魔王ガンダールヴが『道』にマッサージする~ドワーフロードの木槌は心地良い
一眠りした次の日の朝。
俺はまたもや、魔王様に呼び出しをくらった。またどこか道テイムして欲しいのだろうか……と思いきや、どうやら別件らしい。
魔王様は俺に深刻な面持ちで話しかける。
「また呼び出してすまないな」
「いやいや」
「ロードロードよ、余は不安なのだ」
「不安?」
魔王が不安? 一体どういうことだろうか?
「お前、余に嘘ついてないか?」
「嘘?」
「シルクロードって、本当にお前の世界にあったよな?」
「あぁ」
それに関しては嘘なんてついてない。余計なことを話して無いだけだ。俺はこの世界での処世術を身に着けつつある。
魔王は懐から真偽結晶を取り出し、ガン見。俺も内心はドキドキするが、真偽結晶はひかってい無い。
「それってやましい目的の為に建てられたりしてないか?」
「建てた人は、国を発展させる為に作った」
真偽結晶は光らない。嘘はついていない。自分の目的を話してないだけだ。
「本当か?」
「あぁ」
魔王は真偽結晶をガン見。っち、流石に堅苦し過ぎて息苦しいぜ。
「……。疑ってすまない」
「魔王様、気にするな」
「我々の関係に、これは無粋のようだな」
「……」
魔王は懐に真偽結晶を仕舞うと、溜息をついた。
「怖いのだ。ロードロード……お主が道テイムを出来る以上、お前がシルクロードを自在に扱うことになるということは、我々の生殺与奪がお前に与えられるということだ。お前はいつか……あるいは既に、我々全員が勝てない程の強大な魔物になってるのじゃないかと思ってるのだが」
俺は恐れられているらしい。
かと言って俺はレギンとパンツ鑑賞以外興味ないんだが……。
「もっと取り返しの付かない魔物になるのではないか、とな」
魔王はじーっと俺を見る。
「今のところ、そんな予定ないです」
「今のところ?」
「エヴォルが俺に酷いことをしない限り、俺はエヴォルに手を出しません」
俺は元人間だ。いつか魔王様達が心変わりして、俺を殺そうとしないとも限らない。だからそう思うのだ。まぁ、前世交友関係が得意じゃなかったからこう思うのかもな。
「……まぁ、嘘は無いし、いいだろう」
魔王はごそごそと懐を漁り、真偽水晶を取り出した。
「魔王様……それは俺にとって忌むべきアイテムだ。俺がいた世界ではプライバシーや黙秘権ってのが尊重されていてな?」
「言いたいことは分かる。だが、大切なことだから使わざるを得ない。シルクロードとは、お前の前世にあったものだな?」
「はい」
「やましい目的の為じゃ無いな?」
「これを考えた人は、やましい目的の為じゃ無かったと思います。そして、これをそのまま実装するのに異論はありません」
「ほう……」
魔王は真偽水晶をじっと見る
「よし、お前に嘘はないようだ」
危ない危ない……。どうやら疑いは晴れたようだ。まぁ実際は俺が美少女パンツを鑑賞する為の計画なんですけどね? へへへ。
魔王は木槌を取り出した。そして俺に笑顔で近づいてくる。
な、何をする気だ!?
「おい、ロードロード、マッサージしてやるよ」
「ま、マッサージ?」
「疲れてるだろ? 戦闘は任せきりだから、そのくらいさせてくれ」
「まぁ、いいですよ」
魔王はもしかしたら、刻印情報を俺により深く刻んで支配しようとしているのかもしれないとか考えた。しかし、俺の能力が向上し続けている以上、怖がられるのは仕方ないだろう。
だから刻印情報をさらに付けられることさえ覚悟したのだが――、
カンカンカン、と俺のコンクリートの体を気持ち良い音を出しながら木槌が振るわれる。
ドワーフロード自らが俺の体を触診して優しく叩いてくれるのだ。
この世界にいる生命には魔力が流れていて、それは歪んだり乱れたりするらしい。
魔王はドワーフとしての繊細な感覚が非常に高いらしく、それを使って俺の魔力の流れが悪いとこを良い感じにほぐしてくれてるらしい。
要は、人間で言うと血流を良くしてくれてるみたいな。
カンカンカン。カンカンカン。
俺は打たれる度に気持ち良くなっていく。
九十分ほど打たれて、俺は体がぽかぽかする様な気持ち良さを覚えた。
「どうだ? 気怠さとか違和感は感じないか?」
「いや、もう意識も体もすっきり」
やられて俺はコンクリートの体にかつてない程のすっきり感を感じていた。人間だった時代にマッサージ屋など行ったことがないが、行くとこんな感じなのだろうか?
