大活躍した『道』は眠くなる
ジャンヌの体が風の刃で切り刻まれ、出血する。
「っく」
女騎士は後退し、綺麗な碧い目が屋根の方を見る。
「風を纏うなんて、厄介な……お前は魔王軍序列七位、スレイブ!」
ジャンヌの視線の先には、屋根の上に立つスレイブがいた。スレイブはにこりと笑った。
「遅れてすみません。ちょっと街の南の方まで行ってたもので」
「スレイブ、よく来てくれた!」
「道さん、見てましたよ。レギンを助けてくれて、ありがとうございます」
ニコっと笑顔のスレイブ。だが視線はジャンヌに向けられている。
俺の傍でどん! という巨大な破裂音がする。ボロボロだったはずのレギンが立ち上がっている。
「道……お前がいなきゃ、私は……死んでいたな」
レギンって、ジャンヌに聞こえそうな時は俺のことを徹底して『道』と言う。……ロードロードって呼んで欲しい。俺の名前を機密にしたいんだろうけど。戦場ではずっと『道』呼びなんだろうな。
血だらけのレギンは猛々しく咆哮。
「レギン、加護しますわ!」
スレイブから放たれた緑色の風がレギンに纏わり付く。レギンはジャンヌに突撃し、殴りつける。その速さには俺もジャンヌも驚愕する。
「この速さ……そうか、スレイブが風魔法でレギンの空気抵抗を減らしているのね」
「そういうことだ」
ニヤリ、と笑うレギン。ジャンヌは眉を顰める。
「まずいわね……いえ、仕方ないか」
スレイブの風魔法で切り刻まれていくエルティア王国の兵士達。その数は、ジャンヌを除き残り三名となっている。
「エナジーの回復を優先させる! 一度撤退するわ!」
女騎士は撤退していった。スレイブの風魔法は逃げて行く敵四名を攻撃し、内一名を切り刻んだ。
レギンは、溜息と共に茶色い魔力を纏うのを解く。
「勝った……」
エヴォル北地区の広場。戦闘があったその場所は、流血や破壊の痛ましい跡が残る。
俺とレギンとスレイブは顔を見合わせる。辺りには、傷つけられた魔物達で一杯だった。
レギンがスレイブに話しかける。
「何名、死んだ?」
スレイブは目を閉じ、十秒ほど立って答える。
「幸い、死者はいないようです。傷つけられた方は二十名以上いますが」
俺は二人に向かって提案する。
「おい、俺のところに重傷を置いてくれ」
「え」
スレイブが首を傾げる。レギンはハッとした顔、理解してくれた。
「早く!」
レギンやスレイブが疲れている中、俺は彼女達に働いて貰って魔物を集めて貰う。
俺は運ばれた魔物達に意識を集中する。血管の流れを把握、体の中に存在する『道』を狙って、
「道テイム! 道テイム! 道テイm――」
俺は集められた魔物をどんどん可能な限り、傷を治していく。死にかけの者もいたが、俺が『道テイム』を三度かけると、何とか顔に生気が戻った。
【スキル練度が上がりました】
俺は眠気がするが、なんとか意識を保った。
レギンは村人に命令する。
「『道』の能力は、他言無用にしてくれ。箝口令を出す」
「わ、分かりました。そのお方は噂の……」
村人は俺を見る。どこか尊敬の眼差しのようにも感じられた、気のせいだと思うのだが。
「魔王軍の秘密兵器さ。恐らく、例の」
村人は手を掲げて大喜びした。
「おぉ、やはり!」
村人は俺に手を合わせ拝む。
「ありがたや、ありがたや」
「何拝んでいるんだ?」
俺の問いに対する村人の返答は思いも寄らないものだった。
「貴方様は、元人間の転生者の方でしょう?」
「元人間の……転生者?」
村の人間達は驚いている。
確かに、その通りだ。しかし、おかしい。なぜそれを……この男が知っているのか?
あるはずのない俺の鼓動が高くなる。魔王はそのことを、国に広めるのか。そうなれば、皆から異質なものを見られるはめになり、恐らく――キョロ充に戻ってしまう。皆の輪に入れない、キョロ充に。
俺は少し怖くなった。この国でも、リア充の金魚の糞をやるのかと。
「なぜ、俺が転生者だと?」
「だって魔王様が一月程前にやったんです。この国を救う英雄を異世界から呼び出そうと」
え……俺の転生は、意図的なものだったのか!?
「村長!」
レギンが声を荒げる。レギン……どうやら、知っているようだな。
「魔王様は愛国者です。両親から託された魔王軍を護る為に、貴方をお呼びしたと愚考します。ありがたや、ありがたや」
「道さん……その」
スレイブも慌てふためいている。
どうやら、確認しないといけないことができたな。レギンとスレイブは魔王軍の幹部、つまり色々と内情を知っている。魔王が召喚したというのなら、俺のことをこいつらは……あの時、出会った時、俺を転生者として探してきたということになる。
なぜこのことを隠していたんだ? ……疑問は尽きないが、村長に礼は言うべきだろう。
「村長、こちらこそ俺を元人間だと思ったのに笑顔で接してくれてありがとな」
俺の言葉にレギンとスレイブは驚愕していた。いや、当たり前に礼を言ったのになぜ驚くんだ?
あー、話したいこと、山積みだな。
「道、その、移動するぞ」
レギンが気まずそうに言う。すると、人混みの中からブーケが現れた。
「道さん、良ければ私が運びますよ」
「ブーケ」
相変わらずお尻についた馬の尻尾をふりふりさせてやがる。こいつの尻、適度にふっくらとしてて本当に誘ってそうだ。しかもよく見ると、服はぴっちりしたデザインでラインがよく見える。ブーケが動く度に、服の皺がラインを強調してエロい。この服を作った奴は天才だな。
「レギンさんとスレイブさんを助力するように言われて来たんですが、まさかを撃退されるとは……。お見事です」
ブーケは俺達を褒めるとにこっと笑いながら俺を持ち上げた。レギンより力があるようで、俺はブーケに運ばれながらレギンとスレイブと一緒に南へと移動する。魔王城へ向かうのだ。
突如、俺は睡魔に襲われる。
眠くなっていく。どうやら、限界だ。
【報告。ロードロード・ドーロード、貴方は強くなりました。道テイムで他者の血管を治療した発想は見事と言えるでしょう】
小賢者……か。
【ですが、貴方は道テイムで土や石畳といったものでなく、肉体という複雑な器官を治しました。それにより、眠気が発生しているのです】
そう、か。
「レギン、スレイブ、ブーケ。すまない、俺は眠る」
俺はそうとだけ言うと、意識は闇の中へと溶け込んでいく。
俺を呼ぶ美少女三名の声が聞こえたが、段々と遠くなっていき、俺は眠り落ちた。
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