無給の『道』は、給料を要求する
朝日が射す俺の部屋。
魔王城近くにある女子寮の倉庫ではなく、魔王城を中心に対称的に位置する資材倉庫が俺の寝床となっている。俺が人間の体なら抗議しただろうが、このコンクリートの体ではどんなハウスダストがあっても気にならないので、不自由はしていない。
元々倉庫だったこともあり、色んな物が置かれている。
俺は部屋の中央で、目覚める。この世界に来た当初は睡眠などしなかったが今では普通にするようになった。とは言っても、五時間くらいだが。
「さて、移動するか」
俺が生コンクリートになって移動しようとする。
こんこん、とノック音が木扉からする。
「はい、誰ですか?」
「ロードロード、レギンだよ」
「レギン?」
なんだかんだ、彼女がここに来るのは初めてだった。
「入っていい?」
「ま、待て」
散らかってる部屋を彼女に見られたくない……片付けとけば良かった。
ガラララララ、と木扉が開けられる音がする。っておい、待てって言ってるのに開けるとかどこのラノベ主人公だよ。こうなったら、仕方ない!
「道テイム!」
レギンが扉を開けるのと同時に、俺は道テイムでハウスダストを徹底的に地面の下に配置した。道テイムはもはや、床にさえかけられるようになっている。
何と言うことでしょう――、
散らかった数々の資材は整理整頓され、舞っていたハウスダストは全て地下に排除され、汚い倉庫はまるで新品のように――、
「劇的、び○ぉーあふたー!」
「何言ってるんだ、ロードロード?」
「えっとね、その……」
レギンにこのネタは通じなかったか。
レギンは周囲をちらちらと見回し、驚いていた。
「しかし、凄いな、この掃除……一瞬じゃ無いか」
確かに凄いな。道テイムって凄い便利。俺いればルンバいらないくらいの鮮やかな感じがする。
「へへへ。これがロードロードの新しい部屋か……なんか、殺風景だな。ロードロードらしい部屋って感じがしない」
レギンは笑顔だったのが不満そうな顔に変化する。
「そうか?」
「うん。もっと自分の私物とか置かないの?」
「俺、この世界で買い物とかしたことないな」
「そっか。給料貰ってるの?」
「いや、貰ってないぞ?」
「えええええええええ!?」
レギンは目と口を大きく上げて、呆然とする。
「そんなに驚くことか?」
「お、驚くよ。どれだけ貢献してきたと思ってるの? 無給はありえないよ」
「でも金の使い道なんてないし……」
道だけに、な。
「あるよ!」
レギンは潤む瞳で言う。
「ロードロード、あたし達の結婚式の費用はどうするの?」
「え……」
「知ってる? ロードロードの世界って、アメリカ人は給料一ヶ月分、日本人は給料三ヶ月分の婚約指輪をするんだよ?」
「何でそんな偏った知識知ってんだよ」
「知り合いのサキュバス達が話してるの。異世界転移してたから、そういう知識を仕入れてくるの!」
っち、知り合いのサキュバス達め……余計な知識を喋りやがって。
「俺の給料三ヶ月分か、どんな指輪になるんだろうな?」
「えっとね、ロードロードの一年の働きでエヴォルの国家予算約四十年分の働きになるから……」
「そう考えたらやばいな、俺の仕事ぶり」
「うーん、多分……エヴォルの国家予算十三年分くらいになるんじゃない?」
「果てしないな……」
レギンはもじもじする。何を考えているんだろう?
「あのね、その……良い難いんだけど」
「うん」
「あたし、ロードロードを他のサキュバス達に自慢したい」
自慢できるような彼氏か? 俺……。
「だから金の稼ぎで、見せつけたいなって思って」
そういうことか。まぁ、女性なら結婚とか婚約指輪に憧れるのは当然だ。しかし、婚約指輪の値段がそのまま数字の戦闘力としてマウンティングに使われてしまうのは、この世界でも変わらないようだ。
「私ね、もしロードロードの世界だったら、ハリーウィンストンの指輪を欲しがってたよ」
えぇ……港区女子じゃあるまいし……。
「そ、そうか」
「うん。素敵な婚約指輪、欲しい」
レギンが俺をじーっと見る。きらきらした眼はまさにプレゼントに期待一杯と言った感じだ。
ここでOKしなきゃ男じゃない気がする。
「分かったよ、魔王様に給料を求めてみる」
「うん、それがいいよ! っていうかあたし、ロードロードを呼んでくるように魔王様に言われて来たんだ」
「そっか。じゃ、魔王城に行くか」
「うん!」
こうして、俺とレギンは魔王城に行くことになった。
魔王城。玉座の間にて、魔王ガンダールヴが俺とレギンを見下ろす。
俺とレギンはいつも通り魔王の前に位置し、お辞儀。
「ロードロード、いつもありがとな」
「はい」
「お前の優先順位はエヴォルよりレギン……正直、それは残念だ」
「そうですか」
「心底、心底残念だ」
くどいな。魔王様はどうやらそれを懸念してるらしい。だが知ったこっちゃない。なぜ俺が命をかけて恩もない国に尽くす必要があるのか?
