殺人嫌悪~人を殺したくない道~
俺の近くにレギンがやって来て、そっと触れてくれる。呼ばなくても必要になったら来てくれて嬉しい限りだ。
「道テイム!」
俺は死者転生を行い、吹き飛んでいった同級生達を再生させる。彼女達は空中で生き返ることになり、あわあわと慌てふためいている。
まぁ、このまま行けば結局地面に激突して死亡だからな。受身をとろうともがいている子もいるが、宙で姿勢を変えるだけの技量を持っている子はいないようだ。
俺が助けてやらないと。
「道テイム!」
俺は周りの木々を使ってハンモックのような網を道として作り出す。
柔らかな素材が彼女達を受け止めて、なんとか無事全員助けることができた。
根本的な問題は解決していないけど。
俺は岩山の頂上を見ると、桃色の魔力が凝縮された個体が、ニヤニヤとこちらを見ている。
「道さん。追い詰められた時……人は本当の底力が出る。そう思いませんか?」
「お前を見てると、そうだなとしか言い様がない」
「あはは!」
可憐に笑い、尻から生えた馬の尻尾をふりふりとさせるその乙女は可愛かった。
そして可愛い以上に、強かった。
なんだあの馬系亜人、霊脈の加護を受けていたドワーフロードより全然厄介だぞ。
「あはは、あははは!」
「ブーケって本当に強いんだな」
「そうですね! ま、これも道さんがソロモン王との戦いの前に……傷ついたあたしの体を沢山治療してくれたお陰ですけどね!」
「……」
まぁ、確かにブーケの戦闘力は長年の疲労によって随分と弱っていたようだった。歪みの多い体、怪我の蓄積、疲労がたまって発揮できないパフォーマンス。
道テイムで老廃物の除去や筋繊維・靱帯の修復、歪みそのものの治療などを行った結果二十倍ほどにブーケの魔力が膨れ上がったのを覚えている。
結果、音速で動き、それに耐えられるだけの個体ができあがってしまったというわけだ。
強いにも程があった。しかしブーケはその力を……まだ完全に発揮していなかったのだ。
そして、それを発揮できていってるらしい。
「あたし昔、ケンタウロスロードにならないかってリリス様から言われたんです」
「魔族の始祖に!?」
ざわざわとする同級生達。どうやら、彼女達も知らないらしいな。
「はい。理由は……桃色の魔力を持つから」
「……」
確かに、戦場を見渡しても桃色の魔力は彼女以外いなかった。茶色、赤色、青色、緑色……数少ない例外はいても、殆どの魔物の魔力はこれに該当する。
ブーケの桃色の魔力は、やはり特別だとこの時点でも思う。なんか、強い。魔力を体に込めて戦う奴らはいたけど、ブーケの桃色の魔力は肉体活性の力が他のどの魔物より優れている感じがする。
「道さん、分かると思いますが……あたしの余命は一年です」
「前、聞いたな。というか、俺が道テイムして気付いたな」
「はい。何故か、分かりますか?」
ブーケは彼女の足元にあった岩を使ってリフティングを始めた。
「分からない」
「……あらゆる魔物の中には、突然変異体というのが生まれます。あたしも、ドワーフロードのガンダールヴも、ドラゴンロードのハルキゲニアも、エルフロードのオベイロンも……全て、突然変異体です」
変異体、ね。確かに、アイシャ達はブーケほどの力が無い。いや……ブーケほどの力を持った魔物に出会ったことが今のとこない。レギンやスレイブのような序列持ちでさえ……ブーケの膂力には劣る。
確かに、彼女は変わっているのだろう。
「変異体は……リリス様に見出され、力を授かることが出来るのですが……リリス様の支配が強まることを意味する」
「既に支配されているんだろ? リリスが死ねと思えば、お前達魔族は全員死ぬってイメージだけど」
あはは、と彼女は可憐に笑う。
「その理解で大丈夫ですよ。でも、リリス様の支配は完全じゃないんです。だってあたし達、知恵は人間より足りてないけど、自由意志を持ちます。そして変異体は……比較的自由意志が強くなってしまうんです。だから、リリス様が殺そうとする時に通常よりも魔力を使うことになる」
「成る程。リリスは死ねと思えばこの世界の魔族を全て殺せるが、ノーリスクではないということか。そして変異体を殺すなら……より支配を強める必要がある」
「そうです。そしてその手段が――」
ブーケの体が濃い桃色に覆われ、彼女はリフティングしていた岩をポーンと頭上に放り、オーバーヘッドで蹴ってきた。
「――【ネームド】」
「道テイム!」
俺はその岩を素材収納することは出来なかった。岩は早過ぎて、俺の意識可能な速度を超えていた。
「……ブーケ」
「あはは。道さん。ここにいるのは……過去最強のあたしです。手加減なんて考えないで、殺しに来て下さい」
手加減なんて、確かに考えられる状況じゃない。なのに、だというのに、俺の心が彼女を殺すの躊躇していた。
分からない。なぜだ? 俺はなぜ、人を殺すのをこんなに躊躇うんだろう?
死者転生すれば良いだけというのは確かだ。だが、分からない。
俺は彼女を殺したくない、そういう心を持ちながら岩山の頂点を見つめるのだった。
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