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サキュバスVS聖女

 石畳の傍で、俺はマップ画面を眺めている。

 赤い点が一つ、森の奥へと移動している。だけど、他の赤い点は、何だ? 数えてみたら十六ある。


 十六の赤い点が一斉に街に向かって移動を始めた。これ全部、敵兵士か。


「来るぞ!」


 街の警備兵。それはさほど数が多くない。そして、練度も最前線の兵隊に比べれば低いのは当然だった。


「て、敵襲――!!」


 カンカンカン、と鳴り響く金属音。喧騒がより慌ただしくなり、街を歩く民達が一斉に逃げ惑う。

 守備兵と思しき魔物の兵士達がやって来て、ドワーフなりケンタウロス族なりオーガ族なり、多種多様な種族が街門に集まってくる。


 しかし、巨大な火柱が突如として出現し、守備兵を焼き払う。とんでもない火力である。


「な、なんだよ、あれ!」


 沸き立つ敵兵士達と、逃げ惑う魔物の守備兵達。戦力の差は歴然だった。

 黒焦げになって行く守備兵達、大ダメージを負っていて、彼等は倒れ込んだ。


 俺はたった一人の華麗に槍を構える女騎士を視認する。そこにいたのは、ブロンドの金髪、風に揺れる白いマント。透き通るような白皙の肌、燃えるように碧い瞳、ぷるんとした桜色の唇。


「綺麗だ……」


 美少女が、西洋風の槍に炎を纏わせ立っていた。

 その美少女目がけて、漆黒の影が突撃する。両者が激突し、金属音が広場全体に響く。レギンだった。ナイフを使い、赤髪の美少女を攻撃し、西洋風の剣で美少女が受け止めている。


「貴方……魔王軍、序列第六位レギンね」


「お前は……異世界転移者、ジャンヌ、か」


「自己紹介はお互いにいらないようね」


「っく」


 俺はジャンヌと呼ばれた女騎士を凝視した。


「なんだあの美少女は!」


「炎纏槍舞!」


 炎を纏いながら舞を想起する流麗な槍の攻撃をジャンヌが振るう。

 間違いない……『ロビンフッド』、『シモ・ヘイヘ』。異世界転移してきた奴らは、ただの一般人じゃない。偉人……そしてジャンヌと言えばあの美少女は――、


「フランスの女騎士……ジャンヌ・ダルクか」


 俺は彼女を凝視した。とてつもない美少女だ。あんな少女が、火あぶりに処されたのか。

 レギンはナイフを使ってジャンヌの燃える槍を凌ごうとするが、押され気味でところどころが傷ついていく。


 このままではまずい! そう思った俺は『道テイム』で石畳を発生させ、ジャンヌの足場を狙う。

 ジャンヌは急に発生した石畳を警戒したのか、跳んで回避しようとし――そこをレギンに攻撃される。


「っく!」


 ジャンヌが体勢を崩し、周りの人間の兵士がレギンに襲いかかる。レギンは彼等をはね除けるものの、その間に女騎士は体勢を立て直してしまう。


 ジャンヌは俺をキリッと睨む。


「そうか、お前が……お前が、ロビンやシモが言ってた、厄介なコンクリートの塊か!」


 俺、そんな厄介なのか? いや……そうか、ロビンフッドかシモ・ヘイヘが過剰に伝達したに違いない。敗戦した軍人は敵を実際より強大だと報告しちゃうって聞いたことあるし。


 ジャンヌは笑いながら、俺を睨む。


「ねえ、貴方……転生者、元人間でしょ?」


「え――」


「普通の魔物が、こんな能力を持ってる訳がないんだよ!」


 女騎士は石畳を見て舌打ちする。彼女の部下と思しき兵士達はざわざわと「え、元人間?」「転生者?」などと俺の方を見て呟いている。


 女騎士は俺を睨み付けたままだ。


「人間がこの世界に生きたまま呼ばれたら、異世界転移者になる。でも、呼ばれた時死んだなら……それは転生者になる」


 ――そうか、俺は……トラックにはねられたから。いや、それならジャンヌは火あぶりにされて死んだんじゃないか? おかしい。


 レギンはナイフを女騎士に向けたまま、素手で三名の人間の兵士達の腹を殴り悶絶させる。

 ジャンヌがレギンに斬りかかり、レギンがナイフで受ける。


「そして、中には転生したまま人間の奴もいるんだが……『道』、お前は、魔物に生まれた」


 レギンとジャンヌは睨み合い、激しい武器のぶつけ合いをする。


「レギン。そいつは元人間よ。貴方達と人間は相容れない。ロビンフッドやシモ・ヘイヘやあたしと同じで別の世界、人間の世界から来た者なのよ? 道はきっといつかあたし達の仲間になる。貴方達を裏切るわ」