木槌で叩かれる前とは別物、ってレベルで体を軽く感じる。
「すげぇな、魔王様。俺が部下なのに労ってもらっちゃって」
「ぬかせ。お前がいなければ何人死んでいたと思ってる? お前に払う金もなく、富もない。この程度で借りを返せたとも思っていない。喜んでくれるなら……何よりだ」
魔王様の目に涙が浮かぶ。
「す、すまない。ついセンチメンタルになってしまった。まさか自分の国がまだ存在している、というのが……どこか信じられなくてな」
「亡国になると思ってたのか?」
魔王様は頷いた。
「お前が来てくれて迅速な成長をして戦ってくれなければ、確実にそうなっていた。異世界転移者がすぐに成長してしまう異常な存在で……我々は最初は彼等を舐めていたが、段々とジャンヌ達に圧倒されるようになってな」
「そんな追い込まれていたんだな」
「あぁ。余は敗北を覚悟していた。国民全てに徴兵令をやったところで奴隷として売られ、エルティア国がサキュバス国を侵略する未来を避けることは出来ないだろう、とな」
「? エルティア国がサキュバス国を侵略する?」
魔王はハッとした顔をして俺を見た。
「そうか。お前はこの世界の常識に疎いんだな。サキュバス国の位置は秘密なのだが……竜国ドラゴニア近くにあるという情報は流れている。そしてドラゴニアの隣国で最も弱い国が亜人国家エヴォルなのだ。ドラゴニアはエヴォルの南に位置している」
なら更に南にサキュバス国があるのでは……と思うが、そう単純な話では無いのか?
「どんな形か興味ある。世界地図とかあるか?」
「今度見せてやろう」
「サンキュー」
「……まぁ、余はお前に感謝してる。お前が道に生まれてきてなかったら、国は滅んでいただろう」
「……そうなのかもな」
実際、ブーケは強いが……レギンとスレイブならジャンヌに勝てないだろう。それにエルティア兵士の方が亜人兵士より基本的に強い。基本的な身体能力は魔族の方が強いだろうが、部隊連携は人間の方が圧倒的に上手いので勝負にならないのだ。ジャンヌをブーケが抑えても、後は皆殺しにされていけば……エヴォルは確実に滅びる。あれ、ってことは俺って――、
「ロードロード。お前は、救国の英雄なのだ」
魔王様は大きな手で俺を撫でる。
「ジャンヌやロビンフット、シモ・ヘイヘも……救国の英雄って呼ばれてたな」
「なんと。エルティア王国に組みする異世界転移者達が、そんな高潔な英雄だったとは……。いや、やはりと言うべきか」
やはり?
「ところでロードロード。お前は、本当にレギンを……サキュバスを愛するのか?」
「あぁ」
「元人間なのに?」
魔王は真剣な面持ちで俺を見る。
「そんなの、関係無い。俺はレギンがレギンだから好きになった。サキュバス族だからとか元人間だとか関係無い」
魔王は俺の答えを聞いて泣き出した。
「ま、魔王様、なぜ泣かれるのですか?」
「ロードロード……お前がいつか、俺達を嫌いになる日が来るかもしれない」
……どういうことだ? もしかして、何か隠してる情報があるのかな?
