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死にかけのレギン

 ブーケによって俺と魔王は森の奥の激戦地に辿り着く。

 甲高く笑う綺麗な声が聞こえた。それは聖女と呼ばれた女騎士の声。


「ははははは、レギン、貴方もついてないわね。強いのに、相手があたしだなんて」


 ジャンヌが腕を振るうと、炎の波が発生して草木を焼き払っていく。

 レギンは茶色い魔力を纏って耐えているが、ところどころ焦げた跡があり防御しきれていないようだ。


「レギン!」


「ローd……道、なぜ来たんだ!」


 ジャンヌがレギンから視線を外し、振り返って俺を見る。


「あぁ、ブーケに魔王もいて、貴方もいるの」


 聖女は碧い瞳で俺を見る。相変わらず吸い込まれそうになる程に、綺麗な瞳だ。


「ふふふ。まとめて始末して上げるわ。ほら!」


 ジャンヌが腕を振るい、炎の激流が俺達をめがけて襲ってくる。


「み、道テイム!」


 俺は思わず反射的に、道テイムで目の前に発射台のような土道を作る。盛り上がった土道は障壁となって、炎を食い止めた。

 ジャンヌは驚愕の目で俺を見た。


「あんた、そんなことまでできるのね。厄介だわ……必ずここで始末する!」


 ジャンヌは手に持っていた槍に炎を灯す。


「道を殺させはしない!」


 レギンがジャンヌに飛びかかろうとし――ジャンヌは振り返って槍をレギンに突く。


「え――」


 ぐしゃあ、という音。

 レギンの体から大量の血が流れる。


「レギン!」


 ブーケが俺を降ろし、全力疾走して一瞬でジャンヌに接近して蹴りを入れ、ジャンヌは槍でそれを受け止める。


「っぐ」


 ジャンヌは吹き飛ばされ、ブーケが近寄る。俺は魔王に担がれ、レギンの傍による。


「痛い……痛い……」


 レギンは小声でそう言っている。


「道テイム、道テイm――」


 俺は彼女を治そうと試みた。しかし、大きな血管は兎も角、ところどころ破れた小さな血管は治せそうにない。


 俺に体があったら、泣いただろう。だが泣けない。俺は今、コンクリートの塊なのだ。

 原理は分からないが、俺は掠れ声になる。


「レギン……」


「ふふ、ロードロード……最後にお前……に会えて」


 そのサキュバスの子は、世界で一番綺麗だろう笑顔で俺を見た。


「良かった……」


 サキュバスの子が、俺に口づけをする。

 無いはずの胸。しかし確かに、俺の心に何かが灯る。温かい、気持ち。


「レギン、レギン! 死ぬな、俺を、俺を一人にしないでくれ!」


 低い声が俺にかけられる。


「ロードロード、レギンの体は一刻を争う」


「そんなこと分かってる! エルフとか、回復魔法できないのか? スレイブなら、治せたりは」


 魔王は首を横に振る。そんな、できないって言うのかよ!


「これ程の傷を治すことはスレイブにはできない。だがロードロード、手はまだある」


 背後から巨大な魔力の激突を感じる。度重なる轟音。どうやら、ブーケとジャンヌが戦っているようだ。


「空中にお前はマップを出したな」


「それが何だってんだよ、今それどころじゃ」


「お前が血管を道と解釈したら道テイムが発動した。つまり、人体の血管を道と捉えれば、マップ表示が出来る可能性がある」


「――」


 思いも寄らぬ魔王からの提案。試す価値はある。


「だから、ロードロ……」


 魔王の意図を理解した瞬間、俺は魔王が言い終わらない内に、意識を集中してレギンの体を流れる血液のマップを捉えていく。すると、空中に血管の地図が出現する。

 ある程度、それまでより詳細な『血管』という道を俺は捉えられるようになる。


「道テイム、道テイm――」


 俺は可能な限り、道テイムをする。しかし、レギンは目覚めない。心臓がどんどん弱っていく。

 まだ血管が塞がりきってないし、血を流しすぎたのだ。


「うわああああ、止まれ! 血よ、止まれ!」


「ロードロード」


「何だよ、まだ何かあるのかよ!」


 魔王はレギンの体をじっと見ると、魔力を使って空中の血管マップにより詳細な線を――なんと、毛細血管の情報を視覚的に誘導していく。そうか、そういうことか!


