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ドワーフギルド① ドワーフ達の職場

 ドワーフギルド。

 その内装はまさに中世ヨーロッパの工房といった感じだった。そして何と四階建ての吹き抜け構造になっていて、各作業場が一望出来る。しかし風通しは余り良くない。辺りには凄いハウスダストが舞っている。


 レギンが咳き込む。このハウスダストなら無理も無い。


「げほ、げほ」


「レギン、大丈夫か?」


「うん。慣れてるから」


 レギンは服の中に手を入れ、胸をまさぐってマスクを出した。


「レギン、どっからマスクを出してるんだ?」


「ブラジャーに仕舞ってあるんだ」


 ポケット代わりにブラジャーを使うとは……レギンの胸は大きいけど、もしかしたら詰め物が多いのだろうか? いや、全身マッサージを受けた経験からすればあの胸は本物だ。軽い小物程度しか入れてないのだろう。


「っていうか、よくブラジャーをポケット代わりに使うよな」


「あー、よく驚かれる。サキュバスなら常識なんだけど」


「凄い常識だな……」


「ロードロードはハウスダスト、大丈夫だよな?」


「う、うん。コンクリートの塊だからな」


 俺には鼻がないのだ。だから埃が鼻に詰まるとかはありえない。


 俺は改めて、ドワーフギルドの内部を見渡す。

 百名以上のドワーフ達が、作業している。

 鍛冶職人が剣や弓の矢先、金属製の武具が作られている。農具や鉱石なども扱っているようだ。沢山の竈や木炭や石炭やコークスがあり、鋳造の為にドワーフ達が思いっきりハンマーでごんごんとうるさく叩いている。


 喧騒。俺は不思議とそのうるささが嫌いになれなかった。


「これが、ドワーフギルドか……」


「? 興味あるのか?」


「いや、異世界に来たって感じがなんか今更して、凄くいい」


「えー。魔王城とか……エルフとかサキュバスよりドワーフギルドのが異世界っぽいのか?」


「んーとな」


 俺は思ったことをそのまま口にした。


「俺は記憶が朧気で、前世のことを余り覚えていないんだ。だけど確かに分かるのは……こういう鍛冶技術とか現場作業は俺のいた世界の時代ではないな。ハンマーで焼いた鉄を叩いて剣を作るなんてしてるのはきっと一部の伝統文化とかじゃない限りありえない」


「あー、色々と機械化されてるって聞くね」


 下手したら俺の世界の常識、レギンのが詳しいかもな。


「うん。しかもその鍛冶をやっているのが……」


 俺は作業している亜人達に眼を移す。


 ドワーフ。

 胴長短足でたくましい筋肉を持ち、頭と手と足裏が大きい。殆ど男なのだろうが、おばちゃん的な人が助手として働いている。まさに職人的な種族だ。


「っくぅ~、なんか良いな」


「ロードロードってあたしとパンツ以外にも心動くんだな」


「まぁな。だけどレギンとかに向ける心とは違うな」


「どう違うんだ?」


「やっぱ付き合いたいって感情と、知的好奇心がくすぐられる感情は違う。ドワーフが実際に鍛冶やれてるのは博物館で味わうような感情だからさ」


「博物館か……そういうの、この国には無いから人間の世界の博物館って憧れるな」


 レギンは少し悲しい眼をする。


「サキュバス国にはあったのか?」


「沢山あったな。だけど下級サキュバスが入れるのはサキュバスらしい博物館なんだ。異文化って感じのは何もないよ」


 サキュバスの博物館か。やばそうなとこだな。


「人間が初めて使った石鹸は肉を焼いた灰に肉の脂が落ちることで出来たとか」


 レギンは懐かしいように笑顔で話す。聞く限りならすげえ面白そうだなサキュバス国って。


「後は媚薬の歴史とか。チョコレートとかもあったな」


 いや、本当に行ってみたい。聞けば聞くほど単純に博物館として行ってみたくなるな。結婚の挨拶をする必要はあるだろうけど、観光目的も視野に入れておこうっと。


「ロードロード。エヴォルは弱小国だ。そしてお金もないから博物館一つ建てられない。建築技術はあるのにな。ドラゴニアやエルフ国やサキュバス国は大国だから、いつか一緒に行けたら行こうよ」


「そうだな。是非行ってみたい」


 くすり、とレギンは笑う。


「不思議。博物館なんて勉強の為に行ってて退屈気味だったのに、彼氏と一緒に行けるなら凄く楽しみ」


 レギンは上機嫌そうだ。俺もただでさえ楽しそうな博物館がレギンと一緒なら尚のこと楽しめそうで嬉しい限りである。


 俺とレギンが笑い合っていると俺達から見て右側の壁の真ん中にある大扉が開いた。恐らく、搬入通路だろう。高さ五メートルくらいありそうな巨大な長方形の白い布に包まれた物資が台車に引かれて入って来る。台車を引いているのは桃色の短髪と瞳を持つケンタウロス族の……なんとブーケだった。


「ドワーフギルドの皆さん、お待たせしました! 例の品、届きましたよ!」


 腕章を付けた現場監督的なドワーフが恭しくブーケに一礼し、挨拶する。


「おはようございます! ブーケさん、資材の搬入、いつもありがとうございます!」


「いえ、これが私の仕事ですので」


 ブーケは軍人らしい敬礼をする。彼女は序列三位なのだが、基本的には誰にでも明るく丁寧に話すのでやはり好感が持てる。ビッチエルフにだけ厳しい時があるが、それも軍人としての正しさがないときなのだろう。


「疲れているでしょう? ブーケさん、どうせなら休んでって下さい」


「いえ、仕事が溜まってるので、私はすぐに帰ります」


「休憩室には上質の人参と人参ジュースがありますよ」


 彼女の硬い笑顔が、少女らしい柔らかい笑顔になる。本当に嬉しいのだろう。


「少しだけ、休憩しましょう」


 と、ブーケは飲食に釣られてとことこ休憩室があるという部屋のとこまで向かった。彼女も欲あるんだな……。

 搬入された物資が台車ごと一階の中央部分に運ばれる。俺はその包まれた資材を見て、嫌な感じがした。

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