ドワーフギルド⑥ 『ソロモン王』
ドワーフギルドは四階建ての吹き抜け構造になっていて、その一階中央に夥しい魔力の奔流が流れている。
そこにあるのは、紫色の人の形。顔はなく、ただシルエットのみが浮かんでいるようなのっぺら坊主。台車にはもはや魔力フンも、焼かれた灰もなく、そいつだけが偉そうに屹立している。
確かなことはただ一つ。エルティア王国軍の紋章が含まれた魔方陣から現れたそいつが、このエヴォルにおいて敵で無いとは考えられない。禍々しい魔力も、明らかに敵対的な印象を俺に与えた。
紫色の人型は、むかつく程に綺麗なイケボで呟く。
〖はぁ……漸く召喚成功か。スキル練度をここまで上げるのに苦労したが、今は成功を喜ぶべきなのだろうな〗
くすり、とそいつは笑う。そいつの周囲にはドワーフが十名ほど倒れている。そいつは倒れている周りの奴らを気にもせず、自身の手や足を観察している。
「な、何の騒ぎだ!? って、何だあいつは!」
ギルド長の声が上の階からする。この騒ぎだ。きっと孫と一緒に出てきたのだろう。
もはやギルド中が鍛冶作業を止めて、そいつを凝視している。
「な、何だあれは!」「人の形をした、紫色の……何だ?」「仲間が倒れてるぞ! 早く救出を!」「何言ってる、あの禍々しい魔力を見ろ! 下手に近づくと」
ドワーフ達が恐れている。無理も無い、魔力の感受性が殆どない俺ですら分かる。
こいつはヤバい。今までの敵とは次元が違う。
〖うるさいな、ドワーフ共。殺してやるから、黙っとけ〗
そいつは、普通の人の形――八頭身の成人男性の状態から、腕を生やした。十本。十本の腕を周囲に広げた。
その腕に、夥しい紫色の光が灯る。
レギンが汗びっしょりになって叫ぶ。
「皆、逃げろ! あれは、戦って良い存在じゃ無い!」
〖知恵テイム〗
異形の人型がそう言うと、十ある掌から紫色の閃光が放たれ、ドワーフ達に襲いかかる。
十名のドワーフ達が、妖しい光に包まれ、俯いて苦しみだす。頭を抱え、よく分からない言葉を話し出した。介抱するドワーフ達がいるが、どうにも出来ていない。
俺は思わず呟いてしまう。
「な、何だあれは」
俺が言葉を発したと同時に、異形は目も鼻も口もないのっぺら顔を俺に向けた。
〖おい、そこに……何か……誰かいるのか!?〗
俺は自分のことが言われていると感じだ。身長が低いから見えないのだろうか?
〖おい! 貴様、なぜ見えない!?〗
これだけドワーフ達がいて、囲まれているのにそいつはなぜか俺に意識を向ける。意味が分からない。
そいつの背後から、まだ動ける多くのドワーフ達が弓矢を射たり、ハンマーを投げつけた。
「喰らえ!」「この野郎!」「消えろ!」
罵詈雑言と共に、人型に攻撃が放たれるが――全て、すり抜けた。
俺もドワーフ達も呆然とする。レギンだけは、驚いてなかった。あぁいうのと戦ったことがあるのだろうか?
俺はレギンに質問。
「レギン、どういうことだ? なぜ攻撃が当たらない?」
「ロードロード、あれは完全なゴーストだ! 物理攻撃は通用しない! 魔力の籠もった攻撃か、対ゴースト用の装備を持って無いと、倒せない!」
完全なゴースト!? 俺は疑問を持ったが、そんな余裕は無かった。部屋の中央のそいつは、俺を見ている。ドワーフ達など、意に介していない。
〖ロードロード……そうか、噂のお前はそこにいるんだな〗
人型は俺に向かって話す。俺の道テイムがこいつに効くかどうか、試す必要があるだろう。物理でなくても、効くかもしれない。
〖聖女ジャンヌでさえ倒せず、今日エヴォルが存在している理由……ロードロード。エヴォル魔王軍、序列九位ロードロード・ドーロード、そこにいるんだな。破壊してやる〗
話し続けるそいつに、俺は意識を集中して、聞いた。いつでも道テイムが出来る準備をするのだ。
「紫色の人型、お前誰だ? いきなり来て、随分なご挨拶じゃないか」
人型は、俺の方への注意を一切逸らさず、答える。
〖俺はエルティア王国の王、ソロモンだ〗
「――」
俺は戦慄した。古代イスラエルを治めた伝説の王。そしてこの世界で、異世界転移者達を呼び出し、亜人国家エヴォルを滅ぼそうとする存在。それが目の前にいる人型の正体だと言う。その存在に圧倒され、俺は道テイムをするのを、忘れてしまう。
〖ロードロード。お前はなぜ、エヴォルに従う? 弱味でも握られているのか?〗
「弱味なんか握られていない。ソロモン王、むしろなぜエヴォルを滅ぼそうとする? 俺は俺に優しくしてくれた人達を守ってるだけだ」
〖人……ね〗
ソロモン王を名乗るのっぺら顔は、辺りを見回す。
〖亜人を、人と言うか〗
俺の言葉を認めない、という態度だった。言いたいことは理解出来るが、共感は出来ない。
「それの何が悪い? ドワーフギルドに来て、殺すだなんて言うお前に正義なんて無い。侵略戦争なんて止めてくれよ」
〖ロードロード、俺は……俺の世界を守る為に戦っている〗
「世界を、守る?」
どういうことだ? ソロモン王の世界って……俺がいた世界のことか?
〖それを壊すなら、誰であれ許さない。守る為なら、誰とだって組む〗
ソロモン王は、俺に向かって掌を向けた。その掌から怪しい紫色の光が発せられる。
「ま、まずい!」
嫌な感じがする。レギンが俺の方を向く。
「ロードロード、逃げて! あのスキルは、きっと相手を人間じゃなくしてしまう!」
人間じゃなくす? 既に人間じゃなくて道なんだが。またまた疑問だが、俺は意識をソロモン王の方に向ける。
今は他のことを気にしている場合じゃ無い。喰らったらヤバいってのは理解出来てる。
〖知恵テイム!〗
ソロモン王の掌から放たれた紫色の閃光、それは真っ直ぐ俺に直進してくる。
こうなればもう、やるしかない。その閃光と俺の間には道があると解釈。
ドワーフのギルド長は言っていた。『俺の発想次第で、道テイムはいくらでも強くなる』。それを信じて、俺は紫色の光に意識を集中する。あれは、道だ。
「道テイム!」
紫色の光と、透明なエネルギーの塊が激突する。
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