 ジャンヌの言葉は、確かに事実だ。エヴォルが間違った国で、他に良い国があれば俺はそこに行く。


「そうかもしれないな」


 レギンはふっと笑う。レギンも俺の気持ちを分かっているのだろうか。


「でも今は、その時じゃない」


「甘い考えね。流石世界一お花畑と言われるエヴォルの民だけはあるわ」


 ジャンヌの槍で傷ついたレギン。血が流れ出す。ジャンヌとレギンは魔力を込め槍とナイフの先端が激突――爆風が発生。

 両者距離を取る。レギンは俺の傍に来た。


「ロードロード……辛かったよな。孤独で」


 レギンは儚げに言う。


「出会った頃、踏んだりして、ごめんな」


 俺は彼女に違う、と言いたくなった。


「レギン。俺は……この世界に来てすぐ、お前と出会って打ち解け合えた」


 ぴくっと彼女が動く。


「だからさ、レギン。そんな負い目を感じるみたいに言わなくていい。お前はそもそも、優しいんだよ。最初にぐりぐり踏んだのは許す、もう気にしないでくれ」


 俺は笑顔を彼女に向ける。そもそも気持ち良かったのだ。

 死を覚悟してるような顔だった。


 レギン。この美少女サキュバスは、俺が単なる『道』なのに……ちゃんと誠実に接してくれた。

 こういうのをなんていうのか知っている。


 お人好し、である。彼女は魔物だけど。

 見ればレギンの腹から大量の血が滴り落ちている。どうやらレギンより聖女と呼ばれたジャンヌの方が上手のようだ。


「レギン、無様ね。初めて戦った時、私は貴方に歯が立たなかった。でも今じゃ、私に貴方は傷一つ負わせることもできない」


 ジャンヌは哀れみの目でレギンを見る。その言葉は真実なのだろう。レギンは疲労困憊の上、追い詰められている。


 対するジャンヌは鎧に傷一つない。

 死にゆくサキュバス。俺が転生してから初めて見た美少女パンツ。俺に優しくしてくれる、始めての美少女が今死にかけている。それは、許容できないほどに悲しい。


 俺は彼女を救うべく、スキル発動を決意。『道テイム』だ。


「レギン、荒療治させて貰う」


「……っえ? 何……を言ってるの? ロードロード」


 ジャンヌが俺とレギンの方を見て絶句してる。


「そ、そいつ喋るのね。つーか、なんでそんな成りで無駄に声良いわね」


 女騎士は俺の声を褒めたようだが、今はそんなのに構ってる場合では無い。


「道テイム、血管」


 俺はレギンの血管を認識し、『道テイム』する。人体は言わば、血管という道が張り巡らされている。

 俺のスキルの限界がどこまでか分からないが、出来るか出来ないか分からないなら、やってみるだけだ。


 レギンの体が光に包まれ、失血が収まっていく。どうやら、成功したようだ。レギンが驚きながらスッと立ち上がり、半信半疑に体を動かす。


「こ、これは」


「太い血管だけを繋ぎ合わせた。これ以上の治療は、無理だ」


「い、いやいやいや、充分過ぎるって! す、凄い……」


 エナジーが随分減ってしまった。集中力も使ったので、なんだか眠い……。


「とんでもない魔物ね。ここで始末しておくのが正解でしょうね」


 ジャンヌは残酷な笑みを俺に向ける。レギンが俺とジャンヌの間に立ち、


「道を殺させはしない」


「そいつ、本当に『道』って表示されるわね。ちょっと面白いけど、敵は即殺しないとね」


 ジャンヌの槍に大きな炎が灯り、赤い魔力がジャンヌを覆う。レギンはナイフを構え、茶色い魔力を纏う。先手を取ったのは――。


 突如現れた鎌鼬だった。

 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


 ★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。


 下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。


 何卒、よろしくお願いします。

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