テムジン:チンギスハンの幼少期
「っぐ」
大地が焼き焦げるかのような高温。
いや、実際に焼き焦げている。
«聞いていた通り、しぶといなぁ»
その綺麗な声は、不満げなど一切無く、むしろ嬉しそうだった。
«そうこなくっちゃ»
俺はどうやら炎でダメージを負わないらしい。
俺のコンクリートボディに損傷は一切無い。
チンギスハンを見ると、その白い魔力はもはや風前の灯火だった。
〖っち、あの野郎……邪魔しに来やがって〗
チンギスハンは体の損傷を気にした素振りが無い。
どれだけ体が燃えていっても、掌の丸い魔力の塊を優先して魔力を込めているようだ。
〖おい、ロードロード。朕はもう保たぬ〗
「――」
〖これを道テイムしろ。きっとお前なら……一瞬で把握出来る〗
俺がちらりと周りを見れば、周囲の炎が邪魔でレギン達を視認することができない。
それどころか……多少は感じたはずの魔力の気配が一切感じられない。
「まさか、皆」
死んだのか?
そう思った。
すると、チンギスハンに弱々しい力で殴られる。
〖……これを道テイムしろ。この攻撃は……マケドニアの大王の攻撃だ〗
「――」
アレクサンドロス大王か!
ってことは、あの声の主は本人……。
〖さっさとやれ。朕の話を聞いてくれた礼に、素晴らしい力をやる。これでお前は……相手の記憶を道テイムできるようになるはずだ〗
!?
それは、イエス様が俺にやった力と同じ力の筈。
……なぜチンギスハンがそれを使えるんだ?
いや、今は良い。
もはやチンギスハンの体は十秒も保つまい。
黄金の魔力がどんどんチンギスハンの魔力を消滅させていってる。
「道テイム!」
俺がスキルを発動させると、俺の視界は暗転し――真っ白い意識空間へと移動した。
……ここは?
普段俺がアダムやイエス様と出会う場所か?
だが、あそこは基本的に黒い。
だというのに、真っ白じゃないか。
真っ白な意識空間には何もなく、ただ俺だけが存在している。
すると、目の前に破いた風景画の一部――そういった情景が現れた。
ビリビリと紙を破いたような転移門、と言ったところか。
俺がそれを除くと、上からチンギスハンの声がした。
〖そこに入れ、ロードロード〗
……怪しい。
「罠じゃないのか?」
チンギスハンの姿は見えないが、奴が溜息をつくのが聞こえた。
〖そんな力、残されておらぬ。お前に朕の記憶をプレゼントしようとしているだけだ〗
……。
本当かな。
〖後ろを見て見ろ〗
俺が振り返ると、そこには黄金の魔力が浸食してきていた。
ゆっくりだが確実に、白い意識空間は終わりを迎えようとしている。
〖悪いが、長い時間は与えられぬ。朕の残り時間は少ない。あの黄金の魔力が全てを浸食したら、朕は何もお前に渡せなくなる〗
……仕方ねえな。
俺はぬるぬると動き、前に向かう。
すると、転移門? の中に入って俺の体は――寒々しい、モンゴルの草原に着いた。
少し雪が降っている。
目の前に、幾人かの男がいる。
こいつらは誰だ?
〖ロードロード、そこにふてぶてしい子供がいるだろ。可愛げがあまり無さそうな奴〗
チンギスハンが言ったように、怯える子供が一人いた。
「そこまで可愛げがない、と言えるか?」
〖言える。あいつ、幼少の朕だ〗
!?
〖皆にはテムジンと呼ばれていた〗
……自分の幼少期をディスって紹介するとは何て男だ。
目の前の男達は談笑し、焚き火をしながら酒を飲み交わしている。
寒いのか、幼少の草原覇者はぶるぶると震えている。
「イェスゲイ殿。我々の酒を飲んでいただき、ありがとうございます」
大きな体躯の男がそう呼ばれていた。
巨漢はガハハ、と大柄に笑う。
「良いってことよ。我らは同じモンゴルの民! 時には無礼講」
男達の雰囲気は和気藹々といった様子。
……だが、何となく予感できる。
きっと良い記憶ではないのだろう。
イェスゲイの服を、テムジンが引っ張った。
「父上。危ないよ」
ガハハ、と笑ってイェスゲイはテムジンの頭を撫でてる。
「テムジンよ。我々モンゴルの民は……時に殺し合い、時に酒を分かち合う。そういうものだ」
「でもあの人達、目が怖いし……なんか黒い感情を感じる。嫌な感じがする」
「――それが、分かるのか?」
イェスゲイの目は大きく見開かれ、テムジンは頷く。
「あの人達、なんか怖い。多分、お酒……飲まない方が良いよ」
「……」
イェスゲイは押し黙り、神妙な顔で自分に注がれた酒を見つめた。
その反応で、イェスゲイはびくっとした。
「……すまぬ。こうして無礼講の席の場を設けてくれたのはありがたいが……私は用事を思い出した。帰らねばならぬ」
イェスゲイは軽く頭を下げ、多少の言葉を言った後にすぐに馬に乗り離れて行った。
そして、俺の景色はイェスゲイに合わせて自動で周りの景色が動いていく。
「父様大丈夫?」
「……テムジン、教えてくれてありがとう。お前には……巫術者の才能があるのかもな」
「巫術者?」
イェスゲイは真顔で、どこか遠くを見るような真剣味があった。
馬が駆けていき、集落が見えた頃だった。
「……テムジン。今まで色々、父親として面倒を見てやれなくてすまないな」
「いいよ、御父様は忙しいから」
テムジンはそう言う物の、ほんの少し……注意して見れば気付くレベルで口角が上がった。
分かりにくいが、父親と出かけられて喜んでいるらしい。
「お兄さんと仲良く出来るか? 母親が違うから、諍いがあるだろう?」
「……兄さんは僕のこと嫌いだと思う。だけど、いつか仲良くなれるって信じてる。だって同じ父上の子供だもん」
「そのふてぶてしい顔で、そんなこと考えてたのか」
「あ、父上。酷い」
テムジンの頬がよく見れば少しふっくらした。
……感情表現の乏しい子供だな。
確かにふてぶてしいと言われるだけあって、顔の変化に乏しい。
集落の前に馬が着き、テムジンとイェスゲイが下馬する。
その頃には雪が激しくなっていて、軽く積もっていた。
テムジンは体を擦りながら「寒い寒い」と言ってモンゴル式テントハウスの中に入ろうとする。
イェスゲイが強張った顔で家に入ろうとするテムジンに、
「テムジン。強く生きろ。でなければ……お前は……」
ドスン。
イェスゲイが倒れた。
テムジンが振り向いて、イェスゲイの元に近寄ってくる。
「父上?」
イェスゲイの目は死人のそれだった。
その口からは、どくどくと血が出て白い雪を赤く染め上げてる。
テムジンは慌てふためきながら、「母さん!」と言って家の中に入っていく。
俺はそれを見ながら、「これって時間大丈夫かな? 外で戦闘中だろ?」と思った。
すると、〖こちらの時間の方が早く進んでいるから大丈夫だ〗とチンギスハンの声がして、納得するのだった。
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