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ドワーフギルド⑤ 『異変』

 ドワーフのギルド長はカンカンだった。頭からは湯気が出てるのではないかと思う程だ。真っ赤になった顔と血走った目が俺を見る。レギンは溜息。俺と若いドワーフは苦笑である。


「貴様、俺達にパンツ作れだと? どういうつもりだこの野郎!」


 俺は正直に自分の気持ちを話した。


「え、でもストッキング作れるんでしょ? ならパンツくらい簡単では?」


「難易度の問題ではないわ! 俺達が何でパンツなんて作らなきゃいけないんだよ! お前、そのパンツをどうしようって言うんだ?」


「俺が見る為に、沢山の人に配ろうかなって」


 ギルド長は歯軋りをして、俺を大声で罵倒する。


「ふざけるでないわ! 誇り高き職人が、サキュバスロードであるリリス様ならまだしも、なぜお前の変態行為に付き合わねばならない?」


 だが俺も引けない。パンツが素晴らしいなら、俺のエナジー回復効果がより高まることが期待できる。これはマジで国益になる。


「俺には、真剣な理由が」


「クドいぞ! 男が言い訳などするなど笑止千万!」


 あ、これ話聞いてくれない流れだ。後ろ盾を言うしかない。


「ガンダールヴ様も、俺のパンツ覗きには賛成してくれて」


「パンツ覗きに、魔王が賛成!?」


「はい」


 呆然とするギルド長。俺はもしかしたら、魔王の命令なら聞いてくれるかな……と淡く期待したのだが。


「あの馬鹿、何しているのだ?」


 ギルド長は頭を抱えた。さてはこの爺さん、俺がパンツを見てエナジーを回復するのを知らないな?

 俺に若いドワーフが頭を下げる。


「す、すみません。道さん、俺のじーじは世情に疎くて」


 彼が俺に頭を下げるのを、ギルド長は舌打ちした。パンツ覗きする変態に、自分の孫が頭を下げるのが面白くないとか思っているのだろうな。


「孫! 世情とか関係あるか? パンツだぞ、パンツ! 長年鍛冶をやって来て始めての提案だわ。むかついた。ドワーフにパンツ作れって言ったのはきっとお前が初めてだよ!」


「そりゃ光栄だな」


 パンツを愛する人間として光栄の極みだよ。人間ってか道だけど。


「っけ、むかつく道野郎だ。俺はちょっと休憩に酒飲んでくる!」


 ギルド長が階段を上って行くと、彼の孫が呼びかける。


「じーじ、俺からも頼む! 道さんの為に、パンツを作ってあげてくれ」


 階段を登っていく小さな老ドワーフは振り返り、悲しみのこもった声で言う。


「孫、見損なったぞ」


「話を最後まで聞いてくれ」


「後でな! 俺が飲み直してリラックスするまでお前が現場を回せ! 嫌な客が来たもんだぜ」


 ギルド長は俺達と逆方向を向いて、また階段を登り出す。

 だが俺の心は安堵していた。俺はギルド長に向かって、 


「嫌な客、か。一応、客として見てくれるってことは……ギルド長、パンツ作ってくれるってことでいいのかな?」


 彼はもう三階まで登っていたが、振り向いて応えてくれる。


「ぐぬぬ。断る! ガンダールヴめ、何様のつもりだ! 俺が不器用なあいつに合わせて人体の叩き方を教えてやった恩を仇で返しやがって。こんな変態野郎を序列九位にしてここに寄越すとはな!」


 三階の高さにいるギルド長はぎらりと一階で生コンクリート状態の俺を見る。やれやれ、見下ろされるって相手が美少女じゃないと楽しくないね。


「え、魔王様に木槌マッサージを教えたってことか?」


「そうだよ。あいつは変わり者でな? ドワーフなのに人体を整えるのに興味を出しやがった。てんで使い物にならないあいつを一人前に育てたのは俺の仕事だ」


 ぐびっと水筒の中の酒を豪快に飲む。昼間っからあんなに酒飲むのかよ。俺は彼の飲みっぷり凄いと思った。


「あばよ!」


「ギルド長」


「何だよ、道野郎!」


「ぶっちゃけあの木槌マッサージは気持ち良かったのでそれを教えたのが貴方なら、感謝してます」


「な、何……」


 彼は意表を突かれた、という感じに目と口をぽかんと開けた。


「ありがとうございました」


「……」


 ギルド長は頬を緩ませた。


「ふ、ふん。そんなに褒めておだてても、別にパンツなんて作ってやらないんだからな」


 ギルド長は四階に着くと、バタンと扉が閉まる音と共に姿を消した。


「あぁもう、じーじはあぁなると長いんだ。すみません道さん」


「良いってことよ」


「俺、呼んで来ます」


 若いドワーフは階段を駆け上がり、四階へと向かった。彼とギルド長、全然性格違うな。物腰の柔らかさが別物だ。

 俺は隣にいるレギンに目を向ける。


「さて、レギン。どうしようか?」


「どうしようね。もう、ロードロードったら。パンツなんてどうでもいいのに……」


「ごめん、俺がパンツ作ってくれって言ったばかりに」


「あはは。許す。でもドワーフギルドに行け、なんて魔王様も変わってるよね」


「変わってる?」


「うん。ロードロードの能力を活かすなら普通は兵站将軍ヒポハスさんのところに行くはずだもん」


 俺は筋骨隆々のケンタウロス族おっさんを思い出した。


「兵站将軍ヒポハス……ブーケの父親か。最近会ってないな。でも道テイムと兵站の方がドワーフギルドより相性良さそうってのは理解できる」


「でしょ? それに、最近の魔王様はヒポハスさんと凄く打ち合わせしてるの。なんでも内戦戦略とか輸送網の大規模な作戦を考えているらしいよ。あんな難しい話、いきなり言われて対応出来ると思えない。ロードロードはドワーフギルドより物流センターに行くべきだね。そこならケンタウロス族と打ち合わせ出来るから」


