魔族の始祖リリス
カタンコトン、カタンコトン。
ケンタウロス族の男達に引かれて馬車は素早く動いていく。
魔王が、一時間ほど経って話す。
「休憩しよう」
俺が外に運ばれると、ケンタウロス族の男二名は随分疲れているようだった。
「ブーケは汗一つかいてなかったけど、あいつやっぱ特別だったんだな」
「あの子と一緒にしてあげるな。あれは、ケンタウロス族の中でも特別な存在だ」
魔王は俺に注意を促す。多分、その指摘は正しいのだろう。思えば、走っていて汗一つかかない……それは非常に変なことだ。
「ここから後三十分程で橋に着く。しかし、だ」
魔王ガンダールヴはちらりと見る。俺もその方向を見る、するとそこには石片が散らばっている。まるで、というかこれは砂に近い。
一本道に大量に石片が散らばっている光景、これが意味することは……。
「まさか、これって」
「そう、石畳だったものだ」
魔王は俺に頷く。俺は反対方向を見て、納得する。
今まで走ってきた場所は、王城の石畳に直結している。つまり、俺が今日までに『道テイム』で修復した石畳だ。だがここに簡単な休憩所が設けられていて、石畳は途切れている。
つまり。
「気付いたか、ロードロード。ここから先は戦場だ。怖じ気づいたなら――」
「俺の出番だな。道テイム、道テイム!」
光り輝いて一瞬で修復する石畳。ぴかぴかで、新品である。これでケンタウロス族の移動も楽になることだろう。
「よし、魔王、いつでもいけるぞ」
エナジーはまだ何とかなる……かな。
【報告。このペースで使えば、エナジーは枯渇します】
小賢者、まじかよ。
【まじです】
……。場合によっては、魔王にカミングアウトするしかない。いや、でも、なぁ。
俺の頭にレギンがちらつく。彼女は俺が美少女パンツを見てると言ってもスレイブと違って何も言ってこなかった。話したいけど、本当はどう思っているのだろう。
【報告。貴方の使命は、ジャンヌの美少女パンツをテイムすることです】
いい加減にしろ、今真剣な話をしてるんだよ。俺は俺を好きって言ってくれた美少女を護る為に嫌われても『美少女パンツ見てエナジー回復するっていう残念仕様』をカミングアウトするか、したら嫌われやしないかって真剣に考えているんだよ。
ふざけんじゃねえ。
【貴方は、特別】
何が。
【貴方は、選ばれた】
誰に?
【……】
何も言えないのかよ、その癖行動だけ求めてくる。お前、無茶苦茶だって理解してるか?
【この世界に存在する、最古の魔族がいる】
……最古の魔族?
【貴方は、彼女を救う】
その最古の魔族って、女なんだな。
【報告。彼女は、とても可愛い】
ジャンヌのパンツは、その子にあげる為に必要なのか? ははは。
【報告。あながち、間違いじゃない】
ええええええ。
【……貴方は、道テイムを使う】
そうだな。道だから。
【貴方は、彼女を助ける道。道テイムは、その為に貴方に与えられた。彼女を救う為に、貴方が美少女パンツを見るとエナジーを得るのは、彼女が美少女パンツに特別な思いを持っているから】
彼女って、誰だ?
【……ジャンヌの美少女パンツを道テイムすれば、報告】
ふーん。分かった、前向きに考えて見る。
「おい、ロードロード!」
俺はハッとして、声の方向を向く。俺を呼んだのはガンダールヴだった。
「大丈夫か?」
ガンダールヴが話かけてくる。
「大丈夫だ。休憩終わりだな」
「あぁ。疲れたのか? なんというか、お前ぼーっとしてたぞ。珍しいな」
小賢者との話に集中し過ぎたみたいだ。……待てよ、魔王なら知ってたりするか?
この世界のこと、それなりに知っててもおかしくないよな。
「なぁ、最古の魔族って誰だ?」
「何だ、転生者だからこの世界に関心があるのか?」
「そんなところだ」
まぁ、知らないよな。この世界の文明はそれなりに進んでいる。通信手段はないものの、エルティア王国の兵士達もエヴォルの街並もそれなりの文明レベルだ。
最古の人類、類人猿的な感じだよな……せめてクロマニョン人とか、あるいはアウストラロピテクスとか、サヘラントロプス・チャデンシスとか――
「最古の魔族、リリス様。我々が敬愛し、人間が忌み嫌う存在だな」
「は?」
リリス……リリス、だと。
【……っ】
小賢者、てめぇ……感情あるみたいだな。あの本体の一部みてえな話だったが……。
小賢者の焦燥が伝わってくる。どうやら、これは当たりか。
「リリスって、パンツ好きなのか?」
俺の真剣な疑問に、魔王ガンダールヴは目に怒りを滲ませた。
「お前、何を言うんだ。侮辱すると許さないぞ!」
「え……」
「リリス様は我々魔物を産んだ存在。魔族の始祖。お前のような破廉恥野郎と一緒にするでない!」
黙って聞いていたスレイブが、俺に軽蔑の目を向けて言う。
「道。軽蔑します。言って良いことと悪いことが世の中にはあるんです。貴方、最低です」
どうやら、俺は地雷を踏んだらしい。
魔王も未だにかんかんのようだ、目くじらを立てている。
「ロードロード、お前は変態だな。始祖様がパンツ好き……っは、お前と一緒にするでない!」
俺がこうなったのは、そもそもその始祖のせいらしいのだが……なんて言えない空気だ。
「今は戦争中だ。お前の好きなレギンの為に、さっさと行くぞ」
魔王はぐいっと俺を持ち上げ、馬車に向かう。
「もし上手く行ったら、余が仲人になってやる」
「き、気が早いぞ、魔王!」
も、もう。仲人だと? 全ての気持ちが吹き飛んじゃったぜ。始祖とかどうでもいいや。
へへへ、さっさとレギン助けに行こう!
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