も、基準が上がって結婚しなくなる。結果、人類は衰退する〗
まさか。
〖ポルノが発展する原因は何か? 短絡的に言ってしまえば、今はアメリカが原因なんだが……もっと言えばサキュバスだよ。俺達の世界に、この世界からやって来て、人の体力や精神を搾取する厄介な種族。しかもかなり美形なんだよな。並みの異性じゃ満足出来なくなるってほどに〗
俺はレギンを見る。その美しい顔の頬には、涙が流れている。ドワーフ達も、俯いている。ブーケは、歯軋りしている。
……どうやら、俺だけ知らない話だったようだ。真偽結晶など無くても、皆の反応で嘘か本当かなんて分かる。本当、なんだな。サキュバス族が俺の世界を破壊しているというのは。
だけど俺が気にするのは、ソロモン王の話より、レギンの顔だった。彼女が泣いてるなら、彼氏の俺が庇ってやらないと。話の本筋でなく、相手の人格批判をするとしよう。ごめん、ソロモン王。
「お前みたいに、亜人を人とも思わず知恵テイムで洗脳するような奴、信頼できない」
〖人類の為にやっているんだけどね〗
「俺の世界じゃ、人の肌の色で差別することを禁止している。お前の時代より進んでいるんだよ」
〖……それを、俺に語るか〗
ソロモン王が、どこか傷ついた様な、いらっとしたような声。
レギンもブーケも、ドワーフ達もキョトンとした顔になる。
だが俺は彼の気持ちが理解出来てしまう。
歴史を知っている俺だからこそ分かる。目の前の奴は、むしろ……イスラエル人以外も大事にしたからこそ、亡国になった王様だ。今の俺の発言は……不適切だった。
「言い過ぎたな。すまない」
〖謝る必要は無い。どうせお前は、歴史も……宗教も知らないのだから。俺のことを知る奴は、一般的ではあるまい〗
レギンやドワーフ達は、俺が謝ったのを意外に思ったのか動揺を瞳に映していた。
ソロモン王は、俯く。……ごめんよ、ソロモン王。少しだけ知ってる。
でも……今の貴方は俺の敵なんだ。彼女や国を庇う為に、誠実すぎる向き合い方はできない。
そしてだからこそ疑問に思う。『他宗教にさえ融和的だった王が、なぜ亜人を差別して殺すのか』。
俺は俯くソロモン王を注視。
〖サキュバス族は異世界転移して、俺達の世界にやって来ている。そして人の脳を破壊する。コンクリートの塊よ、次会った時は……お前がエルティア王国の味方になることを期待する〗
その言葉で、ドワーフ達、レギン、ブーケは一斉に戦慄する。その言葉が敵う時は、エヴォルの亡国を意味するのだから。
ソロモン王の分身の体が、突如として崩れ始める。
〖時間だ。元々、分身は最近出来る様になったスキル……今のスキル練度ならこの程度の時間しか保たないようだな〗
ソロモン王は自分の崩れていく紫色の手や足を見ながら、俺を見る。
〖ロードロード、お前の隠蔽スキルは凄いな。影だけは見えるからそこにいるのは分かるけど〗
色々聞かせて貰った礼なのか、俺は正直に答えてしまう。
「俺、隠蔽スキルなんて使って無いぞ? 多分お前の召喚が失敗して、なぜか俺だけ見えなくなってるんだよ」
〖何……ということは――〗
ソロモン王は絶句。俺は気にせず、彼に礼を言う。
「色んな話聞かせてくれてありがとな。でも俺はエヴォル。ソロモン王はエルティア王国。立場が違う……次会ったら、また戦うことになる」
〖ロードロード、お前が盲目で無くなるのを俺は心待ちにしているからな。いつの時代だって、恋は盲目だ。俺の次代もそうだった。恋から、覚めてしまえ〗
「ソロモン王、多分俺は……」
レギンを裏切るのはありえない。だって、コンクリートの塊である俺に、彼女になってくれるって言った狂人だ。その思いに、応えたい。
〖……何、俺はすぐそこだ。お前は戦場で戦ってる最中、いきなり裏切ってくれてもいいんだ。待ってるぞ。元人間なら、こっち側だ〗
ソロモン王の体はスライム状態から黒い土の塊へと変貌した。魔力を放っているが、人型でなくただの粘土の塊のようになっている。
俺は辺りを見回す。
瓦礫が物語る破壊の跡。そして俯くドワーフ達。放置された怪我人。
撃退したとは聞こえが良いが……被害は甚大だった。
どうやら、俺の出番はまだ終わっていないらしい。
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