 レギンの言葉に俺は驚き、聞き返す。


「な、内戦戦略だと!?」


 俺の声にレギンが目を大きく見開く。


「う、うん。それがなんだか分かるの?」


「あぁ……確かにそれが出来るなら、エルティア王国からの侵攻をより効果的に対応可能になるだろう」


「へー、どういうものなんだ?」


「その内説明するよ。まぁ、魔王からも説明するだろうけどな」


「楽しみ……だけど、今ギルド長いなくて暇だし、簡単に教えて貰える?」


「えっとだな……多分だけど、俺の道テイムを積極的に使って人員の局地的な集中を正しく行うんだと思う」


「よく分からない。具体的には?」


「以前エルティア王国軍が北からロビンフッド、シモ・ヘイヘとゴブリン、西からエルティア王国軍って感じで二方面から攻めて来ようとしただろ? 多分ジャンヌはどっちも援助出来る様に中間にいたと思うんだ」


「あったね。ジャンヌは北よりだったと思うけど」


「あの時、もしも全軍を北に展開したらどうなる?」


「そりゃ、北の敵はやっつけ易くなるけど西の敵は放置状態なんだから侵攻を許してしまうよね?」


「そうだ」


「じゃあ、ダメじゃん」


「だがもしもケンタウロス族の軌道と、俺の道テイムがあればどうなる?」


「え?」


「一斉に異世界転移者に攻めて来られたら大変だった。だが、一人ずつならどうだ? 三人相手にするよりジャンヌだけとかロビンフッドだけとかのがやり易いだろ」


「うん。まぁ、ジャンヌはもうあたしより絶対強くなってるけどね。ロードロードとかブーケじゃないと倒せないよ」


「それはそれとして、まぁ……敵はちょっとずつ相手にする方が一度に大勢戦うよりずっとマシだってことだ」


「それは分かるよ」


「内戦戦略ってのはきっと国内の輸送網を整備する。そして迅速な軌道で敵軍を打開するって凄い戦法だ」


「よく分からないよ」


「……敵が攻めてきたら、ケンタウロス族と俺の道テイムを使って連携してない敵を各個撃破していくって感じ。あるいは連携前に敵を各個撃破、でもいいかな?」


「あぁー、それならギリ分かる!」


「分かってくれたか」


 レギンって戦うことは出来るけど戦術や戦略は分からないんだろうか? 戦力としては優秀だけど、将としてはまだまだな感じなのかな?


「ロードロード、頭良いね」


「道、のことなら少しは任せろ」


「あははは、自慢の彼氏だ」


 俺とレギンが会話に花を咲かせる。


 レギンは軍人だからか、俺の会話についてこれている。転生前の俺はこういう話題を女子に振りはしなかったけど、振ったとしても相手にされなかっただろう。


 あははと笑うサキュバスは、きっと俺が前世孤独だったのを感じていない。俺は密かに、目の前の幸運に感謝した。

 この世界に生まれてきて良かった。


 そして俺はふと気付いた。

 臭さが、弱っている。ドワーフの処理が済んだのだろうか? あれだけの質量をすぐに済ませるなんて、流石ドワーフ。


 俺はちらりと目配せする。魔力フン……ドラゴンウンコを見ると、うっすらと光輝いている。

 ウンコが、光る?


 周りにいるドワーフ達は、ぐったりしていて柱や壁に寄りかかっていたり、床に寝そべっている者もいる。明らかに異常な光景だ。

 良くない予感がした。


「おい、レギン」


「何だ、ロードロード」


 レギンはキョトンとした顔で俺を見る。


「ドラゴンウンコ、光ってないか?」


「え」


 突然、巨大な赤い光芒が、ドラゴンウンコに出てきて、赤い魔力がドラゴンウンコを燃やしていく。燃え上がり続け、ドラゴンウンコは灰になった。


「燃えた? あれって、ドワーフの処理技術なのか?」


 俺が眉を顰め、レギンに聞く。レギンは冷や汗を浮かべ、


「違う! ドワーフは……あぁいう風に魔法を使わない! あれは、魔術師の着火法だ!」


 そして大きな灰の塊にもう一度、魔方陣が描かれた。その魔方陣の一部に使われている紋章に見覚えがあった。あれは。


「気をつけろ、ロードロード! あの魔方陣は……エルティア王国のものだ!」


 レギンの叫び声と共に、魔方陣が紫色に光輝き、巨大な爆音が轟く。まるで大量の爆竹が同時に爆発した様な、そんな音だった。そして俺は、この世界に来て初めてかもしれない恐怖を感じた。


 灰から立ち上る白煙が紫色になり、人型の形へと変貌する。

 それは、魔力を殆ど感じないはずの俺にさえ、禍々しい膨大な魔力を持っていると確信する程の密度と量だったのである。

 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


 ★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。


 下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。


 何卒、よろしくお願いします。

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