「道テイム、道テイム、道テイm――」


 俺は魔王に礼を言うのも後回しにし、毛細血管の一つ一つを可能な限り行う。無いはずの頭痛、俺の体にヒビが入る。


【報告。スキルの迅速な使用により負荷がかかっています。もっとゆっくり】


 うるせえ!

 俺は自分のことなど考えず、道テイムを続けた。血管は、全て塞がりきった。


 なのに。

 なのに。

 なのに――。

 レギンは、目覚めない。彼女の体を感じる俺には分かる。血を、流しすぎたのだ。


「れ、れ、レギン、うぅ、うわぁあああああああ!」


 俺は絶望の余り、絶叫してしまう。すると、ガンダールヴが、また後ろから声をかけてきた。


「ロードロード」


「何だよ……まだ何かあんのかよ!」


 俺に戦場のマップを写せとか今すぐにでも言うのだろうか。国を治めるにはさぞかし素晴らしい王様だろうよ。とか思ったのだが。


「血を流しすぎたから、レギンは死に近づいてる」


「そんなこと、分かってんだよ!」


 この魔王は、何を言うんだ!

 ふざけんなよ、今もうどうしようもないんだよ!

 血管を全て治したのに、彼女を救うことは、もうできないんだよ!


「そこに、レギンの血が溢れてる。石畳を作るのに、石を使ったよな? なら、血がそこにある以上、血管の中に入れれば、もしかしたら」


 俺は魔王の言葉を理解し、即座にレギンに輸血していく。

 レギンの体の血液が随分戻る。こうなれば、あとは心臓マッサージみたいなのが必要だろう。

 俺はレギンの血管を道テイムで動かし、循環させていく。レギンの顔に生気が戻っていく。


「ん……」


 レギンは、目を覚ましたようだ。今気付いたけど、黒いパンツ、丸見えだぞレギン……。

 俺は絞り出すように声をあげた。


「れ、レギン……」


 俺は掠れ声。彼女は、まるで日向ぼっこから起きたようにくるりと起き上がった。


「ロードロード、また……命、救われちゃったな」


 レギンが俺にすりすりしてくる。幸せな瞬間。


「レギン、本当に、本当に、生きていてくれて、良かった」


「うん」


 すると、咳払いがする。


「おっほん。その、レギンとロードロード、良い雰囲気のところ悪いんだが」


 魔王ガンダールヴは、いや……魔王ガンダールヴ様は、気まずそうな顔をされている。

 いや、今まで、生意気言ってすみませんでした。


「魔王様」


「様付け、しなくても」


「いえ、貴方、俺とレギンの命の恩あるので」


「むしろレギンの命を救ったのはお前で、余はお前には何もしてないぞ」


 そんなわけないんだよ。レギンは俺がこの世で生きる意味なんだよ。こんな可愛い子に好きって言われたことない奴の気持ち分からないのかな?


 魔王様は、様付けするに値するんだよ。レギンを助けるってことは、俺を助けることでもあるんだよ。魔王様、ありがとうございます!


 魔王様は、俺も救ってくれたんだよ。今まで失礼な態度とって、すみませんでした!

 俺は胸に起こる全ての気持ちを伝えたかったが。


 ドン!!!!

 巨大な爆音が発生。そうだ、今戦争中だった。ブーケが吹っ飛ばされて、受身する。


「レギンさん、目覚めたんですね!」


 ところどころに切り傷あるが、ブーケは無事なようだ。


「逃げるぞ、ブーケ!」


「はい!」


 魔王の掛け声と共に、ブーケは俺を持ち上げ、魔王がレギンを引っ張って俺に乗せた。

 ……魔王様なら、レギンに触っても許そう。お手つきは許さないけど。


「逃げるなぁああああ! 戦え!」


 女騎士の綺麗な大声が俺達に向かって放たれる。俺は、ジャンヌを一瞥――驚くことに、彼女は無傷だった。


 攻撃力以上に、防御力が強力なのだろうか?

 後ろに流れていく木々を見ながら、俺は女騎士にそう思った。

 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


 ★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。


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 何卒、よろしくお願いします。

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