「俺達は、世界一優しい国を作りたい……だけど、だけどだ。サキュバス族は……人間にとって有害だ」
「俺にとっても?」
「いや、お前はもうコンクリートの塊だから……有害かどうかは分からない」
「なら良いのでは?」
「……お前は元の世界、好きか?」
「好きじゃ無いな」
「な、何でだ?」
「俺の両親は高齢でお見合い結婚して……俺は一人っ子で生まれたんだけど」
「うむ」
「俺は、モテなかった。その苦しみを、両親は理解してくれなかった」
「……なぜモテなかったのだ? 容姿か? 頭は悪くないと思うのだが」
「俺は人との距離感を会話で掴むのが下手だけど、人と関わるのが好きだったから近づいて他人を傷つけてしまう奴だったんだ」
「人間はその辺が魔族より機微というからな」
「そんな俺に対して、付き合ってくれる人間の子はいなかった。だから苦しかったんだけど……この世界に生まれてパンツ見放題って悪くないと思ったんだ。前の人生じゃ、皆隠してたから」
「いや言っておくと、この世界も見せびらかしてるわけじゃないぞ?」
魔王は苦笑して言う。俺は魔王の言葉をスルーして、
「そして、この世界では俺の彼女が初めてできた。レギンだ。しかも、凄い美少女だ」
「でもサキュバスだぞ?」
「サキュバスだから何だと言うのですか? 魔王様……差別はいけませんよ?」
「差別と区別は違うぞ。お前らの世界は魔物がいないけど違う国や宗教はあるのだろう? なら擦り合わせの為に『区別』が必要になるはずだ。理解を必要とする。でないと、多様性など成り立つわけがない」
難しい話、嫌い。俺はレギンと美少女パンツがあればいい。
「魔王様。サキュバス族とか関係無い。俺はレギンを愛してます」
「いや、区別の話を、だな?」
「差別と紙一重ですよ」
「全然違う話なんだよ」
「サキュバス族だから付き合うのは大変だぞ?」
「意味不明です。俺はもう、決めてるんです」
魔王様は突然ハッとした顔になる。何を考えてるんだろう。
「そ、そうか……お前はこの世界の常識が……なんてことだ」
魔王様は頭を抱えている。俺にこの世界の常識がない、それってそんな障害になるのか?
「まぁ……なんであれ、俺は俺を好きと言ってくれたレギンを愛してます。だから、信じて下さい。男として彼女を愛し尽くしてみせますから」
「思いだけで物事が叶うものか。少しは考えて、だな」
石扉がノックされる。ノックしてきたのは、俺の彼女だった。
「レギンです」
「……入るが良い」
魔王様の返答と同時に石扉が開いて、レギンが入って来る。まさに噂をすれば、というタイミングだな。
「なぁロードロード、この後は空いてるか?」
「あぁ、空いてるぞ。というか、レギンの為なら俺は空ける」
「ははは。じゃあ魔王様との話し合いが終わるまで待ってる」
レギンに向かって魔王様が話しかける。
「いや、もう用事は終わったぞ。レギン、ロードロード、行くがよい」
俺が魔王に話しかける。
「いいのか?」
「あぁ。シルクロード計画にやましいとこがないか、それを聞きたかったわけだからな。……その後の話に関しては、応援するとしか言えぬ」
「魔王様……」
「ロードロード、きっとこれから大変だと思うが、頑張れ。余はそれしか言えぬ」
「ありがとう」
懸念はしてくれてるものの、魔王は俺を応援してくれるらしい。良い人だ。
「うむ。では……な。レギン、ロードロードに何用なのだ?」
レギンは照れて指弄りしながら俯く。
「そ、その……偶にはロードロードを労ってやろうと思って」
「ほぉ、デートか?」
にこにこと魔王様が俺達に明るい笑顔を向ける。やっぱ根は良い人なんだな、この人。
「……は、恥ずかしいんですけど、はい」
魔王様は意味深に何度も頷き、俺を見る。
「ロードロード。お前がサキュバスの子を好くと決めたなら、余は応援しかできぬ」
魔王様……それで満足なんですよ。サキュバス国に推薦状書いてくれるとかありがたいにも程がある。直接声に出すのは、披露宴の時にまで取っておこうかな? へへへ!
「充分です。魔王様のご配慮、このロードロードめには感謝の極みでございます。誠に、ありがたく応援をお受けします」
俺は生コンクリート状態になってお辞儀……ちらりと近くの鏡が見えたけど俺って本当にスライムみたいになってるな。
魔王がどこか意味深な声で俺に言う。
「……お前の幸せを心の底から願っている」
「はい……ありがとうございます」
俺はレギンと共に魔王様に一礼し、石扉を開いて外に出た。
そしてこの時俺は思いもしなかった。まさか魔王の言っていた『差別と区別は違う』というのをこの後すぐに証明されてしまうことになるとは。
今度書籍化(スニーカー大賞金賞)される明治サブさんが私の小説を面白いとTwitterで褒めてくれました。嬉しいです(泣)。
明治サブさんの小説は12月1日に発売です。
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