全てはレベルアップの為だった。あと社会勉強。レギンがいなければとっくに外国の情報を収集する為に旅に出てるよ。俺、ご飯はいらないし。……パンツ覗きは必要なんだけどな。
魔王は頭を抱えて、苦笑しながら言う。
「今日はな、お前に任務を受けて貰いたくて呼んだのだ」
「任務?」
「あぁ」
ガンダールヴは頷いて言う。
「ドワーフギルドと大工房を整理整頓して貰いたいのだ」
ドワーフギルドと大工房……か。イメージは何となくつくが、初耳の場所だな。
「ドワーフギルド、と大工房ですか?」
「あぁ。頑固職人の組合と、その職場だな」
「それは分かりますが……なぜ俺に?」
魔王は神妙な貌で俺を見る。
「頑固なあまり、職場の物を勝手に触って欲しくない奴らなのだ。職人気質で気難しい奴らだ」
「はぁ……」
「そこのギルド長はドワーフロードである余の言うことも聞かぬ」
「えぇ……魔王なのに?」
「余は甘いからな。無理矢理他者を従わせようとしないから反対されるとそのままにしてしまう」
確かに、それは甘いな。魔王ならもっと恐怖政治やっても良い気がするが。でもこの人の甘さのお陰で俺も色々と優しくされてるからあまり攻められない。
「そこでロードロード、お前に任務を言い渡す。ドワーフの大工房を整理整頓してくれ。これは必須だ。お前の道テイムなら多分掃除も出来るだろう」
「でしょうね」
というか、今朝やってきたしな。
魔王ガンダールヴは明るい笑顔で話す。
「そして可能なら、お前が大工房を見て……人員整理さえ指示してくれて構わない」
そこでレギンが険しい顔でガンダールヴに言い返す。
「お言葉ですが、魔王様……ロードロードには荷が重いのでは? だって来たばかりですよ?」
「レギンよ、お前は自分の彼氏がどんな奴だと思う?」
「世界一良い男です」
「であろう? 余もそう思っておる」
急に絶賛された。何これ、嬉しい。へへへ!
「能力は素晴らしい。燃費もいい。女にスケベなくせに無理矢理はしない。そして敵軍を恐れぬ勇猛果敢な精神! ロードロードは素晴らしい!」
「あははは、あたしもそう思います」
レギンも俺も、魔王も笑顔になる。魔王は、失言をする。
「おまけに、給料もいらない!」
普段より一段階増したような笑顔。俺はそこで生コンクリート状態になって、挙手する。
「あの、魔王様」
「何だ、ロードロード?」
魔王ガンダールヴの満面の笑みを壊すことになるとは分かっていた。しかし、やらざるを得ない。
「俺、給料が欲しいんです」
「――、今、なんと?」
魔王様の笑顔が張り詰めた様に硬くなる。可哀想な感じがした。
「給料が欲しい」
「……」
「今まで働いた分、貰えますか?」
「……」
ドワーフロードは険しい顔で、天井を仰ぎ見た。
嫌がってる。魔王様……いや、魔王の奴、嫌がってやがる!
明らかに給料払いたくないのに、理由を考えてる顔だ。どうせ払うべき精神と払いたくないという欲の葛藤がせめぎ合っているんだろう。
あ、冷や汗かいてる。って、凄いかいてる。まぁ、気持ちは分かる。
国家予算三十九年分のインフラ代を結局俺に払わなきゃいけないなら膨大な金額になる。断れば俺は他国に行く……というのも、まぁこの魔王なら想像出来るだろう。
「う……」
魔王は貧血を起こしたように、玉座に倒れ込んだ。
「魔王様、考えといてくれ。無給は嫌だ。取りあえず、俺はドワーフギルドに行ってくるよ」
「う、うむ……」
側近のドワーフ大臣が駆け寄り、泣き顔で魔王を介抱する。無給と言うなら、同情出来ないな。
側近の肩を借りて魔王は俺に疲れた顔を向けた。
「ど、道理であるな……ロードロード、お前は、何も……何も間違ってはおらぬよ」
その眼はうるうると滴ってる。可哀想、ではある。しかし俺は給料を求めていいはずだ。
「ただ余が、間違っていただけなのじゃ……」
俺は軽い感じで返答することにする。
「じゃ、給料の件、よろしくお願いします」
「う、うむ……」
俺がレギンに目配せすると、彼女は笑顔で頷く。
「楽しみだね! ロードロードのお給料! きっと城が買えるくらいの月給を貰えるよ!」
「ははは、そうだと良いな」
俺とレギンは魔王城の石扉を開けて出て行く。
後ろから「魔王様、お気を確かに!」とドワーフ大臣が嘆く声が聞こえるが、取り合えず棚上げしていいやと思って階段を何食わぬ顔で降りるのだった。
もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。
★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。
下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。
何卒、よろしくお願いします。




