同級生達、眠りこける
「さぁ、駆け上がれ! お前達が軍人なら、この崖くらい駆け上がってみせろ!」
大きな声で比較的小柄なケンタウロス族の美少女が言う。
まぁケンタウロス族と言ってもこの世界のケンタウロス族は馬の尻尾が生えてるだけで下半身の殆どは人間と同じだ。
ブーケの大声により、意地でも駆け上がろうと美少女軍人達が昇っている。
ブレザー制服のまま駆け上がる様はやはり圧巻であり、パンツがもろに見える。
汗とどろで滴るそのパンツ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。あれは一つの絶景だ。
岩山や原生林を美しいと思う奴らが世の中にはいるらしい。
世界遺産に自然物が認定されるのがその証拠だ。
しかし、美少女のパンツの方が余程価値があると言わざるを得ない。
どうせ通販のカレンダーに世界遺産の写真を使うよりアイドルの写真を使った方が売れ行きはいいんだよ。
俺は間違ってない。俺は変態じゃ無い。ただ、俺のスキル『道テイム』が美少女のパンツを見ないと発動できないという残念かつ自然な仕様になっているから仕事しないといけないだけだ。
【エナジーが回復しました。レベルアップです】
へへへ、たまんねえな。
【制服も、良い】
だろ? 無花果の葉より制服JKパンツの方が優れていると思う。
しかも見ろ。
【?】
度重なる岩山への駆け上りでストッキングは破れている。
【!】
あれは繊維、つまり道と言っても良い。俺の道テイムで修復可能だ。
なのになぜ直ってないか分かるか? 俺が意図的に治してないんだ。
その方が、興奮するからな。
【天才】
へへへ。ま、それ程でもあるかな。
あ。
ぐしゃ、という音。
美少女ドライアドが駆け登ろうとしたら落ちて、死んでしまったのだ。
「レギン!」
「うん」
俺はレギンに体を触れて貰う。そして。
「道テイム!」
俺のスキルで美少女ドライアドを治す。彼女の体は修復され、さらに生き返った。生き返った彼女はまた駆け上っていく。
岩山の上から大きな声がする。
「良いですねえ、道さん! 登り切った生徒がいるんで、また下らせます!」
「え……」
「永久ループです! 今日はこの岩山を登ったり下ったりしてもらうんです! 過酷な訓練にまず慣れてもらわないとね! ははははははは!」
ブーケの笑い声が聞こえると同時に、ケンタウロス族の美少女JKが下ってきて――地面に激突。
死亡した。
「み、道テイム!」
【レベルアップです。死者転生のスキル練度、向上しました】
……これ、すげえハードだ。こんなのをこなせるなんて亜人って凄い。
そして、それを繰り返すこと三時間ほど経った。
太陽はすっかり中天にさしかかり、レギンのお腹がぐーと鳴った。
「お腹すいたな」
俺がブーケをちらりと見ると、彼女は流麗に駆け下りてきた。地面には衝突音などなく、極めて優雅かつ静かに着地した。
「じゃ、休憩しましょう。二時間後に、またここに集合です」
アイシャ達――俺の同級生はぐったりと倒れた。どうやら皆限界のようだ。実際、よく動いただろう。
「ぶ、ブーケさん……その、流石にあたし達、今日はもう限界かなって」
「道テイムで体は回復しているはずですが」
「いや、なんかもう、きつい……」
すやすやとアイシャ達は眠りこけてしまう。そう、これが道テイムの副作用だ。体を整えたら寝てしまったりする。死者転生は俺にとっても謎の多いスキル。
きっと目に見えぬ疲労というのがあってもおかしくない。
それをずっとやり続けているのだ。
ブーケは眠りこけた約三十名の同級生を見る。
「仕方ありませんね。あたしが弁当を買ってきます。道さんとレギンさんはここでお留守番してて貰ってもいいですか? 彼女達を守ってて欲しいのですが」
ブーケは俺とレギンをちらりと見て話す。要求は妥当だし、反対する理由はないと思われた。
「いいぞ」
「では行ってきます」
「待ってくれ、ブーケ」
「何ですか?」
俺は道テイムの副作用をブーケに話した。体を整えれば眠る、という副作用を。
「え、そうだったんですか?」
「うん」
「そういえば、ソロモン王との決戦前にあたしをやって貰ったら……あたしも眠くなりましたね」
「そうだったっけな?」
「……それを知って良かったです。どうやら道テイムには慣れも必要かもしれませんね。定期的にかけないと体への負担が大きいです。恐らく、恒常性そのものさえ良くしているのでしょう」
「恒常性?」
「まぁ、道さんは知らなくてもいいです。きっと道テイムは……不整脈や心臓病、ありとあらゆる病気を治すのでしょうね」
道テイム、やばすぎだろ。
これインフラ整備能力と思いきや、人体を健康にする能力じゃねえか。
「ま、あたしは弁当買ってきます。レギン、何か食べたいものありますか?」
「うーん。鶏肉系かな」
「分かりました。では!」
ビュン、と凄い速さで桃色のケンタウロス族美少女は疾駆していった。
相変わらず、凄く早い。音速を超えているだけのことはある。
俺は同級生達へと視線を移した。
亜人とは言え……彼女達は十五歳前後の少女だ。それが軍人として徴兵されている。可哀想にもほどがある。恋したいとか、遊びたいとかいう欲求があるだろうに。
……エヴォルはアフガニスタンの場所に位置している。
帝国の墓場、と呼ばれたような立地だ。
少年兵、というのはきっと俺の時代にも存在しただろう。
前世それに出会わなかったけど、今それを見ている。美少女は戦うより、学園で青春してた方がお似合いだと思う。
俺は心のどこかで、彼女達を自由にしてあげた方がいいのではないかな、と感じていた。
まぁ、自由にしたところで戦場に戻ってきそうな人達ではあるけど。
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